[e188]過失責任論<展覧会主催者・ギャラリー>

本件岩手展に関し、被告(D1:新聞社)と同(D2)は、平成5年10月、展覧会の実施に関する契約を締結した。この契約には、被告(D1)は、展覧会の企画、演出、装飾その他一切の運営及び展覧会を成功させるために必要な一切の広告宣伝活動をその費用で行うこと、被告(D2)は、本件岩手展に関して著作権についての使用許可の手続、カタログの編集及び制作の役務を提供することなどが定められていた。
本件カタログを実際に制作したのは被告
(D2)であるが、本件カタログ2頁目の各展覧会の「会期、会場、主催」欄については、事前に被告(D2)から被告(D1)に校正刷が送られ、担当者が校正をした。右の「主催」欄には、被告(D1)の名称が記載されている。
被告
(D1)は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、前記契約条項に基づき被告(D2)に一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。
(略)
右の事実関係によれば、被告
(D1)は本件岩手展の主催者として、本件カタログが右展覧会の会場で自ら又は被告(D2)により頒布されることを認識しており、しかも一部とはいえ事前に本件カタログの内容につき意見を述べる立場にあったのであるから、被告(D2)をして本件カタログを制作させたものということができる。
そして、被告
(D1)は、著作物の使用許諾の手続につき被告(D2)に一任し、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置を執らなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
(略)
被告
(D4)は、平成5年秋ころ、同(D3:新聞社)に対して、具体的な展覧会の開催事務は行わないという前提で、本件大阪展の主催者となることを依頼した。被告(D3)は、関連会社の株式会社大阪読売広告社が被告(D4)が設置するナビオ美術館の運営に関係していること、以前にも同様の形式で被告(D4)の依頼を受けて美術展を主催した実績があったことから、右依頼を承諾した。
被告
(D5)と同(D2)は、平成6年2月28日、本件大阪展の実施に関する契約を締結した。この契約には、被告(D3)ほかが本件大阪展を主催し、会場はナビオ美術館であること、被告(D2)は、本件大阪展に関して著作権についての使用許可の手続、カタログの編集及び制作の役務を提供することなどが定められていた。
本件カタログを実際に制作したのは被告
(D2)であるが、本件カタログ2頁目の各展覧会の「会期、会場、主催」欄については、事前に被告(D2)から被告(D3)に校正刷が送られ、担当者がその内容を確認した。右の「主催」欄には、被告(D3)、同(D3”)の名称が、「会場」欄には「ナビオ美術館」の名称が記載されている。そして、被告(D3)発行の平成6年3月18日付け読売新聞夕刊には、本件大阪展開催の記事が掲載されており、主催者として、被告(D3)、同(D3”)の名称が記載されている。
被告
(D3)は、著作物である本件絵画1の使用許諾の手続については、被告(D2)又は同(D4)において適正に処理をしたものと信じており、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。また、被告(D4)は、右手続については、前記契約条項に基づき被告(D2)において適正に処理をしたものと信じており、自ら著作権者の許諾に一任し、自ら著作権者の許諾を得る手続は執らなかった。
(略)
右の事実関係によれば、被告
(D3)は本件大阪展の主催者として、本件カタログが右展覧会の会場で頒布されることを認識しており、しかも一部とはいえ事前に本件カタログの内容につき意見を述べる立場にあったのであるから、被告(D2)をして本件カタログを制作させたものということができる。そして、被告(D2)は本件カタログを実際に制作した者、被告(D4)は本件大阪展の会場で本件カタログを販売した者として、被告(D3)と共同して、原告の著作権を侵害したものと認められる。他方、被告(D3”)については、本件カタログ及び前記新聞記事に主催者として表示されていること以上に本件カタログの制作、販売に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
そして、被告
(D2)は著作物の使用許諾を得ておらず、許諾が得られたものと信じたことに過失があったことは前記認定のとおりであり、被告(D3)及び同(D4)は、右手続につき被告(D2)に一任し、事前に許諾を得たことを証する書面の提出を求めるなどの措置をとらなかったのであるから、著作権の侵害につき少なくとも過失があったものと認められる。
平成13年01月30日東京地方裁判所[平成6(ワ)11425]

(1) ジャパンタイムズの記事(写真)について
前記1で認定した事実によれば,本件展示会の開催を知らせる記事が,共同通信の配信記事として英字新聞ジャパンタイムズの日刊紙及び週刊紙上に写真付きで掲載されたこと,同写真の中に被控訴人の絵画「ジョニー・デップ」が写り込んでいることが認められる。また,同写真は,来訪者と思われる男性が作品を鑑賞している様子を背後から撮影したものであり,記事と写真の内容が概ね一致していることからすると,上記記事の取材の際に撮影されたものと推認できる。しかし,同写真の撮影を控訴人が許可した事実については,控訴人が否定しており,ほかにかかる事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
上記記事の中でギャラリーの経営者としての控訴人のコメントが紹介されていることからすると,控訴人は,共同通信の取材に応じ,本件展示会を開催する意義等について述べたものと認められるが,他方で,控訴人は,本件展示会の主催者ないし共催者ではなく,本件展示会における写真撮影の許可・不許可を決すべき立場になかったことからすると,上記記事から認定できるのは,飽くまで控訴人が,ギャラリーの経営者としての立場から取材に応じたという事実に止まり,それ以上に,控訴人が写真撮影を許可した事実まで,かかる記事の存在から認めることはできないというべきである。
したがって,仮に,上記の写り込みについて被控訴人が有する絵画の複製権侵害が成立する余地があるとしても,写真撮影を許可したとの理由により控訴人がその責任(幇助者としての責任を含む。)を負うことはないというべきである。
(2) ウェブサイト上における絵画の写真や被控訴人の氏名の表示について
前記のとおり,控訴人は本件展示会の主催者ないし共催者ではなかったのであるから,本件展示会の来訪者に対し,写真撮影を禁止したり,撮影した写真や被控訴人の氏名を含む本件展示会の内容をウェブサイト上に掲載することを禁止するなどの具体的措置を講じる義務が控訴人にあったとはいえない。したがって,控訴人にかかる義務があったことを前提とする不法行為の主張(幇助を含む。)は,その余の点について判断するまでもなく,失当というべきである。
他方,控訴人が自ら甲37ウェブサイトに本件展示会の出品者,すなわち獄中者としての被控訴人の氏名の表示を含む本件展示会の宣伝を投稿した点は,被控訴人のプライバシー侵害に当たり,控訴人は少なくともこの点について過失による不法行為責任を免れない。ある者が服役中であるという事実は,その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であり,その者は当該事実を公表されないことにつき,法的保護に値する利益を有するものというべきであるから,受刑者であることを実名をもって表示するに当たっては,あらかじめ本人(被控訴人)の承諾があるか否かを慎重に確認する必要があり,これを怠った以上は過失があったことを否定できないというべきである。
(略)
(1) 不法行為②(送信可能化権侵害)について
控訴人は,救援センターを「人権の砦」として信頼しており,かかる救援センターが出品予定者の承諾を得ないまま本件パンフレットに絵画を掲載するなどという違法な事態は全く想定していなかったし,救援センターが被控訴人の承諾を得ないまま本件パンフレットに出品作を掲載し,更には同承諾を得ないまま本件パンフレットの本件ウェブサイトへの掲載等を依頼したとは全く考えてもみなかったのであるから,本件展示会の主催者である救援センターの依頼を受けて会場を無償で提供し,それに付随して本件パンフレットの本件ウェブサイトへの掲載等の依頼を受けたにすぎない控訴人には,改めて出品者である被控訴人に対して承諾の意思を確認する義務はなく,救援センターに対して被控訴人を始めとする出品者の意思を確認する義務もなかったというべきである,などと主張する。
しかしながら,救援センターがいかに公権力の弾圧に対する救援活動を行ってきた実績があり,控訴人にとって信頼に足る団体であったとしても,そのことと,同団体が著作権を始めとする知的財産権関係の法令遵守についても明るいか否かは別問題であって,依頼を受けたとはいえ,最終的に自らの判断で他人の著作物である絵画が掲載された本件パンフレットの画像をウェブサイトにアップロードする以上,控訴人としては,救援センターを通じるなどして著作権者(被控訴人)の許諾が得られているかどうかを自ら確認し,その確認が取れなければアップロード自体を差し控えるなどの適切な対応を採るべきであったことは当然である。したがって,これを怠った以上,控訴人は過失責任を免れない。
よって,不法行為
②に関する控訴人の主張は失当である。
(2) 不法行為③(プライバシー侵害)について
控訴人は,本件展示会の主催者が救援センターであって控訴人ではないこと,本件展示会の出品者と救援センターとの関係,控訴人の本件展示会への関与の経緯等からして,(受刑者であるとの情報を実名でインターネット上に公表することにつき)被控訴人本人の承諾の有無に関して救援センター等に確認していなかったとしても,控訴人に過失がないことは明らかである,などと主張する。
しかしながら,前記のとおり,ある者が服役中であるという事実は,その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であり,その者は当該事実を公表されないことにつき,法的保護に値する利益を有するものというべきであるから,自らの判断で受刑者であることを実名をもって表示する(そのような投稿を行う)以上,本人である被控訴人の承諾があるか否かを確認する義務があることは当然である。したがって,これを怠った以上,控訴人は過失責任を免れない(この点に関し,控訴人が主張する上記の事情は,何ら責任の有無を左右するものではない。)。
よって,不法行為
③に関する控訴人の主張も失当である。


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