Parting 2



=ダグラス=

俺は無い頭を絞って必死に考えていた。エリーの昨日の表情・・・。俺の本能が何か嫌な予感がすると感じた。
―――「作った」表情
あいつは今までにそんな表情をした事はなかった。少なくとも、俺の前では。
「ああーーーーーっ!!!!」
雄たけびを上げて頭をかきむしった。分からない物は分からないのだ。仕方が無いので俺は夏祭りの日に聞こうと思った、
エリー本人に。

一通り考えをまとめてから待ち合わせの場所、飛翔亭に行った。今日はロマージュがいるのか。
「あらぁ、ダグラスちゃんじゃないのぉ。今日は夏祭りよ!エリーちゃんは?・・・ああ!ま・ち・あ・わ・せなのね!」
未だに慣れねぇな、ロマージュは。まぁ、こんなノリの女は今までに見た事がないせいもあるけどよ・・・・。
その時、ドアが開いてエリーが入ってきた。俺は言葉を失った。
「こんにちはー。あ、ロマージュさん今日はお仕事ですか?」
「あらエリーちゃん!こんにちわ!かわいいじゃないの、その浴衣!似合ってるわよ!」
エリーはオレンジの浴衣に身を包んでいた。ロマージュに誉められて顔を赤くしていた。俺はエリーに不覚にも 見とれてしまっていた。
―――か、可愛いっっ!!
「ねぇダグラスちゃんもそう思うでしょ?似合ってるわよねぇ!」
「あ、ああっ!!ま、まぁいいんじゃねぇのかっ!?」
俺の馬鹿!なんでちゃんと誉めてやれねぇんだよ!!
「じゃあ、いこ?ダグラス。」
エリーの呼び掛けにこたえようとした所で俺はロマージュに呼び止められた。
「ちょっとダグラスちゃん!エリーちゃんなんだか元気ないわよ!・・・・今日は、ちゃんと恥ずかしがらずにエスコートしてあげなさいよ!」
「んなっ!!そんな事できるかよ!」
ロマージュにぼそぼそ声で忠告されたがエスコートなんて怪しげな事、俺が出来るか!!
「いいから!ほら、エリーちゃんが待ってるからもう行ってきなさい!」
ロマージュに追い出されるようになって俺は飛翔亭をでた。もう既に日は暮れて露天の明かりばかりだった。
「じゃあ、どこから行く?」
「・・・・・・・・・・。」
俺の問いかけにエリーは答えなかった。俺はエリーの顔のまえに手を出して振ってみた。
「おい、聞いてるか?どうしたんだよ?」
なるべく優しく聞いてみた。エリーはびくっと体を震わせて俺を見上げた。
「あ・・・ごめんダグラス!いこっか。えっと、とりあえず見てまわろ?」
露店を見て回る事にした。そこら中に金魚すくいやわたあめやらを売っている店があった。
「分かった。」
俺は恥ずかしかったがエリーのまえに腕を突き出してやった。エリーは戸惑っていたが俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
そして俺達は回っていた、その時俺の視界にある店が入った。
「いらっしゃいませ!何にいたしますか?」
俺がエリーを連れて行ったのはネックレスやらイヤリングやらがところせましとならべられているアクセサリーショップだった。
「・・・これなんかいいだろ。これいくらだ?」
「え!?ダ、ダグラス!いいよ!!私、自分で買うよっ!」
俺はエリーに自分の選んだネックレスをつけてやった。オレンジ色でエリーっぽい感じがしたから。
その後まだ何か言っているエリーを手で遮ってお金を払った。
「ありがとう、ダグラス。ごめんね。」
やっとエリーは受け取ってくれた。やっぱり俺が見込んだ通り、それはエリーにとても似合っていた。
「じゃあ、あそこにいこ?」
エリーが指差したのは肝試しのアトラクションだった。あまり並んでいなかったのですぐに入る事が出来た。
ま、良くあるようなセットだった。コンニャクが飛んできたり、口裂け女が出てきたりとな。
エリーは俺の予想に反してあまり怖がっていなかった。
ちっ・・・こういう時はキャーとか叫ぶもんじゃないのかよ・・・。
「行きたくない・・・・・・行きたくない・・・・・・。」
また新しいお化けが出てきた、その時エリーが震えて叫んだ。
「いやぁぁぁぁっ!!!!」
うずくまるエリーを前に俺はパニックに陥っていた。な、何でこれが恐いんだ!?エリーは大泣きしていた。
「エ、エリー。大丈夫だ、大丈夫だから・・・。」
俺はエリーをあやしつつアトラクションを出た、いきなり怖がった訳は分からないまま。
「ひっく・・・ひっく・・・・・ご、ごめん、ダグラス。」
アトラクションから遠い丘の上に着た時、エリーはやっと泣き止んだ。
「いいから・・・どうしたんだよ?」
「ご、ごめんね・・・私・・あのお化けの言った事が・・・。」
―――バンッッ!!!バーンッ!!
エリーが何かを言いかけた時、大きな音がした。音の方を向いてみると、花火が上がっていた。
「あ・・・綺麗・・・だね。凄い・・・。」
エリーは凄く驚いていた。今年から花火をやる事になったなんて、俺は知らなかったぞ!
「ああ、凄いな。エリーは花火見るの、初めてか?」
「うん。聞いた事はあったけどね。見るのは初めて・・・。」
俺達はしばらく花火を見ていた。こういうのをロマンティックっていうのか・・・?
俺はふとエリーの方を向いた。
―――泣いてた。
「どうした?泣くほど感動したのか?」
冗談交じりに聞いてみたらエリーはうなずいた。
「だって、凄く良い思い出が出来たんだもん。本当ありがとう、ダグラス。」
涙を隠そうともせずに俺を見るエリーの綺麗さに俺は我慢できなくなってエリーを抱きしめて、キスをした。
凄く長い時間のようで、短い時間だった。エリーを離すと、エリーは恥ずかしそうに顔を赤くしながら俺に微笑みかけてきた。
「帰るか・・・。」
俺は沈黙に耐え切れなくなって帰る、という選択を選んだ。まぁ、今帰ってもまた来年も来れるもんな。
エリーのアトリエの前に来た時、俺は1つの約束をした。
「来年もまたこような、2人でさ。」
エリーは暗くて良く分からなかったが何か辛そうな顔をしたように見えた。
「・・・・うん・・・・また、ね。ダグラス。」
そしてエリーはアトリエに入っていった。俺はその後、1人で寮まで帰った。寮の前ではエンデルク隊長が立っていた。
「ダグラス!いくら夏祭りとはいえ、遅いぞ!それより、エルフィールはきちんと送り届けたのか!?」
「もちろん送りましたよ・・・って何で隊長が知ってるんすか!?」
隊長は顔の前に人差し指を立てた手をもってきて何を思ったのか振った。
「フッフッフ・・・企業秘密だ。」
き、企業秘密・・・。俺は怪しげなエンデルク隊長をほっておいて寮に入った。
「何であいつ、あんな顔したんだろうな・・・?」
無意識のうちにエリーの事を考えてしまっていた。別れる時のあの顔がなんだか気になって、頭から離れなかった。


=エリー=

―――言えなかった。
私は帰ってきてからずっと後悔していた。
「帰りたくない」
その言葉を聞いた時、自分の考えてる事と一致して恐怖が頭の中を支配して、泣いてしまった。
私はダグラスと一緒にいたい。
そのことばかり考えてしまう。行かなければいけないのに。諦めなければいけないのに。
「ダグラス・・・・・ダグラス・・・。」
私は愛しい人の名前を呼びつづけた。
―――助けに来て・・・
そんな虫の好すぎる事を心の中で考えつつ。その後私の頭の中に浮かんだのは、花火の下でのキス。
大好きな人との最後の思い出がファーストキスで良かった。そんなことを考えていた。
もう私の頭の中にはダグラスしかいないのに。
私は辛くて辛くてたまらなくなった。これ以上ザールブルグにいたらダグラスとの別れがもっと辛くなる・・・。
そう考えて私は明日、ロブソン村に帰る事にした。

次の日、私は工房の片づけを午前中に終わらせ、アカデミーに行った。
―――コンコン!
「はい、どうぞ。」
「失礼します。エルフィールです。今日はお願いがあってきました。」
私が訪れたのはアカデミーの先生達の寮。イングリド先生の寮だった。
「そのお願いとは何ですか?」
私の荷物に驚きながらもイングリド先生はあくまで平静を保ちつつ言った。
「・・・その、卒業を早めて欲しいんです。わがままなのは分かってます。でも私は・・・。」
「話を聞かないと、そんな特例は認められないわよ。」
私はすべてを話した。ダグラスの事、手紙の事、昨日の事・・・。先生はうなずいた。
「そう・・・いいわ、校長には私から話しておくわ。でも、本当にいいのね?ダグラスさんの事は・・・。」
「いいんです、決めた事だから・・・・。今まで、お世話になりました。」
私は退室して、ほうっとため息を吐いた。これで良い。私は後ろを振り返らずにアカデミーを出た。
「よし、いこう。」
アイゼルやノルディスには後で手紙を出せば良い。私はロブソン村に向かう馬車に乗った。
―――もう、ザールブルグには戻ってこない。


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