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貧血の話

今回は貧血についてお話しします。今回は長くなりますので印刷してから読んだほうがよいかも知れません。

 

貧血の症状

 貧血の症状って何だと思いますか?顔色が悪い、立ちくらみがする?皆さんが思う貧血の症状は当てはまりません。

 いろいろとありますが貧血の中で最も多い鉄欠乏性貧血は強い自覚症状が出ないかたが多いようです。特に女性ではゆっくりと貧血が進むために、ひどい貧血になって初めて気がつく場合があります。階段を上がるのに息切れがしたり、動悸がしたりする…こんな症状は意外と貧血だったりします。単なる疲れとか、もう年かな?なんて思って放置してしまい、ひどい貧血になってしまう場合もあります。

 

貧血とは…

 それでは貧血はどのように診断するのでしょう?その答えを出すためには、貧血の根本を理解しなければなりません。

 簡単に言えば、貧血は血が薄い…ただそれだけです。では、なぜ血が薄くなるのでしょうか?血液の量が足りなくなること。それではなぜ血が足りなくなるのか?一番考えやすいのは出血です。出血というと“切った張ったの世界”を想像しやすいのですが、一番多い出血は女性の生理です。続いて胃や大腸からの消化管出血です。それも口から吐く(吐血)派手なタイプより、胃潰瘍からじわじわ出血があり大腸に流れて便が黒くなるタイプや、大腸からの出血が便に混ざり赤黒くなる…そのようなタイプが多いようです。また、痔からの出血でひどい貧血になるかたも結構多いです。

 

貧血で大事なもの=ヘモグロビン

 血液が薄くなる原因には、もうひとつ大切な答えがあります。血液の中にはばい菌をやっつける白血球と血が出たときに血止めをする血小板、それから酸素を身体中に運搬する赤血球があります。

 さて、この中で一番多いのはどれでしょう。1µl(マイクロリットル)あたり白血球は大体6000個くらい、血小板は20万くらい、それに対し赤血球は400万以上もあります。人間は酸素がなければ生命活動が出来ません。だから、赤血球はとっても大事な細胞なのです。そして血の赤い色はこの赤血球のほとんどを占める色素、すなわちヘモグロビンなのです!余談ですが、なぜ血は赤いのに皮膚の血管(静脈)は透き透って青く見えるのでしょうか?これは皮膚を通るときに生じる光の散乱が関係しているそうです。

 なんとなく答えが見えてきました。血が薄くなること=ヘモグロビンが減ること!これが答えです。ヘモグロビンは鉄を含むタンパク質で酸素を運搬する働きがあります。つまり、鉄が足りなくなればヘモグロビンが減ってきます。

この鉄が不足することで起こる貧血を“鉄欠乏性貧血”と呼び、俗に言う貧血のほとんどがこのタイプです。

 

貧血の診断

 赤血球関連の3つの検査は赤血球の数と血色素量(ヘモグロビン)、ヘマトクリットがあり、この3つから赤血球の大きさを示す指標となる平均赤血球容積(MCV)を導きます。先ほどからよく名前の出ている鉄欠乏性貧血はMCVが少ない(=小さい赤血球)の代表選手です。出血系は、大体は(例外もありますが)MCVが正常(=通常の大きさの赤血球)です。

それではMCVが大きいのは何でしょうか?胃を切った人では10年以上たってから、赤血球が大きい貧血になることがあります。ビタミンB12や葉酸が足りない貧血では赤血球が大きくなります。なぜ、赤血球が大きくなるのでしょうか?

皆さんもご存じの通り、人間の身体は細胞で出来ています。細胞は遺伝子の情報で作られます。遺伝子の本体はDNAです。最近はメディアなどでもコンピュータグラフィックでらせん状の2本のひもみたいなものが登場してきます。これがDNAです。このDNAを作るのにビタミンB12や葉酸が必要となります。DNAが足らないから細胞がうまく生長できません。そのため、ぼわっと膨らんだような細胞になる…これが大きい赤血球の原因です。赤血球だけでなく、赤血球のお母さん細胞(赤芽球)も大きくなるため巨大な赤芽球の貧血、すなわち巨赤芽球貧血と呼ばれます。

ですから、貧血の原因となる物質を探る検査、これも血液検査です。今までの話でおわかりのように鉄やビタミンB12や葉酸を検査する…これで貧血の原因、何が足りないのかがわかります。

赤血球が外に出る貧血(出血)と検査

 貧血の原因から考えれば、前述した出血の話が出てきます。女性の生理からの出血は子宮筋腫や癌で悪化します。婦人科の先生に受診しなければいけません。胃や大腸からの出血は、胃カメラや大腸カメラが必要です。つらい検査だからイヤだ!という人、多いです。でも、検査をしましょう!痔による出血も馬鹿にしてはなりません。直腸の癌で痔みたいに出血が続くことは珍しくありません。一度、きちんと肛門を検査してもらいましょう。時々、“検査はイヤだから薬だけ下さい”という患者さんがいらっしゃいます。でも…よく考えてください。貧血の原因が胃がんや大腸がん、子宮がんならば薬を飲んで中途半端にしているうちに悪化します。今の医学なら早期発見が出来れば、治る可能性が非常に高いのです。検査は嫌がらずに受けましょう。

 

貧血の治療

 よく貧血の薬とか造血剤っていわれる薬はいったいなんでしょう?これって鉄を補う薬なんです!ですから、今までの話を聞いていれば判るとおり、鉄欠乏性貧血以外には効果がありません。ですから、貧血の原因の検査(血液検査や内視鏡検査)を最初にすることが大切なのです。

 

胃腸とか婦人科の病気が原因の貧血では、各々の病気に対する治療が最も大切です。専門医や主治医に相談し治療を受けて下さい。

 

 鉄欠乏性貧血の治療は鉄剤の内服(飲み薬)です。注射のほうが効くんじゃないの?それは大きな間違いです!一回の注射では、一日量の飲み薬より少ない量の鉄しか補うことが出来ません。さらにもっと怖いことには注射で鉄分を補うと肝硬変になることがあります。ですから注射をしなければならない人は薬が飲めない人だけです。以前の鉄剤は胃に優しくないタイプでしたが、今の薬は食事中でもお茶と一緒に飲まなければ(時間を空ければ)全く問題はありません。鉄剤を飲むと2週間くらい貧血は改善し始め、ひと月もたてばヘモグロビン量は正常になります。でも、これで治った!と安心してはいけません。

体にある鉄は大部分が肝臓や脾臓に蓄えられています。このストック分を使い切ってから、血液中にある鉄が減ります。血液中の鉄が不足して初めて貧血になります。ですからストック分を貯蓄するために、最低3か月は鉄剤の内服が必要です。

 胃をほとんど切除している人には、10年以上たてば貧血が出る場合が少なくありません。胃は食物を消化する場所です。でも、それ以外にも大事な仕事をしています。それはビタミンB12を吸収するために必要な物質(内因子)を作っています。胃がなくなれば内因子もなくなり、ビタミンB12は吸収できなくなります。ビタミンB12がなければ、DNAがうまく作れない→赤血球が大きい貧血になる。こんな流れが出来ます。

実は、胃があっても内因子がなければ、やはりビタミンB12が吸収されなくなります。内因子を作る胃の壁細胞が萎縮(粘膜が薄くなる)する病気、萎縮性胃炎の一部ではビタミンB12欠乏による貧血が起きます。ですから、ビタミンB12欠乏による貧血はビタミンB12を飲んでも効きません。ビタミンB12の注射は大きく分けて2つの方法があります。

・毎日注射を2週間続ける

・週に3回を6週間続ける

大体の場合、4~5日たてば貧血の改善が始まります。ビタミンB12欠乏の患者さんはその後も吸収能力が改善しないわけですから一生補う必要があります。

すなわち3か月~6か月に一度、ビタミンB12の注射をすることです。小さい筋肉注射ですから、そんなに痛くないですよ!貧血が改善されていく過程でヘモグロビンの原料である鉄が減ってきますので併せて鉄剤も飲んでいただきます。

 このビタミンB12欠乏による貧血は、貧血以外にもいろいろな症状があります。舌の炎症や白髪が増える…これは軽い症状です。怖いのは足のしびれから始まる神経障害で、歩行障害や錯乱が起こることもあります。発熱やむくみがくることもあります。昔は悪性貧血と呼んでいました。

 炎症が長く続けば貧血になります。消化器癌以外の悪性腫瘍でも貧血になります。腎臓が悪くなってもエリスロポエチンという赤血球を育てるホルモンのような物質が不足して貧血(腎性貧血)になることがあります。

 

最後に… 大切なことはどんな病気も一緒ですが、きちんと原因を検査してきちんと治るまで治療をやめないことです!