地域医療に貢献いたします

温かい医療をテーマとした診療所です

卵ってそんなに身体に悪いの?

『コレステロールが高いから卵は控えるように!一日一個の卵は食べすぎですよ!』と言われていませんか?卵はコレステロールが高い食材です。鶏卵一個(50-60g)あたりのコレステロールは200-260mgです。これまで厚生労働省は一日あたり男性750mg未満、女性600mg未満というコレステロールの摂取基準を設けていました。しかし、最近になってアメリカでは食物からのコレステロール摂取量と血液中のコレステロール値の因果関係を示す臨床結果データが無く、食品によるコレステロールの制限をなくすようにガイドラインが変更になりました。厚生労働省は5年に一回、私たち日本人の食事に関して、栄養学的な側面からの基準である『日本人の食事摂取基準』を発表しています。『日本人の食事摂取基準2015』では卵のコレステロールを悪者とする誤った情報の氾濫に警鐘を鳴らしています。鶏卵のコレステロールに関して様々な研究論文を引用し卵の摂取量と冠動脈疾患や脳卒中の死亡率、糖尿病有病率との関連はなく、一日に鶏卵を2個以上摂取した群とほとんど摂取しない群との死亡率を比べても有意な差は認められていないとして記載されています。コレステロールの摂取量は抑えることが好ましいものと考えられるものの、食事からのコレステロール摂取が直接LDLコレステロールを上げることにつながらないという理由でコレステロールの摂取基準を削除しました。そのため、『卵は一日に何個も食べてよい』『一日一個なんて昔の話だ』と日常的にたくさん摂ることが推奨されるかのような声をよく耳にするようになりました。
また、イカやタコもコレステロールが高いので摂取量に注意するように言われていましたが、これらにはコレステロールを下げる働きのタウリンが含まれているので安心して食べられることがわかりました。
 コレステロールは細胞膜や脂肪の消化吸収の必要な胆汁酸、ホルモン、ビタミンD の原料であり身体に必要な成分です。そのため体内のコレステロールを一定に保つように肝臓が調節しています。食べ物からのコレステロール吸収量が多い日は肝臓でのコレステロール合成量が少なくなり、逆に食べ物からのコレステロールの吸収量が少ない日は肝臓でのコレステロール合成量が増えるようになっています。
悪玉コレステロールと善玉コレステロールってなに?
 コレステロールは、リポたんぱくという粒子状の物質になって血液中を運ばれています。LDLというリポたんぱくで運ばれたコレステロールをLDLコレステロール(善玉コレステロール)、HDLというリポたんぱくで運ばれたコレステロールを善玉コレステロールといいます。そして、血液中で増えすぎた悪玉コレステロールは血管壁にへばりつき、動脈硬化を促進し心筋梗塞や脳卒中につながります。一方、善玉コレステロールは血管壁に付着したコレステロールを回収し動脈硬化を抑えます。
 鶏卵は動物性タンパク質が多く含まれる食品です。また、栄養の缶詰といわれるほどビタミンC以外のビタミンやミネラルがバランスよく含まれ、安価で良質なタンパク源と言われています。また、卵黄に含まれるレシチンというリン脂質やオレイン酸という脂肪酸は、悪玉コレステロール値を低下させるだけではなく善玉コレステロール値を増やしてくれる働きもあります。レシチンはこの血管壁にへばりついた悪玉コレステロールを洗剤で洗うように血管壁から取り除き、悪玉コレステロールを肝臓に戻す働きのある善玉コレステロールに引き渡せる状態にします。レシチンが多く含まれている食品は卵黄レシチンのほかに、豆腐、納豆、豆乳に含まれる大豆レシチンがあります。レシチンは体内でも生成されていますが、加齢とともにその生産量は低下していくため卵などの食品からレシチンを摂取することが大切なのです。
 ペプチドとはタンパク質とアミノ酸の中間の性質をもつ物質のことをいい、有名なものが大豆ペプチドと卵白に含まれる卵白ペプチドがあります。ペプチドは体内の血圧上昇システム(レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系)に作用して変換酵素の働きを阻害し、血圧の上昇を抑制する働きがあります。
卵は何個食べてもOK!?
 卵は納豆、バナナ、サツマイモとともに完全栄養食品といわれ、栄養をバランスよく豊富に含む食品です。一日に3-4個を食べましょうと推奨している報告もあります。前述のように食品由来のコレステロールが増えても、体内でトータル的に調整されています。心筋梗塞などの冠動脈疾患の原因をつくる血中のコレステロールの成分は飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸は動物由来の脂肪に多く含まれ、コレステロールを増やす作用があります。卵も飽和脂肪酸を含みます。たくさん食べれば食べるほど飽和脂肪酸の摂取量が増えていくため、血中のコレステロールが増える可能性があります。すでに脂質異常症のかたは卵の摂りすぎには注意が必要であると思われ、せいぜい卵の一日摂取量は1個で、多くても2個だと思います。良質なタンパク質を摂るためにも卵、肉、魚、大豆製品を少しずつ摂るように心がけてください。