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尿酸と痛風の話

尿酸と痛風の話

 今年(2017年)1月4日のNHK“ガッテン!”は尿酸がテーマでした。知らなかった内容もあり、今回は高尿酸血症や痛風について話したいと思います。
 番組では動物園の協力を得て、動物たちの尿酸値を計る実験から始まりました。ヒトが5.0mg/dlであったのに対し、ホワイトタイガー、マンドリル、サラブレッド、ブタなどは0.2-0.6mg/dlと低く、人間以外の動物たちで尿酸値に差がありました。これはどういうことかというと、尿酸を分解する酵素が霊長類ヒト上科では失活しており、多くのほ乳類は尿酸を分解する酵素を持っており高尿酸血症を引き起こすことはないそうです。そして尿酸値が高い生き物ほど寿命が長いということです。尿酸は抗酸化力が高いため、身体の中の炎症を抑えるため寿命が長くなっているそうです。尿酸は、プリン体が分解されたあとに産出される物質です。プリン体は遺伝情報をつかさどるDNAやRNAの材料になるので決して悪い物質ではありません。尿酸は通常、体内に一定量に保たれていて多くなると汗や尿に排泄されてバランスを保っていますが、過剰になると血液中に排出されます。このように尿酸は必要なものであり、決して悪いことばかりではないのですが、高くなると痛風や腎障害に陥り透析に至ることもあり恐ろしい疾患です。

 それでは、尿酸が高くなるとどのような弊害があるのでしょうか?尿酸値が高い状態を高尿酸血症、それにより関節痛を来した状態を痛風といいます。尿酸値が7.0mg/dlを超えると血液の中に溶けきれなくなり結晶化してしまいます。 砂糖を水に溶かしていくと、ある程度以上は溶けなくなり白く濁りますね。それと同じ現象です!
 また、高尿酸血症があるからといってすぐに痛風を起こすわけではありません。少なくとも数年間高尿酸血症が続いていることが条件となります。つまり、高尿酸血症を“雪”に例えると痛風は“雪崩”です。尿酸値が7.0mg/dlを超えると雪が降り始め、高くなるにつれて雪がどんどん降り積もって初めて雪崩が起きるのです!尿酸の基準値を7.0mg/dl以下におく理由は、血漿中の溶解度を基準にしたものです。通常の条件では血漿中の尿酸は7.0mg/dlまでは溶けます。ただ目標値となると7.0mg/dl以下ではなく6.0mg/dl以下です! と、いうのも尿酸値を6.0mg/dl以下の状態を1年半から2年間くらい継続させると体内に蓄積していた尿酸結晶が血液中に溶け始めるのです。

 尿酸は温度が低いほど、酸性度が強いほど溶けにくく結晶化しやすくなります。足の親指や耳たぶは人間の身体の中で一番温度が低く、尿は血液より酸性度が強いため、痛風発作・痛風結節(皮膚の下に尿酸結晶がたまり、コブ状のかたまりになったもの)・腎結石になっていきます。痛風発作の激しい痛みの原因は剥がれ落ちた結晶を白血球が異物と認識して排除するために起きる炎症反応であり、痛風発作そのものは4日から10日以内に治まります。
 痛風になりやすいタイプとはどのようなかたでしょうか?バリバリと仕事をする、激しい運動を好むなど活動的な生活を行っている人や、早食い・大食いの人、肥満の人に多いのが特徴です。すなわちエネルギー消費が激しく、大量の食事を摂るような生活は尿酸が増えやすい環境といえるのです。痛風になる人の95%は男性です。食生活の欧米化に伴い、最近では30歳代での発症が増えています。また、女性は女性ホルモンの働きにより尿酸の排出が良いので男性に比べて発症する率はかなり低くなっています。そのため痛風になる女性は閉経後の人がほとんどです。

痛風は食事療法などの生活習慣の改善だけでは治らない?

痛風の原因である高尿酸血症は食事や飲酒などの生活習慣による影響が2割、尿中尿酸排泄低下や尿酸産生過剰などの体質的な影響が8割といわれています。この8割の内訳は①尿酸の排泄が悪い:60%②尿酸の生成が亢進している:20%③混合型:20%とされています。
“ガッテン!”では番組の中で若い男性が血液検査を行ったところ、尿酸値は8.2mg/dlでした。さらに運動を行ったところ10.0mg/dl以上になっていました。 激しい運動をすると筋肉が壊れます。筋トレなどの激しい運動では筋肉が壊れて再生されるため、一時的に尿酸が増えてしまうのです。ただ、この若い男性の場合、腎臓に問題があり尿酸を排泄する力が落ちていることが判りました。尿酸値が高い人はこの排泄がうまく出来ていない人が約8割にもなるのです。番組で紹介していた尿酸の排泄を促進させる食材が牛乳とヨーグルトでした。牛乳を飲むと尿酸値の排泄量が平均して37%もアップしていました。牛乳を飲むと牛乳に含まれるカゼインが胃腸で分解されアラニンという成分に変わります。このアラニンが腎臓で尿酸を排泄するのを助けてくれます。牛乳(低脂肪乳の方が効果が高い)を一日コップ一杯飲んでいる人は痛風の発症率を43%低下させることが判っています。ヨーグルトでも同じ効果が得られます。最近は、明治から販売されているPA-3乳酸菌のようなプリン体そのものを吸収する乳酸菌が含まれたヨーグルトもあります.番組に出ていた若い男性も1週間牛乳と低脂肪のヨーグルトを続けたところ尿酸値は8.2mg/dlから6.6mg/dlに下がっていました。

食事療法などの生活習慣改善のポイント

① 肥満傾向の人は体重を落とし標準体重に近づけましょう。

② プリン体を多く含む食品の摂取は控えましょう。

 きわめて多い  300mg~ 鶏レバー マイワシ干物、イサキ白子、あんこう肝酒蒸し 
 多い  200~300mg 豚レバー 牛レバー カツオ マイワシ 大正エビ、
真アジ干物 さんま干物 
 少ない  50~100mg ウナギ ワカサギ 豚ロース 豚バラ 牛肩ロース、
牛タン マトン ハム ベーコン つみれ、
カリフラワー ほうれん草 
 きわめて少ない  ~50mg コンビーフ 魚肉ソーセージ かまぼこ 焼きちくわ、
カズノコ スジコ ウインナーソーセージ 豆腐、
牛乳 チーズ バター 鶏卵 とうもろこし 米飯、
サツマイモ パン うどん そば 果物 キャベツ、
トマト にんじん 大根 白菜 海藻類 

③ 水分を十分に摂りましょう。尿量が増加すると尿酸の排泄量が増加します

④ アルコールは控えましょう。日本酒1合、ビール500ml、ウイスキーダブル一杯が目安です。ビールはプリン体を多く含むので、特に注意が必要です。週に2日以上はお酒を飲まない日を作りましょう。

⑤ 一日の食事は3食規則正しく摂り、栄養のバランスが偏らないようにしましょう。

⑥ 高血圧症は、痛風に頻度の高い合併症ですので、食塩の多い食品は控えましょう。

⑦ 尿酸は体温37℃以下だと溶けにくくなるので、身体を温める有酸素運動は有効です。有酸素運動とは散歩・ジョギング・水泳・サイクリングなどで運動中の会話が可能なレベルの運動です。有酸素運動をすることにより筋肉が温まり、温かい血液が全身を巡るので体温が上がります。

以上が食事療法などの生活習慣の改善するポイントですが、禁酒や厳密な食事療法を行っても血清尿酸値の下降は1.0mg/dl前後だそうです。痛風発作をすでに起こしている患者さんの場合、食事療法だけでは血清尿酸値6.0mg/dl以下という治療目標を達成するのはかなり困難だと考えられます。要約すると、痛風発作を起こしたことがある患者さんは薬物療法が中心となり、痛風発作を起こしていない高尿酸血症では食事療法が中心となるということです。

薬物療法 詳 細
尿酸生成抑制薬
トピロキソスタット フェブキソスタット アロプリノール
尿酸が体内で作られるのを抑える薬。尿酸産生過剰型の人や尿酸排泄低下の人でも
尿路結石や重い腎機能障害を合併している場合に服用する
尿酸排泄促進薬
ベンズブロマロン プロベネシド ブコローム
尿酸を身体の外へ出しやすくする薬。尿酸排泄低下型の人が服用する。
尿路結石や重い腎機能障害を合併している場合には使用できない
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
ロサルタンカリウム
血圧を下げるために使用されるロサルタンカリウム(ニューロタン)は腎臓の尿細管にはたらいて
血清尿酸値を平均0.7mg/dl低下させる

尿酸生成抑制薬のフェブキソスタットの副作用には肝機能障害、アロプリノールの副作用には皮膚症状・下痢・骨髄抑制などがあります。尿酸排泄促進薬のベンズブロマロンには口内炎・下痢・頭痛・むくみ等が、プロベネシドには貧血・頭痛・ネフローゼ症候群。めまい等が報告されています。  クスリは逆から読むとリスク、つまり副作用などが起こることはあり得ますので血液検査を行いチェックする必要があります.なにか症状が出たら、すぐに主治医に連絡して下さい.定期的な検査をして、速く対処することが大切です。