「さぁ開始後5時間が経過して、銀河標準時で初日も終り二日目に突入しました」

「もちろん、前もってしっかり睡眠をとって体力を確保していたみんななら全然元気よね?」

「ここからは私とシェリルさんのトークです。みなさんからのメールが題材ですが、後は台本なしの完全アドリブですから秘密のお話が聞けるかもしれません」

「うっかり居眠りなんかしないでついてきてね」

 

 

 

コト。

「はい」

「ん? ああ、キャシーか。すまん」

湯気を上げる珈琲カップ。それを置いてくれたのがキャサリンだとわかり礼を言うオズマ。

「いい歳なんだからあまり無理するんじゃないわよ?」

「ほっとけ。……ランカの晴れ舞台だ。見なくてどうする」

「兄というより父親ね。まぁ顔を見るのも一ヶ月ぶりくらいでしょうからしょうがないけど」

自分も隣に座りディスプレイを見ながら珈琲を飲むキャシー。

「いいのか?」

「私のシフトは終了。ここからは非番よ」

「いや、そっちこそいい歳……ごっ!!」

 

 

 

「えーと『シェリルさん、ランカさんという強力なライバルの出現をどう思われますか?』……って、えぇぇぇぇぇ!?」

「そうね。より自分を高めなきゃって思う事ができるありがたい存在かしら?」

「そ! そんな! とんでもない! 私なんかがシェリルさんのライバルだなんて!」

「あら、謙遜しなくていいのに」

「いいえ! 私が今あるのはシェリルさんのおかげです! シェリルさんがいろいろとアドバイスを下さったり、気にかけて下さったおかげで今の私があるんです! ですから、その……そう、シェリルさんは今も昔も私の憧れなんです!!」

「私はそんなことないと思うし、今のあなたがあるのはあなたの力だと思うけど……そうね。嬉しいから素直に頂いておくわ」

「はい! これからもよろしくおねがいします!」

「でも、くすくす」

「シェリルさん?」

「全銀河にそんなに大きな声で……緊張していますとか言ってた数時間前のランカちゃんはどこに行ったのかしら?」

「え? あ、わわわわ!」

「そうね、さっきの質問の答えの追加だけど、プライベートでは仲良くさせてもらっているわ。だってランカちゃん可愛いものね」

「シェ、シェリルさん!」

そこでスタッフからサインが入る。

「さて、二回目の全銀河リレー中継よ。各船団のみんなよろしくね」

 

「もう! シェリルさん!」

「ごめんごめん、だってランカちゃん可愛いんだもの」

「はぁ……でも、シェリルさん、本当に私なんかのことをライバルだなんて思ってくださってるんですか?」

「ええ、もちろん。私は嘘はつかないわ。でも、ライバルだからってそうそう簡単には勝ちはあげないわよ」

「はい!」

 

そこでシェリルには見えないようにランカにだけサインが送られる。

 

(よし!)

 

シェリルにわからないように気合を入れるランカ。

 

「でも、シェリルさん。私をライバルだと思ってくださってるんでしたら、一つだけ偉そうな事を言わせてもらっていいですか?」

「あら? おもしろいわね。いいわよ」

「私、マクロスHに来て、シェリルさんと会ってからずーっと気になってることがあるんです」

「なぁに?」

「シェリルさん……我慢してるでしょ?」

「……え?」

「仕事はいつもどおり完璧ですけど、実はイライラしてるでしょ?」

「……そんな事」

「私、思うんです。シェリルさんは……私の憧れるシェリル・ノームは、自分のやりたいことを必ずやってのける人だって」

「……」

「だから、我慢してるシェリルさんなんてシェリルさんらしくありません!」

「や、やぁねランカちゃん。そんな真剣な顔して、私は別に……」

「一ヶ月で私がこんな気持ちになっているのに三ヶ月も会っていないシェリルさんが平気なはずないですか!!」

「!?」

 

なにやら慌てた様子のスタッフがグレイスに駆け寄るが、グレイスは問題ない、と返す。

 

「あれからメールとか来てないんでしょう?」

「…………」

「やっぱり」

「……ふ、ふふふふ」

「シェリルさん?」

「……そうよ。あいつ、メールの一通もよこさないの」

「シェリルさんの方からは?」

「……どうしてこの私の方から送らないといけないわけ?」

「ひっ」

ぎろり、とにらむシェリルに怯えるランカ。

「……そうよ、だいたいなんでこの私がこんなにヤキモキしないといけないわけ。声が聞けないだとか、顔を見てないだとか、あぁ今頃ランカちゃんと仲良くやってんじゃないでしょうね? とか」

「わ、私も忙しかったのでそんな暇は……」

「あーもうイライラする!」

「じゃ、じゃあこの際、その気持ちを叫んじゃいましょう! 大声で叫んだらきっとすーっとしますよ! ほら、今ならここの人たちだけですから口止めすれば! はい、マイクです! 音声さん、音量最大で!」

マイクを渡されたシェリルはすぅっと息を吸い込み、

 

「アルトの馬鹿―――――――っ!!

 本当に私が好きなら会いに来なさーーーーーーーーいっ!!!」

 

 

 

「……ふぅ、すっきりした。ありがとうランカちゃん」

「い、いえ」

「あれ? どうかしたの? もうすぐ中継終りでしょ? 準備しないと」

「いえ、その予想以上というか、なんといいますか」

「?」

「えーと、そのですね」

なにやらプラカードを取り出すランカ。

「……『どっきり』?」

「えーと、出演者に内緒にしておいて反応を見る由緒ある番組といいますか……」

「……」

スタジオを見回すシェリル。なにやら引きつった表情のスタッフ一同と笑いを堪えているようなグレイス。

「……えーと、その……ランカちゃん、もしかして?」

「はい。今の全銀河に流しちゃいました」

 

 

 

『ちょ、ちょっと今の取り消し!! アルト! あんたまさか見たり聞いたりしてないわよね!?』

『シェ、シェリルさん落ち着いて!』

『え、えぇ? コホン。あー、えーと別にアルトは私の恋人でも何でもなくて……』

『シェ、シェリルさん!』

『え? あー違う違うのーっ!! あーもうアルトの馬鹿!!!』

 

 

「いやーしっかり見たり聞いたりしていますよ歌姫さん」

にやにやと隣を見るミハエル。

「な、なんだよ?」

ミハエルどころかBAR中の視線をあびてアルトは赤くなる。

「ニクイわね、この色男」

ボビーに止めを刺されて膝から砕けるアルト。

「で? どうする?」

しゃがんだクランが下からその顔を見上げる。

「……決まってる」

すっくと身を起こすアルト。

「隊長」

ディスプレイに集中して背中を向けたままのオズマに声をかける。

「なんだ?」

「ランカに何か伝言は?」

「『しっかりやれ』」

「了解です」

「オズマ!? 早乙女中尉!!」

慌てて立ち上がるキャサリン。

「すみません中尉。今から無断で部署を離れます。帰ってきたら営倉にでもなんでもぶち込んでください」

「まさか本当にあそこへ行くつもり!?」

ディスプレイを指差すキャサリン。

「ええ」

「どうしてそこまでするの!? あなたと彼女は恋人かもしれないけど……」

「え、いや、そのそういうことじゃなくて……」

赤くなって頭をかくアルト。

「アイツは本当にプロなんですよ。そこに関しては少し尊敬しているくらいに……そんなアイツがあんなポカをしでかすって事は相当参ってるって証拠で……だから、俺は行かないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

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