私は他の誰でもないシェリル・ノームだ。

銀河にこの人ありと言われているシェリルだ。

完璧で非の打ち所などあるはずもない。

まぁ最近私の座を脅かす可愛い妹分がいたりもするが、それもむしろ自分を高める良い刺激の一つだ。

 

……とはいえ、私も人間である以上、時には間違いもある。

 

「アルトの馬鹿―――――――っ!!」

 

そう、ごくごくごくごくたまには、だ。

 

 

 

ドーム型都市船のドームを埋め尽くさんばかりの花火が打ち上げられ、同時に大歓声が上がった。

花火と群集を映していたスタジアムの巨大スクリーンに緑色の髪の少女が映る。

「それでは、史上初の全銀河同時生中継48時間スペシャル!! 総合司会は私ランカ・リーと……」

「シェリル・ノームがお送りするわ。全銀河のみんな、よろしくね」

二人目の女性が映り、再び大歓声が上がる。

 

「さぁシェリルさん始まりましたね! 最新のフォールド通信技術を使用した全銀河同時中継番組!」

「その総合司会に選ばれるなんて光栄ね。48時間なんてあっという間と思うような素晴らしい時間を全銀河にお送りするわ」

「この番組はまだ試験中の技術を各船団のご厚意により使用させて頂いて放送しているものです。今回はその開発の主要拠点であるマクロスH(ホープ)のメインスタジアムからお送りしています」

「後ほど各船団からの中継もお送りするわね」

「でも本当にすごいですよね。全銀河同時中継だなんて」

「そうね。まだ発展途上の技術だから今回の番組の次はそんなに簡単にはいかないそうだけどきっと何年か先には普通に銀河の何処でも同じ番組が見れるようになるといいわね」

「あ、でも私、知り合いの方にうかがったんですけど、フォールドの新技術も開発が進んでいて、もうしばらくすればフォールド航行の時間もずっと短くなるかもしれないって」

「そうなるといいわね。そうすれば私もランカちゃんもいつでもどこの船団にでもライブに行けるようになるわ」

「そうですね。でも、今はこの48時間中継です。48時間全力で行きますよーっ!!」

「それじゃ、ここで本番組のスポンサーの御紹介よ。こんなステキな番組のスポンサーをしてくれるんだもの、各船団のみんな?」

「よろしくおねがいしまーす!」

 

 

 

「へぇ、たいしたもんだな」

ディスプレイを見ていたアルトが言った。

時々画質が悪くなるのと、ディスプレイにかぶりついているオズマが邪魔な事を除けば、はるか彼方のマクロスHにいるはずのシェリルとランカの姿がはっきりと見える。

「……って、感想はそれだけか?」

「なにがだよミシェル?」

首を巡らし問い返すがミハエルはかぶりをふるだけだ。

「? お、ルカの家も入ってんな」

「それはもちろん! これでスポンサーにならないでどうするんです先輩!」

胸を張るルカ。

「まぁなぁ。そういえばさっきランカが言ってたのルカの事か?」

「まぁ正確にはナナセさんから聞いたんだと思いますけどね……っと」

携帯が鳴ったのに気付いて慌てて取り出すルカ。

今、ランカがしゃべっている所だから下手すると我を忘れたオズマに殴られかねない。

「あ、僕です……あ、はい!」

そこで慌てて隅に行き、なにやらこそこそと話した後、なぜかアルトの方に向けて

『やりましたよ先輩!』と言わんばかりにガッツポーズをする。

それを見ていたミハエルが

「なにかルカに頼んでいたのか?」

と問いかけるがアルトには覚えがない。

「いや、全然」

 

 

 

一回目の各船団のリレー中継が始まり、シェリルとランカは控え室に戻って一休みとなる。

「はぁ〜、全銀河の人に見られるなんて緊張します」

「ふふ、何言ってるの、まだ一時間も経ってないわよ、はい」

「あ、ありがとうございます」

シェリルの差し出すタオルを受け取るランカ。

ちなみに本来二人程の立場ともなれば一人一室相当な規模の控え室が用意されるのだが、同じ部屋にというシェリルの提案をランカが承諾し同じ部屋となっている。

 

「だってランカちゃん相手なら素でも大丈夫だから、リラックスしながら後の打ち合わせができるんだもの」

「シェ、シェリルさんと同じ部屋だなんて喜んで!!」

 

「ランカちゃんも休める時に休んでおきなさい」

「はい。でも、前にも言ったかも知れませんけど私ゼントラーディが混じっていますから48時間くらいならへっちゃらですよ?」

「体力はあっても緊張で参っちゃうかも?」

「ふぇぇぇぇ〜」

「あはは、ごめんごめん」

「はぁ、でもシェリルさんが一緒なのは本当に心強いです。そうじゃなかったら私このお仕事引き受ける自信がなかったです」

「そんなことはないと思うけど?」

「いえ、いまだにお仕事は緊張の連続で……」

「初々しいわねぇ〜」

にこにこと上機嫌のシェリル。

「……」

「ん? 何?」

「あ、いえ、なんでも」

プシュー。

「シェリル?」

ドアが開くとグレイスが入ってくる

「OK。じゃ、ランカちゃんお先に」

「はい。また後ほど!」

ここからはシェリルのソロライブの時間である。その後ランカの出番が入った後、二人のトークになる予定である。

 

シェリルが先に出て行くとグレイスがランカの方に顔を向ける。

「グレイスさん、どうでした!?」

「さっき連絡が来たわ。問題なし。後は貴女と彼次第ね」

 

 

 

ライブを見ていたミシェルが不意に言った。

「どうだアルト。彼女に何か変った様子は?」

「は? いや、いつも通りだと思うけど……なんだよ?」

「ふーん。そんなはずはないんだが……さすがはシェリル・ノームという所か」

「?」

ディスプレイの中ではシェリルがいつも通りに歌っている。

「でも、先輩がそうおっしゃるんならそうかもしれませんね」

「だがなぁ」

二人の視線がアルトに向けられる。

「なんなんだよお前ら!?」

声を上げるアルト。ちなみにオズマはランカの出番のない間に仮眠中である。

「お前さぁ、この前シェリルとメールとか電話とかしたのっていつ?」

「うん? 最後に会ってから何もしてないぞ?」

「「はぁ!?」」

「あのなぁ、船団間メールなんて出す金があるわけないだろ? ……って!」

二人にディスプレイの前に引きずられていくアルト。

「「本当に、何も変ったところはないか(ありませんか)?」」

「そう言われてもなぁ……強いて言うなら少し声が足りないか」

「は?」「へ?」

「アイツにしちゃあ、すこしパワーが足りない気がする。まぁ48時間あるんだから少しセーブしてるのかもな、アイツその辺りは本当にプロだから……って、なんだよ?」

なにやらにやにや笑っているミハエルとルカを睨むアルト。

「いやいや気にするな姫」

「ええ何でもありませんよ先輩」

 

 

 

 

二日目突入