艦長に限らずリーダーって立場の人は心の中がどんなに不安でも大丈夫、って顔をしてなきゃいけません。

私はお父様にそう教わりました。

ナデシコAの艦長の頃はなんとかできていたかな〜? と思います。

何て言ったってあの時は私の王子様がいたし!

 

でも、その時、私は不安で不安でたまりませんでした。

 

久しぶり? に帰ってみたら家は無くて、

三人家族のリーダーたる『夫』はいなくて、

『娘』には何年も寂しい想いをさせていて。

 

だからずっと戦っていた二人に代わって、今度は私が戦いを始めることにしたんです。

私達の幸せを取り戻す戦いを。

 

まぁ、取り戻したら取り戻したで、今度はいつの間にか強敵になっていた『娘』と『夫』を賭けた戦いを開始する事になるのかも知れないんですけれど。

ううん、きっと大丈夫。『夫』に限って! それに私も『娘』は大好きだし!

コホン……えーと、それは取り戻した後考えるということで。

 

『今度ルリちゃんに会うときはアキトも一緒だからね!』

そう彼女に告げた時、

たぶん今までで一番元気が要ったけど、

ちゃんと笑えていたなら、いいな。

 

 

 

そんな事があった日から長い長い時がながれて、

後は『めでたしめでたし』を言うだけ。

今回はそんなお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ 五つの花びらと共に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

「ウリバタケさん! 遺跡の演算ユニットの様子はどうですか!?」

被弾の衝撃で震えるナデシコのブリッジで叫ぶユリカ。

『どこにもねぇ! 影も形もだ!』

「!?」

『完全に消えてなくなっちまってる! わけわかんねぇが、もしかしてそういう事なのか艦長!?』

ウィンドウの向こうから怒鳴り返すウリバタケ。

「……艦を覆うだけのC.C.はなし。ジャンプで逃げるのは無理、か……。エステバリス各機出撃して下さい! 但し防御に専念してナデシコから離れないで!」

『了解!』

言うなり次々と飛び出て行く色とりどりのエステバリス。

「メグちゃん、救難信号を発信して! 平文で全方位、最大出力です!」

「は、はい!」

「本艦は現在火星の後継者の残党の攻撃を受けつつあり、至急来援を請う! 連合宇宙軍所属戦艦ナデシコA艦長テンカワ・ユリカ!」

「て、テンカワ・ユリカ!?」

 

 

 

 

 

 

 

<小一時間前、ナデシコブリッジ>

 

「ジャンプアウトしました。みなさーん起きて下さい」

いつかと同じ台詞をつぶやくルリ。

ナデシコ艦内のあちこちを映しているウィンドウの中で乗組員たちは倒れて意識を失っている。

今回は元々それに備えてマットだのクッションだのを用意してあったので大事は無いが当分目は覚めそうに無い。かくいうルリ自身も身体を重く感じていた。

「……言葉のアヤです。私、少女ですから軽いです」

 

「アキトさん?」

とりあえず展望室につないで一番回復が早いと思われるアキトを呼ぶ。

『う……ルリちゃん? ……大丈夫?』

「はい、なんとか」

ちらりと隣を見るとラピスはコンソールの上に置いたクッションに頭を乗せて寝息を立てている。ショックのせいというよりも意識が飛んでそのまま睡眠に移行しただけとも取れる。

実の所、後日のオモイカネの報告によるとルリ自身の意識が飛んだのは極々短時間であったらしい。慣れているはずのアキトの様子からすると身体の大きい方が負担が大きいのかも知れない。

 

 

 

<展望室>

 

「ナデシコは?」

『まだデータ確認中ですが、とりあえず船体に異常はなさそうです。でも、乗組員のみなさんはぐったりされてます』

「そうか」

ゆっくりと身体を起こすアキト。

「三人がかりとはいえ、さすがに戦艦一隻、世界を超えるのは堪えたな」

前回は身一つだったが、移動前はボロボロ、移動後は強制手術を受けた後という状態だった為参考にならない。イネスには聞いていないし、ユリカに至っては自分と融合してしまっている。

「ネルガルで無くともデータは欲しい所だな……」

つぶやきながらそばに倒れているユリカとイネスの身体を軽く揺さぶってみるが起きる気配はない。まぁ急いで起こす必要も無いが。

『? パッシブセンサーに反応』

「え?」

『質量、軍艦クラス多数? ……艦隊レベルですね。アキトさんの世界の宇宙軍はこんな宙域も艦隊でパトロールしているんでしょうか?』

「今いく!」

言うや否やジャンプフィールドを形成するアキト。

 

 

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

「未確認艦隊より機動兵器多数発進」

ルリのそばで光が生じるとアキトが現れる。

「ルリちゃん!?」

「いくつかの艦船はデータに該当。宇宙軍艦艇並びに木連艦艇が入り混じっています。こちらの宇宙軍は混成部隊なんですか?」

「所属は?」

「認識信号は確認しましたが、データベースにありません。……通信受信。……何だか支離滅裂でよく意味がわかりませんが、もしかして降伏勧告か撃滅通告かも。…… “火星の後継者”ってご存知ですか?」

「……なんてこった」

さすがに青ざめるアキト。

「アキトさん?」

「戦闘準備だ! みんなを叩き起こせ!!」

「え? は、はい!」

艦内に警報が鳴り響く。

「ラピス! おきろラピス!」

ぺちぺち、とラピスの頬を軽く叩くアキト。

「う、うーん……アキト?」

「ラピス、ルリちゃんのサポートだ!」

「え?」

「アキトさん、あれはやっぱり敵なんですか?」

「……奴等にとってナデシコと名前がつくものは全て敵だ。名前の下にAがつこうがつくまいが、さぞかし恨まれているだろうな」

もっとも本来はこっちにこそ恨みがあったんだが、と付け足すと再びジャンプフィールドを形成するアキト。

「アキト? どこへいくの?」

オペレートを開始したラピスが聞く。

「迎撃する。二人はナデシコを戦場からできるだけ引き離せ」

口調が変わるアキト。状況は切迫している。それに合わせるべきだろう。

「アキトさんは!?」

「問題ない。いざとなったら機体を捨ててジャンプする」

 

 

「状況を!」

ブリッジに駆け込んだユリカが聞いた。その背後から他のクルーが続く。

「未確認艦船より機動兵器が多数発進、本艦に向かってきています。アキトさんがブラックサレナで迎撃中です」

「おっし、ならこっちも出るぜ!」

言うなり駆け出そうするガイ。

「待って下さい。アキトさんからの伝言で、エステバリスはまだ出すなと」

「そんな、どうしてですか?」

同じく駆け出そうとしていたイツキが言った。

「イネスさんに聞け、との事です」

「どういうこった?」

リョーコがイネスの方を伺う。

「敵の画像は見れるかしら?」

「はい」

正面ウィンドウに交戦中のブラックサレナと敵機動兵器が映し出される。

「……あれは確かステルンクーゲル」

映像を見て呟くユリカ。

「やっぱりね」

うなずくイネス。

「おや見たことの無い機体だね。どこのだい?」

職業意識が芽生えたアカツキが口を挟む。

「統合軍の標準機よ」

「とーごー軍?」

なーにそれ? といった具合に首を傾げるヒカル。

「最新型のエステバリスなら勝負はパイロットの腕次第だけどいくらなんでも多勢に無勢ね」

「テンカワならやれるってことかい?」

シリアスモードのイズミが問う。

「アキト君ほどたくさんあれを相手にしたことのある人はいないし、いざとなればジャンプで逃げられるわ」

「じゃあ、せめてナデシコで援護を」

そう言い掛けたメグミを遮るユリカ。

「それは危険です」

「どうして!?」

「今はまだ相手もアキトに注意をひかれています。でも、攻撃を加えたらアキトを放置してでも、本来の目的である本艦を狙うでしょう」

「相転移砲がある以上、攻撃力だけならこの艦は今でも最強よ。だけどそれ以外は駄目ね。防御力も出力も、所詮数年前の艦、そろそろ旧式よこのナデシコAも」

「ナデシコ、A?」

首を捻るゴート。

「本艦は急ぎ、戦闘区域を離脱します。ルリちゃん?」

「はい、アキトさんの指示が早かったおかげでかなり距離は稼げました。もうすぐ……」

「ナデシコのまわりにボースリュウシハンノウいっぱい」

ルリの言葉をラピスが遮るのと同時にナデシコの周囲におなじみの発光現象が多数現れた。

 

 

 

 

<ナデシコ前面、交戦宙域>

 

「ちっ!」

急加速で離脱してナデシコへ向かうアキト。

それを敵部隊が追撃する。

追いすがる敵の先頭に向けてハンドカノンを発射するブラックサレナ。だが、

「……!?」

急に反応がなくなる。同時に警告ランプが灯った。

「しまった!」

 

 

 

<数日前 ナデシコ格納ブロック>

 

「で、感想はどう?」

ブラックサレナを見上げていたアキトにイネスが聞いた。

「……懐かしい、って感じました。変なもんすね。こいつは俺の乗っていた機体とは違うのに」

「そ。なら、なんとか合格点って所ね」

満足そうにうなずくイネス。

「まぁ、ほとんどハンドメイドだものね。こっちで使う分には問題ないでしょうけど」

「あっちに帰ったら早々に改修ね」

「もったいないわね。あれだけ苦労してたった一度の戦闘にしか使わないなんて」

「まぁ、アニメのロボットなんてそんなもんでしょ?」

「ああ、最終回にだけ登場する切り札ってやつね」

「……どうでもいいが、左右からステレオでしゃべらないでくれ」

眉間にしわを寄せて口調を変えるアキト。

「「あら、ごめんなさい」」

笑う二人のイネス。

「おーい、イネス先生!」

ウリバタケが声をかけて歩いてくる。

「「なに、ウリバタケさん?」」

「うぉ!?」

シンクロした応答に思わずひくウリバタケ。

「えーと、こいつを作った方のイネス先生だ」

「はいはい」

片方が一歩進み出る。

「もらったマニュアルで一通り整備はしといた。特に問題は無いが、一つだけ」

「どこか無理が出たかしら?」

「うんにゃ。機体そのものじゃなくて、武装の方だ」

そう言って両腕のカノンをスパナで指す。

「補給する弾がねぇ。先生の乗ってきた小型機にも予備は積んでねぇみてぇだが?」

「あぁ、そうだったわね。弾は今、入っている分だけよ」

「は?」

「弾だってほとんどハンドメイドだったから、試射に使ったものを除くと一回装填する分しか製造してないわ」

「下手に規格を合わせると製造元がばれるから特注にしたのよね。外部フレームが破壊されない限りエステバリスだとわからないようにもしたし」

「こっちで設計しなおす時にレールガンにあわせようかと思ったけど、元々レールガンの弾もないしで、変更するのはやめたのよ」

「おいおい、それじゃ弾が切れたらどうすんだ?」

「大丈夫よ、今の技術レベルの相手なら、アキト君なら弾切れになる前に一艦隊くらい相手に出来るでしょ?」

「……まぁ、そうだな」

「どうせ後は向こうの世界に移動するだけだしね」

「移動後、いきなり艦隊相手の戦闘なんか起きたりしないわよ」

 

 

 

……という話だったのだが、

「……やれやれだ」

弾切れになったハンドカノンを捨てる。

それに気づいたのか距離を詰めてくる敵部隊。

さて、後はアンカーか体当たりか、どっちにしろ接近しての格闘戦しかない。

さしものアキトといえどもこの数のステルンクーゲル相手では分が悪かった。

 

 

 

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

ナデシコの周囲にジャンプアウトしたのは多数の積尸気部隊である。

「この距離なら距離と包囲のみの指定で十分ジャンプできるということね。さすがはジンタイプの扱いになれた木連が主体の部隊だわ」

ナデシコ周囲に出現した敵部隊を見て分析するイネス。

いずれにせよ一度きりの特攻ジャンプシステムであることに変わりは無い。

「本隊が追いつくまでの足止めね。もうほとんどストックの無いジャンプシステムを使うなんてよっぽど好かれているわね」

大量に発射された対艦ミサイルを緊急発進したエステバリス隊が迎撃している。

 

 

 

<火星の後継者残党群 某ゆめみづき級木連式戦艦ブリッジ>

 

「よーしよし! なぜこんなところにいるのかはわからんが飛んで火に入る夏の虫とはこのことだ。怨敵ナデシコをここで宇宙の藻屑に変えてくれる!」

『おぉ!!』

木連時代に痛い目を見たことのある乗員も混じっており、否応無く盛り上がるブリッジ。

「!? 側面より砲撃多数!!」

「なに!?」

 

 

 

 

<統合軍 哨戒部隊 旗艦ブリッジ>

 

「かーっかっかっかっ! みたか火星の後継者! これぞ統合軍の力、正義の力だ!」

吼えるアズマ准将。

ナデシコからの救援要請をたまたま近隣の宙域を哨戒していたアズマの部隊が拾ったのである。半信半疑ではあったが元より火星の後継者の残党狩りが目的である。

指揮官がアズマであることもあり、大急ぎで駆けつけて見れば、という状態であった。

『グラビティブラスト再充填にかかります!』

「各艦対艦砲連続射撃! 奴らに立ち直る隙を与えるな! それから準備のできた艦から搭載機部隊を突入させろ!」

 

 

 

<火星の後継者残党群 某戦艦ブリッジ>

 

 

「くっ! たかだか5,6隻の部隊だ! それより怨敵ナデシコを!」

「駄目です! 敵部隊の砲火が激しく、追跡に移ると後背を討たれます! 応戦を!」

 

 

 

 

<統合軍 哨戒部隊 旗艦ブリッジ>

 

「敵が転進、迎撃態勢をとりつつあります!」

「もう少し叩いておきたかったが、まぁよかろう。それより一隻たりとも逃がすなよ?」

腕を組んで満足そうなアズマ。まずは攻撃を受けている艦にこれ以上の敵が向かわないようにするのが最優先だ。

「搭載機部隊、間もなく交戦可能域に入ります!」

「一番早くつく部隊はどれだ?」

「ライオンズ・シックル、スバル中尉のエステバリス隊です」

「?」

そこでしばし考えるアズマ。

「あぁ、あのじゃじゃ馬か。よし、うってつけだ。中尉を呼べ!」

 

 

<スバル機アサルトビット内>

 

敵目指して部隊の先頭を突っ走るリョーコのエステバリス・カスタム。背後にはエステバリス隊が続いている。

『中尉!』

そこへきらりと光る丸い頭が表示された。

いわずと知れたアズマである。統合軍に戻ったリョーコは件のアズマが汚名返上・名誉挽回、なにより恨みはらさでおくべきか、と火星の後継者の残党……決戦時に火星におらず、そのまま行方をくらませた連中……狩り部隊に参加したことを聞いて、再編の終わった……アキトに落とされた機体の補充が終わったライオンズ・シックルを率いてその部隊に参加していた。

「なんだ提督!? おしゃべりしてる暇はねぇぜ!」

『まぁ聞け、貴様の部隊はそのまま敵を迂回して、攻撃を受けている艦の救援にまわれ』

「なんだとこのハゲオヤジ!?」

『不満か?』

「ああ不満だね、そんなのは後続の……」

『これを見てもそう言うか?』

ピコン、とリョーコの目前に表示される忘れられないシルエット。

「!? こいつは!?」

『よもやこの艦についての説明をわしなどがする必要はあるまい?』

「……違えねぇ」

にやりと笑うアズマに笑みを返すリョーコ。

『理由は知らんがその艦は確かにそこにいる。付け加えるなら救難信号の発信者はこう名乗っている。テンカワ・ユリカ、とな。……さて、先ほどの命令を聞く気になったか?』

「今さらやめろっていわれたって聞かねぇぜ!!」

『ならば行け!』

「おうよ!!」

 

 

<統合軍 哨戒部隊 旗艦ブリッジ>

 

「ライオンズ・シックル、迂回してナデシコAの援護に向かいます!」

「ふ、ナデシコAにテンカワ大佐か、どういうことかはわからんが……これで借りを返せるか?」

 

 

 

 

 

<ナデシコ周辺宙域>

 

「ちっ!」

「やるねたしかに!」

舌打ちするリョーコとイズミ。

慌てて出撃したエステバリス隊だったが、敵部隊をナデシコに近づけさせないだけでもてんてこ舞いである。

アキトははるか遠くで敵に囲まれている。

どこの連中かは知らないが敵の本隊を抑えてくれているがそれが抜けたらどうなるかはわからない。

 

バババババババ!

突如、一斉に降り注いだライフル弾に敵部隊が一時後退する。

「新手か!?」

「いいや、ありゃエステバリスだね」

「……ねぇリョーコ、なんか先頭の機体ってどっかで見たこと無い?」

「へ?」

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

「所属不明エステバリス部隊の認識信号受信、同時に平文で部隊名らしきものを受信……ライオンズ・シックル? 後、暗号文らしきものが来ていますが……」

どうしましょう? と振り返るメグミ。

「リョーコちゃん!」

ぱぁっとユリカの顔が明るくなる。

「へ?」

「暗号文ウィンドウに出して!」

「は、はい」

なにやらいくつも入り混じった波形図らしきものが表示される。

『?』

なんじゃこりゃ? と頭を捻る一同。

それを見て人差し指を頬に添え首を傾げるユリカ。

「え〜とぉ」

ポクポクポクポクポク、チーン。

「メグちゃん。コードG−5とH−9を合わせて、Y−5で変調かけて、L−3で解読してみて」

「は、はい!」

すぐに文章が出る。

『俺だ! エネルギーよこせユリカ!』

「ただちにエネルギーラインをあのエステバリス隊に! それから今のコードで通信回線を開いて!」

「りょ、了解!」

 

 

<スバル機 アサルトビット内>

 

「騎兵隊だぁ!」

展開を終えるやいなや瞬く間にナデシコ周辺の積尸気部隊に突撃していくライオンズ・シックル。敵部隊は一旦距離をとって体勢を立て直す構えを見せる。

「よーし、各機散開! とにかく奴らを引きつけてナデシコに近づけるな!」

『了解!!』

そこに通信ラインが開いた。

 

 

<ナデシコブリッジ内上部ウィンドウ>

 

『聞こえるかナデシコA! じゃねぇナデシコぉ!!』

その姿と声に『あれ?』と首を傾げる一同。

構わず叫ぶユリカ。

「ばっちり聞こえてますよリョーコちゃん!」

『ひゃっほーっ!! ユリカユリカユリカ! ほんとにおめぇかユリカ!?』

「もっちろん! 正真正銘のユリカです!」

『だろうな! あんなパターン一つで旧宇宙軍のコード使って統合軍のコードを解読しちまう奴なんざお前しかいねぇよ!』

「えっへん! ユリカは記憶力には自信がありますから!」

大きな胸を張るユリカ。

 

 

『で、そっちの黒いの! 当然てめーだなアキト!?』

『……ああ』

コードを受け取ったアキトが返す。

『てめぇは後でぶっとばす! 一発じゃすまさねぇから覚悟しとけよ!』

『首を洗って待ってるよ』

『よーし……なにがどうなってんのか詳しいことはわかんねぇがこの場はあたいたちにまかせときな! それからナデシコのエステバリスは引っ込んでろ。足手まといだ』

『なんだとぉこらぁ!? あ、あれ?』

通信に割り込んだ後、相手を見て目を丸くする緑髪のリョーコ。

『あぁん?』

こちらも当然驚く地毛のリョーコ。だが立ち直りは早い。

『ははーん、なーんとなく見当がついてきたぜ……おうおう、出てきたなスバルリョーコ。まぁ髪なんか染めてつっぱって、これが若気の至りって奴かねぇ?』

『お、おめぇは誰だ!? 誰にことわって俺と同じ顔してやがる!?』

『その台詞、そっくりそのまま返してやるよ、詳しい話は後でユリカ達に聞きな。よーし野郎共、蹴散らすぞ!!』

『おぉ!!』

 

 

<統合軍 哨戒部隊 旗艦ブリッジ>

 

 

「膠着状態というところか」

ウィンドウの戦況表示を見て、むぅ、とうなるアズマ。そこに副長が声をかける。

「戦力的には拮抗しているか、やや、こちらが不利です。善戦していると言えるでしょう」

「馬鹿もん! そんなものなんの足しにもならんわ!」

「で、では、あのナデシコ級戦艦と合流してあの艦の火力をあてにしてはいかがでしょう?」

「たわけ! 助けに来て逆に助けられてどうするか!?」

青筋を立てて怒鳴るアズマ。

「し、しかし」

「後方に敵増援!」

「なにぃ!?」

 

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

ウィンドウには、ナデシコの後方に火星の後継者、その後方に統合軍、さらにその後方に火星の後継者の増援、というなんともややこしい状況が表示されていた。

ここで初めてアズマから通信が入る。

「アズマ准将!」

『久しぶりだなテンカワ大佐。早速だが、貴官らは直ちに離脱しろ。心配せんでも追撃なんぞさせん』

「准将!?」

『これは命令だ。戦時における統合軍と宇宙軍の協定を持ち出すまでもあるまい。予備役の艦長が指揮する旧式艦なんぞいても邪魔なだけだ』

「ですがこの戦況では!」

『こらこら、ここは黙って年寄りにいいところを持っていかせろ』

笑みを浮かべるアズマ。

「しかし!」

 

 

<ブラックサレナ アサルトビット内>

 

「くそ!」

焦りを隠せないアキト。

敵ステルンクーゲル部隊の何割かは落としたが、相手もいい加減アキトの相手に慣れたのか距離を取っての砲撃に移っている。

どれかに体当たりしようと向かっていくと敵は逃げる。全速力で突進すれば逃がさないがその場合は容易に軌道を読まれ、他の連中から砲撃を浴びる。

結果、アキトと敵部隊の戦闘は膠着状態に陥っていた。

(……落ち着け。敵の数が圧倒的に多いのは今に始まった事じゃない。あの頃はそれが当たり前だった)

そんな時、自分はどうしていた?

ボソンジャンプによる奇襲。目的……ユリカ、だけを目標にしての一撃離脱。敵部隊には構わない。それが叶わない時……例えばアマテラスを襲撃した際は?

(……俺が敵部隊を一度ひきつけ、そして……そしてラピスを)

 

(……アキト?)

脳裏に微かな声が響いた。

「!?」

思わず反応したアキトに声は一転して大きくなる。そう普段の“彼女”からは想像もつかない大きな声に。

(アキト! アキト!!

「ラピス!?」

 

『え、なにアキト?』

ナデシコのラピスが答える。

「そうじゃない! ラピス!」

(アキト! アキトアキト! アキトどこ!?)

「そうか……そういうことか」

おせっかいな会長秘書の顔が浮かぶ。どうやら自分の頼みなど最初から聞くつもりはなかったと見える。

 

「……ユリカ!」

『アキト!?』

「1時間、いや30分持たせろ!」

『うん、わかった!』

どうして、とは問わずうなずくユリカ。

「ラピス! 今どこだ!?」

『だから私……』

『ラピスちゃんごめん! 今は黙ってて!』

『?』

(ユーチャリス、ゲツメンドック、アキトと別れた)

「今、行く!」

イネスさん、ごめん、と呟くとブラック・サレナの自爆装置を作動させ、ジャンプフィールドを形成するアキト。

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

「アキトさん!?」

思わず叫ぶルリ。ブラックサレナの反応消失と同時にウィンドウ内に盛大な爆発が起きる。ついでに数機のステルンクーゲルを道連れにした。

「大丈夫! 機体を自爆させただけ!」

「ボソンジャンプか?」

ユリカの言葉に答えを見つけるゴート。

「だが、この状況でどこへ?」

「ラピスちゃんのところへ」

「「え?」」

「アズマ准将!」

『大佐なんだ今のは?』

「30分で構いません! 私達に時間を下さい!」

『…………』

「…………」

『……あてにしてもいいんだな?』

一切の私情を抜きにして武人としての顔で問うアズマ。

「もちろんです!」

満面の笑みで応えるユリカ。

『……先の命令は撤回だ。引き続き貴官の判断で戦闘行動を継続せよ』

「はいっ!」

ユリカの返答を聞くとアズマのウィンドウが消えた。それと同時に声が掛かる。

「艦長」

「はい?」

イネスがユリカの後ろに立っていた。

 

 

 

<月面ネルガル支社内秘匿ドック>

 

ドック内は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。

しばらく相転移炉に火を入れた事もなかったユーチャリスが勝手に起動して発進態勢に入ったからである。

 

 

<ユーチャリスブリッジ>

 

『ちょっとラピス! 一人で勝手に何やってるの!?』

「?」

オペレーションシートの前に現れるなり怒鳴るエリナのウィンドウに対し、わずかに首をかしげるラピス。

そこへ割り込むウィンドウ。

『……一人じゃない』

『!? 貴方!』

『急いでいる。話は後だ』

男はいつもの様に淡々と告げる。そう、つい昨日もそう答えたとでもいう風に。

ギリ、と歯軋りするエリナ。

『後ですって!? 馬鹿も休み休みに言ってちょうだい!! そんな行ったきりいつ帰って来るかもわからないような……』

『オーケイ。ただし、後でちゃーんと話を聞かせてもらうよ』

更に割り込むウィンドウ。声とは裏腹に背広姿のその人物の視線は鋭い。

「……」

ラピスは無視して作業に集中する事にする。

『ちょっと何言ってるのよ!? この人には聞かなきゃならないことが山ほど……』

『いいんだよエリナ君。彼は後でちゃーんと話をしてくれると言っている。そうだろ?』

『……ああ』

『……』

『ああ、そうだ。ユーチャリスには帰還祝いを積んでおいたんだけど、気に入ってくれたかい?』

『……ああ、気に入った。手間をかけさせたな。回収には苦労しただろう?』

『なーに、気にする事はないよ。それより急ぐんだろ? さっさと行って片付けておいで』

『……ふっ』

 

 

<ネルガル本社会長室>

 

「……」

空っぽになったドックの画面を見つめるエリナ。

「まぁそう怒らないことだよエリナ君」

「貴方は怒ってないの?」

「そうだねぇ。怒ってないと言えば嘘になるかもしれないね。でも、ま」

目を閉じるアカツキ。

「あの顔を見ればまぁいっか、なんてね」

最後に一瞬笑った顔を思い浮かべる。

それはいつぞやの顔とはまるで別人だった。

「……そうね」

それに気づいたのかわずかに笑みをこぼすエリナ。

「さぁそれより次の支度をしてくれたまえ」

「次?」

「ああ、きっと、ミスマル提督……宇宙軍から緊急要請が来るよ」

 

 

<統合軍 哨戒部隊 旗艦ブリッジ>

 

「提督、我が方の艦艇は本艦を含め3隻となりました。敵部隊へ与えた損害は劣るものではありませんが……」

「後は砕けるのみ、か?」

副長の言葉にごつい笑みを浮かべるアズマ。

「はっ」

「時間はなんとか稼いだ。あの口ぶりならナデシコは無事だろう」

「はい。それになんと言ってもあの艦は不沈艦ですから」

「違いない。それに……ふっ、悪くない死に方ではあるな。どうせ死ぬなら戦場がいい」

「同感です」

敬礼する副長。

「アマテラスの失態からこっち、いろいろあったが、ナデシコのおかげでよい死に場所を……」

「ボース粒子反応! 何かが戦場の真っ只中にジャンプアウトしてきます!」

「なに!」

「質量戦艦クラス!」

「なんだとぉ!? まさか!?」

 

 

<スバル機アサルトビット内>

 

『隊長! ボソンジャンプです!』

『でかい! 戦艦だ!』

一瞬、手を止め、映像を見るリョーコ。

「ありゃあ……」

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

「ジャンプアウトした艦より敵部隊中央にグラビティブラスト」

ルリが言うまでも無く宇宙空間を切り裂く四条のグラビティブラストが視界に映る。

ややあってナデシコとも他の艦船とも違う円錐に近いシャープなフォルムの艦影が映る。

見ている間にグラビティブラストの第二射が宙を裂く。

「すごい、下手したらカキツバタより上じゃないか? ……っと、あの艦の識別を!」

ジュンが言ったがかぶりをふるルリ。

「ナデシコのデータベースでは無理です」

「……だよねぇ」

ルリの言葉に肩を落とすジュン。

「所属不明艦より多数のジョロの発進を確認しました。ユリカさん、あの艦、木連のですか?」

「ううん。それに所属不明でもないよ」

「え?」

「あの艦の名前はきっとユーチャリス。そして艦長は……」

 

 

 

<ブラックサレナアサルトビット内>

 

「ああ、確かに……」

イネス達が苦労して作ってくれて、先刻失った機体。懐かしささえ覚えた程の機体だったが、それでもやはり違った。

(イネスさん達の方がわかっていた、って事か。俺の五感の有無の差かも知れないけど……ちょっと悔しいかな?)

身体が覚えていた。これが自分の本当の身体だと。

同じ時を、死闘を共に潜り抜けた身体だと。

そうして同じ様に時を共有してくれた少女に対し口を開く。

「……行ってくる」

『…………』

ウィンドウの中のラピスは相変わらず無表情だ。だが。

「……心配するな、今度もちゃんとお前の所に戻って来る」

『……うん』

その後は思念での連絡に切り替える。

(ナデシコAにユリカがいる。あいつの指示に従え)

(わかった)

「ブラックサレナ、出る」

 

 

<スバル機アサルトビット内>

 

『所属不明……いえ、ユーチャリスより機動兵器……戦闘機か小型艦艇の発進を確認。認識信号はありません』

「おっアキトの本領発揮だな」

ルリの報告ににやりと笑う地毛のリョーコ。止めるには相当の難物だと自分が一番よく知っている。

その黒い機体は敵のまっただなかに突っ込むや否や無数の火球を作り出し、物のついでと言わんばかりに小型艇に体当たりして沈めてしまう。

『な、なんなんだありゃ』

驚いて手を止める緑髪のリョーコ。

 

 

<ナデシコブリッジ>

 

「黒い王子様、かな?」

見るのは初めてだった。映像記録はあえて見なかった。だから、それがそうだとはわからないはず。

でも、わかる。

きっと、

ずっと、

あの人は王子様だったのだ。

 

 

 

『……あなたがユリカ?』

突如、大映しになる見慣れているようで初めて見る少女の顔。

「あ、ラピスちゃん?」

「え?」

「「「「え? え? ええ?」」」」

『アキトが言った。ユリカの指示に従え。どうすればいい?』

「それじゃ、ユーチャリスはナデシコの下舷に移動、ナデシコと併走しつつ随時グラビティブラストで牽制砲撃。ジョロ部隊はナデシコとユーチャリスの直掩に回してくれるかな?」

にっこりと笑いながら言うユリカ。

『わかった』

それだけ告げるとウィンドウが消える。

今のはなんだったのかと、一同、特にラピスが問う間もなくユリカの指示が飛ぶ。

「リョーコちゃん!」

『『なんだ!?』』

「こっちの世界のリョーコちゃんです!」

『おう!』『えぇ!?』

「ナデシコの直掩はユーチャリスに任せて、アキトと合流して敵の主力を叩いてください!」

『了解。おーし野郎共、あの黒いのに続けぇ!!』

『了解!!』

 

 

 

 

 

 
 
 
 

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