<午後 ネルフ本部>

 

 

「どうしたシンジ。やけに疲れた顔をしてるな」

シンジが入ってくるなりジョニーが言った。

「一個中隊に一日中追いかけ回されたってところかな」

ソファにぐったりと倒れ込む。

本部に用事があるからと今日の所はアスカ達より早く学校から帰ってきた。

もっとも脱出してきたという表現の方が実情に即している。

「そーそー昨日のシンジかっこよかったわよ」

ジャネットがにっこりと笑う。

………

うつぶせのまま器用にがっくりと肩を落とすシンジ。

予想はしていたがやはり見られたと思うと恥ずかしい。

「まぁあんなに可愛い子に想われてるってのはうらやましい限りだな」

ジョニーは楽しげに笑う。

ここなら冷やかされることはないだろうと思ったのだがさすがに甘かったらしい。

残るはゲンドウの執務室くらいかこの時ばかりはゲンドウの仏頂面が恋しいシンジだった。

「お、シンジくん早かったな。久しぶりの学校はどうだった?」

加持が入ってきて言った。

とりあえず疲れました」

しみじみと言うシンジに加持が追い打ちを掛ける。

「クラスメートにアスカは彼女だと宣言したそうじゃないか」

「ぐ

情報源はミサトだろう。学校でも油断はできない。

「へーやるわね」

「そりゃ真似できんな〜」

「アスカも幸せ者だな」

にへらにへらと笑う3人。

シンジは仏頂面で身体を起こす。

………ミーティングを始めましょう」

 

 

<2−A教室>

 

アスカも昼前にはいつもどおりに戻っていたのだが、おずおずと差し出した弁当をシンジに食べてもらった所、

「おいしい!」

と満面の笑顔で言われたため再び精神が別世界に行っていた。

既に噂には尾どころか各種オプション装備付きで全校に流れまくっている。ついでにケンスケの写真の値段表が回っているのはご愛敬だ。

下校時には相当の混乱が予想されるが、当事者の片方は既に早退していた。

アスカとしては片時も離れずそばにいたかったのだが、

「ごめん

という台詞とそのあまりにもすまなそうな顔を見ると何も言えず、明日からは一緒に登下校できる、今日からは帰ったらシンジがいて晩御飯を食べてもらえる。そう思って我慢したのだった。

とはいえそんな状態であるから、アメリカで何をやっていたのかなど、通常行うべき質問はいまだ考えついてさえいなかった。

幸せそうなアスカを見てヒカリもマユミも幸せだった。

マナは少し複雑だったがそれでも喜んでいた。

今までにない笑顔のアスカを撮影しているケンスケは売り上げ高を予想して天にも昇る気持ちだった。

一方、トウジは気が楽になったのか午後のうたた寝をしていたためミサトのチョーク投げの的となった。

 

 

<ネルフ保安部 訓練所>

 

というわけで非常時は僕の指示に従ってもらうことになるのですが何か問題は?

 なければこれで失礼します。どうもお邪魔しました」

ぺこりと頭を下げてシンジはトレーニングルームを出ていく。

後には折り重なって倒れている保安部のエージェント達が残される。

死屍累々という言葉がふさわしい。

もっとも身体に重大な損害は与えていない。

「やっぱり身体を動かすとすっきりするな」

シンジは意気揚々とシャワールームに向かう。

その日から保安部でシンジはゲンドウ並に(別の意味で)恐れられることとなる。

 

 

<ジオフロント 加持のスイカ畑>

 

「そろそろ食べ頃だな」

久しぶりに畑に水をやりながら加持は言った。

「これも葛城が面倒をみててくれたおかげだな」

えへへ、とミサトが笑う。

「まぁね。一応あんたの形見だったし。それにしても加持君がスイカなんか作ってるとは思わなかったわよ」

「ははは、ここは俺とシンジくんだけの秘密だったからな」

「そっかーあたしはシンジくんのお姉さんのつもりだったけど、お兄さんもしっかりいたのね

しみじみとつぶやくミサト。

「ま、男同士でなければ話せないこともあるしな」

「加持君がいてくれてよかったわ」

「お、嬉しいこと言ってくれるね。」

「えへへ………でも、シンジくんちょっと変わったわね。本質的な所は前のまま変わってない感じだけど何て言うか強くなったわ」

シンジくんは昔から強かったさ。俺なんかよりずっとね」

「どういうこと?」

「言ったとおりの意味さ………確か、第十四使徒の時もここでシンジくんと話したな」

シンジくんがエヴァを降りるって言って、それでも帰ってきて助けてくれたときね」

「ああ」

「そっか、加持のおかげでシンジくん戻ってきてくれたんだ

「葛城、それは違う」

強い調子で加持が遮る。

加持の目を見たミサトは珍しく彼が真剣だと知る。

「俺はきっかけをあたえただけさ。決めたのはシンジくんだ。

 俺はここで水をやることしかできなかった。逃げてたのかもな、自分から。だが、シンジくんは戦うことを選んだ。逃げても誰も責めやしないのに。

 だから、俺はシンジくんを尊敬さえしている。だからかなシンジくんの教育を引き受けたのは?どこまでいくのか見てみたいと思った」

シンジくんは加持君のこと好きって言ってたけど、加持君もシンジくんのことが好きなのね」

「ま、男の友情だな」

加持の口調がいつも通りに戻る。

「ふふ、妬けるわね」

「シンジくんはもてるからな。

 さて俺はそろそろ戻るよ。早く仕事を終わらさないとな」

「遅れるんじゃないわよ」

「わかってるよ」

手を振りながら加持はその場を去った。

ミサトはその姿を見送った後、再びじょうろをもってスイカに水をやる。

その顔は微笑んでいた。

 

 

パーティ会場へ