<葛城家>

 

 

………

アスカはリビングを行ったり来たりしていた。

リボンは変えた。服は、うん、普通よね)

午後の間シンジと離れていたためアスカの精神状態はノーマル状態に戻っていた。

昨日は思考が停止していたしシンジと一緒に帰ったのでそこまで意識してなかったのだが、覚めてみるとどうにも意識してしまう。

と、とりあえず、前と同じように普通にしてればいいのよ普通に。気を使いすぎるとシンジも困るだろうしね。家事は私が久しぶりのシンジの手料理、おいしかったなじゃなくて!今日からは私が作ってあげるのよ!思えばシンジ大変だったのね何もかもやってくれて

「クワ?」

ふっと我に返るアスカ。何事かとペンペンが見上げていた。

ペンギン相手に赤くなるのも妙な話だが、赤くなるアスカ。

「あーいいのいいの気にしないで。ペンペンもシンジが帰ってきて嬉しいわよね」

「ウギョッ」

懸命に嘴を振る。

どうやらうなずいているらしい。

「そうよね、あれこれ気にしてもしょうがないわ!アタシは惣流・アスカ・ラングレーよ!負っけるもんですか!!」

何に負けるのかよくわからないが燃え上がるアスカを見て目を丸くするペンペン。

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴った。

瞬時にペンペンの視界からアスカが消えた。

………クキョッ?」

 

「お帰りシンジッ!!」

満面の笑顔でドアを開けたアスカ。

「こ、こんにちは」

すまなそうな顔のヒカリ。

やっぱりこう来たわねアスカ)

「ヒ、ヒカリ?そ、そのえーと

視界にヒカリの背後の4人が入る。

マユミはすまなそうな顔だが、マナ、トウジ、ケンスケはにやにや笑っている。

「ああんた達」

「こ、こんにちはアスカさん」

「なによ今の喜びと期待にみちた『お帰り』は?」

「なんや霧島も人が悪いな」

「ほんと今のは記録にとどめておくべきシーンだね。撮影できなかったのが実に残念だ」

アスカは言い返す言葉が見つからず立ち往生していた。

「ご、ごめんなさいね。お邪魔かと思ったんだけど

「碇君が帰ってきたのをお祝いしようってお話になりまして

「そそう」

なんとか平静を保って応対するアスカ。

「あら、やっぱりお邪魔だったかしら?」

「マナ!」

「怒らない怒らない」

「っとにマナってなんだかミサトに似てるわね」

「え、そう?」

「ま、いいわ。こんな所じゃ何だからあがんなさいよ」

「ごめんね」

「お邪魔します」

「邪魔するで」

「いや、この部屋も久しぶりだね」

 

 

リビングにずらりと座り、持ってきたジュースをあける一同。

「で、肝心のシンジはまだかいな?」

「本部でいろいろと手続きがあるみたいよ。ミサトも今日は早いって言ってたから一緒に帰ってくるかもね」

「あ、あまり遅くなるようでしたらまた今度にでも

気を遣うマユミ。

「いいのよマユミ。うちの家主は一般人と感覚が違うから」

「ミ、ミサト先生ってそういう人だったんですか?」

「マユミはまだミサトの本性を知らないのよ」

「本性?」

マナもまだしらなかったわよね」

ヒカリが確認する。

「え、ヒカリは知ってるの?」

「うま、まあね」

少し冷や汗を流すヒカリ。

「そういうわけだから遠慮せず夕飯も食べていって。多い方が楽しいし」

「惣流の手料理か、みんなに話したら泣いて悔しがるだろうね」

「あんた達感謝しなさいよ!今日はシンジの帰ってきたお祝いだから特別よ!金輪際こんなことはないと思いなさい!!」

「ふーん、アスカの手料理はシンジ専用か」

計算し尽くした合いの手を入れるマナ。

「当然よっあ」

にやにやした視線に赤くなるアスカ。

「ほんま霧島も悪い奴やな」

「あら、シンジを譲るんですもの。せいぜいからかわさせてもらわないと」

「ぐぐぐ

拳を握りしめるアスカ。

「落ち着いてアスカさん!マナさーん!」

「マユミ、ここはマナの好きなようにさせておくの」

「で、でもヒカリさん」

「そーそーこういうのはためるとろくな事にならないからね」

口とは裏腹にこれから始まるであろう女の戦いに期待するケンスケ。

そうよね。マナもシンジが好きなのよね。レイと違って赤ちゃんになったわけでもないし、ま、今日の所は我慢するか)

近年、会得した忍耐力を酷使してアスカは心を落ち着けた。

「とはいえさすがにシンジとミサトが帰れば8人と1匹になるし、ちょっとつらいわね。ヒカリ、悪いけど手伝ってくれる?」

「ええいいわよ」

そのまま6人は持ち込んだジュースとお菓子を食べながら談笑を続けた。

合間合間に冷やかしが入るがさすがに今日は反撃できないアスカ。

「にしてもセンセ遅いな」

「そうだね、もう6時になるよ」

「ちょっとミサトさんの所に電話でも

トウジとケンスケがそんな話をしていたとき玄関のドアが開いた。

「ただいま〜」

ビュッ

一陣の風が吹いたかと思うと彼らの視界からアスカの姿が消えていた。

えーと、見えた?」

マナのつぶやきに首を振る一同。

玄関からアスカの元気な声が響いた。

 

「お帰りっシンジ!!」

走ってきたアスカを見てシンジはとてもうれしくなった。この少女を好きでいられることに、好きでいてもらえることにたとえようもない喜びを感じる。

そんな心情を反映したシンジの笑顔はアスカの脳神経を一瞬で焼き尽くす。

「うん、ただいまアスカ」

う、シンジの笑顔って反則ね。逆らいようがないわ。でも、逆らうつもりにもなれない。この笑顔を見続けていられたら私きっと

「どうしたのアスカ?」

な、なんでもないわよ。さっ、早く入りなさいよ」

赤い顔のままアスカがシンジを促す。

「うんあれ?お客さんが大勢来てるんだね」

靴を見るシンジ。そこへトウジ達が現れる。

「邪魔しとるで」

「あれトウジ?ケンスケも」

「委員長や霧島、山岸もいるよ。みんなでシンジが帰ってきたのを祝おうと思ってね」

「そうなんだありがとう」

「さ、主役は早くあがりなさいよ。何それ?」

外にはビールのケースとスーパーのビニール袋がいくつもならんでいた。

「あ、実はもう一人お祝いしてもらいたい人がいたんでいろいろ買ってきたんだ」

「もう一人?」

「うん。たぶんミサトさんは今日はたくさん飲むと思うし、リツコさんにも声をかけてあるんだ」

「誰なの?」

「その加持さんだよ」

アスカは耳を疑った。

「かだって加持さんは死んだってシンジが!それにミサトもあんなに落ち込んで!!」

「だから死んだ振りをしてただけで生きてたんだよ」

「そんな
 
 
 

やっぱりアスカもショックだったか)

加持がひょいと自分の前に現れたときのことを思い出すシンジ。
 
 

『よっシンジ君』

『………』

『おいおいどうしたんだい?顔色がよくないな。ちゃんとご飯食べてるかい?』

『か、か、か、か…』

『蚊取り線香かい?』

『加持さん!?』

『…久しぶりだな。元気にしてたかい?』

そう言うと加持は何もかもわかっているよと言わんばかりの顔で笑った。
 
 

実をいうとアメリカで僕の護衛をしてくれてたんだ」

間違ってはいない。ただし半分しか話していないが。そういうものだと割り切るシンジ。アスカは知らないでいいことだ。

「そっかそうなんだ。じゃ、シンジと一緒に帰ってきたんだ」

「うん、昨日は忙しくてね。アスカに会いにいけなくて残念そうだったよ」

「加持さんてどなたです?」

マユミが聞いた。

「あ、昔シンジを連れてきてくれたお兄さんかな?」

マナが乏しい記憶を掘り返す。

「うん、何度か会ったことがある格好いい人」

 

「ところでシンジ」

「なにケンスケ?」

「これ一人で運んだのか?」

山のような荷物を指さす。

「え、そうだけど?」

あ、しまった)

「一人でって

「あ、悪いけどトウジ。運ぶの手伝ってくれる?」

「まかしとき、力仕事は得意やからな」

「頼むよ、あ、こっちに運んで。アスカ、そういうわけだから悪いけど夕飯の人数増えるんだ、僕も手伝

「ストップ!!」

アスカは手でシンジの言葉を遮った。

「きょ、今日はシンジのお祝いなんだから私に全部やらせて。

 その、加持さんが帰ってきたお祝いもだけど今日は私の料理を食べてもらいたいの」

「う、うん。うれしいけど

「じ、実はねみんなにも食べてもらうつもりだったから今更二人くらい増えても大丈夫よ。ヒカリにも手伝ってもらうし

「わ、わかった。アスカにお願いするよ。僕は明日から

「違うの。気持ちはう、うれしいんだけど。これからは私に任せてもらいたいの。

 昔はシンジがなにもかもしてくれてた。だからアタシ反省してる。本当にシンジには感謝してるわ」

「そんなことないよ。僕もミサトさんやアスカの世話ができてうれしかったし

「う、うん。それもわかってるの。だけどお願い私にやらせて。私、シンジのためにしてあげたいの。昔の恩返しだけじゃなくて

わかったよ。ありがとうアスカ」

「い、いいのよ」

そう言って見つめ合う二人。

 

やってられんわ。さっさと運ぶで」

「俺も手伝うよ。身体でも動かして発散させないとやってられないね」

「ちょっと二人とも!」

「事実よヒカリ。あ、私も運ぶわ」

4人の声に我に返るシンジとアスカ

「「あ、こ、これは」」

二人のユニゾンは2年たっても健在だった。

「はもってるね」

「見事なくらいにな」

「「前にもましてイヤーンな感じぃ!」」

「うふふ、まるで新婚さんみたいですね」

ピシッ

マユミの一言は周囲を凍り付かせた。

「え?え?………あ」

マユミも自分が何を言ったかに気づき固まる。

やがて人々は無言で動き始める。

「クワ?」

ペンペンだけがマイペースだった。

 

 

パーティ開始