「それでこの有様か」

「シンジくんの人徳かしらね」

シンジが入れたお茶を湯飲みで飲みながら加持とリツコが話す。

一方の子供達と言えば、

レイを抱かされたトウジは身動きできず固まってしまっている。

レイの仕草が可愛いのかマナとマユミは飽きずに眺めている。

ケンスケはそれを撮影していた。

「で、肝心の主人は?」

「ぷっっはぁぁぁぁぁーっ!!!やっぱり仕事の後のビールは最高ね!!

 おまけに可愛い教え子達が訪ねてきて一緒に晩御飯なんて感動ものよ!!

 生きてて良かったわ!!」

飲み干した缶をテーブルに叩きつけ、オーバーなリアクションを終えるミサト。既にビールの空き缶が何本も並んでいる。

リツコはこめかみを押さえた。

ミサト、子供達の前なんだから少しは控えなさいよ」

「何言ってんのよリツコ。教師たる者生徒に隠し事はいけないわ!ねぇ?」

「え、ええ」

「ははははは」

ミサトの飲みっぷりに圧倒されているマユミとマナが引きつった笑いを浮かべる。

「ほらあんたも飲みなさいよ」

よく冷えたえびちゅの缶を突き出すミサト。

「しょうがないわね」

と言いつつ一気に飲み干すリツコ。

人は見かけではわからない、と冷や汗を流しながら再認識する少女二人。

「おーとても二児の母親とは思えん飲みっぷりだな」

「ミサトとつきあってるとね、ほら加持君もやりなさいよ」

「ではお言葉に甘えて」

同じく一息で空ける加持。

すぐに宴会が始まった。

「あ、ミサトさん、せめて晩御飯

「あに言ってんの!シンジくんも飲みなさい!アメリカで鍛えてきたんでしょ!」

「鍛えてきた内容が違いますよ!」

「おいおい教師が未成年に酒を勧めるのか?」

「教師の前にあたしはシンちゃんのお姉さんなの。リツコもいいわよね?」

「ええ。別に構わないわ」

「ほらお母さんもこう言ってるじゃない。ほらシンジくんだけとは言わないわ。みんなもいいわよ」

「ミ、ミサト先生!私たちはまだ未成年です!!」

慌ててヒカリが言う。

「いーのよそんなこと気にしなくて」

ひらひらと手を振るミサト。

「で、でも法律上

「大丈夫よ山岸さん。ネルフは公開組織になったけど、超法規組織には違いないから」

マユミに答えるリツコ。

「よ、よくわかりませんが?」

「つまり!日本政府が駄目といってもネルフがOKと言ったらOKなのよ!」

きっぱり言い切るミサト。

「そ、そんな無茶な

「まー諦めようよ委員長」

「せやせや」

「相田君、鈴原!!」

「そうよ、何たってあたしとリツコはそのネルフ本部のナンバー3なんだから!!」

再びきっぱり言い切るミサト。

「ま、少しくらいいいだろう」

そう言って加持はビールをコップに注ぐ。

トウジとケンスケは期待に満ちた目でその泡を見つめている。

「はぁ…」

がっくりと肩をおとすヒカリ。

ミサトの本性の一部をかいま見たマナとマユミには言うべき言葉がない。

「あ、アスカ。こっち運んでいい?」

「うん、お願い」

シンジとアスカはマイペースで働いていた。

「何か騒がしいけどどうかしたの?ヒカリも戻ってこないし」

「あぁ気にしなくても大丈夫だよ。ミサトさんが暴走してるだけだから」

「あっそ」

これで納得されるミサトもミサトである。

 
 
 

「というわけでシンちゃん、加持君お帰りなさい」

『お帰りなさーい!』

音頭をとったミサトの号令のもと改めて乾杯する一同。そのまま料理に舌鼓を打つ。

「おいしーい!」

「こりゃうまいわ」

「なんだ惣流って料理うまかったんだな」

「本当」

「おいしいですね」

「クワッ」

「いつのまにこんなに腕を上げたんだアスカ?」

「うん本当においしいよアスカ」

「うん、ありがとうシンジ」

全身から喜びのオーラを発するアスカ。

「シンちゃんがいなくなってから特訓したのよね〜」

早速冷やかすミサト。

「その割にミサトの料理が相変わらずなのは不思議ね」

「ぐっ!」

リツコのつっこみにのどをつまらせるミサト。

ドンドン

胸を叩くがなかなか通らない。

「あ、相変わらずですか?」

「ええ、相変わらずよ」

「そ、そうですか」

はぁ、と肩を落とすシンジ。確かに一昨日もそんなことを言っていた。

「げほっ何よふぅシンジくん、その顔は?」

「いや加持さんが大変だなと思って」

ん?なんで加持さんが大変なの?」

アスカが箸を止め聞いた。

「だってアスカ。加持さんはミサトさんの手料理を毎日食べることになるんだよ」

なんで?」

話が通じていない。

「あ、そうかアスカはまだ知らなかったんだね」

「そういえばそうね」

シンジとリツコがうなずく。

「な、何よ?何なの加持さん?」

矛先を話の対象に切り替えるアスカ。

「え、えーとだな、なぁ葛城?」

「な、なによしっかりしなさいよ」

ミサトが肘で加持を小突く。

「あらあらしょうがないわね」

「なんなんですかリツコさん?」

トウジが尋ねる。

「私から話していいのかしら?」

「やっぱりミサトさんから言うべきだと思いますよ」

そう言うとリツコとシンジはミサトを見た。

「う、わ、わかったわよ。えー、コホン。ア、アスカ。実はね

「何?」

「あたし加持君と結婚することにしたの」

しばしの沈黙。

『えーーーーーーーーーっ!?』

「な、なんで!?」

「なんでってそりゃやっぱ

「ま、愛してるからかな?」

さすがの加持も照れくさそうである。

「そ、そんなミサトさんが!?」

「この世には神も仏もいないのか!!」

「ちょっと鈴原!相田君!」

「わーおめでとうございます」

「へーミサト先生もついに結婚かぁ」

めいめいの感想をもらす教え子達。

「予想はしてたけどすごい反響ですね」

「ミサトも立派に教師をしているのね。あ、駄目よレイ。ペンペンを食べちゃ」

「クワーッ!?」

「キャッキャッ」

 

「アスカ」

加持が真剣な顔をしてアスカに言った。

「な、なに加持さん」

「祝ってくれるかい?」

ミサトもじっとアスカを見た。

祝ってくれるかって言ったって。でも、何でだろう?全然イヤじゃない。加持さんに憧れてたはずなのにミサトと結婚するって聞くと嬉しい)

そう考えながら視線をさまよわせると自分を見ていたシンジと視線が合った。

ゆっくりと息を吐き出す。

当然でしょ。加持さんはともかくあの!生活能力ゼロのあのミサトに!お嫁さんのもらい手があったんだものお祝いしてあげるわ。もうこんな機会二度とない!だろうしね」

「ぐっ!あ、ありがとうアスカ。とってもうれしいわ」

顔をひくつかせながらも礼を言うミサト。

「よかったわねーミサト。加持さんくらいよ、ミサトなんかをもらってくれるいい人は」

「な、なんか棘があるわね」

「気のせいよ」

涼しい顔のアスカ。

もっともこのままやられっぱなしで勤まるほどネルフの作戦部長は甘いポストではない。ミサトは反撃に転じた。

「ふーん。あ、そっか、アスカはシンちゃんがいるからもう加持なんかどうでもいいんだ」

「なっ何言ってんのよ!!」

一瞬で真っ赤になるアスカ。

「へへーん。赤くなっちゃって可愛いわね〜」

「ふん!加持さん!考え直すなら今の内よ!いくら加持さんでもミサトの手料理を毎日食べたら三日であの世行きよ!」

「たしかにあれに関してはとても解毒薬を作る自信がないわ」

リツコも肩を落とす。

「大変ですね加持さん。また命がけの日々ですか」

シンジはぽんと加持の肩に手を置いた。

「俺にもしものことがあったら後を頼むよ」

「わかりました。心おきなく戦ってください」

「困ったことに撤退はできるが降伏はできないからな」

「ちょっとシンジくん!加持!」

「はは、冗談だ、怒るな葛城」

「そ、そうですよミサトさん」

「うー」

「事実を事実として受け止めるのねミサト」

「あのねだいたい、アスカだって昔は同じぐらいだったでしょ!」

「うっむ、昔のことは昔のことよ!過去はどうあれ今はミサトとは雲泥の違いよね」

「ふふーん、シンちゃんを引き留められなかった悔しさを料理にぶつけたのよね」

「な、何ですって!?」

「何よ!?」

「やる気!?」

「上等じゃないの!!」

立ち上がって戦闘態勢に入る二人。

 

 

Fight!