『回線復帰、映像入ります』

『おぉ

自然に感嘆の声をもらす一同。

メインスクリーンには先ほどの巨人と似ていながらも、別次元の神々しさを放つ白い巨人が翼を開いて立っていた。

「目標は完全に消滅。痕跡、確認できません」

「エヴァ七号機各部正常。損害ありません」

「第一目標並びに各部隊への被害ゼロ」

「敵残存部隊が投降を始めています」

「投降を認めます。以後、エヴァ七号機並びに第一目標以外への対処権限をドイツ支部へ移行。パイロットに帰投命令を」

そういってから司令塔を振り返る。

「本日1000をもって本作戦の終了を宣言します!」

ご苦労だった」

司令席がゆっくりと降下していく。

 

「シンジ君本部へ帰投してくれ」

日向からの通信が入る。

あ、わかりました」

そういいながらも視線が周囲をさまよう。

エヴァの周囲には人影は無い。

「シンジくん、彼の輸送はUNが護衛してくれる、心配ない」

加持が横から言った。

そうですね」

(人は自分にできることをやる、それだけ

「帰投します」

大きく翼を羽ばたかせると七号機は空に昇った。
 
 
 
 

「ところでリツコ。シンジくんはどんなふうに敵を倒したの?まさに瞬殺だったけど」

ひとまず落ち着いて手が空いたミサトはリツコに尋ねた。

「七号機のレコーダから送られて来た記録からすると、まず目標をATフィールドで拘束。

 動きを止めた上で落下のエネルギーをそのまま乗せて敵ATフィールドを破って目標に体当たり。

 最終的にはATフィールドによる剣か槍の様なものがコアを直撃したと思われるわ。

 コアの爆発で敵は完全に消滅」

「コアが爆発した割にはやけに被害が少なかったんじゃない?」

「シンジくんのATフィールドならそもそも上空からでも一刺しで敵を倒せるわ。それなのにここまで手間をかけたのは、更に敵の外側を内向きのATフィールドで囲って爆発の被害を抑えるためよ。力の大部分はそれに注いだのね」

「なーる」

「さすがはシンジくんと言うところか」

「だってシンジくんだもん」

うれしそうに加持に言うミサト。

「そんな簡単な事じゃないわ」

リツコは厳しい表情を浮かべる。

「相手は量産型のエヴァシリーズ。知っての通り、私たちがサードインパクト後に回収できたエヴァシリーズは伍号機から八号機までの計4体のみ。でも後の5体も残っていた可能性は高いわ。その内の1体だったんでしょうね。便宜上九号機としておきましょうか」

「それで?」

加持が促す。

「知っての通りエヴァシリーズにはS2機関が搭載され、また、驚異的な自己修復能力があると推測されるわ」

「確かにアスカにこてんぱんにやられたくせにあっという間に再起動したわね」

記録を思い出し爪を噛むミサト。

「ダミープラグの性能がどの程度かはわからないけど格闘戦では長引くおそれがあるわ。また、敵は自己修復できるかもしれないけど自分も修復できるとは限らない」

………

「シンジくんは良くも悪くも初号機での戦いに慣れているわ。だから急には七号機に合わせられない。機体の能力で言えば圧倒的に初号機の方が上だもの」

「なるほど、ATフィールドに始まって、シンジくんについてこれるか、シンジくんの望むとおりに動けるか、わからないというわけね」

「だから、シンジくんは短時間で片を付けるために一撃で仕留めるしかなかったのよ。そのための方法は二つ。コアを破壊するか、エントリープラグを破壊するか」

「なーる。プラグは外からは狙いづらいし、しくじれば逆にコアにあたって爆発したり、どちらも外して反撃を受ける」

「ならば、最初から爆発することを想定し周囲を囲った上でコアを狙う、というわけか」

「そう、その上で七号機で出せる力の限界を推測しATフィールドを使ったというわけ」

「やれやれ、こりゃ大変だ」

「実際、本格的な格闘をやったことがないから不明だけどMAGIの概算では量産機ではアスカの動きはなんとかサポートできても、それ以上は無理だという予測が出てるわ」

「シンジくんの通常の動きはサポートできても

ときたまシンジと初号機が見せた異常なまでの動きを量産機ではサポートはしきれない

「ま、相手が一体ならここに攻めてきたって袋叩きにするだけよ」

相手がエヴァでも使徒でもミサトの口調に変わりはない。なんであろうと叩きつぶすのみ。

「それにしても圧倒的な力の差ですね」

そういいながらマヤが仮の報告書を提出する。

一読して眉をひそめるリツコ。

「どったの?」

「0.2秒だけどシンクロ率が200%を越えてたの」

………

ミサトも顔をしかめる。

「大丈夫さ、初号機ならいざ知らず量産機なんかに飲み込まれるシンジくんじゃないさ」

「あんたって本当にお気楽ね〜」

「ま、一理あるわね。あまり深刻ぶるのはよしましょう。マヤ、しばらく頼めるかしら?」

「はい、先輩」

そういってリツコは出ていく。もちろんレイの様子を見るためだ。

「葛城も一度帰ったらどうだ。シンジくんなら心配ないと思うが」

「うーん、あたしもそう思うんだけどね。一人で帰るとアスカに何言われるか」

「おやおや葛城もアスカには形無しか」

「最近のアスカって妙に鋭いし、察しもいいし、嘘がつけないのよね〜」

「葛城さんみたいですね」

自席から青葉が言った。

「そういえば最近似てきましたね」

日向も追い打ちを駆ける。

「十年後には葛城さんの後を継いでたりして」

「あははは、まーさーかー」

マヤの言葉に乾いた笑いで答えるミサト。

シンちゃんが総司令になったらありうるわね〜)

 

 

「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフーフフン

少年は腕を頭の後ろに回し長い足を組んでメロディーを口ずさんでいた。

「しかしいい度胸してるわね〜」

同じ車内には完全武装の兵士が1小隊いかつい顔を突き合わせて乗っている。

「一つ聞いていいかい?」

比較的まともな顔のジョニーが口を開く。

「どうぞ」

「ダミーが不完全ならなんでボーイを乗せなかったんだ?」

「もちろん僕が拒否したからです。命令に従わないとわかっているパイロットを使う人はいないでしょう?」

少年はこともなげに言った。

「あなたはなぜ拒否したの?」

「僕はシンジ君と戦うつもりはないですからね。たとえ殺されても」

断言されてジョニー達は黙り込んだ。

「あー早くシンジ君に会いたいな〜」

少年は実に楽しそうである。

「シンジって男にももてるのね」

「確かそっちの気は無かったはずだが

ちなみにそっちの気を起こしてシンジに近づいた数名は再起不能になって病院に送られた。

 

 

というわけでどうやら情報をリークしたのは彼本人のようですね」

加持が報告書を差し出し言った。

………

ゲンドウは無言で報告書を見る。

「おそらくシンジくんが日本に帰ったという情報を聞いて行動を起こしたんでしょう」

「目的はなんだね?」

冬月が尋ねる。

「おそらくは自分の身柄をネルフに委ねるため。一種の亡命ですかね?」

そういいながらデスクに手をつきゲンドウを見る。

「そして、シンジくんのそばに近づくため

 

「赤木博士の見解は?」

ゲンドウが促す。

「現段階において彼は人間であるとMAGIも判断しています。レイと同様に」

………

「おそらく彼は昔のレイと同様にシンジくんのそばにいることに安らぎを見いだしているのかも知れません。もし使徒であっても理解し受け止めてくれるだろうシンジくんに。

 使徒であったときの行動からもレイ同様自分よりシンジくんの存在を重要視していると考えられます」

だからこそ今の世界がある」

ゲンドウが重々しく言った。

「彼がシンジくんに敵対する可能性は極めて低いとMAGIは判断しています。ならば、エヴァを起動できるパイロットを確保するのは当然の選択だと判断します」

「だが、万が一彼が十七ないし十九番目の使徒だとしたら?」

冬月が反問する。

「もしそうならシンジが処理する。問題ない」

ゲンドウが断言した。

お前がそう言うのなら、よかろう」

冬月が頷き、方針は決した。

「渚カヲルをフィフスチルドレンとして再登録。後の処置は赤木博士に一任する」

「了解しました」

「フィフスがシンジ君と接触するのはいつ頃かね?」

「本日の午後には」

 

 

 

出会いがあれば別れがある。なら、別れたその後には、再び出会いがあるとは思わないかい?