<ネルフ本部発着場>

 

 

VTOLのエンジンが停止すると心地よい風がそよぎカヲルの髪を揺らした。

秋風とはまだ言えないがどこか季節を感じさせる風だった。

「リリスの癒しは世界に満ちているね。この常夏の国にもやがては四季が帰ってくる。心地よい風は身体だけでなく心も癒してくれる。そうは感じないかい碇シンジ君?」

そう言うと少し離れた所にたたずむ少年を見つめた。

お互い昔とは背格好も変わったが本質的な部分は変わらない。

………

シンジが目で合図すると、ジョニーとジャネットは先に車に向かった。

運転席では加持が興味深くシンジ達を見ている。

「もしかすると僕たちの再会を祝ってくれているのかも知れないね」

そう言ってカヲルは風が吹いてくる箱根の山並みを見る。シンジも同じ方向を見てうなずいた。

そうだね」

 

 

カヲル君」

シンジが口を開こうとするとカヲルが遮った。

「シンジ君。もし謝罪の言葉なら謹んで辞退するよ。僕はそんなものが聞きたくてここに来たんじゃないからね」

「でも、カヲル君!」

「シンジ君が変わらないのは僕にとっても喜びだけどその先を聞いてしまうと僕は君を責めなければならない。そんなのは願い下げだよ」

そう言ってカヲルは目を閉じる。

………

「だが、君が自分をどうしても許せないと言うなら………僕が、君に、罰を与えよう。

 それでどうだい?」

シンジはしばらく考えてからうなずいた。

「罰を受けるよ、カヲル君が決めた

じゃあ判決を告げよう」

………

「まず僕を殺し、罪の意識に苦しむこと」

「!?」

「自分の行いを悔い、世界そのものに絶望し、己というものを嫌悪し、

 そして、その後にその全てを、乗り越えること」

………

カヲルは目を開いた。

「それが僕が君に与える罰だ」

………

ああ、でも困ったな。

 これは全て既にシンジ君が自発的に行ってしまった後だね。

 仕方がないから今回は帳消しということにしよう」

カヲルはシンジに向かって微笑んだ。

………ありがとうカヲル君」

シンジは震える声で言った。

ぎゅっと拳を握りしめる。

「どういたしまして」

再び目を閉じ風を感じるカヲル。

言ってみれば僕とリリスは同じさ」

「?」

「自分の思うとおりに行動するというところがね彼女と僕はよく似ているリリスは君の望むとおりにサードインパクトを起こし、今もその魂は世界を癒そうとしている彼女は不幸だと思うかい?」

「違う!そんなことを言ったら綾波を悲しませるだけだ!」

シンジはきっぱりと否定した。

「そうだね。彼女は君の望みを叶えることが出来てきっと幸せだ、愛するシンジ君のね」

………

「僕も同じだ。僕は間違ったことをしたとは思わないし、もしもう一度同じ状況になったなら同じ事を繰り返すだろう。

 言っただろう?僕にとってシンジ君が生きることの方が大事なのさ」

「カヲル君

「リリスは自らの魂をこの世界を癒す為に捧げ、リリンとしての魂はシンジ君のそばにいることを望んだ。その結果として新しい人生を歩もうとしている」

………

「だが、僕の魂は以前のまま。第十七使徒のままだ。あのとき僕の魂は消滅したはずだった。だが、サードインパクトの後、僕は予備の肉体のなかにいた。この身体にね」

そういって太陽に手をかざす。

「リリスは僕が記憶を持ったままリリンとして生きることを願った。そこにどんな意味があるのかまだ僕にもわからない。ただ、僕が望むとおりに生きることを願っていると僕は思っている。

 彼女と僕の望みは同じだ、シンジ君」

「?」

「君にまた会えて嬉しいよ、碇シンジ君」

僕も嬉しいよ、カヲル君」

「ふふ、ありがとう」

 

 

「やれやれシンジくんも大変だな」

シンジとカヲルが車に乗ると加持が言った。

「どういう意味ですか?」

「もてる男はつらいってことさ」

そう言ってカヲルはシンジの肩に手を回す。

「カ、カヲル君?」

「前にも言ったろう?好意に値するよ、好きってことさ」

「ははは、アスカに聞かせてやりたいね」

「加持さん!恐ろしいことを言わないで下さい!!」

「さっさと帰った方がいいぞ。心配してたからな」

「あなたが加持リョウジさんですね」

「おや、俺の名前を知ってるとは光栄だな」

相変わらずの調子で答える加持。

「有名ですからね、あなたの名前を聞くとみんな震え上がっていましたよ」

「おやおや、それはそれは。ま、よろしく頼むよ渚君」

「カヲルで構いませんよ。シンジ君の大事な人なら、僕にとっても大事ですからね」

カヲルの笑顔には罪がない。

「ははは、葛城にも聞かせてやりたいね」

「そうそう僕の予備はアメリカにまだ2体あるはずですから処理しておいて下さい」

さらっと流すカヲル。

車中に静かに緊張が走る。

「情報はありがたくもらっておくがいいのかい?」

それでもいつもと同じ声で加持は聞いた。

「ええ、僕にとって重要なのは今シンジ君にふれているこの身体だけですから」

「いやーシンジくん。もてるね〜」

「加持さん!」

「照れなくてもいいじゃないかシンジ君」

「カヲル君!!」

 

 

………

リツコは映像を切った。ミサトがほっと息をつく。

「やっぱり怖かった?」

「あったりまえでしょ。ま、良かったけどね。シンジくんが落ち込んだりせずにすんでところでリツコ」

あらたまるミサトにリツコは望み通りの答えを返す。

「録画なら心配無用よ」

途端に二人の顔がにやにや笑いに変わる。

「さっすがリツコ。いやーこれはいいわね。美少年が二人!絵になるわ〜」

「シンジくんの結婚式で再生しようかしら」

「それはいいわね〜きっと血の雨が降るわよ」

「フィフスもあなたのクラスに編入させるからよろしくね」

「まっかせなさい!こんなおもしろいもん他の奴にはまかせられないわ」

 

 

 

家、ホームという事実る。よい