<葛城家玄関前>

 

 

シンジくん、開けなさいよ」

ミサトさんこそ開けて下さいよ」

二人はドアの前で立ち往生していた。

今日は日曜だから学校はない。

アスカがじっと待っているだろう事は想像に難くない。

じゃ、二人で開けましょう」

そうですね」

息を吸い込んで一二の三でドアを開ける。

「「ただ」」

開いた口が途中でとまる。

開いたドアの向こうにアスカがうつむいて立っていた。

「た、ただいま」

「ただいまアスカ

何とか声を絞り出す二人。

………お帰り」

そう言うとアスカはシンジの胸に顔を埋めた。

「ア、アスカ?」

「もう少しこのまま

そう言ってアスカは小さく身体をふるわせた。

「アスカ

シンジはアスカの身体に両腕を回すと抱きしめた。

暖かい感触にアスカは更に強く頭を押しつけた。

アスカの髪を撫でるシンジ。

ミサトは二人を優しく見つめた。

 

 

 

<ネルフ官舎>

 

「ここが君の部屋だ。必要な物は大体そろっていると思うが何かあったら言ってくれ」

カヲルに鍵を渡しながら加持が言った。

「ええ、ご面倒をかけます」

「いや。じゃ、またな」

加持を見送るとカヲルは辺りを見回した。

一見普通のマンションだが各種警備体制が整っているはずだ。

「おや?」

ふと、隣の部屋を見るとドアの前に荷物が山積みになっている。

なにげなく見ているとドアが開き、健康的な肌の少女が出てきて段ボール箱を持ち上げた。

「やあ、よかったら手伝おうか?」

「え?」

少女は怪訝そうな声を上げた。

霧島マナ。只今引っ越しの真っ最中であった。

 

 

「本当にありがとう。助かったわ」

前を歩きながらマナが言った。

「どういたしまして。僕も一度引っ越しというものをやってみたくてね」

段ボール越しにカヲルが言った。

「え、ついさっき越してきたって言わなかった?」

「引っ越し会社が優秀でね。何もすることがなかったんだ」

「へえーいいわね」

 

一通り荷物を運び込むとマナがお茶を入れた。

湯飲みを受け取り香りをかいだカヲルが呟く。

「日本茶はいいね。リリンの生み出した文化の極みだ。紅茶もいいけどやっぱりこれに限るよ」

「あら渚君、ひょっとして外国帰り?」

リリンって何かしら?)

「ああ、先日までドイツの方にいてね」

「へえ私の友達にもドイツ育ちの子がいるわよ。他にも少し前にアメリカから一人帰ってきたし」

「それは奇遇だね。僕の友人も少し前にアメリカから日本に帰ってきたそうだよ」

「世界って案外せまいのね」

確かに狭い。

「同感だね。そういえば君は一人暮らしなのかい?まだ学生に見えるけど」

「う、うん。いろいろあってね。渚君は?」

「僕は生まれた時から独り身だよ。ま、孤児のようなものさ」

「へー結構私と似てるのね。私も孤児院みたいなところで育ったの」

お互い嘘はついていないそれでも二人の間にはかなりの格差がある。

「そうかい。ところで僕のことはカヲルと呼んでもらって構わないよ。たぶん歳も同じくらいだと思うけど?」

「え、いくつ?」

「16だよ」

「同い年じゃない。わかったわ、これも何かの縁だものね。私もマナでいいわ。よろしくカヲル」

「こちらこそ」

こうして二人は友人としての第一歩を踏み出した。

 

「しかし、女性だからというわけではないけど一人暮らしはやめた方がいいね。リリン、あ、いや人は一人では生きていけないからね」

うん。私も何年か前からそう思ってる。でも、学校へ行けば友達もいるしね。私、結構しぶといんです」

片腕を持ち上げてガッツポーズをつくるマナ。

「友人、フレンドがいるということは幸せにつながる、いいことだよ。

 僕にも大好きな人がいる。だから生きている、生きていけるのだと思う。

 マナのおかげで友達が増えて僕は幸せだよ」

カヲルってなんだか仰々しいのね。もっと普通にしゃべれない?」

「その言葉、深く心に刻んでおくよ」

「だからそういう言い回しよ」

そうして二人は声を上げて笑った。

 

 

 

行け時には行きたくなくて行けなくなったら戻りたくなる、そんな場所さ