「で、その馬鹿は今どこ!?」

ミサトは携帯に怒鳴った。

「か、葛城さん」

ミサトがなだめすかしつつ、周囲に頭を下げるマヤ。

何も職員室で怒鳴らなくたって)

『心配しなくてもそのうち学校にたどり着くわ』

「転校早々、遅刻たぁいい度胸ね!」

遅刻常習犯のミサトからそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ』

「ぐっ」

というような会話をリツコとしていたため不機嫌なミサトであった。

「というわけで5時限目になっちゃったけど、初日から遅刻してくるナイスな転校生を紹介するわ。入ってきなさい!」

やけに細い印象を受けるこれまた美少年が入ってくる。

教室はシンジが転校してきた日とまったく同じ惨状と化した。

「あーーーーっ!!!」

マナが立ち上がってカヲルを指さす。カヲルもマナに気づいて

「やあ奇遇だねマナ。君もシンジ君と同じクラスだったのかい?」

『マナ?』

『シンジ君?』

クラス中の視線が、座席が近いためちょうど一度に見れる二人に集中する。

「おはようシンジ君。いい朝だね」

にこやかに手を振るカヲル。

その笑顔に女子が歓声をあげる。

シンジは軽く手を振って答えた。

もう昼過ぎよ、たくっ)

ミサトは顔をひくつかせた、

「なに、マナもシンジもあの転校生と知り合いなの?」

「う、うん。でもマナとカヲル君が知り合いだとは思わなかったな」

「あたしもシンジとカヲルが知り合いだとは思わなかったわ」

とりあえず落ち着いて席に着くマナ。

それを確認してミサトはカヲルに自己紹介を促した。

「初めまして渚カヲルといいます。先日までヨーロッパにいましたがゆえあってこちらに越してきました。いたらない所もあるかも知れないけどよろしくお願いするよ」

「もうついでだから5時限目は質問タイムにするわ。何か聞きたいことがあったら手を挙げてね」

もはや授業をやる気が失せているミサト。

「はーい、マナとはどういう関係ですか〜?」

素早く手を挙げるアスカ。

「ア、アスカ!?」

「いーじゃない、別に」

たまにはからかい返したいアスカであった。

「マナとはお隣さんだよ。たまたま同じ日に越してきたので少しばかりお手伝いをさせてもらってね」

「あ、なるほど」

どっちもネルフの官舎ということか、でも出来過ぎの気もするな)

どーせリツコあたりの差し金ね)

シンジとミサトの推測は的を射ていた。

「彼女いますか〜?」

「ひょっとしてドイツにおいてきたとか?」

女子の質問攻勢が続く。

「残念ながら女性とつきあった経験はないよ。たぶんもてないんだね」

『うっそー!?』という声が響く。

「そのかわりといっては何だけど、好きな人はいます」

『えー!!』

 

悪寒がする)

シンジの第六感は訓練とそれに勝る実戦経験で鍛え上げられていた。

が、わかっていても避けられない事は存在する。

たとえば砂漠のど真ん中で大型の弾道弾を撃ち込まれてかわせと言っても無茶だ。

ろくな目に遭わないという点では今の状況と大差ない。

 

「後ろの方に座っている碇シンジ君が僕の好きな人です」

 

一瞬、ぴしっという音がするくらい教室が固まった。

ミサトの顔も引きつった。

カヲルだけが一人にこにこ笑っていた。

そして、静寂の後に訪れたのはやはり嵐だった。

「ちょっと!どういう事よシンジ!!あんたいつからそんな趣味に走ったのよ!?」

「く、苦しいよアスカ!だいたいそんな趣味ってどんな趣味だよ!?」

予想していたとはいえ首を締め上げられ息も絶え絶えになるシンジ。

い、今のはかわせなかった)

「シンジ、お前がそないな男やとは思わんかったぞ!!」

「惣流や霧島だけじゃ飽きたらず男にまで手を出すのか!!」

「ちょっ相田君!その霧島ってのは何よ!?

 カヲル!あんたもいきなり爆弾発言するんじゃないわよ!」

「あれ、何か変なこと言ったかい?」

「不潔よ!不潔よ!碇君不潔よ!碇君はまじめな人だと思っていたのに!!!」

「ご、誤解だよ委員長ぐえっ」

「よそ見してんじゃないわよ!!一体あいつとどういう関係よ!?」

「素敵ポッ」

「こらマユミ!なに遠い目してんのよ!!ますますややこしくなるじゃない!!」

「シンジは惣流一筋のええ奴やったのに、いったい何があったんや」

「と、トウジ、何も泣かなくても

「トウジ、諦めよう僕たちの知っていたシンジはもういないんだ」

「う、う、ひどいわひどいわ碇君」

「ケンスケ!委員長まで泣かないでよ」

 

「アスカかわいそー」

「碇君てそういう趣味だったのかしら」

「でも、どっちかっていうと受けの方よね」

「あらそうでもないわよ。碇君って案外しっかりしてるし」

「でも、絵になるわよね〜あの二人だと」

「うん。そういう趣味があっても許しちゃうかも」

「あーそこそこ不穏当な会話は慎みなさい」

そういいながらミサトも楽しそうに聞いている。

その前をすたすたとカヲルが歩いていく。

「ちょっ渚

 

カヲルはシンジを締め上げているアスカの横に立つと話しかけた。

「惣流・アスカ・ラングレーさんだね」

だったら何よ」

カヲルをにらみつけるアスカ。

 

「なーとめたほうがええんとちゃうか?」

「これは血を見るね」

「ちょっと二人とも」

「アスカさんて格闘技の訓練受けてるんですよね?」

マユミがぐっと拳を握って言った。

「何を考えてるのよ」

マナが呆れて言った。

 

「カカヲル君?」

締め上げられたままのシンジに微笑んだ後カヲルは口を開いた。

「惣流さん、君は

「何よ文句でもあるの?」

シンジを放して戦闘態勢をとるアスカ。

さすがにまずいとミサトが腰を浮かす。

君はシンジ君に世界中の誰よりも愛されている。そうだね?」

「!?」

「カ、カヲル君!?」

瞬時に真っ赤になる二人。クラスがどよどよとどよめく。

「シンジ君は君のためならいつでも死ねるくらい深く深く君を愛している」

「な

返す言葉が見つからず慌てふためくアスカ。

「そして君も同じくらいシンジ君を愛している違うかい?」

おーおー言うわ。こりゃリツコにも見せてあげたいわね〜)

ミサトは高みの見物を決め込んだ。

返事もできないアスカは視線をさまよわせ、例によってシンジと視線を合わせて二人して頭から湯気を上げる。

「君たちの絆を邪魔できるものはなにもない。もちろん僕にもね。だから何も心配することはないんだよ。ただ良かったら僕にもシンジ君を好きでいさせてくれないかな?」

「な、なんでアタシに

「もちろん、君がOKといえば他の誰も文句は言わないからさ。それにシンジ君の愛は確かに君のものだけどシンジ君を独占するのは世界でもっとも罪深いことだよ。そうは思わないかい?」

ひたすらにこにこ笑って言うカヲル。本心から言っているだけにたちが悪い。

「どーするアスカ?」

ここぞとばかりにミサト。

「ミ、ミサト!?」

「何も難しく考えなくてもいいじゃない。シンちゃんの愛はアスカのものだってわかってるけどシンちゃんを好きでいてもいいわよねってだけじゃない。ね、シンちゃん」

「ね、と言われても困るんですが

心底困った顔で答えるシンジ。

「そ、そーよ」

「じゃ、いいかい?」

「じゃ、じゃないわよそれにこれはシンジに聞くことでしょ!」

「そうなのかいシンジ君?」

「そ、そうなのかな?うっ」

一同の視線がシンジに集中する。

一部の視線には殺気がこもっている気もするが。

シンジは深呼吸をすると精神を切り替えた。顔つきが真剣になり気迫がこもる。

まるで別人のようになって立ち上がったシンジを見て思わずアスカは胸がときめいた。

ちょ、なによこの動悸は。それにしてもさっきと違って別人みたいね格好いいはっ)

「カヲル君」

「何だい?」

カヲル君が言ったように僕はアスカを愛しているし世界中の誰よりも大事に思っている」

そう言ってアスカを見る。

すでにアスカはゆでダコと化している。

「うん」

「でも、僕は他にも大事な人、好きな人がいる。ミサトさんや加持さん。父さんやリツコさん、レイ。トウジ達クラスのみんな。ネルフのみんな。みんな好きだし守りたい大事な人たちなんだ」

「シンジ

トウジが呟く。

ミサトも嬉しそうにシンジを見ている。

「カヲル君も同じだよ。僕の大事な大事な友達。それでいいかい?」

「そうだね。シンジ君のそういうところは僕も好きだよ。

 もちろんオーケーさ。これからもよろしくたのむよシンジ君」

そういって手を出す。

シンジも握り返す。

「うん」

パチパチパチ

マユミが感動して手を叩く。

するとすぐにクラス中から大きな拍手が送られた。

はじめとはうってかわって感動的な結末にミサトも機嫌を良くする。

「よーし、それじゃみんな仲良くやってね。渚君の席は霧島さんの隣よ。よろしくね〜」

「あ、はい」

「よろしくたのむよ、マナ」

まったく学校でまで隣とは余程縁があるのね」

「ちがいないね」

尚、シンジの言葉で舞い上がったアスカは日暮れまで現実世界に復帰できなかった。

 

 

 

予告&チルドレンのお部屋