【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

 

 

 

 

 

<ネルフ本部テストルーム管制室>

 

 

「プラグ深度更に沈降します」

防壁ガラスの向こうにはLCLに浸かったシミュレーションプラグが並んでいる。

今では2週間毎となった定期シンクロテストの最中である。

「調子はどう?」

リツコの入れたコーヒーを飲みながらミサトが聞いた。

「いい調子よ。鈴原君は48%、アスカは70%。ハーモニクスも正常値だわ」

「へぇアスカ絶好調じゃない」

そういって同じ様にコーヒーを飲んでいるシンジを振り返る。

「何ですか?」

少しむっとした様子でシンジが答える。

シンジはまだプラグスーツが出来ていないので今日は見学である。

リツコのことだからプラグスーツをあれこれ改造してんのよ、とはミサトの談だ。

「わかってるくせにぃ〜」

このこの、とシンジを肘でつつく。

やれやれと思いながらリツコはもう一人の方を見た。

その少女、霧島マナはファイルを読みながらう〜んう〜んとうなっている。

 

先日の一件それだけで片付けるには公私に渡っていろいろとあったのだが。

そう、それはもう本当にいろいろとね)

ミサトはコーヒーをもう一口すする。

マナの顔にはもう涙の跡は残っていない。

シンジくんがいてくれて本当によかったわね)

 

以後、マナは技術部預かりの見習い職員としてネルフに移籍していた。

まあさすがに今は単なる見学者でしかないが。

「何、霧島さん?」

ちなみに同じ職場にマヤとマナでは紛らわしいということでミサトとリツコは霧島さんと呼ぶことで意見の合致を見た。

「あ、はい赤木博士」

「何かわからないところがあるのならどんどん質問しなさい」

教師のように話すリツコ。

わかんないことばかりです、え〜ん)

と泣きたいマナであった。

「その、適格者でなければエヴァンゲリオンが起動しないことはわかりましたがこのシンクロ率というのはそんなに重要なのですか?起動すればエヴァンゲリオンの性能自体に差は無いと思うのですが。それにシンクロ率は同じパイロットでも大きく変動してるみたいですし

マナに渡したのはリツコが即興で作った初歩の用語集とでもいったものである。

そのためマナの様な質問は当然である。

もっともそれにしたって高度な教育を受けていなければ理解できないが。

わざわざ複雑な言い回しを使ってんのよ、とは同じくミサトの談だ。

「そうね」

リツコはしばし考え込む。

例えば、エヴァを起動することだけなら世界中に何人も候補者がいるわ。

 でも、それではエヴァを歩かせるのが精一杯というところ」

………

「鈴原君ぐらいのシンクロ率が出て初めて高度な作業ができるの。

 だから鈴原君がいればそんな動けるだけのエヴァなんて何体あっても敵じゃないわ」

「はぁ」

「次にアスカと鈴原君のシンクロ率の差だけど、シンクロ率はエヴァの全ての動きに関係するの。射撃を例に取ると、命中率だけを考慮すればこのシンクロ率の差から言って二人がライフルで撃ち合えば、アスカの弾は当たるけど鈴原君の弾は外れてアスカの勝ちというところね。

 もっとも高すぎるシンクロ率にはいろいろと悪影響もあるのだけれど」

そう言ってちらりとシンジの方を見るとシンジが肩をすくめた。

「悪影響といいますと?」

「エヴァとシンクロすればするほどパイロットはエヴァと感覚を共有するの。

 たとえばエヴァが殴られたらパイロットも殴られたように感じる。

 当然、シンクロ率が高ければ高いほど痛みは本物に近いわ。

 シンクロ率が高い方が戦闘には有利だけどその代わりにパイロットへのダメージも馬鹿にならない。これも一種のジレンマね」

「なるほど」

実際はそれだけではないのだがひとまず納得するマナ。

「最後にシンクロ率の変動ね。

 確かに精神的なコンディションによって個人のシンクロ率は大きく変動するわ。

 最近のアスカのデータ傾向からすると今回の数値はとても良好な成績ね。

 だけどこれはたぶんシンジくんのせいよ」

「けほっ!けほっ!」

コーヒーを飲んでいたシンジがむせ返る。

それを見てふふっと笑い合うリツコとマナ。

「でもね、絶対的な実力差というのは存在するのよ」

「絶対的な実力差ですか?」

「実例を見せてあげるわシンジくん」

「はい?」

「頼めるかしら?」

そういいながらインタフェースヘッドコネクタを白衣から取り出す。

わかりました」

シンジは手近なテーブルにカップを置くとコネクタを受け取った。

部屋を出ていくシンジを部屋の全員が期待を込めて見送る。

「シンジもシンクロテストするって事ですか?でもプラグスーツが無いとか言って

「プラグスーツは確かにシンクロの補助をしてくれるわ。でもね

そこでリツコはいったん言葉を切る。

しょせん補助は補助なのよ」

リツコは自信ありげに微笑んだ。

 

『プラグ07LCL注水完了』

『各エントリー準備終了』

『シンクロスタート』

マナの目の前でみるみるシンクロメータが上がっていく。

先刻見たアスカやトウジとはくらべものにならない速度だ。

「各パルス正常。

 シンクロ率依然上昇中、60708090シンクロ率91%で安定。

 ハーモニクス誤差、計測誤差範囲内。

 全て問題ありません」

マヤが弾む声で言った。

テストルームの全員が会心の笑みを浮かべる。

「す、すごい」

マナが唖然とする目の前のスクリーン。

制服姿でLCLに浸かっているシンジは何も問題ないと親指を立てて合図した。

「ま、これが実力の差ってやつかしらね」

誇らしげにミサトが締めくくるのと同時にエヴァ七号機が咆吼をあげた。

『ウォォォォォォォーーーーーーン!!』

「きゃっ!」

それは仕えるべき主人を手に入れた喜びの声だったのかもしれない。

 

 

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