<放課後>

 

 

「で、なんでみんなついてくるの?」

シンジはトウジ達に尋ねた。

「なんや水くさいな」

「そうだよ。それにまだ霧島と渚の引越祝いをしてないだろ?」

ケンスケはカメラのズームをチェックしている。

「そういえばそうね、マナがネルフに移籍して………ねぇマナのマンションってウチと同じでネルフの建物よね?」

ふと尋ねるアスカ。

「え、そそうなのかな?」

「決まってるわで、なんであんたネルフのマンションに住んでるの?」

ネルフのマンションということは表向きはどうあれネルフの官舎と言ってしまって問題ない。

カヲルを睨むアスカ。

あ」

シンジはまだ自分が大事なことを話していなかったことを思い出す。

「そういやそうやな」

「渚君もネルフの関係者なんですか?」

「ああそういえばまだ言ってなかったね」

「シンジは知ってるの?ってそもそもあんた達どういう知り合いよ!?」

「あーそうだ私もそれを聞くの忘れてた!!」

どうせならそのまま忘れて欲しかった)

最近こういうパターンが多いなと分析するシンジ。

(ああ、こうやって大人になっていくのかな?)

なぜか、そこでゲンドウの顔が浮かぶ。

(うっ

「これはおもしろくなってきた」

ケンスケが撮影を開始する。

「ちょっとマナ、アスカ」

「言っていいのかなシンジ君?」

一応確認するカヲル。

このメンバーならいいと思うよ」

「では改めて。僕の名前は渚カヲル、マルドゥーク機関の報告書によるフィフスチルドレン。つまり、エヴァンゲリオンの操縦者ってことさ」

一瞬の沈黙の後、全員が大声をあげた。

『えーっ!!』

 

「思い出した!フィフスってアタシの弐号機に乗った奴ね!!」

バッと離れて警戒するアスカ。

「あぁその節は申し訳なかったね。僕も心苦しかったんだけど

屈託の無い笑顔で答えるカヲル。

「あ、あんた確か第十七

「アスカ!」

慌てて遮るシンジ。

「シンジ!?」

ただ事ではない雰囲気に何事かと思うトウジ達。それでもカヲルは一人笑っている。

「アスカちょっと」

「ちょシンジ!?」

ぐいぐいとアスカの腕を引っ張りみんなから引き離すシンジ。

アスカは足を踏ん張ったがずるずると引きずられていく。いつもと逆である。

何よ、見かけだけじゃなく力まで強くなっちゃって!)

建物の壁との間にアスカを挟むとシンジはくっつくくらいまで顔を近づけた。

な、何よ。そ、そんなに顔を近づけたら

あまりに近いシンジの顔にアスカの顔に赤みが差す。が、シンジの目は真剣だった。

「アスカ、よく聞いて」

さらに小声でアスカだけに聞こえるように話すシンジ。

「何?」

「カヲル君は確かに第十七使徒だった」

だった?」

シンジは過去形で話している。

「僕が殺したんだカヲル君を」

シンジの瞳に深い哀しみが浮かぶ。

乗り越えたと言っても心の傷は消えはしない。

たとえカヲルが生きているのだとしても。

たとえカヲルが許したとしても。

「シンジ

その瞳をみるとすっと怒りが冷めシンジを心配する気持ちでいっぱいになるアスカ。

だから使徒はもういない」

 

 

 

 

「カヲル君は綾波にとても似てるんだ」

シンジはもう一つの秘密を打ち明ける。

「レイと?」

「うんダミープラグが何で出来ていたかは聞いたよね?」

ええ」

アスカはうなずく。

 

レイはサードインパクト後、赤子になっていた。

それを、はいそうですか、と信じる人間はいない。

アスカはレイの秘密を教えられた数少ない一人だった。

「アスカが戦ったエヴァシリーズにはカヲル君のダミーが搭載されていた」

「!?」

忘れかけていた恐怖が蘇り思わずシンジの腕をつかむアスカ。

つまりそういうことだよ。

 だけどなぜカヲル君の魂が受け継がれたのかはわからない。

 カヲル君は綾波の意志じゃないかと言っている。

 僕もそう思っている。

 綾波がカヲル君を救ってくれたんだとね」

「ファーストが何で使徒あいつを助けたりするのよ?」

事実は把握できてきたが理由が分からない。

「それは、たぶん、自分と同じだったからじゃないかと

声が更に小さくなるシンジ。

「ん?あーっ!!ファーストと同じってまさかシンジを!?」

「あーアスカそこまで!!」

何でこういうときだけ異常に察しがいいんだ!)

アスカの口を塞いでトウジ達を振り返るシンジ。どうやら気付かれてないらしい。

なるほどね」

アスカの口調が剣呑になる。

「な、なに?」

少し弱気になるシンジ。

「アタシが寝てる間にファースト以外とも浮気してたのね?」

アスカの目が怖い。

「う、浮気ってそんな

「言い逃れる余地はないわね。まったく、よりにもよって使徒、しかも男だなんて!!」

「アスカ、かなり誤解を招く言い方なんだけど

「五階も六階もないわよ!!道理であんな台詞がはけるわけよね!だって人間じゃ

「アスカ!!」

思わず声を大きくするシンジ。びくっとアスカが震える。

「ごめん、アスカ、でも

アスカも自分が何を言おうとしていたかに気付いた。

しかしわかっていても納得できない。

そっか、私やきもち焼いてるんだ)

そのままうつむいて黙り込むアスカ。

「アスカ」

シンジはふぅっと息をはくとアスカの顎を持ち上げた。

「えっ?!?」

シンジは身を屈めてアスカに顔を寄せる。

思わず目を見開いた後、アスカは静かに目を閉じた。

 

あったかい、シンジの唇)

アスカの心が温かいものに満たされていった。

 

 

最終パート