<翌日、葛城家 食卓>

 

 

「……というわけよ」

「へーあの碇司令がねー」

ミサトには想像だにできない。

「サンキューリツコ。今日は奮発するわよ!」

そう言ってアスカは台所に消えた。

喜んでるみたいね」

「そうね」

「本当にありがとうございます。リツコさん」

再度、礼を言うシンジ。

「感謝するならあの人にね」

「はい」

「ところで、そのトランクは何?」

リツコが持ってきた小型のトランクを指さすミサト。

「こんなこともあろうかと作っておいた各種装備を詰めた特殊トランクよ。旅の餞別というところね。

 少し重いけどシンジくんなら平気でしょう?」

「あ、ありがとうございます」

やや顔をひきつらせながらトランクを受け取るシンジ。

「何が入ってるの?」

そう言って手を伸ばしたミサトをリツコが止めた。

「あ、駄目よミサト。シンジくん以外の人間が開けようとすると機密保持のため爆発するようになってるから」

「あんたねぇ!餞別に爆弾渡す親がどこにいるのよ!」

「失礼ね、爆薬は中だけを破壊するよう指向性にしてあるし分量もきっちりはかってあるんだから」

ちゃんと実験したんでしょうね」

ジト目で確認するミサト。

「あ、あら何の事かしら?」

目をそらすリツコ。

眉間にしわを寄せシンジの方を向くミサト。

「ちょっとシンジくん、命が惜しかったらやめておきなさい。下手したらクラスのみんなごとドカーンよ」

「はは、でもせっかくリツコさんが用意してくれたんですから持っていきますよ。それにいざとなったら爆弾代わりに使用するという手もありますし」

「それはいい考えね〜」

シンジの冗談にミサトも笑う。

「そうそう爆弾は少ししか詰めていないから大事に使ってね」

リツコの言葉に固まる二人。

「何考えてんのよ!?いくら爆薬の分量をきちんとはかってても、中に爆弾入ってたら一緒でしょうが!!」

「あらそういえばそうね、気付かなかったわ」

古来、天才となんとかは紙一重という言葉をかみしめる二人。

 

 

「それで、行き先はどこなの?」

「京都よ」

「京都?中学の時はたしか沖縄だったかしら?ずいぶんと落ちるわね」

「修学旅行の伝統なんでしょ」

「そういえば昔、父さん達って京都にいたんですよね」

「ええ、副司令が大学で先生をなさっていて、そのときの教え子の一人がユイさんよ」

「碇司令は?」

「さぁ私もよくは知らないわ。ただ、その頃もうユイさんはゼーレに関係してたって話だけどあ、ごめんなさい」

「いえ、気にしないで下さい」

ユイの名前が出て少し気まずくなる3人。

「どうしたの?」

そこへアスカが料理を運んできた。

「京都なんて渋いわねって話をしてたのよ」

「あ、旅行先ね。ま、私は行ったことはないからいいけどね」

そういいつつ皿を並べる。

「運ぶの手伝うよ」

「うんお願い!」

シンジを連れて意気揚々と台所に戻るアスカ。

「アスカの元気、救われるわ」

「そうね、あたしもシンちゃんがいなくなった後はアスカにずいぶん助けてもらったし」

ミサトがしみじみと言う。

自分が同じ様にどれだけ人の救いになったか、あなた気付いてないのね)

そう思ったリツコだったが口に出した言葉は、

「ふふふ、やっぱりあなたに似てるわよアスカ」

 

 

<2−A教室、LHR>

 

「というわけで旅行も目前になったことだし、グループ分けをしましょう!」

「どうせ、今まで忘れてたんでしょ」

「アスカ!」

ヒカリが慌てて言った。

何か言ったかしら惣流さん?」

「いいえ何も言ってませんわ葛城先生」

そのままにらみ合う二人。

「何かあったんですか碇君?」

マユミが心配そうに聞いた。

ちょっとね」

朝食の時にお互いを冷やかし合って喧嘩したとはさすがに恥ずかしくて言えないシンジ。

「ま、いいわ。とりあえず男子、女子に別れて4人ずつのグループを作ってね」

 

男子側

「なんやめんどくさいな」

「俺達は悩む必要ないだろ。どうせ渚はシンジについてくるんだからちょうど4人さ」

「それもそうだね」

「よろしくお願いするよ」

というわけで他の男子も最初から誘おうとはしていない。

 

女子側

「じゃヒカリ一緒にしようか」

「そうね。マナもマユミも構わない?」

「ま、いつもの事だし」

「よろしくお願いします」

というわけでこちらも最初から誘われていない。もっともこちらは一緒になっても美人に囲まれて劣等感にさいなまれるからという説もあるが。

 

「次に、男女のグループ同士でペアをつくって。雑用する時の分担の為よ。男には男向きの仕事、女には女向きの仕事があるでしょ。自由行動する時の組も兼ねてるわ」

 

しばらくのち、シンジ達のグループとアスカ達のグループが残った。

「なんや委員長達もあまりもんか?」

「鈴原たちも?」

「妙だね、山岸達なら奪い合いになると思ったのに」

「相田君達の方こそ」

「どうやらとことん縁があるみたいだねマナ」

「困ったことにその様ね」

「じゃ、アスカ。ペアを組もうか」

「そうね。他のは邪魔だけどシンジがいるならいいわ」

 

『ちょっと待ったぁ!!』

その他のクラスメートの叫び。

「何でだ!惣流のことだからすぐに碇の所と組むもんだと思ってたのに!」

「そーそー委員長もいるしな」

「えー碇君達フリーだったの?」

「そんなーアスカ達と一緒だと思ってたのにーっ!」

「碇君と渚君がいれば残りの二人は我慢できるのに!」

「くっそーなんで壱高美少女軍団をあいつらに!」

「許せん!惣流や委員長ばかりかあとの二人まで!」

最初から諦めていたが、実はチャンスだったと気付くと猛烈に後悔を始める。所詮人間なんてそんなものである。

「なんか勝手なこと言ってますね」

ジト目でマナ。

「なにか哀しいことでもあったのかい?泣いてる人もいるけど」

相変わらずマイペースのカヲル。

「気にするなよ渚。チャンスをみすみす逃した負け犬達の遠吠えさ」

眼鏡を光らせて勝者の喜びにひたるケンスケ。

「相田君結構きついですよ」

少したじろぐマユミ。

「ケンスケの言うことも一理あるで。ま、委員長と一緒なら楽できるしな」

別に深い意味はないトウジの言葉。

「何言ってるのちゃんとしなさいよ、もう」

口とは裏腹に嬉しそうなヒカリ。

「まぁ、このアタシと釣り合う男なんてシンジ以外に存在しないということね」

言ってることはともかく、うれしいアスカ。

「一緒で良かったねアスカ」

そういって微笑むシンジ。

 

 

<ネルフ総司令 執務室>

 

「いいのか碇?」

「何がだ?」

「パイロットを全員ここから出すとは

「問題ない。何かあればヘリを回せばすむことだ」

「ここの話じゃない、彼らの方が問題だと言っている。まさか、餌をまくのか!?」

冬月の顔色が変わる。

ゲンドウが口元をゆがめる。

「ああ。せっかくの機会だからな、使えるものはなんでも使う」

「しかし

「心配ない。シンジはわかっている。赤木博士や葛城君の前では楽しそうに振る舞っているようだがな」

あの、シンジ君がな」

何とも言えない気分になる冬月。

「加持君もシンジと同じで既に動いている。二人に任せておけば問題ない」

端から見たらお前達3人が共謀したように見えるぞ」

実際、暗黙の了解と言う奴だ。

「だからシンジも、赤木博士に違和感を感じさせないよう話を誘導したのだ」

冬月は深く息を吐いた。

もっとも、それでも修学旅行に行けるのを喜んでいるだろうがな」

………そうだな」

 

 

<シンジの部屋>

 

 カチャリ、カチャリ

 シンジは拳銃に一発一発丁寧に弾丸を込めていた。念のため、アスカが入浴中の時間を見計らってである。

 荷造りは出来ていた。ボストンバッグ一つにトランクが一つ。いらないに越したことはないが銃の手入れも怠っていない。シンジの前には用途別に10種類近い弾丸が箱詰めされて置かれていた。さすがに持っていける量には限界がある。敵を倒すために銃を使用するのは避けた方がいいかも知れない。

 敵。シンジはゲンドウの予想通りゲンドウの計画を見抜いていたが、それで、アスカ達が旅行に行けるのなら安いものである。要はもし敵が現れてもアスカ達に気付かれずに撃退できればいいのだ。加持とはおおざっぱな方針について話し合っておいた。保安部員がガードにつくのはいつものこととして、ジョニーとジャネットそれに場合によっては加持自身も護衛に回ってくれる。既に観光先、宿泊先の細かい見取り図にも目を通してある。第三新東京市の外ならネルフは怖くないなどと甘く見られるわけにはいかない。アスカ達には指一本触れさせない。

 そんなことを考えている内に顔は険しく眼光は鋭く変わっていった。

「シンジ」

突然ふすまが開いてアスカが顔を出した。思わず反射的に行動するシンジ。

「!!」

瞬時にマガジンを込め、安全装置を外し、相手アスカの眉間に狙いを定めていた。

この間、コンマ9秒。

銃を突きつけられたアスカは硬直する。

「あ、ごめんアスカ」

 

 

 

 

 

 

 

【第七話 過去の予感】