そして二日目の夕方を迎えた。

2−Aのとある班の部屋。作戦部長相田ケンスケを前に一同が会していた。

なぜケンスケの部屋でないかは明らかである。

「諸君も知っての通り、シンジは裏切り者いや敵だ」

「そうだ、我々の崇高な志を理解していない」

「おまけにますます女子の人気が上がっている」

ぐっと拳を握り怒りを募らせる一同。

「シンジの様子は?」

「は、今のところ工作活動は行っておりません。チェックイン後女子との接触も確認しておりません」

「よし、引き続き厳重な監視を怠るな。相手は何と言ってもあのエヴァンゲリオンのパイロットだからな」

「たしかに

「昨日のトラップは油断していたとはいえこの俺が発見できなかったほどだ。一度仕掛けられたら突破は困難だろう」

「エヴァのパイロットって工作員の訓練まで受けてんのかな?」

「惣流と霧島の監視も忘れるな。あの二人が率いる女子は

思わず昨日のことを思い出し震えが走るケンスケ。

「と、とにかくまずはシンジを拘束し妨害者を排除。その後、警戒しつつ目的地に向かう。生で見れる者は少数だが、涙をのんでくれ。そのかわり画像データは無償で配布しよう」

『おおーっ!!』

「ところで渚はどうする?」

「ほっとけ」

 

「あれトウジ、ケンスケは?」

「なんや腹の調子が悪い言うてたから便所とちゃうか?」

「そう」

トウジはシンジを懐から監視する役目を負っていた。無論、部屋の外にも監視員が待機している。

「僕とカヲル君はお風呂に行くけどトウジはどうする?」

「ケンスケを置いてくのも可哀想やさかい、待っちょるわ。かまわんけん二人で先に入って来いや」

「じゃ、そうさせてもらおうかシンジ君」

「そうだね。じゃ、トウジお先に」

 

二人が出ていくとトウジは素早くケンスケのいる部屋に連絡した。

「許せシンジ、のぞきは男のロマンなんや!」

そう言って部屋を飛び出ていく。

 

怪しいね」

歩きながらカヲルが言ったが、その笑顔には変化がない。

「カヲル君もそう思う?」

シンジも世間話をするように言った。

「リリンを見ていると実に楽しいね。好意に値するよ。ところでシンジ君、今度はどんな手を使うんだい?」

「大したことじゃないよ」

そういって大浴場の前に来るとちょうどアスカ達が現れた。

「あら、シンジ、偶然ね」

「そうだね」

にっこり笑うシンジとアスカ。

「それにしてもやっぱり広いお風呂っていいわよね〜」

「そういや第八使徒の時に行った温泉も広くて気持ちよかったよね」

「そうそう、泳げるくらい広かったわよね〜」

そこで話を区切る二人。

「じゃ、また後で」

「またね」

そういって二人は男湯と女湯に消えた。

「何だったんでしょう?」

マユミが首を傾げる。

「さあね。じゃ、また」

そういうとカヲルも男湯に消えた。

 
 
 

「大浴場前にて碇と惣流が接触。立ち話をするも内容に問題なし」

監視員からの報告を受けたケンスケが立ち上がる。

「時は来た!いくぞトウジ!」

「おう!」

「がんばれよ!」

「撮るまで帰ってくるなよ〜!」

「うらやましいぞ〜!」

仲間に見送られ二人は出撃した。

 
 
 

「ワイヤーはなし。見たところ他にトラップも無し」

「落とし穴とかないやろな?」

「さすがにこの短時間じゃ無理だよ」

「ま、今回はシンジも見張っとるし大丈夫か」

話しながら匍匐前進で進む二人。

はっきり言って怪しいことこの上ない。

 

 

「やっぱりお風呂はいいね。疲れを癒してくれる。リリンの生み出した文化の極みだ」

「ペンペンがお風呂好きなのもわかる気がするね」

シンジとカヲルは仲良く湯船に浸かっていた。

 

 

壁際まで辿り着いた二人は耳をすました。

昨日と同じようにアスカ達の話し声が聞こえる。

更に今回はちゃんと水音もしている。

「う、う、生きてて良かった」

「男だったら涙を流すべき状況だね」

ゆっくりと窓に向かって背伸びする二人。

「「も、もうちょっと」」

「何がもうちょっとなのかしらん?」

「「!!」」

硬直する二人。

「「そ、そのお声は」」

ギギギと擬音を立てながら首を回すトウジとケンスケ。

二人の目ににっこりと笑って腕組みしているミサトと怒れる大魔神と化したマヤが映る。

「そ、そんなバカな。機密漏洩は無いはず

「シンジも見張っとったはずやのに

「甘い甘い。世の中にはこういう便利な代物があるのよ」

そういってミサトは携帯電話を取り出す。

「アスカから連絡を受けて待ち伏せてたというわけ」

「ば、馬鹿な。惣流にわかるはずが

「そや、シンジの携帯は部屋にあったはずや」

「甘いわね!」

「「!?」」

振り返ると窓の向こうにバスタオルを念入りに巻いて仁王立ちするアスカの姿があった。

その背後にはこれまた念入りにバスタオルで身を覆った女子達がお湯の入った桶を構えている。むろん人肌などという生優しいレベルではなくグツグツと煮えたぎった死ぬほど熱そうなお湯が入っている。

「どうせ私とシンジを見張ってたんでしょうけどお生憎様。最初に段取りしておけば何気ない会話でもあんたたちが何をするかくらいは伝えられるのよ」

ちなみに今回は『使徒』がキーワードだった。

「「はははは、そんな」」

「ま、格の違いって奴よね。みんな、いくわよ!

『おーっ!!』

「「お、お助けーっ!!」」

「天誅!!」

 

 

『どわっちゃーっ!!』

遠くから悲鳴のような声が聞こえた。

「おや、なにかの催し物かな?」

「ま、似たようなものだと思うよ」

悪は滅びるのだ。

 

 

「というわけで二人はまたマヤと一緒よ」

「二度あることは三度あるというけどあの二人明日もするのかな?」

カヲルが尋ねた。

仏の顔も三度までってね、渚も覚えておくといいわ」

「どういう意味だい?」

シンジ、教えてやんなさい」

「えーと、いくら優しい仏様でも許してくれるのは2度目まで、3度目は許さないぞって所かな?」

「なるほど。でも、1度目も2度目も許したようには見えなかったけれど?」

そういってアスカの顔を見る。

「何言ってんの、一回の制裁とマヤの説教だけで解放してあげてんのよ。感謝こそすれ恨まれる筋合いはないわ」

「そういうものなのかいシンジ君?」

3度目があったらわかるよきっと」

「ま、その時は共犯者も容赦しないけどね!!」

そういって周囲を見回すアスカ。男子達は慌てて目をそらす。

「まさにチームワークの勝利だね」

カヲルが言った。

「そうね、さすが同居してるだけのことはあるわ」

マナも賛同する。

「あったり前よ、並み居る使徒を全て撃退したアタシ達に挑もうなんて考えるのは余程のバカだけよ!」

『おおーっ!』

立ち上がって断言するアスカに拍手が送られる。

ミサトのクラスだけあってノリがいい。

「いやーまったくその通りだね」

うっ、とうめいた後、発言の主に向かって身を屈めるアスカ。

あんたって本当にいい性格してるわ」

「君にほめてもらえるとは光栄だね」

毒気をぬかれてアスカは座ると食事に専念する。

「どうかしたのアスカ?」

心配そうにヒカリが言った。

「なんでもないわ。このバカが気にくわないだけ」

断言されて気まずそうにカヲルを見るがカヲルの方は気にしている風には見えない。

ミサトもシンジも表面上は変わりない。

ヒカリはマナとマユミと目を合わせて仕方なさそうに肩をすくめた。

 
 
 

「まぁセンセの気持ちも分かるからな」

「俺達に惣流の裸を見せたくないと思うのは仕方のないことさ」

帰ってきたトウジとケンスケはそう言ってあっさりとシンジを許した。

拍子抜けしたシンジだったがまあ昨夜の二の舞は避けれてよかったと思った。

だが、それはあまりにも甘い考えだった。

個室のトイレとユニットバスは使用禁止になっていた。そこで外にトイレに行き帰ってきたシンジを迎えたのは堅く閉ざされたドアだった。

………甘かったな」

シンジは自分の失策を認めた。おそらくいくら呼んでも無駄だろう。鍵を開けて入ることは簡単だがドアの所に居座っているのは想像に難くない。唯一の味方のカヲルは朝までぐっすりと寝るだろう。

まだまだ常夏の日本とは言え京都の夜は冷える。サバイバル生活にも慣れているシンジにとっては別に大したことではないが廊下で寝るというのも寂しい。フロントに行って頼むのも身内の恥をさらすようで情けない。

結論。

「あら、シンジ君」

ドアを開けると意外な人物がいたのできょとんとするマヤ。

「遅くにすみません。マヤさん」

「遅いのはまあいいけど、どうしたの?あ、とりあえず中に入って」

「おーシンちゃん!ちょうどいいわ」

そう言ってビール瓶を持ち上げるミサト。

ミサトさん」

すでに空瓶が何本か転がっている。

振り返ると、ああよかったという顔でマヤが微笑んでいる。

シンジはため息をつくとコップを取った。

 

というわけで予想通りの展開です」

「ふーん。よし、お仕置きよ!」

すっくと立ち上がるミサト。

「ちょ、ちょっとミサトさん!」

「あーに?」

「僕なら大丈夫ですし、酔って行っても説得力に欠けますよ」

「ま、それも一理あるわね、じゃ、酔ってないマヤに

視線の先にふとんに潜ってすやすやと眠っているマヤの姿があった。

シンジに酔っぱらいの世話を頼んでいち早く寝床に逃げ込んだのである。

起こすのが思わずためらわれる安らかな寝顔だった。

………

ジト目のミサト。

「は、はは

 

 

酒盛