「ふーっ、少し冷えるわね」

お手洗いから出たアスカは軽く身震いした。

「うん?」

視界の先にシンジがいた。アスカに気付かず歩いていく。男子と女子は別フロアのはずだ。

何でシンジが

そう思い後を追いかける。

 

「シンジ」

「わっなんだアスカか」

いきなり呼ばれて慌てたがアスカとわかりほっとするシンジ。他の女子に見つかったら何を言われるやら。それにしてもアスカの気配に気付かなかったのは2度目だ。好きな女の子の気配なら逆に普通よりも敏感なはずなのに気づけないのはなぜだろう?

「なんだじゃないわよ。なんであんたが女子のフロアをうろついてるの?」

「えーと入ったら説明してあげるよ」

?ミサトとマヤの部屋じゃない」

 

なるほどね」

アスカは部屋に入るなり言った。

ミサトはビール瓶片手にはだけた浴衣姿で床の上に大の字になって寝ている。

ミサトを抱えて奥の布団に寝かせるシンジ。

仕方がないので後片づけを始めるアスカ。

私もシンジに行動パターンが似てきたわね)

それはそれで嬉しいような悲しいようなアスカ。

シンジが余っている布団を運んできた。

奥の二人に気を使って入り口の方で掛け布団にくるまって寝るつもりらしい。

「とはいえさすがに目がさえちゃったなあ、アスカありがとう。明日も早いから早く寝た方がいいよ」

シンジの言葉を聞いて考え込むアスカ。意を決してシンジの隣に座る。

「アスカ?」

「寝付けないんでしょ?しょうがないからしばらく付き合ってあげるわ」

………

「何よ?」

「ううん。なんでもない」

そういって布団を肩に掛けて座った後、片側を持ち上げた。

「?何やってんの?」

「だって冷えるだろ?」

一緒に布団にくるまろう、そうシンジは言っている。

「そ、そんなの

「おいで、アスカ」

シンジが照れくさそうに言った。

 

なんでシンジの言うことに素直にしたがっちゃうんだろう?

そっかアタシはシンジの前では素直になるって決めたんだったよね

シンジ、あったかい。
 
 
 

カ、アスカ?」

「な、何?」

「いくら呼んでも返事しないからもう寝たのかと思った」

ど、どうでもいいでしょ。さ、何か話しなさいよ」

「何かってなに?」

「な、何でもいいわよ、シンジの話したいことで」

「わかったよ」

シンジは他愛もない話を始めた。

ただの世間話のようなものだ。

アスカは何もいわずに聞いている。

やがてアスカはシンジの声に耳を傾けながら眠りについた。

 

 

「葛城さん!葛城さん!」

「うーんアスカお願い、後5分だけ

寝ぼけているミサト。

「葛城一佐!起きて下さい!」

「あ、なんだマヤちゃんか。なーに?まだ暗いじゃない

「ですからその!」

マヤの指さす先を見て一瞬で目が覚めるミサト。

もっとも、慌てふためいたマヤと違いすぐに優しい表情に変わる。

視線の先では一つのふとんにくるまったシンジとアスカがすやすやと眠っていた。

シンジの肩に頭をのせて眠っているアスカの寝顔はとても安らかだった。

「ま、いいんじゃない?」

「で、でも一応二人は未成年ですし!」

「別に変なことはしてないでしょ?たまたま同じ布団で寝てるだけよ」

「たまたまって

「どうせ後何年かすりゃこれが当たり前になるわよ」

「そ、それもちょっと

「それより他の子にばれないうちにシンジくんを起こしましょう」

ゆさゆさとシンジをゆさぶるミサト。

シンジくん、シンジくん」

起きませんね」

シンジは反応しない。

そういえば私もアスカも毎日起こしてもらってたけどシンジくんを起こしたことはなかったわね」

「葛城さん

マヤの目が呆れている。

「しょうがないわね」

そういってミサトは自分のバッグをごそごそ始めた。

「何かお探しですかえ!?」

ミサトが取り出したのはオートマチックの拳銃だった。

「ど、どうするんですそんな物持ち出して、こんな所で発砲したらシンジくん一人の騒ぎじゃすみませんよ!」

「別に撃ったりしないわよ。ま、見てなさいって」

カートリッジを引いて弾倉に弾丸を送り込む。そのとき、カチャリと小さな音がした。

「!!」

シンジの目がかっと開かれ瞬時に立ち上がるとアスカを背後にかばった。

「あれ?あミサトさん、マヤさんおはようございます」

マヤは唖然としている。

ミサトは銃をしまいながら、

「うーんやってみるもんね。本当に起きるとは思わなかったわ」

「何のことですか?」

シンジはアスカを仰向けに寝かせながら尋ねた。

「いーのいーの。それよりばれないうちに部屋へ帰るといいわ。今なら、後の二人も寝てるでしょう」

「そうですね。あ、アスカはどうしましょう?」

「寝かせとけばいいわ。別にアスカならここで寝てたって問題ないでしょう」

「それもそうですね、じゃまた後で」

「ほーい」

シンジが出ていくとミサトは再び寝床に戻る。

「あ、あの葛城さん」

「なーにマヤちゃん」

鍵はどうするんです?」

本当はシンジの寝起きについて尋ねたかったのだがなぜか別のことを聞いてしまうマヤ。

シンちゃんならどうにかするでしょ、じゃあたし寝るから、朝御飯の前になったら起こしてね〜」

ひらひら手をふると頭まで布団をかぶる。

………

マヤは朝食前まで呆然としていた。

 

ちなみに

「おはようシンジ君。ところでどうやって帰ってきたんだい?」

ドアの前でいびきをかいている二人を後目にカヲルが尋ねたところ

「窓から」

といういたってシンプルな回答が帰ってきたそうである。

 

 

予告チルドレン部屋