不穏な気配がするね。残念なことだ」

常日頃と異なる真剣な表情で呟くカヲル。

カヲルは木造の橋の上に立って川のせせらぎを眺めているように見える。

僕にも何かするべき事があるのかい?」

………

彼の視線の先の少女は無表情のまま答えない。

ただ、その赤い瞳の輝きがわずかに増した。

なるほど。今はまだその時では無いというわけだね」

一人で納得したように頷くカヲル。

少女が不意に視線をずらす。カヲルもその方角に顔を向ける。

目に入るのは岸辺の家々だけだが、カヲルは何かに気付いたようだ。

シンジ君が来たようだね」

………

少女は無反応だ。

会わないのかい?」

………

少女はやはり無反応だったが再びカヲルを見る視線は先ほどとはやや異なっていた。

そうか、わかったよ」

カヲルは瞳を閉じる。

再び瞳をひらいたとき少女の姿はどこにもなかった。
 
 

シンジ達が橋の上に辿り着いた時、カヲルはただ川面を見つめていた。
 
 
 
 

「いや、みんなすまないね。きれいな鳥が飛んでいたので目で追いかけていたら体の方も追いかけちゃったというわけだよ」

相変わらず屈託のない笑みを浮かべるカヲル。

そのうち車にはねられるわよ」

その前にドブか川におちるんじゃない」

電柱にぶつかるというパターンはありそうですね」

ちょっと3人とも」

ほんまの所危ないんとちゃいますかミサトさん?」

う、あたしもそうは思うんだけどね」

シンジ、エヴァのパイロットってこんなのでつとまるのか?」

カヲル君、少し変わってるから」

一同ずいっとカヲルを睨むがカヲルは一向に動じなかった。
 
 



<京都市内そば屋>





ずずずっとざるそばをすする9名。昼食の最中である。

「シンジの作るおそばもおいしかったけどこれもまた格別ね」

「さすがに本職の人にはかなわないよ」

苦笑するシンジ。

「そぉ?あたしはシンちゃんの作った方がいいけど」

ミサトの舌は当てになんないわよ」

「碇君っておそばまで作ってたんですか?」

「昔、何度かね」

「ふーん」

さすがに麺を打つとなると重労働なのでやったことのないヒカリがうなる。

「そういやセンセ、最近は料理しとらんみたいやな」

「弁当も惣流が作ってるみたいだし」

「今はアスカが台所を支配してるもんね〜」

ミサトが思わせぶりに言う。

アスカは先の展開が読めるため無視して食事に専念した。しかし、

「へーそうなんですか〜」

マナという共犯者がいるときのミサトの冷やかし度は1.5倍(当社比)となる。シンジが絡まなければいい親友なのだが

「旦那様は座ってて、なんてところですか?」

「そうなのよ。まるで新婚家庭でしょ?」

「ミサト先生も大変でしょ〜」

「あ、わかる? もぉ当てられて当てられて」

パキッ

アスカの手の中で割り箸が二つに折れた。

「ア、アスカ?」

シンジが心配そうに顔をうかがう。

「大丈夫よシンジ。いつまでも子供じみたからかいに付き合うなんて大人のすることじゃないものね」

と、懸命に普通の顔を保ち新しい割り箸をとるアスカ。

結構こらえるわね」

「ミサト先生が年中からかってるから耐性ができたんじゃないですか?」

「甘いわマユミ。腐ってもあの惣流アスカラングレーよ。爆発するのは時間の問題よ」

「だったらマナもいい加減にしなさいよ」

女性陣の話をよそにぽつりとカヲル。

「ふーん。ところで二人はいつ結婚するんだい?」

バキッ

二つに割られる前の割り箸が中央から二つに折れた。

すくっと立ち上がるとテーブルを離れていくアスカ。

「アスカ、どこいくの〜?」

ミサトが陽気に聞いた。

「お手洗いよ!!」
 
 

団体様ご歓迎と看板に掲げている店だけあって化粧室も奥に広いスペースをとっている。

アスカは肩をいからせながら歩いていた。

んとにまったくあの腐れ使徒は…………?」

何かに気付きふと立ち止まるアスカ。

テーブルにいた時と違い妙に静寂感が漂っている。

なにかなにか違和感を感じる。

それは久しく感じたことの無い空気だ。

この場をすぐに離れた方が

「なに?」

シュッ

微かな音がした。

すぐに意識が遠くなっていく。

(そんな催眠ガ

 

 

非日常時間