<京都市内路上>

 

 

「shit!!」

ジャネットは舌打ちした。

二台の乗用車が前方を塞ぐ形で左右から飛び出したためアスカを乗せた車を取り逃がしてしまったのだ。徒歩、それもバスガイド姿で乗用車に追いつけたかどうかも問題だがそれはそれ。

直後、小気味良い破裂音が連続して続いた。

「ジョニー!ワルキューレをロスト! そっちは!?」

レシーバーに叫びながらサブマシンガンのマガジンを交換するジャネット。

おいおいこっちは観光バスだぞ? 追いかけるだけ無駄だ。シンジに早めに知らせなかったのが裏目に出たな』

相棒の報告を聞きながら自分の方へ転がってきた車のタイヤを蹴り飛ばすジャネット。

すんだことは仕方ないわね。あたしは一応こいつらを調べてから合流する」

『了解。こっちはピュアレディの回収に向かう』

通信が切れるとジャネットは二台の乗用車を眺める。

とはいったものの調べるところなんて残ってないわね」

ジャネットが蜂の巣にしたあげく手榴弾で爆砕した車は真っ赤な炎と真っ黒な煙を上げていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

シンジはなるべく人を殺したくないと思っている。

それは戦場においては単に甘いだけでしかない。

訓練中もその甘さゆえ幾度となく病院に担ぎ込まれることとなった。

それでもシンジはその気持ちを捨てたくはなかった。

そして、今のシンジの実力であれば相手を殺さずに制圧することも可能である。

生かしておけばアスカの情報も手に入れられるかも知れない。

だが
 
 

今は確実に息の根を止めなくてはならない、しかも一撃で。

自分一人ならどうとでもなるがすぐ近くにはミサト達がいる。

躊躇している間に被害が増えることはなんとしても避けなければならない。

多勢に無勢、こちらは素手。

迷いは無かった
 
 

何かが砕ける音が数回、ほぼ同時に聞こえた。
 
 

シンジがその場を立ち去った後、血の海に横たわる人間の数は数名増えていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

もしもし?日向君!?ちょっと返事しなさいよ!」

突如通話が途切れた。ミサトは反射的に怒鳴りつけるが、携帯にいくら怒鳴っても返事は返ってこない。

(ま、わかっちゃいるけど)

戻ってきたシンジを見つけて携帯をしまうミサト。

「ミサトさん」

「どうだった?」

トウジ達から少し離れる二人。

「思った通りです」

ミサトの顔が一段と険しくなる。

「そうアスカはよりにもよって他の男とデートの最中というわけね」

女性かも知れませんよ」

わずかに聞こえてくる内容はふざけていても顔は真剣なためトウジ達も二人に話しかけられない。

「保安部も潰された様です。近くにジャネットとジョニーがいるはずですから、ミサトさんはみんなをつれて合流して下さい」

「ちょっとシンジくん!」

「僕はアスカを迎えに行きます」

断固とした口調でシンジが言った。

………

………

一段と小声でミサトが言った。

足手まといかしら?」

「そんなことはありません。ですがカヲル君やトウジ達の護衛が必要です」

「敵はシンジくんを目的にしてるのかもしれないわ」

「でも、二人は放っておけません。しかし、アスカも急いで追いかけなければなりません」

「お困りのようだねお二人さん」

「「加持(さん)!?」」

二人の間に加持が顔を出した。
 
 





<発令所>






「この程度の力しかないのにMAGIに喧嘩を売るとは妙ね。それとも余程の馬鹿かしら?」

「そうですね。この程度なら松代の2号機で余裕で対処できます」

リツコと日向はあまりにも弱体な侵入者について話し合っていた。

後ろでは青葉がひっきりなしに侵入と排除を報告している。

音楽の練習で鍛えた彼の声は残念ながら仕事場において役に立っているようだ。

「それで、MAGIの分析は?」

「90.9%の確率で時間稼ぎです」

なるほどね」
 
 
 
 

「つまり、敵は本部に対し絶え間なく攻撃を続けることで、我々が京都に対し直接ないし間接の支援行動を行うのを阻害しているというわけだな?」

報告を聞いた冬月が言った。

「はい。侵入回線はバラバラで発信源も世界各地に点在しています。これらを逆トレースして物理的に排除して回ることは可能ですが、敵の狙いが時間稼ぎであるならば時間と人員が掛かるだけで無意味です」

「しゃらくさいまねを

忌々しげに呟く冬月。

「それで肝心の京都のサポートはどうなっているのかね?」

「MAGIが自己防衛を行わなければならないため予定の3割も行えていません。松代など他の支部経由も考えましたが京都自体のネットワークは規模が小さいため

日向は言葉を濁した。

「満足にはいかんかしかも、本部の人員もおかげで大忙しだな」

冬月はてんやわんやの発令所を見下ろした。

マヤは京都、日向はミサトの代理でゲンドウ達の所にいるため青葉が一人で必死に切り盛りしている。

敵は象に群がる蟻のようなものだ。まともにやっても勝てない事を知っている」

ゲンドウが呟く。

「京都への回線を維持するためにも本部と外部との通信を遮断することはできません。である以上、全ての敵を排除するまではこの状態が続くことになります」

「だが敵は戦力を小出しにして持久戦かそれで、肝心の京都の状況は?」

「現在、戦自からの報告のみで詳細は不明ですが、1300時に加持三佐が京都に入りましたのでまもなく情報が入ると思われます」

「どうする碇?」

………
 
 





<そば屋店内>






「冗談じゃないわ! 行くったら行くわよ!」

「おい葛城、これは俺達のしご

「関係ないわ! 嫁入り前の妹を連れ去られて、はいそうですか、とおとなしくしていられるほど大人じゃないのよ私は!!」

ネルフ保安部の残存部隊が封鎖したそば屋の店内に大声が響いていた。気の毒な店員達は現在別の場所で、加持が手配した日本政府筋によって事情聴取という名の尋問を受けているはずだ。

「ミサトさん、声が大きいですよ」

シンジはそういって横目でトウジ達を見る。

トウジ達は話術巧みなジャネットとぎこちないながらも会話を続けているのだが、カヲルの笑みがいつもとやや違っている気がして少し気にかかる。

「どうするシンジくん?」

「加持さんが決めて下さいよ。一応は上官なんですから」

「階級はあいにくと葛城の方が上でね。未来の総司令命令、ってのは無理か」

『絶対行く!』と顔に書いたミサトの方をうかがう。発令所に居るときと異なり、上司も部下もいないせいか地が出ている様だ。

「ところで肝心のアスカは?」

「あっちこっち走り回っているようだ。こっちの目をまくためだろうがどうやら東の方向に向かっているらしい」

ミサトと話す傍ら、加持は耳に差し込んだイヤホンでずっと各種報告や通信を聞き指示を出している。

ジャネットやネルフ保安部の追跡を振り切った誘拐犯達だったが戦自の追跡部隊さすがに日本国内は彼らの方が専門であるによる徹底的な監視を受けていた。

「戦自は?」

「さすがにおおっぴらに道路封鎖ともいかんからな。適度に警戒線を張って時間稼ぎをしてもらっている」

アスカがいなければ誘拐犯達がとっくに地上から消滅しているのは疑いようのない事実だ。自国内で世界レベルのVIPを誘拐されたとあっては諸外国に対する面目丸潰れである。犯人を発見次第、町中だろうとお構いなしにロケット弾の二三発も撃ち込むだろう。あくまでもアスカを拘束しているからこそ悠々と走っていられるのだ。

仕方ない。葛城も連れていくか」

そうですね、時間がもったいないですし」

嘆息する男二人。

「本部のサポートもないし、何かの役には立つだろう」

決定すれば行動は早い。すぐさま3人は店を飛び出した。

 

 

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