「アスカアスカ」

「うるさいわね、もう起きるわよ

目を開けるとシンジの顔が目の前にあった。

「ほら、言ったとおりでしょ」

「え、何が?」

「何でもないってシンジ?」

「えあ、ごっごめん!」

アスカはシンジにしっかりと抱きかかえられていた。

慌てて離れようとするシンジの背中に手を回す。

「アスカ?」

怪訝そうなシンジ。

「いいから」

しばしの間アスカはその感触を楽しんだ。

 

「おやおや、山中で抱き合うとはロマンチックだねぇ」

「炎上するヘリをバックにロマンチックもないでしょ?」

加持とミサトの声が耳に入ってもシンジを離さないアスカ。

とりあえず気が済むまでシンジに抱きついてそれからアスカはシンジを解放した。

「ふわぁぁぁ。何がどうなってんのよ?」

と、顔を上げると目の前でヘリが炎上していた。

辺りを見回すと何人もの人間が倒れている。たぶん死んでいると思う。

「!?」

思わずシンジに抱きつき直すアスカ。
 
 


<京都郊外山中戦闘跡>







「眠ってた所を見ると催眠ガスを吸わされたんだな」

「みんなで迎えに来たのよ」

そういう二人の姿はどこから見ても兵隊である。見るとシンジも同じように

「ちょっ、ちょっとシンジ!あんた何危ないことやってんのよ!」

「え、だって」

「だってもくそもないわよ!! こんなことプロに任せなさいよ! 気持ちは嬉しいけどシンジに何かあったら

「アスカ」

真摯な瞳に黙るアスカ。

「な、なに?」

「僕はアスカを置いて死んだりしない。アスカを一人にしたりしない、そうだろ?」

………

「ね?」

………うん」

ほらね、やっぱりこういう馬鹿なのよこいつは)

アスカは心の中で呟いた。

肩をすくめる加持とミサト。

 

4人の背後でゆっくりと拳銃をもった腕が上がっていく。

加持とシンジ、乱戦であっても確実に相手を即死させる二人に比べると白兵戦経験に乏しいミサト。そのミサトに撃たれた男がまだ生きていたのだ。

 

パン!

 

ミサトは反応できなかった。

シンジはアスカに抱きつかれていたため対応が遅れた。

加持は咄嗟にナイフを放った。そのナイフは確実に男の喉を貫くだろうが、既に発射された弾丸を止めることは出来なかった。

弾丸はスローモーションのようにゆっくりとアスカの背中に迫る。

シンジはアスカをかばおうと弾丸の軌跡に身体を割り込ませた。

アスカは唱えるように祈った。

(シンジはアタシを置いて死んだりしない! アタシもシンジを置いて死んだりしない!)

弾丸はゆっくりとシンジの背中に吸い込まれ、そして

 

キーン!!

 

突如方向を変えると空に消えた。

 

『ATフィールド!?』

 

4人は目を疑った。

だが、弾丸を弾いた赤い発光現象は紛れもないATフィールドだった。

 
 
 






<京都市内ホテルの一室>

 
 
 
 

「やれやれ、思ったよりもヒト使いが荒いんだね

そう呟くとカヲルはゆっくり前のめりに倒れる。

「ちょっと!?」

慌ててジャネットが受け止める。

「大丈夫!? ねぇ!?」

既に暗い闇の底へと意識を追いやったカヲルは答えない。

気絶したカヲルを手近な場所に寝かせる一同。

彼らは気づいていなかった。

倒れる直前にカヲルの瞳が赤く輝いたことを。

 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

ミサトはアスカとカヲル、二人の寝顔を確認すると中のシンジにうなずいて部屋を出た。

「悪かったわね、みんな。せっかくの修学旅行なのに巻き込んじゃって」

輪になって座っているトウジ達に謝った。

「何言うとんですか、ミサトさんのせいとちゃいます」

「そうです。悪いのはアスカをさらおうとした人たちです」

トウジとヒカリが言った。

「ありがとう、鈴原君、洞木さん。でも今の発言、息がぴったりあってたわね〜」

そういってニンマリ笑う。

「「そ、そんな」」

ハモって答える二人に一同から笑いが起きる。

トウジとヒカリもミサトがいつものミサトに戻ったことを悟ると、視線を交わしてから笑いに加わった。

 
 
 

笑いは人の心を癒してくれる。そう感じないかシンジ君?」

「カヲル君大丈夫?」

「ああ、心配をかけてしまったね」

カヲルはゆっくりと上半身を起こした。

隣の布団に眠っているアスカを見る。

少し疲労の兆候が出ているがその美しさにはかげりがみじんも感じられない。

彼女も無事のようだね」

うん」

 
 
 


<ネルフ本部総司令執務室>

 
 
 

結果、23211個の侵入ルート全ての相手をデストラクト。現状から推測される敵の正体は1302件の候補が上がっています」

「それでは意味がないな」

「はい。ですが、本件終了後に行ったMAGIによる再計算の結果がこちらになります」

リツコは計算結果をデスクに並べた。

………

なるほどな」

冬月も渋い顔でうなずく。

「加持君に連絡しておいてくれ」

「はい。葛城一佐とシンジくんには?」

「本部への帰還後でかまわん」

せっかくの修学旅行だもの、残りの時間くらい楽しませてあげろってことね)

「わかりました、では失礼いたします」

「うむ、ご苦労だった」

リツコが出て行き扉がしまると冬月は視線をゲンドウに向けた。

……碇」

「ああ、わかっている」

 
 
 
 
 
 

 

「やぁみんなおはよう」

「あ、渚君大丈夫なの?」

髪を指ですきながら現れるカヲル。

「ええ、おかげさまでね」

「男のくせに貧血なんて情けないわね、ほら」

「マナ、何だいこれは?」

マナからコップを受け取ったカヲルが聞く。

「見てわからない? トマトジュースよ。しっかり鉄分を補給しなさい」

「赤いね………まるで血の赤だ」

遠い目をしてつぶやくカヲル。

どこか現実離れした雰囲気に沈黙の帳が降りる。

 

「何、寝言言ってんの。まったくただでさえ大変なときにぶったおれて、おまけに栄養失調の気もあるだなんて。あんた京都に来てから何食べてたわけ?」

アスカは部屋に入ってくるなり自分のことは棚に上げ文句を並べ立てた。

「栄養失調ああそういえば何となくお腹も空いてきたね」

とりあえず手に持ったトマトジュースを飲むカヲル。

「渚、ダイエットでもしてるのか?」

「でも、渚さん、昨日も一昨日もとってもたくさん食べてた気がしましたけど」

「ま、晩飯にはちと早いからな。菓子でも食うとけや」

「はい、渚君」

「ありがとう」

そう言って出された袋菓子を手に取るカヲル。

どう見てものんびりと食べている様に見えるのだがあっという間に袋はからになった。

「おや? もうなくなってしまった」

「あんたどういう胃袋してんのよ?」

相変わらず変な子ね〜)

いつものように騒ぎ始めた子供達を見ながらミサトはドアを開ける。

「どう?」

ドアのすぐ横の壁に背中を預けた加持に尋ねる。

ジョニーとジャネットは少し離れたところで警戒を続行している。ホテル内部にはネルフ保安部の生き残り要員が、ホテルの周囲には日本政府の手配した警備部隊が配置されている。

「すまん、ちょっと待ってくれ。ああ、葛城だ」

加持は携帯を耳に当てたままで答える。

「だいたい片付いた。戦自の部隊も撤収中。旅行も続けて構わんそうだ」

そういう気分じゃないんだけどね」

子供達の前では隠していたげっそりした表情を浮かべるミサト。

「まがりなりにも教師をやってるんだ。職務をまっとうするんだな」

「何なら変わってあげましょうか?」

「謹んで遠慮しとくよ」

「あ、そ」

そういうとミサトは舌を出しながら中に消えた。

加持は再び携帯に注意を戻す。

悪かった。で、それは間違いなんだな?」

電話の向こうのリツコに問い返す。

『残念ながら、ね。こっちに帰ってくるまで二人には内緒にしておく様にとのことよ』

「ああ、わかってる。じゃ」

携帯を切るとポケットにしまう。

会話中ずっと持ったままだった缶コーヒーの缶を無意識に握りしめる。

「四対四、決闘か

ブシュッ

あふれたコーヒーが手をぬらした。

 

 

予告チルドレン部屋