十番手 葛城ミサトあるいは碇レイ

「うふふ、シンちゃーん」

「な、なんですかミサトさん?」

ミサトの口調に警戒するシンジ。

酔ってはいないようだがその方が余計危険なことをシンジは身をもって知っている。

「あたしからだったらいいわよね〜?」

そういってシンジの首に手を回す。

「な、何がです?」

後ずさる背中に壁が当たり失敗したことを悟るシンジ。

「ほら、あの時言ったでしょ? 『帰ってきたら続きをしましょう』って」

「あ、あれはその…そ、それにミサトさんには加持さんが」

「あら加持、姉と弟の愛情確認だものかまわないわよね〜?」

「ま、特に反対する理由はないな」

加持もうなづく。

「そ、そんな加持さん!」

「約束はちゃんと守らないとなあ葛城」

「やっぱりそうよね〜。じゃ目をつぶって…」

そういって顔を近づけるミサト。

「あ、ミ、ミサトさん…」

スパーン!

ゴン!

「ぐ!?」

「あ痛っ!」

後頭部を叩かれたミサトは勢い余ってシンジに頭突きした。

「ちょっとアスカ! なんでハリセンなんか持ってんのよ!?」

「ふーん。これってハリセンっていうのか…じゃないわよ!!」

「リツコさんですか?」

シンジはリツコが出したのかと尋ねる。

「ああ、あれ? レイが作ったのよ」

見るとレイがハリセンをもう一つ差し出している。プレゼントのつもりらしい。

「あ、ありがとうレイ。うれしいよ」

シンジが礼をいうとレイも嬉しそうに笑った。

(…でもなんでハリセンなんだいレイ?)

考えてはいけないと思いつつも考えずにはいられないシンジだった。

「あんた何するつもりだったのよ!?」

「ちょっちシンちゃんにキスしようってしただけじゃない!」

「なんでミサトがシンジにキスするのよ!?」

「誕生日プレゼントよ!」

「そんなもの却下よ却下!!」

「何よ! 前にシンちゃんに大人のキスをしてあげたときに『続きをしましょうね』って約束したから守ろうとしただけじゃない!」

『オ・ト・ナのキス〜?』

「ミ、ミサトさん…」

「ちょっとどういうことよシンジ!? 説明しなさい!!」

素早く首を絞めるアスカ。

「く、くるじいあひゅか…」

「不潔よ! 不潔よ! 碇君!」

「アスカってものがありながらー!!」

「こ、こんの裏切りもん!!」

「シンジお前という奴は!!」

「ミサト先生…うーん、ちょっと違いますね」

「シンジ君見損なったぞ!」

「シンジ君がそんな子だとは思わなかったわ!」

「へぇそうだったのか知らなかったな」

「ほほう」

「クエッ?」

「?」

めいめいに反応する一同。

 

「はははは、みんなその辺にしてやれ」

加持が笑って言った。

「そうよ。シンジくんが自分からそんなことするわけないじゃない。第一、シンジくんのまわりにはアスカもレイもいて可愛い女の子には困ってなかったんだから」

リツコが説明する。

「そ、それはそれでちょっと違う…」

「…ということは」

アスカが再びミサトを睨む。一同の視線もミサトに集中する。

「え? あ、いや、その、確かにしたのはあたしの方からだけど…そ、その、あれはその最後の戦いの前にシンジくんを元気付けようと…そのあたしも撃たれて死にそうだったし…」

ゴゴゴゴゴと音を立ててアスカの後ろに怒りのオーラが立ち上る。

「おや、まるでATフィールドのようだね」

復活したカヲルが呟く。

「ア、アスカ落ち着いて!!」

「問答無用!!」

「ひえええええーっ!!」

 

 

十一番手(あるいは前一番手) 碇ゲンドウ&冬月コウゾウ

「そういえば司令と副司令は何をくれたの?」

「そういやまだ開けてないや。よろしいですか?」

アスカに言われてシンジは冬月に了承を求めた。うなずいて答える冬月。

「演奏会のチケット?」

「チェロとバイオリンだ…」

茶封筒からはペアのチケットが出てきた。

「今度第3新東京市でコンサートがあると聞いてな。ささやかだがアスカ君とでも行って来たまえ」

冬月は優しく笑った。

「…ありがとうございます」

「で、で、碇司令は?」

ミサトがもう待てないと言った風情で聞く。

「落ち着きなさいミサト」

「だってー気になるじゃない」

「はいはい、えーと何かのリストですね」

「リスト〜?」

しばらくリストを見ていたシンジが涙ぐむ。

「どうしたのシンジ?」

アスカがリストをのぞき込む。

「チェロの教室、演奏家の連絡先に楽器屋やチェロの職人のリスト…」

「シンジくんがチェロを弾くって知ってたのね」

ミサトもまじめな顔で言った。

「エヴァのパイロットなんかやってはいるが普通の生活でもできることはやらしてやろうってことだな」

加持が言った。

(…ネルフの司令なんてものをやることになっても自分の趣味ぐらいは続けてさせたいっていう親心か)

シンジもそれを理解したのか泣いていた。

(…父さんも副司令もちゃんと僕のことを考えてくれている。)

「ほら」

アスカがハンカチを差し出す。

「うん、ありがとう」

「いいのよ。でも今度から泣くときはアタシと二人っきりの時にしてね?」

「アスカ…」

 

 

締め 惣流アスカラングレー

「で、アスカのプレゼントは何だい」

「あ、そういやそうねえ」

「え」

一同の視線がアスカに集中する。シンジも顔を上げた。

「え、えーとその」

赤くなるアスカ。

「なに赤くなってんのよ。あたしには駄目って言っておいてキスする気なんじゃないでしょうね?」

「あらミサト、いつもキスしてるんですものそれじゃプレゼントとは言えないわ」

「それもそーね」

そう言いながらケンスケの持ってきた写真をシャッフルするミサト。

「ちょっ…もうしょうがないわね。…シ、シンジ」

さすがにおさまりそうにないと悟りアスカは口を開く。

「な、なにアスカ」

「そ、その…後であげるわ、それでいいでしょ?」

「う、うん。ありがとうアスカ」

『あーとーでー?』

「後でっちゅう事はもしかすると…」

「ちょっと鈴原何考えてんのよ!」

「まーまー委員長。ここは見逃してやろうよ」

「そうね誕生日だもの…っていいわけあるか!」

「も、もしかして…」

「仲良きことは美しきかな、だね」

「ひょっとしてひょっとするんでしょうか日向さん?」

「あ、ああそのようだな青葉君」

「二人とも何考えてるんですか!」

「なんだか孫を嫁に出すような気分だな」

「あらあら冬月先生、まだ早いですわ」

「ウギョッウギョッ」

「キャッキャッ」

「しょうがないわね。加持今晩泊めてくれる?」

「仕方ないな。ま、二人のためだし」

「ちょっとみんな何想像してんのよ!?」

アスカが叫んだ。

「何って…」

「…ねぇ」

リツコとミサトの言葉に一同かくかくとうなずく。

「まったく…私のプレゼントはこれよ」

そういって一枚の封筒を取り出す。

「ありゃ、また封筒? いまさらラブレターじゃないわよね?」

「当たり前でしょ! はい、シンジお誕生日おめでとう」

そういいながらもなぜか震える手で手渡すアスカ。

「あ、ありがとうアスカ」

「う、うん。その…えーと…寝る前まで開けないで欲しいの…」

小声で言うアスカ。なぜか全身真っ赤である。

「わ、わかったよ」

良く分からないけど重要なことなんだろうとシンジは封筒をポケットにしまう。

「えー今見せてよ!」

「駄目です!」

きっぱり拒絶するシンジ。

「えー!? いーじゃない!! 見られて困る物じゃないでしょ!!」

そういってアスカを見る。

「あ、明日の朝になったら見せてあげるわよ」

「明日の朝〜?」

 

 

 

最終パート