【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

 

<3−A 教室>

 

<再度繰り返すが、3−A 教室>

 

 

そう、シンジとアスカ(とミサト?)のクラスは3年になってもそのままの面子であった。

「なぁにぃーっ!! ミサト先生が結婚やとーっ!?」

「うん」

あっさり首肯するシンジ。

『そんな馬鹿なぁ!!』

天を仰ぐケンスケとそれに同調する男子達。

逆に女子達は至って冷静である。

「何を今頃驚いてんのよ」

アスカは冷たく言った。

「そうですね。以前にミサト先生の家で紹介して頂きましたし」

マユミが続ける。

「あの時は婚約程度だったのが本式に進むってだけでしょ」

マナが後をしめる。

「いや、おめでたいことだね」

男子ではシンジを除いて唯一冷静なカヲルが感想を述べる。

「碇君。ミサト先生、辞めたりしないわよね?」

ヒカリがシンジに懸念事項を確認する。

「うん。ああいう仕事してるから」

「あ、ああ、そういえばそうだったわね…」

ミサトの『本業』とよくよく考えればあんまりなシンジの発言内容に言葉に詰まるヒカリ。

「それに式の日取りもまだ決まってないしね」

アスカが投げやりに言った。

アスカとしてはそこまで持ち込みたかったのだが加持にのらりくらりとかわされた。

この時はなぜかシンジも押しが弱く、二人に逃げ切られた。

クラスの混乱は続いている。おそらくミサトが来るまで続くだろう。

「おっはよーみんな!! ………あり?」

いつもなら男子達の元気な返事が返ってくる。だが今日に限ってはその男子達にはなにやらどんよりと重い空気がのしかかっている。

「起立、礼、着席」

ヒカリの号令に機械的に従う男子達。

「どったのみんな? お通夜?」

「…笑えない冗談ね」

アスカが突っ込んだ。

「どうしたの男の子達?」

「自分の左手を見てからいいなさいよ」

「左手…あぁなるほど」

ミサトの左手の薬指にはプラチナのリングがはめられている。

「やーねぇ。結婚するって言ってもまだ先の話だし〜」

「ミサトさん、そんなににやけて言っても説得力に欠けますよ」

シンジが冷静に言った。

「なによ二人して。あ、さては学校でゆ…」

「「ミサト(さん)!!」」

ユニゾン&大音量の叫びに驚き、固まるクラス。

「…ちょ、ちょっと冗談よ、冗談」

ミサトが手を振り謝る。

はっきり言って二人の目が怖い。

「あ、アスカどうしたの?」

「シンジどないしたんや?」

「「何でもない」」

ユニゾンの二人にひいてしまうヒカリとトウジ。

事態は少し前にさかのぼる。

 

 

 

<早朝、職員室>

 

 

「えぇ本当!?」

「ああマヤちゃん静かに!」

「あ、すみません」

ミサトとマヤの机の前にシンジとアスカはいた。

先程ミサトに連れられて、校長に二人の事を報告に行ったところである。

「書類は放課後に出しに行くことにしたんですが…」

シンジが照れくさそうに言う。

アスカは赤くなって黙っている。

そんな二人を見てマヤは幸せいっぱいと笑みをふりまいた。

「でさ、学校側の条件なんだけど…」

はっきり言って学校はネルフの支配下と言っても過言ではない。だが無用の混乱はさけるべきというのが冬月副司令のありがたい仰せである。したがってミサトは一教師として校長と交渉してきた。

1.二人の結婚については卒業まで秘密とすること

2.従って、校内で誤解を招くような行為をしないこと

3.ミサトとマヤ以外の教師についても同様であること

1と3は別に問題ないが、2ははっきり言って無駄であろう。二人は全校生徒に公認されたカップルであるのだから。ちなみに条件を守れなかった場合の措置については言及されていない。もっとも何か処分を科したところで、良くて全校生徒の抗議活動。あるいはネルフの力で地方にとばされるというところだ。悪い場合は…想像しない方が心の健康を保てるというものだ。

「…というわけで一応は秘密。ネルフ内でも出来る限り内密に。そうじゃないと鈴原君と渚君の耳に入るからね。例え洞木さんでも言っちゃ駄目よ」

「はいはい」

不機嫌この上ないアスカ。

「不満そうね〜」

「だって指輪もしちゃいけないんでしょ? せっかくシンジが買ってくれたのに…」

「え…フグフグ」

あわててマヤの口を押さえるミサト。

「だから静かにっていってるでしょ」

コクコクと頷くマヤ。

「…指輪、今持ってる?」

「見たい?」

「お願い見せて!」

わいわいと静かに騒ぐ二人。

「………まぁシンジくんは大丈夫だと思うからアスカをフォローしてやって」

「わかりました」

 

 

 

<再び 3−A>

 

 

(…言ってた本人がばらしそうになっていれば世話はないよね。)

シンジはミサトのフォローも必要だと再認識した。

「…さ、さて出席をとるわよ」

そそくさと仕事に戻るミサト。

「葛城さん!!」

教室の扉を開けてマヤが飛び込んできた。

「………葛城、先生よ。伊吹先生」

自分でも何となく変ね、と思う答えを返すミサト。

クラス中の注目を集めてしまったことに気付いて小さくなるマヤ。

「す、すみません」

ミサトはそのまま小さくなったマヤのそばに寄ると耳を近づけた。

「で、何?」

「先輩からなんですけど…」

「リツコ?」

「ええ、先行情報として急いで知らせるようにと…」

「ふーん、で…」

「実は…」

それなりに怪しい雰囲気で話し出す二人。

ケンスケはカメラを持ち出している。

「え、えーと」

どうしていいかわからないヒカリ。

「委員長。放って置いて構わないから出席取って」

シンジが言った。

「え? ええ!?」

「待ってたって時間の無駄よ」

アスカも賛同する。

「そ、それはそうかも」

とりあえず出席簿を取りに教卓に上がるヒカリ。

ミサトを見ると一瞬ヒカリの方を見てウィンクした。

お願いね、という意味と受け取るヒカリ。

「えーと、じゃあ相田君」

「はい」

「碇君」

「はい」

出席を取り終わるとマヤは出て行った。

しばし考え込むミサト。

「うーん」

「あ、あのミサト先生。全員出席です」

出席簿を差し出すヒカリ。

「あ、悪かったわね。洞木さん」

「いえ」

「むむむむむ」

今度は出席簿をにらみながら悩むミサト。

「…ちょっとミサト。大丈夫?」

「…学校ではミサト先生よ、アスカ」

「だったらそっちも惣流さんでしょ?」

「ま、それはそうだわね…」

今ひとつ調子の出ないミサト。

しばらく考えた後ふとアスカを見る。

「な、何よ?」

「………ごめんねアスカ」

不意に謝るミサト。

「な、何が…」

「それと洞木さんも」

「は、何ですか?」

おもむろに出席簿を開くと二ヶ所に横線を引く。

「碇シンジ、鈴原トウジ両名は公用により今日は欠席」

 

 

 

 

 

【第拾七話 平和の構図】