…ここはどこ?

 

 

暗い水面。

映る満月。

 

 

…LCL? エヴァの心の中? それとも夢?

 

 

だが、量産機たるエヴァシリーズに人の魂は込められてはいない。

エヴァの精神もシンジの精神にここまで干渉するには至らないだろう。

 

 

…トウジも同じなのかな?

 

 

周囲を探るが何もない。

ただ、満月が映る水面が続くのみだ。

自分が水の上にいるのか水の中にいるのかそれさえもわからない。

 

 

…水、みず、ミズ、water

…血の臭いのしないただの水

 

 

ピチャン

水滴の落ちる音

 

 

…綾波!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

カンカンカンカンカン

窓からは夕暮れの赤い日差しのみが注ぎ、外をうかがい知ることは出来ない。

左右に座席がならんでいるのみでがらんとした車内。

乗客は一人。

学生服に身を包んだ自分だけ。

 

 

 

…またこの電車、か

 

 

シンジは苦笑すると座席を立った。

以前はただ座っているだけだったのに、我ながら大した進歩だ。

少し大人になったということかな?

 

 

「綾波! いるんだろ? 綾波!」

 

 

そう呼びかけてみる。

同じ車両には誰も見あたらない。

 

 

…とりあえずは目的地を確認、かな?

 

 

進行方向と思われる側の扉に向かう。

 

 

 

「ちょっとバカシンジ! 何こんな所で油売ってんのよ!!」

 

 

「アスカ!?」

 

 

慌てて振り返る。

しかしアスカの姿はない。

 

 

…これがぼくの精神世界だとすると、それだけアスカに会いたがってるって事かな?

 

 

冷静に分析しながらもつい笑いのこぼれるシンジ。

 

 

…だとすれば綾波に会えたとしてもそれも僕の願望に過ぎないのかな?

 

 

「相変わらず後ろ向きなんだね」

 

 

子供の声がした。

シンジは振り返らない。

 

 

「かもしれないね…そんなに簡単には変われないから。

でも無理して変わることもないと思うんだ。

たぶん、それでいいんじゃないかな?」

 

 

「………」

 

 

返答はなかったが微かに雰囲気が和らぎ、そして消えた。

 

 

 

シンジもそれなりに心理学に通じている。

これが夢だとして、どういう分析結果になるのかおもしろくなってきた。

身体の向きを変えると扉を開き足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「おうシンジ!」

 

トウジ

 

「ようシンジ」

 

ケンスケ

 

「いーかーりー君」

 

委員長

 

「シーンジ!」

 

マナ

 

「碇君」

 

山岸さん

 

「碇シンジ君」

 

カヲル君

 

「どうしたのシンジ君」

 

マヤさん

 

「シンジ君じゃないか」

 

日向さん

 

「やぁシンジ君」

 

青葉さん

 

「おやシンジ君」

 

副司令

 

「あらシンジくん」

 

リツコさん

 

「よっシンジくん」

 

加持さん

 

「…シンジ」

 

父さん

 

「シンちゃ〜ん」

 

ミサトさん

 

「バカシンジ!」

 

アスカ

 

 

 

 

「クス」

 

シンジは笑った。

 

「出ておいでよ綾波」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…碇くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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