【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

 

「ジャネット…安心しろ、傷は相当深い」

ライフルのマガジンを交換しながらジョニーが言った。

「…前から思ってたけどさ。あんたって最低な奴よね、ジョニー」

ジャネットは膝の上に抱えたコンポジット爆弾に片手で信管を突き刺した。

もう一方の手は携帯端末のキーボードの上を走っている。

ディスプレイ上ではエラーの表示が何度も繰り返される。

「ちょっとはシンジを見習ったら? そうすりゃ少しはもてるかも知れないわよ」

「お生憎様。これで十分もててるよ」

ポケットから取り出した煙草ケースの中央を銃弾が貫通しているのを見て眉をひそめるジョニー。

「あらごめんあそばせ。でもそのわりには幸運の女神に見放されたようね」

「お前みたいな性悪女と一緒にいたから嫉妬したのさ。もてる男はつらいな」

なんとか無事な一本を取り出して火を付けた。

落ち着いた息とともに紫煙が吐き出される。

通路には十数体の死体が転がっている。

激しい銃撃戦の結果だ。

ジャネットの左腕は大量の出血のため真っ赤に染まっていた。

ジョニーもまた同様に腹部を赤く染めている。

「…で、つながったか?」

ジャネットは快調にコマンドを受け入れ始めたディスプレイに目を向けうなずく。

「さすがはネルフ本部スタッフの特製品ね。どうにか妨害を突破したわ」

「そいつは結構なことだ」

「…OK、本部にコンタクト。データを送り終えるのに2分てところ…」

ザッザッザッザッザッ

規則正しく近づいてくる大勢の足音。

「本隊の御到着か、やれやれ真面目に仕事するなんて慣れないことはするもんじゃないな」

そう言いながらライフルを構えたジョニーはジャネットと端末を背後にかばうように立った。

ジャネットは何も言わず作業を続ける。

(…こんなことならもっとリョウジから煙草をぶんどっておくんだったな。)

「…ジョニー」

「ん?」

「死にそうになったら言ってね。これ押すから」

起爆スイッチを持ち上げた。

スイッチを押せば施設内に仕掛けた爆薬が全て点火されることはジョニーも知っている。無論今ジャネットが端末と一緒に抱えているものを含めてだ。

もっとも重要な箇所のほとんどには侵入することさえ出来なかった。

(…あいつらに仕事を残しちゃったわね。)

そう心で呟くジャネットにジョニーは嫌そうな顔を向ける。

「…お前って最低な女」

「お互い様」

ピー。

データを送信し終えたブザーが鳴る。

同時に足音が早まった。

「今晩どうだ? たまには俺と一杯」

「そうね。じゃ後から来た方のおごりっていうのはどう?」

二人はにやりと笑い合う。

煙草がゆっくりと床に落ちた。

親指がゆっくりとボタンを押し込んだ。

通廊に響いた激しい銃撃音は一瞬の後、爆発音に掻き消された。

 

 

 

 

 

【第拾九話 薫風】