【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

<第二東京市中央駅>

 

 

「ヒカリ!」

避難民の雑踏の中、よく通る声がヒカリの名を呼んだ。

ヒカリが振り返るとマナが手を振りながら走ってきた。

「マナも第二東京だったの?」

「ま〜ね、しかし大荷物ね」

ヒカリを上から下まで見た後感想を述べるマナ。

おそらくかなり要領よく整理したのは想像に難くないがそれでも両手両肩に大きなバッグを提げている。

家族で第二東京市に避難してきたヒカリはトウジの妹も連れているため結構な荷物だ。

もっともノゾミもコダマも手伝おうとしたのだが頑として断った。

(…私もまだまだ子供ね)

それに引き替えマナは肩に下げたスポーツバッグ一つだけである。

「…少ないのね」

羨ましいというより意外という顔で聞くヒカリ。

駅の中を見回してもマナほど身軽な人は目に入ってこない。

「だって当座の着替えだけだもん。

 私の場合、第三新東京市とネルフにもしもの事があったらどのみち終わりだしね」

話しながら二人はヒカリの家族が待つ外へ向かう。

確かにネルフにもしものことがあればマナは職も財産も将来も何もかも失う。

無論、ネルフの敗北となれば被害はマナのそれにとどまらないのだが。

「それに、ま、シンジとアスカがいるからどうにかなるわよ。あと鈴原とカヲルもね」

「…そうね」

ヒカリの顔は依然暗い。

どういう経緯であれ間もなく友人達(まだ恋人とは呼ばない)が命がけの戦いに挑むのだ。平常心でいられるはずもない。

戦自で教育された分マナの方が心構えが出来ている。

「ヒカリ、いいこと教えてあげるわ」

ずいと顔をよせるマナ。

「な、何?」

「いい? 心配している暇があるんなら、どうかみんな無事に帰ってきますようにってお祈りしてなさい」

「…それって心配してるって事じゃないの?」

頭をひねるヒカリ。

「似てるけど違うの。

 お祈りした方が、想いが強い方が確実に生還の確率が増すの。これは理屈じゃないわ。

 そして言ってみれば想うことでみんなと一緒に戦ってるわけ。

 …心配するなとは言わないけど、心配するって事は自分の中では既に他人事になっているのよ…少なくとも私はそう思ってるわ。だから…」

(…だから、今も祈り続けている。)

そんなマナを見てうなずくヒカリ。

「………ありがとうマナ。私もお祈りするわ。

 でも、何に祈ったらいいかな?」

「………たぶん神様仏様は今頃大忙しでしょうね」

外へ出た二人は空を見上げた。

空には暗雲が立ちこめている。ちょうど先が見えない未来を暗示するかのように。

「…雨になりそうね」

「…うん」

 

 

 

 

【第弐拾話 降り出した雨】