【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

 

<ジオフロント結婚式会場>

 

結婚式そのものは略式で行うということになった。もとよりどこかの神を信仰しているわけではない。だが、一応牧師なり神父を呼んで誓いの儀式を執り行うことになっていた。その件に関してはゲンドウが適当な人物を選ぶという話だったのだが…

 

「ほ…法王陛下?」

紹介文を一読して青ざめるマヤ。

今にもゲンドウのニヤリという笑みが目に入りそうだ。

(…よりにもよってキリスト教の最高権威を連れてくるなんて。)

もちろん極秘であることにかわりはあるまい。

キリスト教徒でもないくせに緊張して式に臨む一同だが、当事者と当事者の親族は一向にこたえていない様子である。

シンジはいつものように微笑みを浮かべて花嫁を待っている。昔のシンジからは考えもつかない落ち着きぶりである。

ゲンドウもリツコもいつもと表情が変わらない。だが、ゲンドウの隣に座っている冬月は笑みを浮かべていた。

(…碇、我慢は体に毒だぞ)

加持は飄々としたポーズを崩さず。ミサトはそれに小言を言っている。

アスカの母はその隣で二人を微笑ましそうに見ている。

そして、アスカは父親に連れられてゆっくりと歩いていた。

 

花嫁は大方の予想を裏切って純白のウェディングドレスに身を包んでいる。

自慢の赤い髪もケープに覆われて伺い知れない。

うつむいているため表情もよくわからない。

いつもアスカがまわりにふりまいている生命力に満ちあふれた気配というかオーラといったものも感じられない。

ひょっとして別人では? と思っても不思議はない雰囲気。

そこにはとても清らかな空気が流れていた。

高貴な気品とも赤子の純粋さとも違う別種の清浄さ。

 

…花嫁

 

一同がそう思い、ただ納得してしまうもの。

太古の昔から世界中に連綿として満ち満ちていたもの。

いかに文明が進み人の心が移り変わろうとも変わらないもの。

それを世界最先端の技術が結集され同時に自然につつまれたこの場所で感じる。

人々はしばしそれぞれの思索にふける。

花嫁が花婿の元にたどり着くまで。

 

 

シンジはアスカの父に話しかける。

『では、娘さんをいただいていきます』

父親は笑みを浮かべ、

『返品は不可だ。大事にしてやってくれ』

『はい』

 

アスカはぎゅっと拳を握っていた。

シンジの方を見ようとせずに正面に顔を向けていた。

アスカの父が席に着くとシンジも法王に向き直った。

アスカの表情は見えない。それでもシンジにはアスカが何を思っているかがわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【終局 ヒトであるために】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先に一言だけ』

法王は二人だけに聞こえるように小声で言った。

『君たちの式だけは他の誰にも任せたくなかったのでね。無理を言ってお忍びで来させてもらった』

そういって片目をつぶる。シンジも笑みを返した。

『ありがとうございます』

返す言葉はそれだけ。余計なことは言わない。言葉無しに伝わらない事は多いけれど言葉なしに伝わる事があるのもまた確かだから。

 

『では…』

そこで法王は日本語に切り換えた。この式の参列者に、ネルフという組織の根幹をなす日本人の血に敬意を表して。

「天なる神よ

 我々は、御前に集い

 立会人の前で

 この二人の婚姻の式を執り行う。

 この結婚に異議ある者は

 今、名乗るか

 永遠に口を閉じよ」

 

「シンジ。あなたはこの女を妻として迎え共に暮らすか?

 彼女を愛し、慰め、人格を重んじ

 生ある限り

 誠を尽くすことを

 誓うか?」

「はい。誓います」

「アスカ。あなたはこの男を夫として迎え共に暮らすか?

 彼を愛し、慰め、人格を重んじ

 生ある限り

 誠を尽くすことを

 誓うか?」

「…誓います」

「では、指輪の交換を」

 

 

初めてシンジに向き直るアスカ。左手をそっと差し出す。その薬指にアスカの青い瞳をイメージしたサファイアをあしらった指輪をはめる。

次にアスカがシンジの左手をとると飾り気のない、それでいて芯の強さを感じる銀の指輪をはめる。

「父と子と聖霊の御名において二人を夫婦と認めます。アーメン」

 

 

ケープが風にさらわれ美しい赤い色の髪が風になびく。

そしてシンジの眼前に瞳に涙を浮かべるアスカの顔が現れる。

いつもどおり、いやいつにもまして美しいその顔に手を寄せそっと口づける。

 

「二人に祝福を」

法王は皺だらけの顔をゆがめ笑った。

 

 

 

 

「おめでとう!! シンちゃん、アスカ!!」

ミサトは叫ぶなり二人に飛びついた。よっぽど堪えていたのか周囲の目などお構いなしに涙を流して喜ぶ。

「ミサトさん」

「ミサト」

二人は顔を見合わせてから言った。

「「ありがとう」」

愛する家族に精一杯の感謝を込めて。

 

考えるまでもなくミサトは相当無茶な行為をしたわけだがネルフの面々は慣れているのか誰一人動揺しない。せいぜいマヤが進行のタイミングを迷う程度だ。

「あらあら、これじゃ母親の立場がないわね」

気を悪くした様子などなくリツコはひとりごちた。

「だったらリっちゃんも飛びついたらどうだい?」

「あいにくとこの人の世話があるのよ。はい、ゲンドウさん」

そういって隣で目頭を押さえているゲンドウにハンカチを差し出す。

「…すまん」

「お父さんどうして泣いてるの?」

足元に降りてゲンドウの顔をのぞき込んだレイが聞く。

「なにか哀しいことがあったの?」

心配そうなレイの頭に手をやるとゲンドウは優しい笑みを浮かべる。

「…とても嬉しいときには人は泣くんだよ、レイ」

そう言うとレイも満面の笑みを浮かべた。

 

『惣流ご夫妻は?』

矛先を変える加持。

『あいにくこちらもご同様でね』

顔を覆って泣くアスカの母親を夫が慰めていた。だが、その視線は壇上の3人に向けられている。

『フラウ葛城、いえフラウ加持でしたか。…彼女があの子の母親というわけですか』

『さて…それは3人に聞いてみて下さい』

 

「ほらヒカリ、泣かないで」

「ご、ごめんなさいマナ。でも二人がやっと幸せになれたんだと思うと嬉しくて」

「……そうですね」

こちらも幸せそうに言うマユミ。

「…うっうっう」

相変わらず涙もろいトウジ。

ケンスケは撮影に余念がない。やはりケンスケとしても本当はこういう場面をとりたいのだろう。

「よかったね、シンジ君、アスカ」

(…君たちリリンの未来に幸多からんことを祈ってるよ)

 

 

 

3人を見守りつつ祭壇を下りた法王のもとに冬月が歩み寄った。

『ありがとうございました。よろしければなにか一言…』

だが、法王は手を振って断る。

『私は所詮一宗教の長にすぎない。私ごときが彼らに何か語るのは間違いだよ』

『彼らはそんなに傲慢ではありませんよ。ただ、彼らはたとえ神が相手でも戦うことをやめはしないでしょうが』

二人とも視線を3人に戻す。

『碇シンジか…良い眼をしていた。彼のおかげで今の世界があるというのにおくびにも出さない』

『彼らは傲慢ではないと言ったでしょう? それに彼に限って言えばまったくそんなことを考えていないのですよ』

『そうか』

『ええ、彼はそういう人間です』

『………碇ユイという女性にも会ってみたくなったよ』

『………いつかお会いになることもあるでしょう』

そう言って冬月は微笑んだ。

 

 

 

「さぁミサト、アタシにはあと一仕事あるんだから」

「うんうん………」

嗚咽をこらえるミサト。

「どっちが花嫁かわかりませんよ」

そういってミサトを抱き寄せるシンジ。

「あら、シンちゃんダメよ。こんな所で〜」

「何言ってんのよ!! ………たくっ」

「ふふっ」

いつもの笑顔を浮かべる二人。

 

 

既に座席は取り払われめいめい好き勝手なところに立って待っている。

「コホン、みなさん本日はご列席まことにありがとうございます。ただいまより花嫁がブーケを投げますがその前に花嫁から一言申したいと言うことですのでお聞き下さい。

 はいアスカ」

「サンキュ、マヤ」

礼を言ってマイクを受け取るアスカ。

「…みなさん今日は本当にありがとうございます。うまく言葉に出来ないけどそれはあとでシンジに代わりに言わせます」

「ひどいやアスカ」

シンジのぼやきに笑う一同。

「ははは、情けないシンジ君は久しぶりだな」

「もう花嫁のお尻にしかれてるわよー」

「もう勝手にやってくれー」

などなど職員達からからかい…祝福のこもったからかい声があがる。

「とにかくとっても嬉しいです。

 さて、花嫁の最初のつとめとしてこれからこのブーケを投げます。でも女性のみなさんごめんなさい。もう渡したい相手が決まっているの。許してね」

マイクをマヤに返すとシンジの方を振り返る。シンジはアスカの隣に立つとそっと肩に手を置いて頷く。アスカがブーケを両手で握りしめそして二人は目を閉じた。

二人が何をしているのか知っていたのはカヲルただ一人だろう。

それともミサトは察していただろうか?

『…綾波』

『…レイ』

二人は同時に目を開く。

「アスカ!」

「そこ!」

アスカがブーケを宙の一点に放り投げる。空中を舞いそして重力に従って落下を始めるブーケ。だが次の瞬間、何かに押されたかのようにブーケは空中に飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEON WORLD EVANGELION

FINALE: I LOVE YOU.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿ね…本当に馬鹿なんだから」

呟くアスカ。

ネルフ一同は今の事に対して何も言わない。皆、同じ事を想像している。また、それは事実とほぼ一致していた。

シンジはそっとアスカを抱き寄せる。その後で視線を顔をカヲルに向けシンジは言った。

「…ありがとうカヲル君」

「シンジ君が二人の奥さんをもらったことに対するささやかなお祝いだよ」

他人にはわからない会話をする二人。

 

 

結婚式は終わった。

ミサトは目元をこすって涙の残滓を払うと背筋を伸ばす。

「さて、と。総員作業開始!!」

ミサトが命令を発した。

礼服のまま職員達が一斉に行動に移る。あっという間に仮の教会が解体され、次々にテーブルが、料理が、飲み物が運ばれてくる。

「さ、さすがにネルフの仕事は違う…」

ケンスケが唖然として呟く。

ものの10分も経たない内に結婚式場は野外パーティ会場と化していた。

「さぁみんな準備はいい!?」

シャンパンの瓶を振り回しながら確認するミサト。

『おおーっ!!』

瓶を構えて答える職員達。

既に花婿と花嫁を包囲して退路を塞いでいる。

「い、いつの間に」

恐怖を覚えるマユミ。

「じゃ、いくわよ!! シンジ君アスカおめでとう!!」

ポーンという音と共に栓が抜けるとミサトの瓶からシャンパンの雨が二人に降りかかる。

『おめでとう!!』

続けて包囲部隊から一斉にシャンパンが花嫁花婿に降り注がれた。

特務機関ネルフ本部作戦部長葛城ミサト一佐。

彼女が時に宴会部長と呼ばれることを知る者は………案外多い。

数分後には飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎと化していた。

 

(…さすがだわミサト。)

相変わらずの親友の手並みに感心するリツコ。

「いいんですかゲンドウさん?」

この有様は法王も見ているのだ。

「ああ、問題ない」

指で眼鏡を持ち上げるゲンドウ。既にいつものポーズを取り戻している。

 

「コホン」

冬月の咳払いで瞬時に凝固するミサト以下一同。条件反射とは怖いものがある。だが冬月は微笑んでいた。

「…今日は無礼講だ。飲食費もネルフ持ちだから心ゆくまで楽しんでくれたまえ」

そう言ってマイクのスイッチを切る。

『おおーっ!!』

「さすがは碇司令に副司令、太っ腹!!」

ミサトが喝采を送ると副司令は軽く手を振って応える。

やんややんやの声援が送られる。

(…さすがは葛城君というところだな。)

なにもミサトは作戦能力のみでネルフの幹部を務めているわけではない。

『では、私はこれで失礼するよ』

『よろしかったらご一緒にいかがです?』

『やめておこう年寄りには荷が重そうだ。それに早く帰らないとうるさいのでな』

そう言って法王は笑った。

『そうですか…ありがとうございました猊下』

『君たちに祝福を』

十字を切ると法王は一人静かに会場を去っていった。

 

 

法王を見送って戻ってきた冬月にマヤが声をかける。

「あ、副司令こちらへどうぞ」

マヤが手を引いて自分たちのテーブルに連れて行く。

テーブルにはきれいに盛りつけられた料理とジュースが並べられ、マユミとレイがちょこんと座っていた。

「…年寄りがいては落ち着けないのではないのかね?」

「そんなことありません! あっちのどんちゃん騒ぎよりよっぽど安心です!」

力説するマヤ。

「確かにな」

(…私がいれば安心ということか。それはそれとして伊吹君も変わったものだ。もっとも彼女に限ったわけではないがな。)

ゲンドウや冬月に留まらずネルフの多くの人間が変わった。無論、それはシンジのせいなどというものではないのだが変わったという事実に変わりはない。

(…いずれにしても喜ぶべきことなのだろうな)

そんなことを考えつつ冬月は腰を下ろした。

「あの、この度はお招き頂きありがとうございました」

偉い人だと察したマユミが立ち上がると挨拶した。

(…礼儀正しいお嬢さんだな。)

いろいろな人間が集まってくる。それはきっとあの二人のせいだろう。

「いやいや招待したのはシンジ君達だよ。ま、楽にしたまえ。先程も言ったように今日は無礼講だしね」

「はい、ありがとうございます」

そう言ってマユミも座り直す。

(…ネルフの偉い人ってやっぱりミサト先生みたいな人ばっかりじゃなくてちゃんとした人もいるのね。)

ミサトが聞いたらビール樽に放り込まれそうな感想を抱くマユミ。

「冬月のおじちゃま、こんにちは」

レイもマユミの真似をして礼をする。とはいっても椅子の上に立たないとテーブルの上に顔が出ない。可愛らしく微笑ましい光景だ。

「ああ、こんにちはレイ」

「さ、どうぞ副司令」

マヤが料理をよそった皿を手渡す。

「ああ、ありがとう」

こうして冬月は歳の離れた3人の美女・美少女に囲まれて楽しい一時を過ごした。

 

 

「こーりゃーしゅじゅはら。そこに座りなしゃい!」

赤い顔でトウジに説教を…してるわけではないらしい。

「堪忍してや委員長」

「あちゃしの酒が飲めにゃいっての!?」

「そ、そうは言って…」

「男らしくにゃいわよしゅじゅはら!」

どうやら絡み酒のようである。一緒に酔っぱらってしまえばいいのだが最初に出遅れるとなかなか入れないものだ。

「とほほ、酒癖が悪いでヒカリ…」

 

 

「こらカヲル! 何一人だけ白い顔してるの!」

こちらも赤い顔のマナ。もっともヒカリと違って強いようだが…

「いやマナ、これは生まれつき…」

カヲルはアルビノでなくなったのだがそれでも確かに白い。もともと日光の下で生活するようになったのはここ1〜2年のことだから仕方がないと言えば仕方ないのだが。

「わかりました。飲みが足りないんですね?」

そういって並々とワインを注ぐ。多少は理性が残っているようだがやっていることはヒカリと大差ない。

「はははは………」

(…本当に好意に値するよ、マナ。)

 

 

「こら! 加持、何逃げようとしてんのよ!!」

加持が振り返ると料理の乗った皿が飛んで来た。加持は慌ててそれを受け止める。

「いや、俺は仕事がだな…」

警備状況を確認するのも大事な仕事である。加持は間違いなく勤務中なのだ。

前回はシンジにまかせっきりであった。だから今回はと思うのだが…

「下手な嘘ついてんじゃないわよ!!」

酔った女房には通用しないらしい。自分を加持と呼んでいる辺りたぶん説得は無理だろう。

「やれやれ…」

受け止めた皿から鳥の足をとると仕方なく加持は座り直した。

ここもいずこも女は強い。

 

 

「あー俺のカメラーっ!!」

ここぞとばかりにみんなの醜態を撮影していたケンスケ。だがミサトに飲まされて暴走中のペンペンがカメラをかっぱらいそのまま走り始めた。宴会場を舞台に壮絶な追跡劇が開始された。

「クェーツ!! クェーッ!!」

「ま、待てー!!」

「クェーツ!! クェーッ!!」

懸命に追いかけるケンスケだったがペンペンもまた日頃レイとの追っかけっこで培った足腰の力に物を言わせ逃げ回る。

 

 

「う、う、葛城さん…」

「いい加減諦めが悪いぞお前。人の女房になっちまったんだからな」

「るるるるるるるる…」

「はぁ…まぁ飲め」

相も変わらず酔うと愚痴りだす日向とそれを慰める青葉。結構いい友人だったりするのだが…

「ごくごくごく、ぷはー!」

「うぇ、酒くせー」

どうにも我慢できないことも当然あるらしい。

 

 

 

 

 

「はい、ゲンドウさん」

リツコは隅の席にゲンドウを座らせるとコップを持たせた。だがリツコの持っている瓶を見てゲンドウが口を開く。

「………リツコ」

ゲンドウはここ何年も禁酒を続けている。だがその理由を知っているリツコはみなまで言わせない。

「今日はおめでたい日ですもの」

(…あの子達のために)

「だから、どうぞ」

「そうか………そうだな」

ゲンドウは眼鏡をとるとコップを差し出す。リツコがゆっくりと酒を注いだ。

「………」

ゲンドウはしばしそれを眺め、一息で飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場の垂れ幕の裏側。湖のそばにウェディングドレス姿のままでアスカは座っていた。

ザッ、ザッ。

草を踏む音と共にシンジが現れると手の中の荷物を差し出した。

「はい、アスカ」

「サンキューシンジ」

布に包んだサンドイッチとシャンパン。

しっかりグラスまで確保してくるマメなところがシンジだ。

少し可笑しくて笑うアスカ。

「なに?」

「なんでもなーい」

「そう」

「うん」

アスカは自分が確保しておいたテーブルクロスを地面に敷く。

シンジがその上に戦利品を並べていった。

「ちゃんと3つあるわね?」

「もちろん」

グラスを3つ並べてシャンパンを注ぐ。

アスカがハムサンドをとりシンジがタマゴサンドをとる。

残った野菜サンドがグラスの横に置かれた。

「ほら、あんたも仏頂面下げてないで出てきなさいよ」

「そうだよ、今日ぐらいはいいんじゃないかな?」

二人はそう呼びかけるとじっと待った。

シャンパンの泡が一つまた一つと消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょこんと二人の前に座った少女。

膝の上にはブーケがのせられている。

風に水色の髪が揺れた。

野菜サンドを一口かじると少女はつぶやく。

「…おいしい」

少女は紅い瞳を二人に向けて………笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高のプレゼントだね」

少女が今まで座っていた場所を見つめてシンジが言った。

わずかなくぼみを残す他は影も形もない。

シャンパンの残りをグラスに注ぐとアスカに手渡す。

「ありがと…それにしてもいちいち呼ばなきゃ出て来ないなんて面倒な奴ね」

言っていることはきついが表情は柔らかい。

「仕方ないよ、綾波も忙しいんだから」

苦笑して呟くシンジ。

「………本当かしら?」

疑いの表情を浮かべるアスカ。

『クスクス』

微かに届く笑い声。

むっとするアスカ。

「あーあんたまた笑ったわね!?」

『…』

答えはない。

「こらー出てきなさーい!!」

辺りを見回し叫ぶアスカ。

「だから綾波は忙しいんだってば…」

「これのどこが忙しいのよ! だいたいリリスとしての魂は消えたんじゃなかったの!?」

核心を問うアスカ。

「それはそうなんだけど…」

それはシンジにもわからない。

リリスとしての魂は消えるとレイ自身が言ったのだ。

しかもヒトとしての魂はもう一人のレイとして今を生きている。

では、二人の前に現れたレイは何なのか?

「そうなんだけど、何よ?」

口をとがらせるアスカ

「…いいんじゃないかな、それで」

微笑むシンジ。

…綾波がいる。レイもいる。それでいいんじゃないかな

アスカもふっと顔をゆるめるとシンジの腕をとった。

「…そうね、ま、いっか」

…感謝しなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーブルクロスの上に寝そべる二人。

幕の向こうではまだ喧噪が続いている。

「シンジ」

アスカがふと言った。

「なに?」

顔を向けるシンジ。

「私を幸せにしてね」

「僕の幸せはどうなるの?」

「私が一生そばにいるのよ、これ以上の幸せはないでしょう?」

そう言って笑うアスカはとても綺麗だった。

「そうだね」

心の底からそう思うシンジ。

…幸せになろう

…生きて、生き続けて幸せになろう

「シンジ」

「なに?」

アスカは手を伸ばすとシンジの手を握りしめた。

「好き…愛してる」

「…うん。僕も…愛してる」

そっとアスカの手を握り返す。

「「ふふっ」」

 

 

 

 

 

『…おめでとう』

優しい風が二人に祝福の言葉を贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終幕

 

 

 

 

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