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俺は松田の通夜に出た。
皆学生服を着て、きちんと整列をし、俺はその列に交じりながら、笑顔の遺影を眺めた。
なんだかギャグみたいだった。ついこの間まで、俺と馬鹿話をしていた奴が、今はこの世にいなくて、もう二度と会うことができなくなって。
なんだそれ。
通夜の最中、俺はずっと遺影を眺め続け、以前あいつが言っていた質問を思い出していた。
”俺が死んだら一体何人が泣いてくれるだろう?”
俺は遺影から視線を放し、周りを見た。
予想はほぼ当たっていた。家族は泣き、女たちも泣いていた。
ただ、橘は号泣どころか全く涙を流していなかった。小林も同様。俺も同様だった。
視線が合った時、「これってなに?何の冗談?」という表情だった。しかし、それも一瞬で、三人とも視線をそれ以上合わせるのを避けていた。会話も避けていた。
俺達は何かが通じてしまうのを恐れていた。
俺は屋上にフェンスや新しい南京錠が取り付けられる前に一度一人でそこへ行った。
松田が死んで3日後だったと思う。
飛んだと思われるところには、花束があった。
そして、あいつがよく売店で買っていたカツゲンとやきそばパンも置いてあった。
俺はそれを一瞥だけして、いつもの貯水タンクの裏に行った。
いつも通り座って煙草に火をつけたときに、ふと吸殻が目に入った。
ショートホープだった。
俺はそれを摘んで、思わず笑った。
「お前だって噛んでんじゃん」
細く短い煙草の口の端は、噛み潰されていた。
俺は松田がいつもはこんな吸い方をしないことを知っていた。
なあ、俺が死んじまったら
何人が俺のために
泣いてくれるんだろうな。
ふと、思い出した。
煙草が口から滑り落ち、コンクリートの上で火の粉が跳ねた。
俺は膝を抱えた。
泣いてしまった。
松田の為だったのかどうかは分らない。理由なんて知るか。ただ涙が止まらなかった。
人が死んで、これほど泣いたことはない。
なんであいつは、間違って死んでしまったんだろう。
なんであいつは、高校に行けないんだろう。
あいつが死んで俺が死なない違いって一体何なんだろう。
今だに俺は分らないけど、たまに松田を思い出すと、いつも少し泣いてしまう。そして次の瞬間笑ってしまう。
ばーか、マジになってんじゃねーよ。
俺の中の松田はそう言って最期には笑っていた。
了
実は小学生時代、学くんという子が事故でなくなり、その鎮魂も兼ねてます。(事故内容は全く違うのですが)
突然訪れる理不尽な死と、それを経験した者の永遠なる自問自答がテーマ。
夜中に聞く死の連絡ほど、頭が真っ白になるものはありません。
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