※このページは郁カイリのホームページの一コンテンツです。
以下の小説にはBL・やおい・耽美と呼ばれる表現が含まれています。

お邪魔虫ですまん

2/2

「なに考えてる?発情したか?」
 俺の煽りを受けて愛甲は満更でもないように唇をゆがめると、鼻で笑いながら作業を再開した。キータッチの小気味いい音を聞きつつ、俺は気になっていることを尋ねてみた。
「お前さ。実際どんな女が好みなわけ?やっぱりすぐやらせてくれるやつ?」
「好きな女を表現してるとは思えねぇな。だからお前は駄目なんだよ」
 本気で軽蔑しているらしく顔を歪めた愛甲の横顔を見ながら俺は愚痴を言った。
「お前がいうな。俺が白石さんのこと好きなの知ってるくせによくもまぁ」とそこまで言って思い出した。「あ、そういや彼女Cカップだったな。俺の勝ちぃ」
「分かってるよ。見えたか?パットの厚いコト!あれじゃあ騙される。詐欺だ詐欺。お前よかったじゃないか。騙される前に真実に気づけて」
「何言ってるんだ。俺は騙されちゃいなかったよ」
 俺はそう笑いながら奴に手を伸ばした。ネクタイの結び目に指を入れ結び目を解くと、愛甲が横目でこちらを見る。いったい何を始める気だ?と面白がっている奴の長い腕にネクタイをぐるりと巻きつけ、手首を拘束する。
「お前はこういうのが好みか?」
 愛甲はまだまだ余裕らしく鼻で笑いながらも拘束された腕のままキーボードを叩き続けている。俺は何だかつまらなくて、何かないかとデスクの引き出しを開けた。
「おいおい。何する気だ?」
 がちゃがちゃと引き出しの中を引っ掻き回した俺を見て愛甲は不安げな声を上げる。しかし逃げようとしないところが奴らしい。
 俺は引き出しからハサミを取り出すと、それをわざと動かして鳴らしてやった。シャキシャキと小気味いい音がするこれで奴の布を切り裂こうという算段だ。
「待て待て。いったいこのスーツがいくらすると思ってるんだ?オーダーだぞ?」
 本気で慌て出した愛甲を見て俺は笑い出しそうになった。普段スカした奴の動揺ほど面白いものはない。
「誰がそんな分厚い布を切ろうとするかよ。シャツだよシャツ」
 後ろから抱きしめるように奴の身体に手を回して膨らむ点を指で定めると、動くなよ、と俺は愛甲の耳元で囁いた。胸が呼吸で上下する。
 俺は舌なめずりしながら遠慮なく横一線にハサミを入れた。
「うわ、ホントにやりやがった」
 一線いれただけでは、奴の肌どころか乳首すら拝めないので、俺はハサミをそのままくるりと回転させた。
「ばっ、今刃がかすめた!切れたらどうする」
 慌てた愛甲の台詞どおり、回転したときに何か刃先に当たった感触がした。さすがにまずいと俺はハサミを抜き取ると、愛甲の体をこちらに向かせた。手は拘束してるので奴の腕の輪に頭を突っ込み、シャツの隙間から胸を覗いた。血まみれになってたら怖いから恐る恐る、だが。
 緊張しているのか奴の乳首はぴんと張っていて、ぷっくりとしていて美味しそうだった。しゃぶりたくなった俺を許してください。
「ぁ、あっ」
 舌でこねて鋭く吸い込むと、愛甲は思わず声を上げた。
「切れてたのか、っんぅ」
 ちゅうちゅう吸う俺の行為を誤解しているのか奴は不安げな声を上げつつも首をそらして息を吐く。俺の舌の動きは意図的で、舌の先で乳首を転がし、潰し、吸い付く。
「このッ、ホモ野郎が、っぁ」
 文句言いつつもしっかり固くなっている股間に俺は満足する。ゆっくりとジッパーを下げると、愛甲の大きなものが飛び出してきた。先ほどイっていないだけに元気一杯だ。
 俺は顔を上げて間近で奴を見返した。愛甲の拘束されている腕が俺の襟足に触れて、奴が誘うように手を回しているような錯覚を受ける。
「お前の方こそもう女じゃ刺激足りないんじゃないの?さっきだってイかなかったよな?」
 ゆるゆると愛甲の鈴口を虐めながら、唇が触れるか触れないかの距離で話をしていると、互いの体温が上がっていくのが分かる。現に、愛甲のあそこからは粘度のある液が溢れてきて指を濡らした。ねちゃねちゃと湿った音が耳に届き、奴は酔った様な吐息を漏らした、わりには続けて口から飛び出した内容は現実的だったが。
「ぁ、だ、だからお前は阿呆なんだよ。いくらゴムをつけてたってな。イっちまったら最後、面倒なことになるんだ、んっ」
 つまりゴムというのは百パーセント安全ではないというのだ。そこにつけ込んで、やれ妊娠しただの、誠意がないだのと過去もめたことがあるらしい。ご苦労なこった。
「前立腺刺激の方が安全だし、よっぽど気持ちいい。俺の理想は、ぁっ、はっぁ、妊娠しない女を抱きながらバイブで自分のケツを刺激することだよ。想像するだけでイきそう、ぅん」
 いくらなんでもぶっちゃけ過ぎだろう、と俺は少し鼻白んだが、奴がバイブの刺激で目を潤ませながら必死に腰を振る姿は中々いい。あれ。しまった俺も末期か?
「女は帰ったが、俺のでよければ使ってみない?」
 俺は囁くように誘い、自分のものを取り出した。椅子に腰掛ける奴の中心に俺のをすり寄せると、ごくりと愛甲が唾を飲むのが分かった。
「いい動きするんだろうな?」
「もちろん損はさせない」
 俺は自信を持って頷き、先ほどからしゃぶり付きたかった愛甲に唇を寄せた。
「ぁあ、ん、っふ」
 開き直った愛甲のエロさは異常だ。ちょっと前まで俺のことをホモ野郎だのなんだのと罵っていた男とは思えない。積極的に俺の舌を口中で絡ませて、首元にある手は明らかにぐいぐいと俺を引き寄せている。まあ俺の方も望むところで、奴の一物と触れ合っている部分が妙に熱くて、たまらなくて、腰が勝手に上下に動いていたんだが。つまり、俺たちは暴走していて、前後不覚で、周りの状況など目に入っていなかった。だから、ぐらりと安物のパイプ椅子が悲鳴を上げていることにも気づかなかったのだ。
「ぁッ?」
「あん?」
 二人で抱き合いながら目を合わせた時には、重力に逆らうことは出来ず、けたたましい音をたてながら椅子と共に俺たちは床へと叩きつけられていた。
「ぅつう!」
「おい大丈夫か?」
 俺は愛甲がクッションになったせいで痛くも痒くもなかったが、下敷きになっている奴の痛みは尋常じゃないだろう。しかも腕は俺に絡みついているから顔を歪め身をよじっている。
「頭打ったか?」
「頭より腰が、っ痛。おい、さっさとどけ」
 先ほどまで甘いムードだったというのに、愛甲は腕を外し、ぞんざいに俺の腹を蹴飛ばしてきた。俺が離れると、頭を抱えながら悶絶してる。見ればお互い興が削がれてしまい、明るい蛍光灯の光も相まって一瞬にしてしぼんでしまっていた。こうなると、襲ってくるのは羞恥心のみである。この空気をなんと表現すればいいのだろうか。いや、俺たちはホモなんかでは決してなく、ちょっと悪ノリが過ぎたというか。そうだよ。もともとの元凶は、愛甲の奴が神聖なオフィスで淫らな行為をしていたからそれに触発されてだな。って俺だれに言い訳してるんだ。
 俺は照れくさくなって倒れた椅子を元に戻し腰を下ろした。もちろん股間のものを仕舞って、だ。ぐるぐるとパイプ椅子を回転させながら、文字通り俺もぐるぐる考えていると、急にそのスピードががくんと落ちた。見れば、床に座ったままの愛甲が足で椅子の回転を止めている。
「遊んでないで、さっさとこの腕を解いてくれ」
 不愉快そうに腕を伸ばしてくる奴の姿は実に間抜けだった。股間からは縮まって頭を垂れた一物が、切られたシャツの隙間からは涎で光った乳首が見えた。こんな姿は中々見れるものじゃない。女が惚れるのも分かるくらい男らしくて逞しくてクールな男が、実は快感に弱いことを俺は知っている。細く開いた唇から熱い吐息が漏れて、尻に受け入れたものを深く深く飲み込もうと自ら進んで腰を動かしたり舌を絡ませたり。
 俺は過去の出来事を思い出して口の中がカラカラになった。乾いた唇を舐めると、目の前の愛甲は眉間に皺を寄せた。
「おい、お前、何考えてる?」
「なんだと思う」
 俺は自分の息子が復活したことを意識して立ち上がると、床に座ったままの愛甲を押し倒した。奴は呆れて怒り「俺は繊細なんだよ、馬鹿野郎が」と暴れたが、逞しいこの男が本気で抵抗すれば俺なんか太刀打ちできるはずがないので、ただの茶番なのだと分かっていた。
 しかしながら繊細だという奴の主張は正しく、大胆なわりには傷つきやすい男というのも事実だった。転倒して我に返ってしまった今、奴をその気にさせるには。
「お、おい、お前、」
 俺は愛甲の動揺した声を聞きながら、奴の股間に顔を埋めた。小さく縮こまったそれを手で包んでもみ上げ、口に含む。
「ば、おま、本当にホモになったんじゃ、ぁあっ、」
 我ながらどうかしている。野郎のアソコを舐める日がくるとは思わなかった。もし舐めるなら女のものを舐めたかったよ、俺だって。しかし、愛甲が低い声で喘いで、それに呼応するように股間のものが大きく膨らんでくるのを見ると、何ともいえない充実感が湧いてくるんだから困ったものだ。二つの膨らみを口に含んだり、竿を下から舐め上げると、奴はがくがくと震えて、拘束された手で自分の顔を覆っていた。それは眩しいからなのか、照れからなのか。一体どんな顔をしているのかと腕をどけてやると、奴は顔を見せまいと横を向く。何度も顔を避けられ、俺は笑いを堪えるのに必死だったが、それならそうと首筋に舌を這わせる。
「ぁっ、」
 思わず上がった声で俺はたまらなくなった。強引に愛甲の頬を掴むと、驚いて目を丸くした奴の唇にしゃぶりついた。しゃぶりながら奴の乳首や股間を刺激してやると、ようやく愛甲もノッてきたようだった。口内で俺の舌をからめ取ってくる。そうこなくては。
 俺は遠慮なく奴のズボンを引き下ろすと、デスクからハンドクリームを取り出した。ゆるりと蕾に指を滑らせると、ひっと引きつった声が上がる。ずいぶんご無沙汰だったらしく、キツく締まっているそれを段々ほぐしていくのも俺は楽しくて、今にも鼻歌が出そうだった。
「ずいぶんご無沙汰みたいだけど、最近遊んでないの?例のオモチャで」
 例のオモチャというのは、愛甲が自慰の時にアナルを刺激する大人のオモチャだ。俺がそれを見つけたばかりに、俺たちはこんなことを続ける切っ掛けになったわけだが。
「毎日毎日っ、してると思うなよ。今は、ぁあ、新しくバイブを」
「え?」
「ネット通販で注文したんだ。バイブレーションさせながら、前後に動かしたら、きっと」
 俺は、奴が仰向けに寝転びながら両足を上げて、穴にバイブ突っ込んで前後に動かす様を想像してしまった。いや、そんな想像をしたのは俺だけではなかったらしい。愛甲の竿がぴくりと揺れて、指を咥える蕾の奥もうねった。
「じゃあ今度はそれで遊ぼうか。俺が動かしてやるよ。こうやって」
 俺はぐりぐりと奴の内臓を刺激した。前立腺らしい場所をダイレクトに触られて、奴の腰は跳ね上がり、「あ、高嶋っ、そこは、っん」と嬌声を上げる。
「気持ちいいか?」
「ぁああ、すごくいい」
 とろんとした目つきで愛甲が息絶え絶えに呟いてきて、俺はすごく満足した。そうさ、こんな風に愛甲を快感に溺れさせることができるのは俺だけなんだという満足感。それと同時に頭の端を掠める疑問符。俺は誰と張り合ってる?
「ぁ、ああっ、高嶋ぁ、きっつっ」
 妙な感情を振り払うように俺が強引に腰を進めると、愛甲が眉間に皺を寄せながら悲鳴を上げた。まだ解し方が足りなかったのかもしれない。いや、潤滑用のハンドクリームが足りなかったのかも。
「悪ぃ」と謝ると、愛甲は冷や汗を全身にかきながら「言い方が軽いんだよ、てめぇ」と文句を言ってきた。汗の浮いた男らしい顔。高い鼻梁。二重の瞳。筋張った太い首。
「かっこいいな、お前」
 思わず見とれてそう呟く。
「あ?」
「いい男だよお前」
 俺が奴を見下ろしながら再度褒めると、愛甲は得意げに口元を歪めた。
「今更分かりきったことを」
 そうだな、と俺は笑った。こいつの魅力が男も女も引き寄せるのだ。そういうことにしておこう。
 奴と目を合わせながら、ゆっくりと腰を引いて素早く突く。波の様なリズムで腰を動かすと、愛甲の目が細められて、眉間に皺が寄る。それは苦痛ではなく快感へのサイン。
「ぁ、いい・・・高嶋」
 もっともっと、と心の声が聞こえる。いや俺が欲しがっているだけなのかもしれない。現にこのペースは拷問に近い。痛がっている愛甲を気遣ってはみたが、もう限界だ。
「あ?っひ、あ、っああ、深っ、あ、すご、ぅん」
 俺が自分の快感に引きずられて腰を狂ったように叩きつけると、愛甲は貪欲に受け入れてくれた。拘束している手は俺の頭をかきむしり、引き寄せ、顔と顔を寄せ合った。腰を動かしながら互いの唇を貪る。目を合わせながら、舌を出して、からませあう。
「ぁふ、ぅん、ぁはぁ、た、高嶋、も、もう」
 キスの合間に喘ぐ声を聞きながら俺は急速に駆け上がってくる射精感を堪えるのに苦労した。なんだろうね、男としての意地なのか、こいつより先にイきたくないというか。しかし我慢も限界で、ぶつ、と何かが切れた感覚がして最高潮の快感の波が訪れた。俺は思わず「あぁあ」と呻き、俺のイった数秒後に、愛甲もぶるっと震えた。蕾が最後の一滴まで絞り取るように締め付けられ、俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。
 いや。
 事実照明が落とされて目の前が真っ暗だ。ほんのり窓から入ってくる月明かりだけが俺たちを照らしている。
 俺は射精した虚脱感を抱えながら、今の状況を考えていた。いっぱい出してすっきりした、じゃなくて、今まで打ち込んだデータは一体どうなった?保存してあれば、電源が落ちたぐらいで影響はないはずだが、と目の前の愛甲を見返すと、奴は馬鹿にしたようにニヤニヤ笑っていた。
「愛甲、明日も手伝って・・・くれるわけねぇよな」
「当然だ」

読了ありがとうございます!

もし作品を気に入って頂けましたら、下のWEB拍手にてご感想お待ちしております。

template by AZ store