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以下の小説にはBL・やおい・耽美と呼ばれる表現が含まれています。

リズム(仮)

3/3

 ところが運命っていうのは皮肉なもんで、多田さんは決算期に入ってしまった。つまりはただでさえ顔を合わせないのに、彼が連日残業に入ってしまったものだから、ますます会えなくなってしまった。この月日は長い。俺はこの間、悶々と「多田さんに会いたいなー。会いたいなー」と主人を待つ忠犬のようにじっと大人しく待っていたんだけど、いつの間にかケツブームが去ってしまっていたみたいで、上手い具合に仕事が忙しくなったこともあり健全で充実した日々を送っていたわけだ。
 だからようやく多田さんの仕事が一段落したその日、反射的に多田さんを飲みに誘ったのはいいけど、なんで話しベタな地味な人を飲みに誘ったんだろうと途中まで思い出せなかった。いや、正直にいうと全然思い出せなくて、ただ居酒屋でメシを食って酒を飲んで「ごちそうさまですー」なんて気分よく帰宅してしまったのだ。
 家で満腹になった身体を布団の上に投げ出していると、ようやく四ヶ月前の多田さんのキスを思い出した。仕事のときとプライベートの時でも態度に変化が無く、ゆっくり丁寧に愛撫してくれたっけ。俺はその日そのまま自慰に耽り、ああまた多田さんに触って欲しいなだなんて身勝手なことを思ったのだった。
「ねえ、多田さん、今日うちこない?」
 一度欲望に火がついたら中々鎮火しないものだ。女もいないし、やり場が無い俺は、後日早速多田さんを誘った。居酒屋で大して酒も入っていなかったけど、まあ照れることもなく。
「どうしたんだい?」
「なんかこの前ね、食ってそのまま帰ったんだけど、多田さんのことあの後思い出しちゃって」
「ムラムラしたの?」
 楽しそうに頬杖を付きながら笑う多田さんはいつも通り優しい笑顔で。
「そう。だからね、今日どうかなって」
「いいよ」
 多田さんは断らない。俺はどこかで思ってたからこうやって気軽に誘える。そして絶対気持ちいいよね。美紀ごめん、お前がいつもマグロになっている気持ちが分かったわ。
 そうして俺は多田さんを誘う頻度が多くなった。いい人を見つけた。風俗は病気が怖いし、金が掛かるし、いいことないけど、多田さんだったら夕飯奢ってくれるし、女みたいにべたべたしてこないし、何より優しいしね。
「お前ずいぶん多田に懐いたなー」
 数ヵ月後のある日、秋山主任は最近俺が飲みに誘わないものだからそう拗ねた声を出してきた。正直、飲食だけなら主任の方が楽しい。ただその後のお楽しみがあるぶん多田さんを誘ってしまうだけなんだけど。
「嫉妬してんですか、主任?」
「おー。俺も誘ってくれ」
「はは」
 俺たちがいつも通りに終業時間を過ぎてそんなじゃれ合いをしていると、経理のドアが開いた。多田さんが頭を下げて「お先に失礼します」と挨拶。俺はいそいそと近づいていく。そしてお猪口を煽る仕種。
「今日もどうっすか?」
「キミも好きだね」
 多田さんは優しく笑ってそう返す。俺は「ヤッター」と浮かれて笑うと、いつもと違うことが起きた。今まで椅子に座って傍観していた主任が俺たちの間に割って入ってきたのだ。
「よぉ多田。今日は俺も奢ってくれ」
「どうしたんだ?」
「嫉妬してんの」
「へえ?」
 多田さんの目がすぅと細くなって、俺はぞくっとしてしまった。一瞬のことだったけど、なんか多田さんじゃないみたいだ。
「えー。主任も一緒すかー?」
 俺は何だか気分が悪くなって多田さんの腕につかまると「俺がいちゃ不満なのかよ」と言われる。正直不満だ。多田さんは俺のものなのに。
「いいさ。お前ら一緒に面倒みてやるよ」
 俺はぎくりとした。一緒ってどういうこと?まさかお楽しみに主任も加える気じゃないよな。なんて俺は邪推してしまったけど、多田さんは同期の秋山主任にはこういう喋り方をすることを思い出す。
「おうおう。面倒見てくれー」
「面倒くせぇ」
「ははは。おい、梶取いくぞぉ」
 俺を無視してどんどん歩いていく二人。俺は何だか蚊帳の外で、その後の居酒屋でも全然楽しくなかった。何だか多田さんも俺と話すよりも全然親しげに相槌を打ったりして、もしかしたら二人で飲んだりセックスするのが楽しかったのは俺だけだったのかな。と少し落ち込んだのだった。
 居酒屋の後に主任が「もう一件」とダダをこね、結局彼はへべれけになるまで飲みまくった。後半は何度同じ話がループしたことか。でも多田さんは丁寧に相槌を打ち続ける。
「どうしたの、酔っちゃった?」
 秋山主任がトイレに立った時に、多田さんが聞いてきて我に返った。いつもマシンガンのように話しまくる俺が沈黙してたから心配してくれたようだ。
「酔ってないです。ちょっと面白くないだけ」
「面白くない?」
「主任ですよ」
「まあ確かに同じ話が続いてはいるけどね」
 多田さんはそう優しく苦笑して、俺はますます面白くない。
「そうじゃなくて。どうしてオーケーしたんすか。いつも二人なのに」
「どうしてって」
 俺の質問に多田さんはキョトンとした顔をした。「別に三人でもいいじゃない」
 その言い方は本気でそう思っているようで、俺の頭は真っ白になってしまった。確かに飲みにいくのに二人じゃなくてはいけない道理はない。ないけど。特別な関係だと思ってたのは俺だけだったってこと?
「俺は!」
 何だか悔しくて声を上げたら、多田さんは目を丸くした。
「俺、多田さんのこと好きなんですよ」
「うん?僕も好きだよ」
 テーブルに頬杖を付いてくすくす笑う多田さんは何を今更といった風。何だろう。いつもは優しく癒される笑顔が今日は無性に腹が立つ。
「違うんですよ。俺、多田さんにとって特別な人間だと思ってて、なのに今日あっさり主任なんか加えちゃって」
「あー」と多田さんは納得したように笑った。そして俺の耳元で「今日もしたいんだね?」と囁いてきた。吐息が温かく、湿っていてヤラシイ。
 俺は、かあっと顔が熱くなるのを感じた。そうなんだけど、そうじゃない。俺は喚き散らしたい気分だったけど、喉に何かが支えて声にならなかった。俺が出来たのは小さく頭を縦に振ることぐらいだった。
 俺の意向を察した多田さんの行動は早かった。酔っ払った主任をタクシーに詰めて、いつも通りに俺の1Kアパートに行く。
 ドアを開けて中に入った途端に俺は多田さんに抱きついてしまった。キスがしたくて彼の唇にむさぼりついて、早急にネクタイを外してスーツを剥ぐ。
「積極的だね。今日は先導してくれるの?」
 何だか今日は悔しくて、俺は多田さんを落とそうと躍起になっていた。女を相手にするように彼の首筋に吸い付いて、煎餅布団に多田さんを押し倒す。見れば彼はこんな俺を嘲うように余裕の微笑みを浮かべて動向を見守っている。
「彼女抱くみたいにしてくれる?」
 俺はそう言われて美紀のことを思い出した。あの女とはこんな感情になったことはない。他の奴と仲良くなっているのを見てイライラしたりしない。俺は複雑な感情を抱えたまま多田さんの身体を堪能した。シャツの胸を開いて乳首に吸い付き、へその中に舌をいれた。
「ぁ、いいよ。梶取くん」
 多田さんは熱い吐息を吐いて上に乗る俺の頬を挟んでキスをしてきた。俺は普段の地味な人がこんなにエロく誘ってきてクラクラし、けれども頭の端ではもし下半身に触って萎えたらどうしよう、などと色々考えてしまっていた。だって多田さんと違って俺は男なんて抱いたことはないし。
 そんな俺の逡巡も彼はお見通しのようで、キスをしながら俺を誘導してくれた。腰に枕を当てて、下半身にシャツを巻いて、前が見えない状態で足を開いてくる。
「さあ、おいで」
 ああ。俺は熱に浮かされたように彼の足の間に身体を詰めた。俺の一点を多田さんは握って穴に誘導する。
 信じられない。
 俺の時とは違って多田さんのソコは女みたいに柔軟で、確かにきつくはあったけど、すごくいい締め付け具合で、すごく熱い。
「あ、あ」
 俺は抱く側だというのに声が出てしまった。こんな快感知らない。腰が快楽を追って勝手に動く。下の多田さんは俺の勢いに逆らわずに激しく揺れている。長い手が俺の腰を抱いて、もっとくれとねだっているみたいに。
「あ、ん、いい。気持ちいいよ」
「た、多田さんっ」
「うん?」
 甘い吐息を吐きながら聞き返してくる彼はまだまだ余裕があるようで、俺は悔しかった。柔らかい入口は、俺の嫉妬心を煽り立てる。
「どうしてこんなっ。ねえ、誰かとやってんの?こうやって抱かれてんの?」
 俺は思わず叫びながら激しく腰を動かした。我ながらかっこ悪い悲鳴のようで、多田さんは俺の態度に驚いたようだった。
 俺は。
 俺はまた多田さんが優しい言葉を掛けてくれるものだと期待してたんだ。それが当たり前だと思ってた。だから、多田さんの目が細められて冷笑を浮かべたのを見たとき、心臓が激しく波打ち息が詰まった。
「野暮だね。どうしてこの状況を楽しまないの」
 ぐら、っと俺の中で何かが瓦解した。
「・・・そら、もうイきなさい」
 冷めた言葉とともに下半身の一点を意図的に締め付けられ、俺は「ぁ、ああぁ」と声を上げながら射精してしまった。目の前の多田さんは薄く開けた唇の隙間から、くすくすと笑い声を上げた。「かわいいね、キミ」
 俺は、自分が誰を抱いたのか全く分からなくなった。射精でしぼんだ一物を抜き取る時に、シャツの下が見えたけど、多田さんのそれは勃起した後がなくて、俺は情けないのと色々なショックで、立ち直れそうもなかった。

読了ありがとうございます!

こんな展開にする予定じゃなかったんだ…!(笑)多田は本当に優しいエロい人の予定だったんだ。
でもワンコ受も優しい攻めも私にはハードルが高すぎたようです。うっかりドSにしてしまいました。

アンケート

正直ここで終わらせるか続編を書くか迷っております。
それでよろしければご希望を聞かせていただければ幸いです。
1.このまま梶取主人公で、彼が紆余曲折しながら多田の心を掴んでいく話が読みたい。
2.多田を主人公として、本当に彼が恋している相手との絡みが読みたい。(相手は大体想像つくでしょうが…)
…また他の展開を期待している方、など。よろしければ下のWEB拍手にてご感想、ご希望お待ちしております。

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