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以下の小説にはBL・やおい・耽美と呼ばれる表現が含まれています。

リズム(仮)

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慌てて唇を離して多田さんを見ると、どうしたの?と首を傾げている。
「あの、なんかキモい声だして、すみません」
「はは。気にしなくていいのに。梶取くんは彼女とエッチするとき声出さないの?」
「え。俺がですか?」
「そう」
「そんな。出さないですよ。女じゃあるまいし。息切れてぜいぜい言ってますけど」
「はは。分かる分かる」
 多田さんはそう笑うと、俺の肩を優しく押して布団に寝転がした。普段とは逆の視点で俺が新鮮さを覚えていると、上から覆いかぶさってきた多田さんの黒髪が乱れていた。
 俺はふと自分の彼女のことを思い出した。彼女、美紀が、毎回当たり前のように受身になっていることを批判したことがある。こっちが必死に腰を振ってるのに、何の苦労もなく気持ち良くなっているのは不公平だ。お前も俺を気持ちよくさせる努力をしろ、と言ったら平手打ちを喰らったっけ。
「何考えてるの?」
 ネクタイを解かれてワイシャツのボタンを外しながら多田さんは尋ねてきて、俺は素直に過去のことを話した。
「俺なんかやったほうがいいんですかね」
「キミは体験したいんでしょ。いいんじゃない?マグロでいなさいよ」
 ふふ、と笑いながら言った多田さんの目は潤んでいてかなり酔っているようだった。うん、確かに滅多にない機会だから楽しもう、何度もこのひとに頼むわけにいかないし。
 多田さんは俺のシャツの胸部分を開いて、乳首辺りを吸い始めた。そんなことやってもらったことがない俺はどきどきしながらその行為を眺めた。俺に跨ぎながらぺろぺろと舐める姿にこれ以上もなく興奮する。うん、やっぱりこういうことを積極的にやってもらうほうがいいよな、と美紀に対する不満を思い出すと、多田さんは俺のズボンに手を掛ける。
「い、いよいよですね」
 俺がわくわくしながら言ったもんだから、多田さんはくすくす笑いながら自分も脱ぎだした。なんと言うか間近で男の裸を見たのは初めてで、しかも勃起しているそれを見ることなんで初めてで、俺はマジマジと観察してしまった。
「やっぱり勃起してないね。大丈夫?続けても」
 多田さんは俺の目を見ながらそう尋ね、俺は自分のものが大きくなっていないことに今更気が付いた。というか俺が体験したいのは前立腺の快感だったので、今の段階で勃起する必要はないんじゃないかな。そう俺がいうと、多田さんは「でも今日はできないよ」と冷や水を浴びせかけた。
「え、何で!」
 理不尽に断られて思わず飛び起きると、当たり前のように準備不足だと告げられた。
ワセリンぐらいは用意したほうがいいと諭される。確かに普段坐薬を入れるのにも四苦八苦しているのに、いきなりは無理だよなと納得したものの、だったらどうしてここまでやる必要があったのかと白けてくる。
「だから今日は前裁だけ、ね」
 ふて腐れた俺を多田さんは慰めるように、ゆっくりと俺の股間のものを扱きだした。俺の乳首に吸い付きながら、時折キスで舌を絡ませながら刺激されていると、段々下半身が熱帯びてくる。俺が視線を下に向けようとすると止められた。
「見ない方がいいよ。萎えるから」
 そうかな、と俺は思いながら指示通り目を閉じる。ぴちゃぴちゃと胸と腹を舐められて、ふいに股間に熱くて堅いものが当たった。考えなくても分かる、たぶん多田さんの。
 目を開けると、多田さんの微笑んだ顔があって、ゆっくりと股間がすり寄せられる。何だか興奮してきて、一体どんなになっているのか興味あったけど、多田さんは俺をずっと見詰めて目をそらすことを許してくれなかった。
「き、気持ちいいです」
「そ?」
「なんか、もっとして欲しいかも」
 いきそうでいけないことを訴えると、多田さんは少し考えて、「じゃあ目を閉じて。快感に集中してごらん」と言った。なるほど男同士だっていう意識があるからいけないんだな、と俺が納得していると、ふいに上に乗っている体重がなくなった。ん?と目を開けると、多田さんが俺の股間を口に含むところで。
 男とか女とか関係なくそれは刺激的な光景で、わざとちゅぱちゅぱ音を立ててしゃぶる姿を見て俺の中の興奮が弾けてしまった。
「あ、やばい、イ、」
 急速に管を駆け上がる精液を止めることもできず、俺は彼の口の中でそれを放ってしまっていた。多田さんは驚きもせずに受け止めると、ごくんと。
「の、飲んだ」
 俺がびっくりしていると、多田さんは「おいしいよ」とぺろりと唇を舐めた。
「どんな味?」
「興味あるの?」
「あ、いや、なんとなく」
 あるなんて言ったら飲まされそうだと思い曖昧に答えると、多田さんは笑いながら「苦くて渋くて、うーん、ちょっと表現が難しいかな」と生真面目に答えてくれた。
 これでこの日はお終い。お礼にシャワーを貸して、多田さんは帰っていった。普通に「また明日会社でね」と笑い、俺が続きを誘っても誘わなくてもいいような別れ方だった。こういう隙を何気無く作るところが本当に大人だなと思う。
 翌日相変らず多田さんはほとんど経理部から出てくることはなく、帰りに少し見かけただけで、あんな行為をしたというのにこちらに視線すら向けなかった。ただいつも通りに「お先に失礼します」と全体に挨拶をして退社してしまった。俺は何だか肩透かしを食らってしまって、彼にとって俺の誘いというのはただの通り雨程度の感覚だということを知った。まあ、特別扱いされても迷惑だし、ありがたいことなんだけど、なんだか俺は少し悔しかった。
 数日後に俺はまた多田さんを誘うことに成功した。帰り際に、酒を飲む仕種をしながら「どうですか、今日?」なんて声を掛けた。多田さんは「いいね」と笑って答えてくれて、俺たちは前回と同じように酒を浴びるように飲んで、酔った勢いで身体を重ねた。今回はワセリンも買ってあったし、いよいよ未知の世界へ、とわくわくしたんだけど。
「そんなに簡単なものじゃないんだよ」
とまたもや多田さんに諭された。
 俺は言っている意味が分からなかったけど、いざ布団に転がされて、尻の穴を刺激されて飛び上がった。
「い、いたたっ」
「ほら梶取くん、力入れないで、すってーはいてー」
 腰に枕をあてがって足をおっぴろげている姿はまるで出産みたい。っというか力抜くとか無理。
「大丈夫、今少し入ってるよ」
 分かってる。解説しないで欲しい。なんかケツに挟まってるのは感じるから。
「今日は第二間接までいってみようか」
 こういう言い方ってすごく恥ずかしい。何だか俺何やってんのかな、って酔っている頭で冷静になったりする。しかも段々腹が痛くなってきたし。
「あのー多田さん」
「ん?」
「あのっ、ちょっとタンマ、ストップ」
 俺は排泄感を覚えて慌てて多田さんの頭を押した。股の間から顔を上げて、多田さんが「どうしたの?」と問いかけてくる。
「腹が」
 まさかこのままやってクソを漏らすわけにもいかない。っていうかこういう時にそういうことを言うのは失礼というか萎えると思うんだけど、事は緊急を要することで。
「おっと。早く行っておいで」
 察した多田さんは慌てた俺を優しく見守ってくれた。俺は駆け足でトイレに飛び込み排泄を完了したわけだけど、座ったまま頭を抱えてしまった。なんか俺、すごく失礼なんじゃ。
 とぼとぼ部屋に戻ると、多田さんは布団の上に座ったままこちらを見上げた。
「すっきりした?」
「あ、はい」
「続きは今度にしようか?」
 項垂れた俺を察するように多田さんは優しくそう言ってくれた。
「・・・ハイ」
 何だかバツが悪くて見送る時も落ち込んでいたけど、彼は何も言わずに帰っていった。なんというか、ちょっと淋しい。
 俺はすぐにリベンジをしたかったのだけど、この後ややしばらく多田さんと顔を合わせる機会がなかった。すれ違いが多くて、いや、通り過ぎるときに目が合わないというか。元から合わない人なんだけど。
 会いたいときに会えないと、人は益々貪欲になる生き物らしい。なんと言うか意地になってくる。彼と会えないときは大抵美紀に会ったり電話したりするんだけど、ついつい愚痴ってしまう。
「っていうかその人なんなの?」
 ついに美紀が腹立たしげに切れ出した。
「え?だから経理の」
「じゃなくて。あんた異常だわ。好きなんじゃないのその人。ホモ?」
「何言ってんだよ」と言いながらも、ああそういえば多田さんは男ともやれるわけだから完全否定ではないな、と。それにしてもこの女は本当にいつもイライラしているな。八つ当たりされる俺の身にもなって欲しいものだ。
「元はといえばお前がだな」
「あたしが何よ」
「お前とのセックスに満足してたら多田さんに頼んだりしてないんだよ」
 俺が喧嘩腰の美紀に対して文句を言うと、彼女の顔の紅潮が一気に引いた。
「なに?あんたまさかマジでその人とやっちゃてるんじゃないでしょうね?」
「まだやってねーよ。色々大変でさ」
 俺が難儀していることを言うと、彼女は怒りを通り越して呆れたらしい。俺の方をろくに見ずに「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、ここまで馬鹿だったとは」とため息混じりに呟いた。
 ハイ。それ以降電話にも出てくれなくなりました。
 俺という人間は、とにかく休日に予定を立ててないと落ち着かない淋しがり屋で、美紀と別れてからというものの暇で暇で仕方がなかった。そりゃあ学生時代の友人と遊ぶこともあるけど、毎週毎週誘うわけにもいかないし。つか今度から多田さんと会ったら次回の約束をして別れるようにしよう。そうしよう。

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