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The first Noel, the angel did say Was to certain poor shepherds In fields as they lay; In fields where they lay Keeping their sheep On a cold winter's night That was so deep. 色とりどりのリボンに金や銀、姫りんごのポマンダー、まつぼっくり。小さなテディベアや天使の人形。 子どもの手のひらに載るほどの、ちいさな飾りがいっぱいいっぱいに積み上げた大きな籠を、やさしい手が差し出した。 「さあ、二人で。相談して飾り付けてね」 寒色であることが嘘のようにあたたかな紫色の瞳が、鏡で複製したようにそっくりな二人の子どもを等分に見比べる。 「…………」 「僕たちが?」 「そう、クリスマスツリーの飾り付け。あなたたちの仕事よ。任せて大丈夫かしら、ユージーン、オリヴァー?」 「ルエラは?」 「私は、することがいっぱいあるの。他の飾り付けもあるし、プディングやケーキも準備しなきゃ。クリスマスの準備は忙しいのよ。あなた達が来てくれて、初めてのクリスマスだから、うんと賑やかに豪華にしたいの」 ね、とにっこり笑った養母に、ジーンは僅かに表情を硬くした。 表情を変えないまま相変わらず口を開かない片割れの手をぎゅっと握って、闇色の瞳がまっすぐにルエラの瞳を見上げる。 「………誰か、呼ぶの?」 彼女は一瞬だけ目を瞠って、それから二人を安心させるように笑った。 二人の子どもをまとめて抱きしめて、やわらかく───つめたい白い頬に一つずつキスを贈る。 「呼ばないわ。クリスマスはね、家族でお祝いするものだから。ユージーン、オリヴァー、あなたたちとマーティンと、私。四人でお祝いするの。………私、とても楽しみにしてるのよ、去年まで二人きりだったのですもの」 ね、と笑いかけて、ルエラは二人の手に籠を握らせた。 「だからね、お願いできる?」 「うん、ルエラ」 籠を受け取ったジーンは、にっこり笑って片割れの裾を引く。全く同じ黒玉の瞳が交錯して、片方がにこりと笑った。 「ナルも良いよね?」 確認と言うよりはむしろ駄目押し。 ナルは軽く溜息をついてから兄の抱えた籠のとってに白い指をかけて、養母に向かって頷いて見せた。 「やってくれるの?ありがとうね、オリヴァー」 「いつまでに?」 「明日はマーティンが大学でパーティだから、今日中に飾り付けをどうするか決めて、足りないものを買いに行って23日のうちには仕上げたいの。今日は二人で、基本的な飾り付けを相談してね」 「あ、デザインするんだね」 「そうよ。デザインして、他のテーブルとかとコーディネートして決めるの。ツリーはあなた達の担当、よろしくね。欲しいものがあったら遠慮しなくていいから、いくらでも言って?いい、オリヴァー?」 「はい」 今まで黙っていた一人から返答を引き出して、ルエラはくるりと踵を返した。 絨毯の上で長いスカートの裾がゆるりと撓む。 「ルエラ?」 「それじゃあね、マントルピースのまわりはあなたたち、ユージーンとオリヴァーに任せたわ。私はキッチンにいるから、何かあったら声をかけてちょうだいね。……そうそう、一時間くらいやってくれたらちょうどいい頃合いになるから、お茶にしましょう。それまで飾り付け、頑張っててね」 やわらかな口調のまま予定を提示して、子どもたちが頷くのを待ってからにこりと微笑む。 ゆっくり立ち上がった彼女は軽やかにキッチンに消えた。 リビングに残ったのは、重厚な石造りのマントルピースと、その斜向かいに据えられた、子どもの倍ほどの背丈のある立派な鉢植えのもみの木。そのそばに置かれた装飾用の雑貨のかごと、仕事を与えられた男の子が二人。 一人がもう一人の顔を覗き込んでくすくす笑い、籠の中から小さな天使とくまの人形を一つずつ取り出して、白い天使を片割れの手に握らせる。 「はい、飾り付けだって、ナル」 「………ジーン」 「嫌、なわけじゃないよね?」 くすり、と。 悪戯っぽく笑って、未だ多分に愛らしい少年はもみの木を見上げた。うんと手を伸ばして、手の届く限り高い枝にくまのぬいぐるみを取り付けて、くるりと振り返る。 「さっさとやらないと終わらないよ。この木、結構大きいから」 「………適当な枝につければいいのか?」 「うん、多分ね♪………たかいとこは届かないから脚立もらって来なきゃ」 「椅子でいいんじゃないのか?ダイニングの」 「それはそうだけど。持ってきてくれる?ナル」 「ルエラに聞いてくる」 「そうだね。じゃ、行ってらっしゃい」 もういちどにっこり笑ってひらひら手を振る片割れに溜息をついて見せて、天使の人形を適当な枝につけると、ナルはルエラがいるはずのキッチンに向かった。 ぱたぱたと駆け回る軽やかな音がする。 軽く瞑目して、ナルは銀製のブックマークを挟んで分厚い本をぱたりと閉じた。 12月に入ってから始めた調査がようやく昨日片づいて、やっと静かに研究に取り組めると思ったのだが、現実は彼にとってそれほど甘くはなかった。ツリーだけは何がなんでもちゃんと飾るのだと宣言してオフィス帰りに小さなもみの木を持ち込んだ麻衣は、早速飾り付けを始めたらしい。 時刻は既に夕刻、通り抜けてきた町中はひどく賑やかだった。 クリスマスイブの夜、クリスチャンでもないのに祭り好きな国民性がこんなイベントを見逃すはずはない。どこか皮肉にそんなことを考えて、彼は立ち上がった。 キイ、と微かに金属音が響いて、長身の影が落ちる。殆ど音もなく扉に向かって歩いて、綺麗な手がドアに向かって伸び、ノブを回して扉を開いて─────温かな身体がぶつかった。 「っきゃ!!」 「…………」 勢いあまって突っ込んできた華奢な身体を片手で受け止めて、ナルは秀麗な美貌に皮肉な笑みを刻んだ。 「その勢いでドアにぶつかるつもりだったのか?」 「んなわけないでしょ!たまたまタイミングが良かっただけ!」 「で?そんなに急ぐような用事が何かあったのか?」 「…………」 綺麗すぎて嫌味な微笑みを睨め付けて、麻衣は勢いあまって彼につかまったままだった手を離した。体制を整える。 「ツリーの飾り付けができたの!」 「で?」 「来て!」 「何のために?」 「いいから!ドア開けたんだから、どうせナルもこっち来るつもりだったんでしょ?」 疑問の形できっぱり断言して、麻衣は返事を待たずにくるりと踵を返した。 襟元で、やわらかな髪がふわりと揺れるのを無意識に目で追って、硬質の口元に僅かに苦笑が掠める。彼は、微かにかぶりを振って足を踏み出した。 彼の後ろで、書斎の扉が音もなく、閉まる。 リビングのソファの間におかれたセンターテーブルの上。 高さ50センチメートルほどの可愛らしい常緑樹が、姫りんごや金銀のポマンダーで飾られていた。 「ね、かわいいでしょ♪」 「…………」 至極満足げな笑みが、小作りの可憐な貌を彩る。 ほんの少しも表情を動かさない白皙の美貌をにこりと笑って見上げて、麻衣はナルに金色の星を手渡した。 「はい」 「………これを僕にどうしろと」 「見て分かんない?ツリーのてっぺんに飾るの」 「自分でやれ」 「駄目。ナルがするの。ただ、あれのてっぺんに置くだけなんだから良いでしょ?簡単簡単」 「麻衣………」 「頼んだからね!あたしはテーブルセッティングしてくるから。戻ってきたときにちゃんと星がついてなかったら……」 「なかったら?」 「どうしよう?」 にっこり笑って首を傾げて、麻衣はそれ以上は続けずに身を翻した。 キッチンとの境界のパーティションの脇で、華奢な身体がくるりと振り返る。 とにかく。ちゃんとやってね。 そう、もう一度念押しして、麻衣はキッチンに姿を消した。 白い、大きな手の中に、金色の星がひかる。 「ああ、もうツリーができたのか。綺麗にできたな」 あたたかなリビングに入ってきて、マーティンは感心して立派なツリーの前に立った。 「綺麗にできたでしょう?ユージーンとオリヴァーが二人でやってくれたのよ」 ねえ、とルエラがにっこり笑う。 二人で、とは言ってもその実大半をジーンが担ったクリスマスツリーの飾りはそれなりにバランス良く、綺麗に仕上がっていた。 マーティンは笑って、二人の息子の漆黒の頭に大きな手をおく。 「ありがとう、ユージーン、オリヴァー」 見上げてくる二対の漆黒の瞳に穏やかに微笑んで、ただ、と彼は続けた。 「ただ、何か忘れてるぞ」 「マーティン?」 桁はずれて美しい二人の子どもは、驚くほどよく似ていて、全く呆れるほど表情が違う。 ナルは相変わらず殆ど表情を変えないまま────ジーンは、綺麗な瞳を驚いたように瞠って、養父をじっと見上げた。 「ツリーの頂につける星はどうした?」 「あ!」 「ごめんなさい、私が渡すのを忘れてたのよ。紛れたらいけないと思って………」 ルエラは慌てて戸棚から星の飾りを取り出して、ユージーンに手渡した。 「はい、これよ…………届かないわね、ちょっと待ってて」 「脚立なんて取りに行かなくても良いよ、ルエラ」 マーティンは妻を止めてから、幼い息子を抱き上げようとした。 強い腕で床と離されそうになったジーンは、慌てて父親の手を押しとどめる。 「待って、マーティン」 「ユージーン?」 怪訝な表情のマーティンににっこり笑って、ジーンは片割れの手に星を押しつける。 「ナル、これは君がつけてね」 「ジーンがやればいい」 「駄目だよ。………ね、ナル」 有無を言わさぬ満面の笑み。 幸か不幸か片割れの性格を熟知しているナルは、ジーンがこういう顔をしたときはどんなに抵抗しても無駄だということを知っていた。 ナルは、手に押しつけられた金の星を見つめた。 手の中に、金色の星が光る。 最初の聖夜に、羊飼いを、王たちを導いた指針の星。 金色の星が白い手から離れて、常緑のもみの木の戴きに懸かる。 「あ、ナル。つけてくれたの?ありがとう」 はたはたと静かな足音がして、澄んだ声が韻いた。 振り返ると、彼女が綺麗に微笑む。 あたたかな聖なる夜に。 白い手がかけた金の星が、木の上にひかる。 |
クリスマス………誰これ……(爆) メインテーマは「清く正しく」でした(爆)清く正しくしようと努力すると博士がどんどん別人さんになっていく………博士……(涙) 何はともあれ、メリークリスマス! 2001.12.24 HP初掲載
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