back to novel_index
back to index


  
sweet or bitter?



 抱き寄せられた温もりの中、髪に、額に、こめかみに、瞼に、頬に。
 数え切れないほど幾つも降ってくる、キスの雨。
 名前を呼ぼうとして動いた唇は指先で、そしてやわらかい口づけで封じられた。

 幾度も繰り返されるうちにキスは甘くなる。
 それが深まれば呼吸は奪われて、酸素を補給するためにキスが途切れる。
 その間すら惜しみたくなるのは、一時だけ隔てる空気の中で混じり合う、乱れた呼吸さえ甘いからか。

「キスが甘いって感じるようになったの、いつからだろう‥‥‥」
 再び重なりそうになった唇の先で囁かれて、ナルは軽く眉を顰めた。
「は?」
「ナルは、最初から甘いって思った?」
 問いを重ねた琥珀色の瞳は、甘やかな熱を孕んで僅かに潤む。
「どうだろうな」
 軽く受け流したナルの指先が、麻衣のあごをとらえて軽く仰向かせる。
 それには抗わず、麻衣は笑った。
「‥‥‥あたしは。甘いどころじゃなかったから」
「そうなのか?」
「うん。‥‥‥‥怖いとかそういうんじゃなかったけど、どきどきして壊れそうなくらいだった。‥‥‥なんか、上手く言えないけど、緊張してたのかな」
 くすり、と軽く笑って、ナルは麻衣の耳元に口接けを落として囁く。
「それなら、今は?」
「‥‥‥‥甘いかってこと?」
「そういう話じゃなかったのか?」
 口づけが、降る。
 こめかみから、目の端に、頬に。

 瞳の焦点が合うぎりぎりの、至近距離。

「甘い‥‥‥‥ていうのかな‥‥‥‥‥?溶けそう、かも」
「‥‥‥それは嫌か?」
「嫌そうに、見える?」
 珍しく冗談交じりの問いかけに、笑みを交えてかえして。

 吐息まで搦め取るように、互いを捕らえた。
 
 

 自ら囚われる─────蕩けそうなキスの、甘い罠。




 ‥‥‥‥えっと(遠い目)。‥‥‥‥た、たまには、ゆ、許され‥‥‥ないですね(吐血)疲れてるのかな、私‥‥‥‥‥(乾笑)
2001.3.13 HP初掲載
 
 
back to novel_index
back to index