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photograph




「麻ー衣ちゃんv」
 シンプルなドアを開けてひょい、と顔を覗かせた、そのひとに。
 くるりと振り向いた麻衣はぱっと立ち上がって満面の笑顔になった。
「まどかさんっ。こんにちは!!」
 うふふ、と笑った女性は、明るい瞳を煌めかせて少女の髪をぽんと撫でる。
「こんにちは。うん、今日も元気ねv」
「はい、元気です!……あ、ナル、呼びますか?すぐお茶淹れますね」
「お茶は嬉しいけど、ナルはどうでもいいわ。あ、これお土産ね。ケーキなの」
 はい、と差し出されたパッケージを受け取って、麻衣はぱっと笑顔を咲かせてちいさくお辞儀してみせた。
「わあい。ありがとうございますっ。今年の初摘み、ちょうど昨日仕入れたばっかりなんですよ」
「嬉しい♪ファーストフラッシュは淹れるの難しいから、私じゃ上手く淹れられないのよね〜。だから、自分じゃ買わないの、もったいなくて」
「あたしは鬼所長に鍛えられたから何とかなるんです」
「確かに、ナルに渋いお茶なんて出したら怖いわよね!」
「はい、そうなんです。最初は戦いだったんですよ〜〜。それじゃ淹れてきます。座っててくださいね、まどかさん」
 まどかはくすくす笑う。
 それにかるく首をすくめて、麻衣はふわりと華奢な身体をひるがえした。


 カタリ、と音をさせて、まどかが唐突にカップをテーブルに置いた。
「そうだわ」
「まどかさん?」
「ごめんね麻衣ちゃん。もう少しで忘れるところだったわ」
 ふわりと首を傾げた少女に笑顔を返して、彼女は脇に立てかけていた書類封筒を開いて、白い小さな洋封筒を取り出した。それを、すい、と差し出す。
「はい。………頼まれてたもの」
「え?」

 ぱちり、と琥珀色の瞳を瞬いて。
 受け取った封筒をいぶかしげに開いた麻衣は、次の瞬間それを取り落としそうになった。
「う」
 わ、という音を飲み込んで、華奢な手で口を塞ぐ。

「…………麻衣」
 二人の会話をどこ吹く風、と無視していた漆黒の美貌の青年は、彼女の手の封筒と、それを渡した、どこか楽しげな上司の顔を冷えた視線で一瞥して、低い声と凪いだ視線を部下の少女に向けた。
「う」
「お前は日本語もしゃべれないのか?」
 皮肉な笑みを妍麗な美貌に刻んで。
 彼はすい、と長い指をのばして、首を竦めたままの麻衣の手から、封筒を攫いとった。
「え、ちょっとナル!!やめてーー!!」
 真っ赤になった麻衣の手を軽くいなしながら、ナルは片手で封筒を開いた。封はされないままだったそれは簡単に内容物を示して、彼は秀麗な眉を顰める。
「………写真?」
「…………返して」
 恨めしげに見上げてくる麻衣の手のひらに、ぱさりと封筒を落として、彼は上司に視線を向けた。

「まどか」
「なあに?」
 くすくすと笑いながらふたりを眺めていた彼女は、冷気の漂う漆黒の視線に毛筋ほども動じずに、にっこり笑って首を傾げた。
「何だこれは」
「え?あなたの見たままよ?あなたの写真。麻衣ちゃんに頼まれて、一枚焼き増ししたのよ」

 リンが調査の合間に撮った写真が、まどか経由で養父母に送られていることは既に暗黙の了解事項だ。
 それについては触れないことにして、ナルは軽く溜息をついて明後日の方向をむいた麻衣を見やる。

「麻衣」
「………なに?別に、いいでしょ」
「別にかまわないが。写真なら、前にやらなかったか?」
「あれは!ナルもうつってるけど。ナルに、ジーンの写真、ってもらったやつだもん」
「………」
「だから、ちゃんとナルの写真が欲しかったのっ」
 微妙にずれた視線は、空気だけで絡み合う。

 一瞬だけ落ちた言葉の空隙に、まどかのくすくすという笑い声が韻いた。
「ナル、あなたも麻衣ちゃんの写真、欲しい?」
「いや、いい」
 即答したナルに、まどかが少し残念そうに首を傾げた。
「いらない?」
「必要ない」
 切り捨てるような口調とは裏腹に、美貌に小さな笑みが浮かぶ。

「現物だけで充分だ」

 凪いだ声が呟いて、しなやかな指先が伸びて淡い色彩の頭をはたいた。




 ひっさびさの更新がこんな馬鹿話でいいんでしょうか(遠い目)朝もはよから頭に涌いて出た話です。意味はありません……(滅)
2002.5.26 HP初掲載
 
 
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