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「言葉って大事よね」 嫣然と笑って、綾子が言った。 艶やかな黒髪をかき上げて、視線だけを意味ありげに滑らせる。 向けられた視線の先で────美貌の青年は、毛筋ほどの反応も見せずに優雅な仕草でティーカップを口にした。 少し香ばしいオータムナルは綾子が持ってきたお手製のガトーショコラに良く合っていたが、彼は手をつけていない。 「ナル?この状態で逃げを打つ気?」 「別に逃げてはいませんが?」 「なら無視するんじゃないわよ」 「返答を求められたとは思いませんでしたので」 冷えた声が、抑揚も持たずに切り返す。 声と同様纏う空気の温度までが急降下する前に、有能な事務員が割って入った。 せっかく和やかにお茶を飲んでいるというのに、せっかく可愛い少女たちにチョコレートを配られて楽しんでいるというのに、わざわざ冷却するような真似は避けたい。 綾子は面白がっているが、彼をここで怒らせて退席させたら同僚の少女が気の毒だし、それよりなにより、あとで被害に遭うのはオフィスに残る自分だ。 「まあまあ松崎さん。そんないきなり所長に振っても駄目ですよ」 にこにこと鉄壁の笑顔で、言葉を繋げる。 「それに、いきなりどうして言葉が大事、なんて話なんですか?」 「聞いてなかったの?さっき、どうしてチョコレートなのかしらって話をしてたじゃない」 「女性の話を立ち聞きするのは失礼ですから」 笑顔を崩さずさらりと受け流す。 ────綾子と真砂子が話しているのを聞いていたから女性の話だと分かるのだが、それをつっこませないあたりは彼の本領発揮というところだろう。 「僕は嬉しいですけどね?チョコレート」 「義理でも?」 「もちろんです。たとえ義理でも、僕にそれだけ配慮してくれているという証拠じゃないですか。……ねえ、滝川さん♪」 「俺は本命のが嬉しいぞ~?」 もちろんムスメたちからのは格別に嬉しいけどな、と滝川は手近にあった麻衣の頭を撫でた。 ────単に、真砂子の頭は整いすぎていて撫でるのは気が引けると言うだけかもしれなかったが。 「なあ、ジョン」 口では勝てない越後屋を避けたのか、滝川は天使のような聖職者に話題を振った。 ジョンは困ったように首を傾げる。 彼が口を開く前に、上品に袖口で口元を隠して、真砂子がこれ見よがしに溜息をついた。 「何をおっしゃっているんですの?カトリックの神父様が「本命」なんて受け取る筈がないですわ」 「さすが言うことが破戒僧よね」 うつくしい黒玉の瞳を呆れたように瞠って真砂子が言えば、その後を受けて綾子が身も蓋もなく切って捨てる。ジョン自身が苦笑しながら割って入った。 「まあまあ、滝川さんも悪気があっていわはったんと違いますから。好意をいただくのはどちらにしてもうれしい思いますし」 3人の女性から貰ったチョコレートを大切そうに手に包み込んで曖昧に笑ったジョンの、透けるような金の髪が後光のようにきらきらと揺れる。 気にしはらんといてください、というジョンのやわらかい救いに浮上しかけた滝川は、次の瞬間、決定打を浴びて今度こそ完膚無きまでに、粉砕された。 「本命のが嬉しい、って、ぼーさん本命チョコ貰ったの?」 それは興味津々の、衒いも含みもない麻衣の素朴な疑問だった。 「………えーっと。言葉の話でしたっけ」 完全にずれた話題を、安原が越後屋笑顔でもとに戻す。 崩れ落ちた元高野僧を完璧に見なかったことにするらしい。 「言葉の話よ。……ヨーロッパ、ていうか、日本以外でバレンタインの習慣があるところでは、カードを送ったりするみたいじゃない?いくらメーカーが画策したからっていっても、これだけ日本でチョコレートが定着したのは何故だとおもう?」 「理由があるんですか?」 「知らないわ。単なる話題」 「ジョンも、知らなかったの?」 「ええまあ。ちょっとびっくりしましたけど、面白い習慣やと思います」 「………何でかな?」 ふうん、と首を傾げて、麻衣が誰に聞くともなく呟く。 答えたのは安原だった。 「日本人が、言葉というものにあまり慣れてないからじゃないですか?」 「どういう意味でしょう?」 すい、と視線を固定して、真砂子が尋ねる。 言葉になれていない、というのが語義通りの意味ではないことは分かっている。日本語の修辞は、欧米のものとは趣を異にしているとはいえ、独特の発展を遂げている。 安原はやんわりと笑って、一瞬だけ上司に目を向けてから、ええ、と頷いてみせた。 「日本人は、考えていることや感情を、ストレートに言葉にすることに慣れてないっていうことですよ。たとえば……和歌とか、恋の歌は多いですけど、裏を返して深読みしなきゃ本当の意味なんて分かりませんしね。だから、いきなりカードにストレートに好きだって書くの、無理じゃないですか。それに、女性からは特に言い出しにくかったでしょうし」 「そのさりげない過去形は何よ」 「今の女性はバレンタインにそれほど拘らないでしょう?」 バレンタインだけは、女の子から告白していい日だから、というふた昔前の少女漫画でよく見たような文句は形骸化して久しい。 間髪入れず突っ込んだ綾子は特に反論せず軽く肩を竦めて、カップをソーサーに戻した。 「一応のきっかけではあるのよ。それでもね。それに一応、チョコレートを渡すのは、返事が欲しいからなんだから」 「返事、ですか」 「そ。義理ならお返し。本命なら、返事」 ね、真砂子。 元になった会話の相手に言葉を渡して、綾子はもう一言付け加える。 「好きだって言わせたいから、女って結構頑張るのよ」 「まあ、確かにそういうところもありますわね。もちろん、そればかりとも限りませんけれど」 「…………それはもしかして、一ヶ月後のことを暗に要求してるのかな?」 ようやく復活した滝川の、低い低い恨めしげな声。 「そんなことありませんわ」 「別に要求するほど落ちぶれちゃいないわよ。信用してるわよ?」 真砂子と綾子は顔を見合わせて、そして艶やかに、笑った。 + ぱらり、と。 静かな空間に、ファイルをめくる音が伝わる。 その音を耳に捉えてから、ナルは軽い溜息をついて、ぱたりとファイルを閉じた。 「麻衣」 声に滲んだ、溜息。 「どうしたの?」 「言いたいことがあるなら、はっきり言え」 寄り添うわけでも離れるわけでもなく、ほんのわずかの隔てをおいて。 大きなクッションを抱えて宙を見つめていた麻衣は、弾かれたようにくるりと振りむいた。 驚いて幾度か目を瞬いて、もう一度確認するように凪いだ漆黒の瞳を見上げる。 「あれ?」 「あれ、じゃない」 「………なんでわかっちゃうかなあ………」 麻衣は軽く顔を俯けた。 苦笑と言うよりも翳りの強い表情を、やわらかな髪がさらさらとこぼれ落ちて覆い隠す。 気付かれないように、視線を向けないように気をつけたつもりだったのに、しっかり気付かれていたらしい。 セルフコントロールの修行が足りないなあ、と、麻衣は声には出さずにつぶやいた。 「ごめん」 「責めた覚えはない」 ナルは軽く溜息をついて、苦笑してみせた。 頑なな麻衣の表情は彼女らしくなく────そして、この上なく厄介だった。 いざというときの麻衣の頑固さは、とんでもない強度を誇っている。完全に硬化してからでは手遅れだ。 「僕がそれに手をつけなかったのがそんなに不満か?」 漆黒の視線が、ソファのテーブルに置かれたままのシンプルな箱を示した。 麻衣の手でリボンを解かれたそれは、そのままの状態で既に数時間放置されている。 ナルの言葉に琥珀色の瞳を瞠って、それから彼女は小さく笑った。 彼らしくもない冗談めいた言葉は、自分から答えを引き出すきっかけのようなものだ。 「そういう訳じゃないよ」 答えて、そして僅かに躊躇って。 麻衣はぎゅっとクッションを抱き締めた。 「あのさ。綾子が言ったでしょ?」 「………松崎さん?何の話だ」 「好きだって言わせたいからチョコレートをあげるって話」 澄んだ、けれど抑制された声が響く。 ナルは片眉をわずかに上げて、妍麗な美貌に笑みを刻んだ。 「そういうものなんだろう?」 「普通どうだかは知らないけど。でも、そんなこと言われたら、チョコレートなんて渡せないよ」 可憐な容貌に、苦笑が浮かぶ。 「だって、無理に渡したら、それを要求してるみたいじゃない?」 「………麻衣は要らないのか?」 酷く静かな声が返った。 予想外の言葉を返されて、麻衣はクッションを離してナルを見上げる。 白皙の美貌は衒いも皮肉も含まずに、ただ漆黒の瞳が華奢な少女の瞳を見返す。 白い紙にインクが滲むように可憐な容貌を浸蝕していた苦笑が、消える。 「愛してるとか好きだとか。そんな言葉は欲しくない」 ひどく真摯な声。 真剣な瞳は、言葉を向けた対象を見てはいない。 「………ていうか。正確には。ナルからそんな言葉は要らない」 「らしくもないからか?」 今度は皮肉めいた反応に、麻衣は琥珀色の瞳を傍らに向ける。 まだ抱えていたクッションを足元に落として、くすりと笑った。 「うん。それもある」 「それも?」 「それも。………ナルがね、自分が考えてることをちゃんと言葉にするひとだったら、違うかもしれないから。でも、ナルって、別にそういうことじゃなくてもあんまり言わないでしょ?」 個人的感情はおろか、調査中に必要な意見すら、言わないことが多いのだ。 それは事実だから反論の余地も必要もなく、ナルは答えない。それを気にした風もなく、麻衣は言葉を継いだ。 高いトーンの綺麗な声が、澄んだまま夜の闇を、抑えた照明の穏やかな光をわたる。 「そういう人が、いきなりそういうこと言ったら変じゃない?一般的に」 「どうだろうな」 さらりと受け流して、秀麗な美貌に綺麗すぎる笑みが浮かぶ。 やわらかなものでは決してないそれは、皮肉よりも冷たい気配を強くまとった。 「松崎さんによると、そういう気持ちというものはごく自然に言葉になるものらしいが?」 声質だけはいいのに、ひどく平坦に韻く声。 ある意味耳に障る声音に、麻衣は微かに苦笑すす。 やわらかな琥珀色の瞳が、その色彩を深くする。 間隙に沈黙が落ちて───────そして、断ちきられた。 「ね。言葉って、どんなに上手に翻訳しても、どうしても意味が変わっちゃうんだってね」 突然に変わった話題に、ナルは僅かに眉を寄せた。 唐突な話題転換は、彼女にはよくあることだが、それにしては瞳の色も声の気配も真剣すぎる。がらりと変わったように見えて、それでもその言葉の流れは変わらない。 「麻衣?」 「違うの?」 「…………ニュアンスが変わるのはどうしようもないな。メンタリティーが違えば違うほど」 同じヨーロッパ、同じアジア。 その領域の外から見れば似たような文化を持っていてさえ、その中に入れば、驚くほどの違いが存在する。 まして、領域そのものが違っていれば、同じ文章を全く違ったニュアンスで捉えてしまうこともある。美徳と悪徳さえ、ときに逆転する。 それは、プラスとマイナスが逆転することも、容易なほどに。 麻衣は肯いて、視線をはずした。 「うん。それに、そういうことじゃなくても、考えてることとか心の中って、言葉にするのは元から難しいよね。形になってるものじゃないから」 「………それで?」 「………そういう考えてることを言葉にするだけで、結構変形してると思う。例えば、真砂子とあたしって、同じ日本人で、年も同じで女の子だけど。でも、例えば同じケーキを食べて美味しいねって言ってても、同じことを感じてるわけじゃないよね。違う人間なんだから」 「それを言いだしたら意志の疎通は不可能だと思うが?」 ナルはさすがに苦笑した。 そんなことを言いだしたらキリがない。彼と、彼の失われた片割れのように、感覚を共有するようなラインがあれば別だが、そんなつながりは希有というのもばからしいほど特殊なものだ。 「うん。違うのは当たり前だよね。………でも、同じ人が同じことを言ってても、その気持ちって違うこともあるでしょ?…………あたしだって、好き、とは言うけど、同じようにナルに好きっていってても、その時の気持ちって全部微妙に違う」 昨日より今日の方がもっと好き、とか馬鹿げたことを言いたいわけではなくて。 切なかったり嬉しかったり、その時々で全く違う意味を持つ。その意味の定義づけさえ、言葉にすれば限定されて本来の意味から逸脱するけれど。 「………それで結局何が言いたい」 溜息混じりの怜悧な声が、ふわりふわりととらえどころもないように飛躍していく麻衣の言葉を遮った。 麻衣の思考過程を軽視するつもりも、馬鹿にするつもりもない。 けれど、今。 彼女と哲学的な会話をするつもりはなかった。 沈黙が、落ちて。 色合いの違う視線が交叉する。 まっすぐに見上げてくる琥珀色の瞳が、ほんの僅か、色を増したように見えた。 手を伸ばせば簡単に触れられるほど近くで、それでも、白皙も漆黒の瞳も、凪いだ湖面のように揺らぎも見せない。 互いに手は伸ばさずに、ぬくもりは触れないままで。 僅かに隔てた空気だけが純度を増していく。 「ナルって何語で思考する?」 「僕は思考に言語があるとは考えていない」 切り返されて、麻衣は小さく笑った。 「別に、ナルにそういうことで反対する気はないよ。そんな気もないし、できるとも思ってないから」 「………それで?」 「うん。でも、考えたことは、言葉にするよね?口に出すか出さないかは別として。………言葉に変換するときに、まず何語になる?」 「………普通母国語だろう」 そして、彼の母国語は英語。 麻衣は頷いて、そして言葉を継ぐ。 「………上手く言えるかどうかあまり自信がないんだけど。ナルが、何か考えて、それをあたしに言うとすると、まず英語にして、それから日本語にするんだよね」 一度言葉を切った麻衣は、相槌も待たずに言葉を繋ぐ。 「それで、あたしはその日本語をきいて、うけとるわけでしょ?ということは、最短で四回、かたちが変わるわけ。そのたびごとに、やっぱり少しずつずれてってる」 ナルの思考を言葉に、その言葉を日本語に、そして人と人との認識の差を隔てて、さらにその言葉を麻衣の思考に置き換える。 ほんの一瞬の言葉の受け渡しは、思ったより多くの段階を隔てて伝わるのだ。 そんなことは考えてもどうしようもないことだと分かってはいても。 「………それで、最初の話につながるわけか」 愛してるとか好きだとか、そんな言葉はいらない。 思考と言葉の翻訳も、異言語間の翻訳も。全く同じ意味に移し替えることはできないから。 ようやく話が収束して、ナルは軽く溜息をついた。 どこか呆れたような闇色の瞳に、麻衣は首を竦める。 「馬鹿馬鹿しい?」 「………いや」 どうしようもないことであることは確かだが、それに拘泥した麻衣の気持ちは解らなくもなかった。 ナルは抑制された声で応えて、そして空気を切り替える。 「………で、それにはどんな意味合いが?」 「それ?……あ、チョコレート?」 「そう」 「好きだって気持ち。別に、なにかして欲しくて渡したわけじゃないよ。……花言葉みたいなものかな」 花に、特定の意味合いを託して贈るのと同じように、バレンタインのチョコレートには「大好き」という気持ちを乗せて贈るだけ。 だから、それを受け取って貰えれば嬉しいし、受け止めて貰えなければ悲しい。 わずかに表情を変えて、麻衣は首を傾げてみせた。 「そういう意味では、一つだけでも食べて欲しいけど」 「受け取る、というのは試金石?」 秀麗な美貌に皮肉めいた笑みを刻んで、ナルは問いをかけた。麻衣はまさか、と即座にかえして鮮やかな笑みを浮かべる。 「そんなの必要ないでしょ?」 「そうなのか?」 「違うの?」 言葉遊びのようなやりとりは明らかに冗談だ。 麻衣はくすりと笑って、首を傾げてみせる。 「それに、もしそのつもりだったら、そんなの渡さないよ。意味ないじゃん」 ナルが嫌いなの分かってるし。 ごくさらりと流して、麻衣はテーブルの箱から二枚、チョコレートをつまんだ。 「美味しいんだけどね?」 軽く首を傾げて、幾筋か頬にこぼれ落ちた髪を耳にかけて。 そして一枚を自分の口に入れる。 「……あ。ほんとにあんまり甘くない」 自分で食べておいて本当に目を瞠って、麻衣はもう一枚のチョコレートをナルに示した。 「チョコレートだから甘いけど、そんなには甘くないよ。…………食べない?」 「………麻衣」 「一枚」 にこにこと、やわらかな容貌を彩る笑顔は鉄壁のまま揺るがない。 その表情と目の前のちいさなチョコレートを見比べて、ナルは根負けした。 「………一枚だけなら」 「うん。それ以上は無理言わない。絶対」 確約した麻衣の手から、長い指先がチョコレートを受け取る。優雅な動作でそれを口にして、ナルは眉を寄せた。 「甘い」 「………チョコレートなんだから、そりゃそれなりには甘いよ………。でも、そんなには甘くないでしょ?」 「………思ったほどはひどくないな」 「でしょ?良かった」 やや緊張していた麻衣の表情がほっと緩んだ。間髪入れずに、怜悧な声が釘をさす。 「どっちにしろこれだけだからな」 「約束は守るよ」 麻衣の応えに頷いて、ナルはかるく目を眇めた。 わずかに、けれど確実に。 彼の纏う気配が変わる。 「ところで麻衣」 「………なに?」 「もしもお前が僕を試す気なら、どうする?」 チョコレートを渡して、答えを求めるのでなければ。 問われて、麻衣はちいさく笑った。 ゆるみかけていた空気が、わずかに密度を増す。 可憐な貌から笑みが一瞬で払拭される。 「こうする」 囁くように返して。 華奢な手が、ナルが膝に乗せていたファイルをセンターテーブルに移す。 そして、冷えた白皙に触れた。 闇色の髪に、そして頬に、ほそい指先だけで触れて。 ソファに片膝をついて、顔を寄せる。 唇が触れるか触れないか、ぎりぎりのところで止めて。 麻衣はそのままくすりと笑った。 「ほら、逃げない」 高くすんだ、けれど囁くような声は、どこか甘く耳に響く。 ナルは軽く目を瞠って、それから苦笑した。 確かに、同じことを麻衣でない誰かにされれば、氷のような拒絶を返すだろう。 それは、麻衣に対する感情の証左でもある。 「有効?」 「………確かにな」 溜息混じりに、応えが返る。 吐息が絡むほど近く。 くすりと漏れた笑みを搦めとるように、唇が重なる。 ビターチョコレートよりは確実に甘いキスを繰り返して、蕩けそうな吐息が漏れる。 華奢な身体がいつの間にか力を失って、ナルの腕に崩れ落ちた。 「………満足か?」 紅潮した耳元に囁かれて、麻衣は一瞬言葉に詰まって。 細い腕を伸ばして彼の首に抱きついた。 あっさりと彼の手に落ちていては試したのか試されたのかまるで分からないとは思っても、別に試す云々は言葉遊びだからどうでもいい。 そんなことよりも、言葉よりも確実に伝わる感情と共有される感覚は確かに存在するから。 欲しいものは手にしていると信じられる。 「麻衣?」 「ありがと、ナル」 耳元で囁く名前も、キスの熱も、変換されることはない。 翻訳のプロセスを経ないで伝わる応えを、麻衣も返した。 |
祝、隠し回避(違) ええ、冗談はとにかく………最後まで読んでくださった方、お疲れさまでした。ありがとうございました。馬鹿な話ですみません(遠い目)どーでもいいですが、こういうのの切り所って難しいです………(吐血) 2002.2.14 HP初掲載
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