ゆ〜あ〜る〜え〜〜〜〜る



                        七転八倒のよろずやで、ございます。

                                七転び八起き・・・なら、かっこいいんだけどね・・・・・
                                                        TOPページへ
                    このページは、なんだかわかんないけど、ちょっと笑える・・
                    どうでもいいけど、なんとかせねばの〜〜・・・みたいなエピソードを
                    本当にいい加減に書き連ねるのみのページで、ごんす。は?ごんすって??



             その壱

           塩



            朝の光を切り裂いて、ブレ−キングポイントへ狙いを定める。

            増速する人車の慣性を一気に静めるために
            右手の中指がレバーを認識すると同時に爪楊枝の如く
            頼りないフロントフォークが深く沈む・・・・

            低く身構えた体が前に持っていかれないように腰と足首が格闘する。
            人車の慣性とタイヤの吸着力が釣り合う。
            ターンイン!!・・・・・・・
            決まった・・ふふふ 

            今日も調子よ〜〜〜し!! 一服だーーー
            あれ、テールランプが点いてないぞ 玉切れか?

            しょうがねーな ドライバーでビス取って 
            レンズ外してと・・・・あれ?なんで塩がさらさらと出てくんの?誰かのいたずら?

            悪い奴がいたもんだ・・さてバルブはと・・・あれ?ないぞ・・どーして?

            と、ランプハウジングから何かがおちたな
            え?何だこれ????????

            そう、それはバルブなのだがガラス部分がきれいになくなったガラスナシバルブなのだった。

            あまりの振動でバルブのポッチ部分が脱落し自由気ままとなったバルブ君は                       
            先の振動とライディングの協力を得てランプハウジングの中を飛んだり跳ねたり行ったり来たり・・

            ガラスの部分は砕け散って文字どうり粉々に・・・そう 見た目は
            本当に塩の如く・・・・サラサラだったのよ〜〜〜〜〜

                                             以前、ヤフーのSRトピに
                                             書き込んだ物。少々、手直し
                                             2003・4・17


                                 削岩機(ヤマハSR400改)は、想像を絶するバイブレーターとなります。味わってみるか??




           その弐

         広域農道の黒い土星



           このあいだ、家の近くのマイコースを気持ちよ〜く
           走ってたんどすよ。天気もよくての〜〜。

           長い直線があって、その先を見据えると   ???   約50メートル先位から、
           道路の色が明らかに違うんだわサ。

           茶色なのね・・これが・・

           まさか、この季節に蜃気楼なんてな〜とか思いながら、開け続けてた右手をセーブ。
           徐々に近づいてくる、茶色の道路を、よ〜〜く見たら、たまげたわな、これが。

           ねずみ色のボディのブレンボで全力制動。茶色の直前でどうにか止めたんだわ。

           は・は・鼻がもげるかと思ったもんよ!!道路一面に、べコ(牛さん)のうんこだわさ。

           ほんでもって、これが延々と続いてるのよ・・・・・・
           前をすたこら走ってたおばさんの軽トラなんか、クソだらけで、おまけに、
           すべって路肩っていうのか、ほら一段上がってるとこに乗り上げておるんよ・・

           あ〜〜 また 遠藤さんとこの、爺様・・やりよったな
           べこの肥え、畑に運ぶのにトラックの後閉めわすれるんよ・・・85だったな・・今年で。

           もう、運転やめたらええんじゃ!!!

           クソでこけて、エンジン焼けたら笑えんぞ!!
           ま、これもナンカの縁と思ての、ここに住んどるんだが、役場の清掃隊には、
           なりたくないの〜〜〜

           こんなこと、しょっちゅうじゃ!!!!

                                            以前、ヤフーSRトピに
                                            書き込んだ物
                                            2003・4・17

            これ、4輪で遭遇すると、もう最悪。下周り全部とバンパーが犯されて、臭いのなんのって・・洗車場で1500円くらい使わないと落ちないんだよ・・・・





              その参


                 くわえ・・花火



           あなたは、バイクに乗りながら、くわえ花火をする男を見たことがありますか?
           俺は、恥ずかしながら、あります。これは、なんの自慢にもなりませんが・・・

           もう、15年も前の話ですが、ある会社のバイククラブがありまして、
           俺もそのクラブに入っていたんですよ。(というか、発起人だったような・・)

           そのクラブ員の中に、KL250(カワサキの初期の4サイクルオフローダー)に乗る
           スズキと言う上司がいたのよ。こいつが、ホントのバイクバカ。

           通勤もバイク、休みもバイク、仕事しててもバイクの話。
           大型免許取りにいったり、レースやってみたり、頭の中はいつもバイク。

           初夏のある日、スズキの部署のアルバイトK(当時、大学生、今、剃り上がり)と
           俺とスズキとで、食堂でいつものようにバイク談義で大騒ぎをしていると、
           そのK(こいつが、曲者なんだ)が、

           「ねぇ、スズキさん、ケニー・ロバーツって、イギリス人だよね?」
           と、おごそかに問いかける。

           「お?アメリカだろうよ」
           と答えるスズキ。

           「えっ?知らないの、スズキさん、ケニーはイギリスで生まれで
           アメリカに移住したんだぞ。何にも知らないんだな、バイク好きなくせに」
           攻め始めるK。

           「あ〜〜、うそこけ!!アメリカ生まれだよ、ば〜〜か」
           そう言いながらも、自信のないスズキ。

           「じゃあ、かけるか?え?アメリカ生まれか、イギリス生まれか。え?え?」
           もう、完全にKのペース。

           「おう!!俺はアメリカだな。決まってんだろ!!」
           もう、網ですくわれたヒラメみたいなもんだ。

           「俺は、イギリスだね。じゃあ、何かけようか?う〜〜〜ん・・
           あ、夏は花火だよね!!負けたほうが、バイクに乗りながら
           連発花火をくわえて走るっていうのは、どう??」
           よくスラスラとそんなことがでてくるな。K、恐ろしや。

           「いいぜ!!どうせ、俺の勝ちだしな、ははは、お前、墓穴掘ってるな」
           自信満々のスズキ。

           「じゃあ、まほがにさんに、聞いてみようぜ、ねぇ〜〜」
           Kのキラッと光る目が俺を見る。目でうなずく俺。

           「あ〜〜、なに?え?ケニーは、アメリカ人かイギリス人か??
           そんなの、決まってるじゃん。イギリス生まれのアメリカ人」

           俺を見るスズキ。動じない俺。にやけるK。

           席を立つスズキ。いうまでもない。他のバイク乗りに事の真意を
           確かめに行ったのだ。

           言うまでも無い。
           Kと俺は他の主だったバイク乗りにも、先に口裏を合わせておいた。




           その日、夕暮れが夕闇に変わる頃、
           スズキは、口に10連発くらいの花火をくわえ、
           愛車のKL250に跨っていた。顔には、あきらめと、緊張の色が漂っている。

           会社の近くの100メートルくらいの直線。
           ギャラリーは20人位いただろうか。直線の最後に陣取っている。
           当然、Kと俺も。Kが合図のホーンを鳴らす。

           辺りは、もう暗い。花火に点火したのか、遠くに小さな明かりが灯る。
           バイクが発進した!!その数秒後。

           右に左に蛇行しながらスズキがこっちに向かってくる。
           花火が、空でなく路肩や民家に向かって発射される。右に左に容赦なしだ。
           暗闇の中で、無作為に発射される花火のなんと美しく、面白いことか。

           花火ってくわえにくいらしい、ほんとにあっち、こっちに乱射しながら
           スズキが向かってくる。

           ギャラリーは、ほぼ全員、ひっくり返って笑い転げている。
           Kの目が花火の光でキラキラ光っている。
           可笑しくて、泣いている様だ。俺も泣けてきた。可笑しくて。


           走り終わったスズキがバイクを止める。もう、口には花火をくわえていない。
           「あっちぃ〜〜、あち!、あち!」
           スズキは自分に発射していたのだ。Gパンのもものあたりが焦げている。

           皆、おかまいなしで、ひっくり返って腹を抱えている。
           俺とKがスズキにエールを送る。

           「スズキさん、かっこよかったよ!!!もう一回やって!!」
           スズキが答える。

           「また今度な・・・あちっ!」

           俺は思った。

           「こいつは、アホの怪物だ・・・」

           それ以降、俺はスズキの事を

           「スジラ」と呼ぶことにした。
                                                  2003・4・18

                                            もう、飽きたから初めへ戻る

                                あんたにも、実況中継で見せてあげたかったぜ!!!!これ、実話だぞ!!




                  その四


          スジラの逆襲


           くわえ花火で、すっかり騙されたスジラが、本当の事(ケニーはアメリカ生まれ)を
           知るのに、そんなに時間はかからなかった。

           しかし、あとの祭りである。もう、彼は、花火をくわえてしまったのだから・・・

           本当の事をバイク屋さんから聞いたスジラは、次の日、
           口から放射能光線をはかんとばかりに、Kと俺に、突っかかってきた。

           だが、俺とKの反応はいつもどおりだった。

           「騙される、あんたが悪い!!!」冷酷すぎる・・・

           スジラはやりようのない怒りに、ブースカ(知ってるか?)の如く
           頭から蒸気を噴出しながら(うそ)仕事をしていたが、
           ある日、逆襲が始まった。


           スジラの仕事は、とある鮮魚加工工場の鮮魚在庫管理の現場係長であった。
           アホのくせに、現場では一番偉かったのだ。
           トラックで運ばれ来る、お魚さんを検品して、保管・現場への出庫、
           数量管理などで社員、パート、アルバイトを20人ほど部下にしていた。
           不幸なことに、Kは一番下っ端のアルバイトであった。
           当然、スジラの逆襲のターゲットになったのは、Kであった。
           俺は精肉部門だったので、我関せずのしらんぷりんだった。


           Kの受け持ちの仕事に、鮮魚の塩水処理という作業があった。
           比較的小さな(あじ、さんまなど)冷凍されていない魚が入荷すると
           鮮度を保つ事を補助するために、塩水にある程度の時間つけてあげるのだ。
           5メートルほどのコンベアが塩水に浸かっており入り口で魚を入れて
           出口で取る・・を繰り返す作業である。

           通常は2人ペアで入り口、出口をこなすのだが、
           スジラはその仕事を、逆襲始まりの日から
           K1人にやらせるようにしたのである。

           通常は、2人で朝6時から8時くらいまでかかる。
           物量が多い時は、10時くらいまでかかる事もあるのだ。
           Kは、朝6時から12時までのアルバイトなので、もう1日塩水処理のみを
           延々と続けなければいけなくなったのである。
           生魚の生臭さと冷蔵庫内作業で寒いし、1時間でいやになるのに・・・

           しかし、Kは文句も言わずに、スジラの逆襲に耐えていた。
           いやらしいスジラは、塩水処理室入り口ドアの小窓から
           にやけながら、ジィ〜〜〜〜〜〜ッと、黙々と塩水処理をする
           Kを見つめているのだ。

           ある日、Kが黙々と塩水処理をしていると、入り口のドアが開け放たれ
           「おい、K」と、スジラが呼ぶので、Kがおもむろに振り向いて見てみると

           スジラがマグロにまたがっている。   え?マグロにまたがれるかって?

           近海ものでも、マグロは100キロ以上ありポケバイの2倍くらい大きいのだ。

           アホのスジラは、黙々と働くKの横で、床に転がっている入荷したての
           マグロに覆いかぶさり、バイクのポジションを真似て
           「ぶぅぉ〜〜〜ん、ぶぉん、ぶぅぉ〜〜ん」と叫んでいる。
           騙された腹いせと、自分がケニーにでも、なったつもりなのだろう。
           これが、スジラの精一杯の逆襲なのである。

           突然の事に、Kは驚きと怒りとあまりのアホらしさで、手の力がぬけ
           持っていた、塩水処理の済んだ魚の入った箱を落としてしてしまったので
           拾い上げて、スジラの方を見てみると・・・・・

           誰かが、マグロにまたがり、訳のわかんない擬音を発するスジラの後方に、
           じっと立っているではないか・・

           その顔を確認したKのふくよかなほっぺたは、勝利を確信して
           満足げに、ニタリと笑ったのだった。

           「おい!何やってんだ?スズキくん(スジラ)?」

           「えっ!!!???」

           誰もいないはずの、後方から不意に声をかけられたスジラが
           あたふたしながら振り向くと、そこに立っている人物は・・・

           工場長であった。



           次の日から、Kは塩水処理から開放された。

           スジラは、ただ黙々と仕事をしている。

           ただ黙々と・・・・・
                                               2003・4・20

                                  好きな事となると、子供みたいに素直になる奴、俺は好きだな〜〜〜




             その伍

                   どーして、増えてるの



            俺の友人に、Nと言う筋肉大好き男がいる。
            (いや、筋肉を食べるんじゃないからね・・)
            筋肉をつけるのが、趣味みたいなやつって事。

            高校時代の友人だが、こいつも無類のバイク好き。
            こいつは、親が厳しかったから、高校時代はバイクの免許を
            取らせてもらえなかった。

            だから、高3のころから、俺のSR400(初期型・・いいだろ〜〜)を
            よく無免許でブイブイ乗り回していたんだ。
            持ち主の俺よりエンジンかけるのが、うまかったよ、怪力で。

            高校を卒業して、Nの家に泊まりで遊びに行ったときの事。
            俺は、その頃、XT500に替えていた。(最終型・いいだろ〜〜)
            夜も更けて、日付が変わる頃、Nはおもむろに、

            「バイク乗っていい??」
            鼻息が、荒い。

            「ああ、いいけど、親爺さんに見つかると、やばいだろ?」
            たしなめる俺。

            「そ〜〜〜っとさ、道まで引いていくからさ、すぐ帰ってくるからさ!!」
            鼻息5倍に増殖。

            「おまわりに、つかまんなよ!!」
            根負けした俺。

            「大丈夫!!XT500なんかに乗ってれば、おまわりだって
            族なんかと思わないし、平気、平気」
            どんな、理屈だ?お前は、無免許だろ?

            5分後には、通りまでバイクを引いていくNの姿を
            俺は、一抹の不安と共に、見送っていた。

            Nは、いとも簡単にXT500のエンジンをかけ、暖気もそこそこに
            真夜中の闇の中へ吸い込まれていった。


            皆さんの、「すぐ」とは、どれくらいですか?
            俺のすぐは、5分から10分くらいなんですけど・・・・・

            俺は、道路端に腰を降ろし、タバコに火を点けた。

            いつもなら、10分くらいで、帰ってくるんだが、どうもその気配がない・・
            30分が経ち、1時間が経ち、時計の針は午前1時半を指している。

            いかに、脳天気な、まほがにといえども、これはなんかあったんじゃないかと
            心配になってきた(Nは、平気、というより、Nの狂気に巻き込まれた被害者が
            いるのではないか・・との心配)、その時。

            ドッドッドッドッ・・4ストシングルの排気音と共に、2つのヘッドライトが
            Nの家に近づいてくるではないか・・・

            あ〜〜〜、やっと戻ってきたか・・・え?2つのヘッドライト?
            なんで?XT500って、2つ目だったっけ?

            {予期しない事が起こると、日常さえも否定してしまう、人間の
            いい加減な記憶力には、脱帽するな〜〜〜〜。}

            どうも、2台のようだ・・どーして、増えてんだ???
            そうか!!途中でダチにでもあって、連れて来たのか・・・・・・・
            な〜〜〜んだ、そうか。きっとそうだ。誰かな?

            2つのライトはどんどん近づいてくる。手を振って迎える俺。
            1台目は、確認できた。XT500だ。あれ。2人乗りしてら。
            あ!!Nが、後ろに乗ってら・・・なんでよ???

            と、思う間もなく、XT500は、俺の前で停止した。
            運転してる奴の顔はNではない。暗いので、目を凝らしてみると
            どうも、どこかで、見たことがある、格好だ。

            あ、3億円犯人と同じ格好だ。
            なんだ、おまわりじゃんか。ふ〜〜ん。

            俺が、事の次第を悟るまでに、13秒くらい、かかったかな・・・・


            Nは、夜の田舎を飛ばしていた。
            と、飲酒かなにかの検問をしていたらしい。
            別段、バイクは止められなかったらしいのだが、
            ここが、犯罪者(それも、初犯、青年、筋肉マン)の弱いところ。

            止まろうか、行こうか、あたふたしてしまったらしい・・・
            挙動不審・・・・・で、停止させられ「免許みせて」と言われて
            「ありません」・・・はい、御用。

            で、俺のバイク(XT500)を、おまわりが運転して、Nは後ろに乗せられ
            もう1台のカラスバイクに付き添われての、ご帰還となったわけ・・・・
            だから、2台だったのだ・・・いらんダチを連れてきたもんだ。

            それからが、一大事。
            無免許・未成年と言うことで、まず、死んでもこんな事が、ばれちゃいけない、
            Nの親爺が叩き起こされるはめに・・・・(夜中の2時ごろ)
            さらに、バイクを貸した俺が、説教をくらい
            N・俺・Nの親爺そろって、警察署へ連行。

            NとNの親爺が、警察署長から、朝まで、説教。
            俺は、おまわりに、無免許ほう助で、免停になると告げられ
            むかついたので、無理も承知で
            「カツどん、取ってくれ!!腹減った!!!」と、朝の4時に
            大騒ぎしながら、逃げようとして羽交い絞めにされる始末。

            さんざん、しぼられて、開放されたのは、朝6時。

            朝日が目に痛いほど眩しく感じた、その時。
            Nは、少し先を歩く、放心状態の親爺に聞こえないように、
            小さな声で、俺に言った。


            「また、乗せてくれよ!!!」

            この時ほど、人を殺そうと思った事は、後にも先にも、ないんですけど・・・

                                               2003・4・27
                                                このページの始めへ



                        こいつは、今でもこんな性格のままだから、最近は近づかないようにしてます・・・・・




              その六

                まほがに生誕  序章


            工場は、朝6時から稼動している。
            おなじみのスジラや、俺(まほがには、実は別人なので、ここでは俺)は、
            朝早く起きて、バイクで、工場へ通っていたのだ。

            その工場は、生協の直営で(俺は、当時生協の職員だった)
            肉・魚・麺を製造し、仕分け・保管・配送を行っていた。

            肉でも、魚でも、原材料は、ほとんどが、ダンボールなどの梱包で
            入荷してくる。

            その梱包を開けないといけないのだが、(開梱作業と言う)
            現場の職員やパートさんがやっていたら、作業効率が悪いので
            開梱作業専門に、請け負う会社に作業を任せていた。

            そして、なんの因果か、俺が請負会社の社員を管理していたのだ。
            作業の指示を出し、進捗を把握し、現場へ渡す。
            作業自体は請負会社の、現場責任者がしきっていたが・・

            その作業は、現場作業場(加工・盛り付け)の手前の
            冷蔵庫から出庫された原料がおかれる倉庫で行われていた。
            だいたい、作業員は2人くらい、開梱作業を請け負った会社の社員が
            行っていた。(今で言えば、派遣みたいなもん)

            例えば、肉で言えば、焼き鳥は、当時から、すべてタイからの輸入であった。
            当然である。こんな人件費の高い日本で、バイトに、鶏肉を串に刺させて
            1時間700円も払うと、その他運送経費やら、儲けやらで
            焼き鳥は1本300円くらいになってしまう・・

            タイでやると、鶏も作業も全部含めて、日本の30分の1でできる。
            船賃を払っても、比べ物にならないほど、コストが安いのだ。

            この焼き鳥も、開梱の1品である。これが、すごい梱包なのだ。
            1箱に300本。30本並びで、10段。1段毎に、ビニールでしきってある。

            ダンボールは変形しにくい硬い物。さらに紐で十字に縛ってある。
            梱包テープでぴっしりと、止めてある。
            おまけに、マイナス25度凍結で、カチカチ。

            1人で、1ケースあけるのに、15分くらいかかるのだ。あ〜〜メンドクサイ!!
            (俺はほとんど、やらなかったが・・)
            これが、セールに入ると、もう地獄である。1日に、50ケース開けないと
            いけない時は、請負だけではこなせないので
            その辺の職員をかき集めて無理やりやらせるのだ・・・



            そんな、ある日、請負社員に新しい奴が入ってきた。

            なんと、そいつは、その焼き鳥1箱を5分で開けてしまうのだ。救世主・・・
            常人ではない・・普通の3倍である・・・

            風貌は、相撲取りを小型にした感じ・・・・目がきりりとしていて、日本的。
            ほっぺが、ぷくぷくで、かわゆい・・・おい、おい・・

            請負の責任者が紹介してくれた。名前はM。年は、24歳。
            少し、引っ込み思案で、人付き合いが苦手だという。

            「はじめまして」俺が言う。

            「・・・・ああ」奴が言う。     こ、怖い・・・

            「がんばってるね」   俺がたじろぎながら、言う。  ちびりそう・・

            「ええ、仕事だし・・」奴が言う。   お、少し可愛い・・

            「よろしく、頼むね」俺が言う。     いきなり、友好的・・

            「うん!!」奴が言う。        笑うと、えくぼが!!

            なんという、圧倒的な圧迫感。そしてガタイに似合わない純朴さ。

            俺は、いっぺんで、奴のファンになってしまった。

            きつい・きたない・給料安いの3Kな仕事だから
            請負の社員はころころ替わるのだが、やつには長くいてほしかった。

            何故かは、わからないけど、大人には、ない匂いがした・・

            その数日後、本当に大人ではない事をしでかした・・・・



            その日、開梱は、魚の子持ちししゃもが、メインだった。
            俺は、スジラと打ち合わせをして、開墾のメンバーに、指示を出した。
            開梱は、都合でM1人しかいなかったので、アルバイトを手伝わせる事にし、
            Mに、アルバイトのAを紹介した。
            Aは、アルバイト歴、1年のまあ、ベテランだ。高校3年。

            ここで、雲行きが怪しくなってきた・・・・
            2人が、何故だか、睨み合っている・・・・・

            Mは、どちらかというと、大人しく内気な感じだが、嫌いな物は
            徹底的に嫌い・・・というタイプ。
            アルバイトのAは、ちゃらんぽらんで、活発で、あほ。
            たぶん、2人とも、お互いを天敵と確認しあったようだ・・・

            そして、双方ともガタイがいい。
            Mは、相撲取りタイプ。
            Aは、筋肉タイプ。

            この2人が、一緒に仕事をしても、大丈夫か???
            一瞬・・・不安がよぎったが、仕事であるのだから、しょうがない。

            Aに現場の指揮をするよう言い渡し、俺は一抹の不安を感じながら
            さぼるために、食堂へ上がっていったのだ・・・

            俺は、当時からさぼり屋くんだった。
            とにかく、仕事は早く終わらせて、冷蔵庫で寝る・・とか・・・(寒いけど寝られるよ)
            隠れて、肉焼いて食べちゃうとか、平気だった(会社は平気じゃない・・・)

            その日も、俺は人もまばらな、食堂で、朝6時から8時まで、寝てしまったのだ。
            まあ、いつもの事ではあるが、スジラが起こしてくれた。

            あ、開梱はすすんでるかな・・・??起き抜けに、あの2人の事を思い出した。
            大丈夫だろうか・・・まあ、平気だろう・・ちょっと見てくるか・・・
            俺は、スジラと、のそのそと、工場への階段を降りていった。


            あの2人、ちゃんとやってるかな・・・もう終わるころだな・・と思いながら
            開梱の現場に入るスイングドアを開けた俺とスジラの目に入ってきたのは・・・


            空飛ぶ長靴だった。


            本当に長靴が宙を舞っていた。子持ちししゃもと一緒に。

            目を凝らして見てみると、Mが、Aを背負って、投げ飛ばしていたのだ。
            俗に言う、背負い投げだ。美しい。型が、決まっていた。

            投げ飛ばされたAの足から、その勢いで、作業用の長靴が片方脱げ
            天井にぶち当たり、落ちてくる所を、俺が目撃したのである。

            Mは、Aの持っていた子持ちししゃもの開けてる途中のダンボールも
            一緒に投げ飛ばしていた。
            100尾近い、子持ししゃもが、同じように宙を舞っていた。
            死んでからでも、空を飛べた子持ししゃもは、幸せもんだ・・・・・

            Mが、Aを投げ終わるのと、長靴と子持ちししゃもが、床に落ちるのとが
            ほぼ、同時だったように感じた。いいもん、見せてもらった・・・ちゃいまんがな・・・

            「ううっ!!」Aの口から、苦悶のうめき声が漏れる・・・
            Mは、虚空を見つめて、にやり・・・と笑っている・・・・

            俺とスジラは、あんぐりと口を開け、現場の入り口に立ち尽くしていた・・・・


                                                   続く
                                                2003・5・24

                                               このページの始めへ


                            世の中って、思いもしない事が思いもしない時に起きるから面白いんだな・・・



        その七


                   まほがに生誕    終章


                                         

            Mは、管理事務室で、緊張気味の工場長と対座していた。
            その後ろに、俺とスジラが控えている。(Mが、工場長に襲い掛かったら止める為)
            背負い投げ事件の聞き取りを終わり、Mの会社の責任者がくるのを
            待っているところである。

            今日以降は、もう作業はさせられない・・・が結論であった。


            ことの次第は、Mよりも、アルバイトのAのほうが、しっかりと話してくれた。

            2人で、子持ちししゃもの開梱作業を始めて、約1時間30分が、たったころ
            1言もしゃべらずに、作業を続けていたわけだが作業のスピードが違いすぎた・・

            Mは、通常の作業員の3倍のスピードで、ガンガン開けていく。
            Aは、鼻歌まじりに、通常の半分くらいしか、開けない・・・・
            
            それを繰り返すうちに、Mが、いらいらしてきたようなのだ・・・

            開口一番

            「もっと、はやくできないのか?」 と、M。
            一瞬、作業場の空気が凍りつく。

            答える気のまったくないA。
            Mを、睨み付ける。目から光線でも発した如く・・・・・・

            その、眼光を受けて、さらに強い光線を返す、M。
            切れ上がったお目目が、釣り上がってきた。

            2人の手が止まった。

            最近はやりの、プロレスやプライドの如く、鼻っ面を突き合わせながら
            すごむ、2人のアホ。

            どうも、この状態が1分くらいは、続いたらしい・・・・

            しかし、Aは偉かった。怒りを抑え、視線を外し原料を取る振りをして
            冷蔵庫に入ろうとした。
            さすがに、仕事中にケンカは、まずい・・・と、考えたんだろう。

            だが、どうしても、一言、言わなければ、気がすまなかったのだろう。
            振り向きざま、子持ちししゃものダンボールを開けながら
            「ちょっとくらい、早いからって、威張ってんじゃね〜〜〜よ!!あほっ!!」

            あ〜〜あ、言っちゃった。よせばいいのに・・・

            この一言が命取り。

            あっ!!!と思う間もなく、相撲のすり足のように音も立てずに
            2メートルくらい離れていたMが、目の前に現れ
            気付いたら、もう投げ飛ばされていた・・・・との事であった。

            

            Aを投げ飛ばしたあとの、Mは勝ち誇ったように胸を張った。

            「何やってんだ!!」 スジラが怒鳴る!!(現場では、スジラは偉いのだ)
            Mは、その声を聞いて、ひるむどころか、俺とスジラを見て
            にた〜〜〜〜〜っと笑いかけるではないか・・・・おーー怖・・・

            その時の笑顔が、なんとも言えない、いい顔だった。
            欲求を全て満たした満足感で、紅潮したホッペタ。
            切れ上がったお目目が、笑っていた・・・
            俺は嬉しいんだ!!ってな具合のオーラを
            小型相撲取りのその体全体から、勢いよく発散していた・・・・・
            
            俺と、スジラで、2人をなだめ、事を工場長に報告し、
            請負会社へも連絡をしなければならなかった。
            幸い、Aに怪我もなく、傷害などには発展しないですんだ。

            俺は、この事を握りつぶそうと、スジラに談判した。
            職場内での暴力行為を行ったので、職場の既定では工場長との面接の後、
            処分が決まる事となっている。

            だが、今回はAも悪いし(Aは、その後、へらへらしながら、朝飯を食っていた・・)
            怪我もなかった。いいじゃあないか!!なかった事に!!と言ったら
            「床に散らばった、ししゃもは、どーすんだ??」・・・そうだった・・
            金額はたいした事はないが、廃棄伝票を切らなければいけないのだ・・

            さらに、目撃者もいた。原料をとりに来た、盛り付けのパートさんが、
            作業場に入る時に、目撃していたのだ。
            悪いことに、このパートさんは、おしゃべりが、大好きだった・・・・
            休憩時間にも重なり、5分後には、鮮魚部門の全ての人が、
            背負い投げ事件を知っていた・・・・・


            工場長と話をし、請負会社の上司に連れて行かれる、Mの後ろ姿は
            全然、悲しくなさそうだった。
            むしろ、自分の欲求を放出した、喜びのオーラを発散していた・・・・


            Mは、2度と、工場に姿を現さなかった・・・
            どこか、他の請負場所に配置転換されたようだった。



            俺は、俺で相変わらず、人に仕事をさせて、さぼってばかりいた。
            ある朝、食堂で居眠りをしていると、急にウ○コが、もよおしてきた・・・
            いそいで、トイレに駆け込み、和式の便器を相手にしていた時、

            トイレの壁が「いたずら書きを、していいよ!!」と話しかけてきた。
            
            そうか、いたずら書きか・・・へへへへ・・何書こうかな・・・と思案していると
            Mのあの時の顔が浮かんできた・・・
            Aを投げ飛ばした後の、あの満足げな紅潮した、丸い顔・・・

            
            和式便器を相手に、あの時のMの顔を思い出しながら
            俺は、鉛筆でゆっくりと、トイレの壁に曲線を引いていった・・・・・

      

            これが、まほがに生誕(せいたん)の瞬間である・・・・・
            

                                                2003・5・25
                           我ながら、この似顔絵は上手く描けた・・・・と思っているのだが・・・・うへへ








            その八


                  スバルが勝手に走ってく・・・


            実は、前出のMは、もっと恐ろしい事件を起こしていた。
            Aを投げ飛ばした後に・・・

            Aを投げ飛ばした後、工場長が出社してくるまで2時間ほど時間があった。
            スジラと俺は、その時間までMを在庫管理の荷受事務室に、とどめておく事にした。

            なんせ、食堂や現場はすでにその話題でもちきりだったので
            待ち構える報道陣のど真ん中に超人気者のスーパースターを放り投げるようなマネは
            するわけにはいかなかったのだ・・・
            (本当はやってみたかったが・・・)


            しかし、荷受事務室も、何人かのパートさんやアルバイトがデータを打ち込んだり
            入荷業務で使っていたので、その中にMを1人で於いておくわけにはいかない。
            その時の精神状態では、誰彼構わずに、
            投げまくってしまうかもしれない・・・おもろいけど・・・



            スジラが言う。「お前、見てろ」(まじに怖いンだから、当然こういうセリフになる)

            俺が答える。「あんたのほうが、適任だ」(まじに、やってられるか・・・死ぬかもしれん)

            そんな生死の駆け引きを当のMは、紅潮したきゃわゆい丸顔で不思議そうに眺めていた・・・
            すでに落ち着いてはいたが、目がすわっているのが、不気味であった。


            何回か、禅問答のような会話が続いたが、やはりそこは会社。
            下っ端が将棋の駒のように馬鹿をみるのである・・・馬鹿を見たのは、俺だった・・・
            
            
            丁度、パートさんやアルバイトが休憩にいっている事務室で
            俺とMは机を挟んで向かい合って座っていた。
            

            空気が重い・・・湿った布団のようだ・・・と、俺は感じていたが
            Mはというと、にこにこしてる・・・その顔を見てると心が洗われるようだ・・・

            無垢なんだなぁ・・・
            俺はMの紅潮したきゃわゆい丸顔を横目で流し見ながらそう思った。



            とその時、事務室のドアがぎぃ〜〜〜〜っと音をたてて開いた。

            U課長が出勤してきたのだ。スジラの上司だ。工場長の直属の部下になる。
            ドアを半分開けて、身構えている・・中に入ってこない。

            俺はピン!ときた。スジラに事の次第を聞いたのだろう。怖くて入って来れないのだ・・・

            「おはよー」と俺に声を掛け手招きする。
            俺は呼ばれるままに、U課長と事務所の外に出た。

            「話は聞いた。工場長が来るまで時間があるから、今、スジラにMの家に電話させてる。
             身内の人がいて本人が落ち着いていれば、迎えに来てもらうか、家まで送っていったほうがいいだろう」

            賢明な判断である・・・もしMが不安定になって暴れだしたら工場が破壊されかねない・・・

            俺はすぐに聞いた。「送る場合は誰が?」

            U課長は、二呼吸ほどおいてから  「お前」  と弱弱しい声で唸った・・・

            俺を殺す気か?車の中で背負い投げされてみろ。
            運転できねーじゃん・・・当然ですが。

            俺は冷たく言い放った。「俺も忙しいんだよ、あんた行けば?」(実は俺は暇・・・)


            当然、課長と言えば非生産員である。暇なのだ。

            三呼吸ほどおいてから、U課長は、にがりきった顔で
            「そうだな・・・迎えに来れない時は、俺が行こう」(こういうときは上司としての覚悟見せないとねぇ)
            



            その時、スジラが歩いてきた。



            「あ、課長、Mの家に電話したんですが、ご両親がいたんですけど、車持ってないし
             2人とも体の調子が悪くて迎えに行けないっていうんですよ・・・」


            U課長の顔から生気が消えていった・・・ざまみろ。
            「しょうがない・・・今なら落ち着いてるみたいだから、俺が車で送っていくわ」


            しょうがない・・・さぞ無念だろう・・・課長。しかしもう自分で言ったんだから覚悟しろよ。
            俺は心の中で万歳三唱しながら、にやけていた。

            「じゃ、今、ここに車つけるから」と言ってU課長は外に出て行った。


            当時、U課長は、スバル・レガシーのステーションワゴンで通勤していた。
            お気に入りである。
            2〜3分もしないうちに、事務所の外にレガシーが止まった。

            俺とスジラはMに「これからU課長の車で家まで送るから」と話しをし
            Mを外に連れ出した。Mは従順に「はい」と言って言われるままにしていた。


            U課長お気に入りのレガシーの助手席にMが、どーーーーんと収まった。
            鎮座しているMは、まるで桃太郎の雛人形みたいで、
            俺は思わず、「ぷっ」と吹き出してしまった。



            「あ、家はどの辺だっけ?」U課長は、大体の場所は知っていたが
            確認のために地図を見ようと、Mに「ここで待っていなさい」と言って、エンジンをかけたまま
            事務所に俺とスジラを連れて戻ったのだ。

            3人で地図を確認して「あ、ここだ。ここ」なんてやっていると・・・・



            
            なにか目に入る外の景色が、さっきと違うのに、俺は気付いた・・・


            いやな予感がした俺はレガシーを見てみる・・・・ないじゃん・・・車・・・ないじゃん・・・

            さっきまで、そこに止まっていたU課長お気に入りのレガシーが、い・な・い・のである。

            持ち主は、ここにいるのに・・・車は、い・な・い・・・持ち主は、ここにいる・・・車は、ない・・・


            一体、何が起きたのか・・・あるべきものが、そこにない・・・何かが起きている・・・
 

            俺は一瞬考えたが、無駄だな・・・と思い、「課長、車ないすよ」と言ってみた。
            振り返り、あるはずの車を目で探すU課長。
            スジラも同じ顔の動きを見せる。
            2人とも言葉は無い・・・


            空気が重すぎる・・・絶対にあってはいけないことが起きようとしている・・・いや、起きている・・・


            当然、次の目線は進行方向である。3人で同じように車が進むであろう方向を見てみると
            丁度、工場地内の曲がり角を、お気に入りのレガシーが、
            そろ〜〜〜っと曲がっていくではないか!!!!!



            3人、お互いの顔を見合わせる・・・その後、U課長の叫び声

            「あぎゃーーーーーーーーー!!!!!」



            次のU課長の動きは早かった。あっという間に事務所を飛び出し、事務所内で履くスリッパのまま
            走るはずのないスバル・レガシーの追跡に入ったのだ。
            しょうがないから、俺も続いた・・・しかし、頭の中では、事の次第は理解できていなかったのだ・・・


            あいつ(M)が運転してるのか?それとも、誰かが・・・まさか幽霊・・・心霊現象なのか・・・
            曲がり角を曲がってしまい見えない車を追いながら、いろんな可能性を考えてみたが
            1つの答えしか出ませんでした・・・M・・・
            (Mは4輪の免許を持っていなかったから送迎バスで出勤していたことを3人とも知っていた。だからこそ、恐ろしかった・・・)
            


            課長が叫ぶ、「スジラ!!!出入り口に先回りしてくれ!!!」
            そう、工場は長方形の敷地に立っている。出入り口は1箇所。南側の長手方向の真ん中にある。
            荷受事務所は、入り口から北側に曲がった所だから、出口までは敷地をほぼ1周しなくてはならない。


            なんて機転が効く奴だ・・・課長め。と感心しながら課長を見てみると
            履いていたスリッパが飛んでいる・・・懸命だ・・・そりゃ、そーだ。大事なスバルなんだもん・・・
            靴下で疾走する課長をみたのは初めてだった。と言いながら俺もスリッパが脱げてしまった・・・
            (今日は、空飛ぶ長靴や脱げたスリッパとか、変なものばかり見る日だなぁ・・・とも思いました)


            誰も運転してるはずのないスバル・レガシーは勝手に進んでいく。
            少しづつスピードが上がっているようだった。懸命に追う、俺と課長。
            距離は縮まっているが、スバルは工場内の最後の曲がり角を曲がった。


            課長の靴下が脱げている・・・素足である。人間は車のためなら素足で疾走できるんだ・・・
            感心しながら俺は課長を抜いて曲がり角を曲がり、守衛所近辺を左折して外に出ようとしている
            スバルを目にした。距離は30メートルくらい離れていた。
            工場を出ると長い直線だ。ここで加速されたら、ドーピングしたベン・ジョンソンでも追いつけない・・・


            最後の頼みは、守衛のおっさんだ。Mを止めてくれ。俺は叫んだ。
            「その車を止めてくれ!!!!おっさーーーーーーん!!!!!」
            後から課長も叫ぶ。「止めてくれーーーーーーーー!!!!!」もう、3流のハードボイルド映画のようだ。

            心の底から、誰かを信頼する・・・この場合は守衛のおっさんの業務に対する姿勢・・・
            基本は工場に出入りする人間・車は全部、IDパスや業者パスを確認するため、一時停止させるのだ。
            ま、顔見知りなら、素通りだけど・・・・しかし今回は、いつもの顔じゃないはず・・・頼むぜ、おっさん。

            スバルは守衛所に差し掛かった。俺と課長は、あと10メートルくらいの距離に近づいたが
            もうヘロヘロだった・・・ちかりたぁ〜〜〜〜という感じ・・・声も出ない・・・



            見慣れない運転者が運転しているスバルを、守衛のおっさんは
            守衛所のガラス窓を開けもせずに、手を上げて素通りさせました。    はい、こんなもんです。

            あてにした、2人の男の希望は打ち砕かれた・・・当然といえば当然ですが・・・
            いったい日本の危機管理はどーなってんだ・・・そー言いたくなる場面でした。


            もう、だめだ・・・俺と課長は、へたへたと座り込んでしまった・・・
            

            人間とは面白い。ああいう場面で、その後起こるであろう事をいろいろと想像する。

            俺は、夕方のニュースで  「暴走車、首都高で飛ぶ!!!」  とか
            「車で暴走して、さんざん街を破壊して家に帰って納豆を食ったM」  とか
            なんかMがヒーロー扱いのニュースを想像していた。(ヒーローか?)

            しかし、その想像を打ち砕いた男がいた。
            スジラである。出入り口に先回りしたスジラは守衛所を抜けたスバルの前に立ちはだかったのだ。
            勇気があるのか、あほなのか、スジラはスバルの前に立ちはだかり

            「止まれ!!!!!」と大声で叫んで両手を広げたのだ。


            スバルvsスジラ・・・

            こりゃスバルの勝ちだろうと思ってスジラの墓にはケニーのキーホルダーでも
            備えてやらないと・・・などと考えていると、スッーーーーーーーーーとスバルは、スジラの前で止まった。


            スジラが大きく見えた。花火を咥えてバイクで走ったスジラ。マグロに跨って工場長に怒られたスジラ。


            そこには、そんなアホスジラではなく、何が起きても微動だにしない、りりしいスジラがいた。
            (実はションベンちびりそうだった・・・とは、後日、本人談)

            時間が止まったかのように、その場面は長く感じた。
            俺と課長が追いついて運転席を覗いてみる。

            そこには、ニコニコしたMがいた。大の大人3人をへろへろの目に合わせたのに、いい根性だ・・・
            切れ長の目が細くなり、頬は一層紅潮していた。

            課長が叫びたいのをこらえて、「降りなさい」と切れ切れの声で言う。

            Mは、大人しく運転席からドアを開けて降りてきた。
            課長が聞く。

            「なんで運転したの?」

            当然の如く答えるM


            「車の運転がしてみたくて」・・・     ここは教習所じゃないんですけど・・・



            全員納得。してみたかったのか・・・そーかーー、でも、したことないんだろーーーーー・・・一言、言えよーーーー。

            それを言わないのがMのいいところ・・・じゃない、悪いところ・・・

            守衛所のおっさんが異変を感じて出てきた時、スジラはまだ、スバルの前で両手を広げていた・・・



            あり得ないことを巻き起こすMは、工場長が来るまで事務所に軟禁することにした。
            Mの直属上司を呼んで引き取ってもらうことに方針変更したのだ。
            もう家まで送るのは課長のびびりで取りやめになったのだ。(とーぜんか・・・)


            俺たちの浅はかな常識が、通じない人間がたくさんいるかもしれない・・・
            そう思わせるに十分な非常に疲れた事件だった。
            (何が疲れたって、スリッパで走って脱げちゃうし、工場の1周、1キロくらいあるんだもん・・・)


            あの時、助手席に乗っていたMが
            運転してみたいなぁ〜〜と思い、にやけながら運転席に乗り移った場面を想像すると
            おっかしくてしょうがないのは、俺があの時のスバルの持ち主では、ないからなんだろうか・・・


                                                            2004・11・15
                                                次回は、まほがに再来です・・・期待しないでね!





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