しばらくすると
ぽっとさんの体がぐらぐらゆれるのが止まり、布がほどかれました。


ぽっとさんはおそるおそる目をあけました。

そこは誰かの家の中らしく
ぽっとさんは自分が木のテーブルの上に置かれているのが解りました。

目の前に一匹のたぬきがいました。

すまなそうにたぬきが言いました。

「こんなところに連れてきちゃってごめんなさい。

ここはぼくの家だよ。

前に小説のコンテストの話をしたのを覚えている?

ぼく、応募したくてがんばってきたのだけれど
どうしても自分の思うように書けなくて。

それでね、ふと思ったんだ。

ぽっとさんがいつも側にいて
ぼくの為にお茶を入れてくれたら
きっとうまく小説が書けるのじゃないかって…。」

ぽっとさんは言いました

「あら〜。そうだったの。

うふふ。ちょっとびっくりしてしまったけれど、もう大丈夫よ。」

そしてにっこりと笑いました。

次の日からぽっとさんは、たぬきに心をこめてお茶を用意しました。

たぬきはぽっとさんのお茶を飲むたびに
心がとても落ち着いて嬉しい気持ちになりました。


たぬきは一生懸命小説を書きました。
そして、ついに書き上げることができました。

そのことを聞いたぽっとさんは、本当に喜びました。

たぬきはぽっとさんとなにげない会話をしながら
お茶を飲む生活に心から満足していました。

たぬきはぽっとさんのことをとても大切にしました。

でもある夜、いつものようにおいしくお茶を飲んでいる時です。

たぬきはなんだか胸の奥の方から
何かいやなものがざわざわと沸いてくるような
変な気持ちになってきたのです。

ぽっとさんのお茶を飲んでいて
そんな気持ちになったのは初めてのことでした。

ぽっとさん。

ぼくのだいじなぽっとさん。

ぼくはこんなに幸せだけれど

でも・・・・ぼくだけ?

あの原っぱのみんなは?

そうだ・・・・

あの原っぱの動物達はぽっとさんが居なくなって
どんなに寂しがっているだろう。

たぬきは森のみんなに
すごく悪いことをしている気持ちになってきました。

胸が痛くなってきました。

思わず涙も出てきてしまいそうです。

「ぽっとさんごめんね。ぼくは今頃になって気がついた。

ぽっとさんは、ぼくだけのぽっとさんじゃないんだ。

どうして、ぽっとさんを連れて来ちゃったのだろうね。

どうか許してね。

ごめんね、ごめんね、ぽっとさん。

明日ぽっとさんを返しに行くからね。」

「たぬきさん気にしないで。でも、またあの切り株に戻れるのね〜。

うふふ。嬉しいわ。」

ぽっとさんは笑いました。


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