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AIによって生成される作品は著作権によって保護されるか』2023/4/28
カネダ著作権事務所 金田 昭彦

(注)本件記事は、2023427日現在の情報をもとに作成しています。

AI”とは、”Artificial Intelligence”の略語で、「人工知能」を意味します。この言葉自体は以前からありましたが、技術進歩によりコンピューター自体の性能が大きく向上したことから、機械であるコンピューターが「学ぶ」ことができるようになりました。現在、いわゆる深層学習(ディープラーニング)による人工知能の開発が進んでおり、そのような機械学習がAIの中心的技術になっていると言えます。AI技術は、現在、自動運転や医療、犯罪捜査などの分野で大きな役割を果たしつつあります。

「生成AI」ということばがあります。英語では、”generative AI”と表記します。これは、画像、文章、音声、プログラムコードなどのさまざまなコンテンツを生成することのできる人工知能のことです。大量のデータを学習したAIが、人間が作成するような絵や文章を生成するのです。今や、AI技術は、論文や報道記事、小説、音楽、絵画、画像、コンピュータープログラムといった「著作物」の創作に使われはじめています。しかし、同時に、このことが著作権法上の難題を提起しています。その一つが、この記事のタイトルになっている「AIによって生成される作品は著作権によって保護されるか」という問題です。
創作分野における生成AIの活用ははじまったばかりですが(注1)、今後、これを巡る法律上の(特に著作権法上の)紛争が、日本のみならず、世界各国で頻発することが予想されます。
ここでは、表題の問題について最も先を行っていると思われるアメリカでの動きを、私見を交えながら紹介していきます。
(注1)人工知能学会は2023425日、文書や画像などを作る「生成AI」について、「有用性の高いAIだが、まだ発展途上の技術」だとして、その安易な利用に警鐘を鳴らす声明を発表しました。

アメリカ合衆国(以下、「アメリカ」といいます。)には、著作権主張の登録管理を公的に行う「アメリカ連邦著作権局」(以下、「著作権局」といいます。)という専門の連邦行政機関があります。この機関は、著作権に関わる各種の登録を年間約50万件処理しており、また、連邦議会などに、著作権に関するさまざまな問題についての専門的な助言や見解を提供する機関でもあります。そのため、著作権に関わる個別具体的な紛争を扱う連邦裁判所においても、そこでの法解釈において、一般的に、著作権局が示す専門的な見解は尊重されます。このような著作権局が、AI技術を使って生み出される素材を含む作品の著作物性(copyrightability)及びその登録可能性を明確にするための方針(指針)を打ち出しました。それが、2023316日に公表された、Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence(「著作権登録の指針:AIによって生成される素材を含む作品」)というタイトルの方針(指針)です。著作権局では、すでに、AIによって生成された素材を含む作品の登録(著作権登録)申請がいくつか行われていた経緯があり、それに対応する形で方針(指針)が示されたわけです。

学習AIの技術は、膨大な数のデータ(その中には人間によって創作された既存の著作物も数多く含まれているはずです。)をもとにAIに学習(訓練)させます。そして、生成AIは、「プロンプト(prompt)」と呼ばれる、ユーザーの文書による指示に応じてAIがアウトプットを行います。そのようにして生成されるアウトプットには、文書や画像、音声などがあります。上述したように、生成AIによって生み出される素材ないし作品は、そもそも著作権によって保護されるのか、人間の創作に係る部分と生成AIによって生み出される素材の両者で構成される作品はどうなるのか、などの問題がすでに提起され、実務上も問題になっているのです。
例えば、2018年に著作権局に申請されたある「視覚的な作品」(a visual work)において、申請者は、申請書の中で、登録を求める作品について「機械で作動するコンピューターアルゴリズムによって自主的に創作された」(‘‘autonomously created by a computer algorithm running on a machine’’)ものだと述べました。この登録申請は、申請者の上述した表明が原因で、最終的に拒絶されました。その理由は、「当該作品にはなんら人間の創作性が含まれていない」(the work contained no human authorship.)、「それは、人間による創作的な貢献がいっさいなく作成された」(it was made without any creative contribution from a human actor.)からというものでした。
最近の例では、20232月、著作権局は、ある「グラフィックノベル」(人の創作にかかる文書にAIによって生成された画像が組み合わされたもの。申請者は、「コミックブック」として申請した。)について、それが「著作物性のある作品」(a copyrightable work)に該当すると結論付けました。もっとも、当該作品中の「個々の画像それ自体」(これはAIによって生成されたもの)については、著作権によって保護することはできないとしました。

著作権は、人間の知的な創作活動によって生み出される素材(コンテンツ、作品=著作物)を保護するものです。そこでは、著作物を生み出し、その独占的な権利(著作権)の主体となりうるのは、「人間(生身の人間)」であり、「動物」や「神」、「機械」など「人間にあらざる者」(non-humans)は、当然、「著作物を創作する者」すなわち「著作者」(an author)には当たらないと考えられています。この考え方は、著作権制度を有するすべての国で通用する、普遍的な考え方といっても差し支えありません。このような理由から、アメリカの裁判所においても、「著作者」は当然に「人間」(a human, a person, a human being)であることを前提に、著作権に関わる紛争が処理されています。
ここで、少し興味深い裁判例を紹介しましょう。連邦上訴裁判で争われたケースですが、「人間でない、霊的な(神的な)存在によって著作されたことばを含む本」(a book containing words authored by non-human spiritual beings)について、その作品の著作物性(要保護性)が論点となりました。裁判所は、「著作権法が保護を予定しているのは、神が創作したものではない」(It is not creations of divine beings that the copyright laws were intended to protect.)と述べて、「霊的な(神的な)存在によって著作されたことば」の部分の著作物性を否定しました。もっとも、作品全体については、「神の啓示を人間が選択し配列したところに創作性があれば」(if there is human selection and arrangement of the revelations)保護されるとした上で、当該作品について、著作権による(編集著作物としての)要保護性があると認定しました。また、別の裁判例では、動物は著作者の範疇から除外されているという解釈に立って、「サル」は自身がカメラを使って取った写真の著作権を登録することはできない、としたものがありました。

著作権局や裁判所が頻繁に使うことばの中に、”authorship”というものがあります。これは、「著作者性」と訳すことができますが、その実質は、「著作物は著作者が作成するものであるということ」あるいは「ある作品が著作権によって保護されるためには、その(創作性の)起源を人間に求めなければならない」(For a work to be copyrightable, it must owe its origin to a human being.)を含意しています。つまり、著作権局も裁判所も、「著作者性の要件(著作者は人間でなければならないという要件)」(the Human Authorship Requirement)を前提として著作権法を運用解釈しているのです。

著作権局の従来からの指針においても、著作権登録されるべき作品は人間による創作性のある作品に限られています。著作物における「創作性の起源を人間の作用」に求め、それが認められない素材(materials that do not owe their origin to a human agent)の登録を拒絶するのが従来からの一貫した実務です。もう少し具体的に言うと、「単に自然力や植物、動物によって生み出される素材は著作物性が認められない」(Materials produced solely by nature, by plants, or by animals are not copyrightable.)、「人間の寄与がない、機械的なプロセス又は無作為の選択によって生み出される作品は登録できない」(Works produced by mechanical processes or random selection without any contribution by a human author are not registrable.)との運用を堅持しています。最新の運用指針では、「著作者性のある作品であるためには、その作品が人間によって創作されたものでなければならない」(To qualify as a work of authorship a work must be created by a human being.)と明確に述べています。さらに、「人間の創作的なインプット(入力、援助)若しくは介在がなく、無作為に若しくは自動的に運転する機械又はそのような単なる機械的なプロセスによって生み出させる作品は登録しない」(The Office will not register works produced by a machine or mere mechanical process that operates randomly or automatically without any creative input or intervention from a human author.)とも言っています。

生成AIが単に人間からの指示(プロンプト)を受け取り(注2)、それに応えて複雑な作品(文学作品や美術作品、音楽作品など)を生成しても、現在のところ、生成AIのユーザーである人間は、AIが指示(プロンプト)をどのように解釈し、素材を生成するのかに対して「最終的な創作的制御」(ultimate creative control)ができません。生成AIに対する指示(プロンプト)は最終生成物に対して影響力は持ちますが、それを明確に規定し制御するものではないのです。そこで行われる指示(プロンプト)は、いわば、美術作品の制作を依頼されたアーティストに対する、注文主(依頼者)の指示と同じようなものなのです(ここで「注文主(依頼者)」は決して「著作者」にはなりえません。)。
(注2)「プロンプト」の中には、それ自体で著作権によって保護させるのを十分な創作性を持つテキスト(文書)がありえますが、だからと言って、そのことは、そのようなプロンプトに応じてAIが生成した素材(最終生成物)もまたそれ自体で著作権によって保護される、という話にはなりません。

もっとも、生成AIを使って生み出された素材を含む作品はすべて一律に登録が排除されるということではない点に留意する必要があります。つまり、生成AIが最終的な作品を生み出すためにどのように使われたかによって、当該作品に著作物性が認められるか否かの結論は変わってくるのです。まさに、ケースバイケースです。生成AIによって生み出された素材を含む作品であっても、最終的に出来上がった作品が全体として人間の著作に係る創作的な表現と認定されれば、そのような作品は(AIによる生成物を含んでいたとしても)全体として保護されることになりのです。「編集著作物」(compilation)を念頭に置けば、編集物全体の中にAIによって生成された素材が選択配置されていると考えれば、そのような編集物の著作権による保護も可能になります。もちろん、この場合、AIによって生成された素材それ自体に個別の著作権が生じることはありません。さらに、「派生的著作物」(derivative work)を念頭に置けば、ある者がAIによって生成された素材に創作的な変更を加えれば、そのように変更された作品の派生的著作物としての保護が可能になります(注3)。
(注3)生成AIによって生み出される素材(コンテンツ)の取扱いに関して、著作権局の目下の大枠の運用方針は、「AIが生成する、”些細なもの”(「最低限度の創作性」という程度の意味です。)とは言えない、それ(些事)以上のコンテンツは、明白なかたちで、申請から除外されるべきだ」(AI-generated content that is more than de minimis should be explicitly excluded from the application.)という点に集約できると思います。つまり、著作権局の実務上の運用としては、人間の創作に係る部分と専らAIが生成した部分を明確に区別して申請することを求めています。

ここで誤解のないように述べておくと、生成AIによって生み出される素材の著作物性の問題は、人間が自己の創作的な作品を生み出す際に技術的な道具(ツール)を使うことできるかということとは関係がないという点です。人間がある作品(創作性のある著作物)を生み出す過程で、人間は、AIを含めて技術的な道具(ツール)を使ってよいのです。「カメラ」という機械に依存する点が大きい「写真」は伝統的に「著作物」ですし、画像や音声の編集ソフトを使って創作される作品も、通常は(人間の介在の程度にもよりますが)「著作物」として扱われるはずです。

問題の核心は、人間がAIを含めて技術的な道具(ツール)を使って生み出した素材やコンテンツを、どのような場合に「人間が創作的に表現したもの」として保護するべきか、という点なのです。ここからは私見ですが、AIがそこでアウトプットされる最終生成物の「創作的な素材(要素)」(ここで、「創作的な素材(要素)」とは、人間が作成したならば、「著作物」の範疇に入る程度の創作性のある表現物を意味します。)を決定(制御)している場合には、そのような素材(要素)は人間の創作にかかるものではありません。したがって、そのような素材(要素)を著作権によって保護することはできないでしょう。一方、AIによってアウトプットされる最終生成物に人間が創作的に関与(介在)した、又は、その最終生成物の生成過程の全体を人間が創作的に制御(コントロール)できたというような事情があれば、そのような最終生成物は「人間の創作にかかる」ものとして著作権によって保護されてよいと思います。

AI技術を取り巻く著作権法上の議論ははじまったばかりです。AI技術は今後さらに進歩していくでしょう。それに伴ってあらたな法律上の問題、著作権法上の問題が提起されるでしょう。難しい問題になることが予想されますが、著作権ビジネスを支援する者として、今後の推移を見守っていきたいと思います。AI技術と著作権の問題に関しては、行政当局の運用や裁判所の判断に注目すべきものが出てきた段階で、追加の記事を掲載するつもりです。

以上

willwaylegal@ar.wakwak.com

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