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カネダ著作権事務所

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アメリカ連邦著作権法における“フェア・ユース”

フェア・ユース(Fair Use)とは

「著作権」(copyright)は、著作者の作成にかかる創作的な著作物で、有形的表現媒体に固定されたものに対して、合衆国憲法及び米国著作権法(連邦著作権法)を根拠として与えられる排他独占的権利です。そして、この排他独占的権利である「著作権」には、次の権利(支分権)が含まれています(106条)。
   複製権
    二次的著作物の創作翻案権
    頒布権
    公の実演権
   公の展示権
    デジタル音声送信による公の実演権
以上の支分権を有する著作権を保有する者が「著作権者」(copyright owner, owner of copyright)であり、かかる著作権者が自己の著作物の「複製」や「頒布」等の行為を排他独占的に行えることが著作権制度の大原則です。しかしながら、排他独占的権利である著作権をもって権利者を保護するのみで、著作物の一般大衆による公正な自由利用が全く担保されないのであれば、おそらく、「有用な技芸の発展を促進する」(To promote the Progress of useful Arts)―アメリカ合衆国憲法第1編第8項―ことは到底望めないでしょう。著作権制度の目的は、著作者の創作活動の成果物(著作物)に対して公平な対価・報償(一定期間著作物を排他独占的に利用できる経済的権利の付与)を保障する一方で、一般公衆による著作者の才能の成果物(著作物)へのアクセス(自由利用)を可能にすることで、究極的には、公共(社会一般)の利益と福祉を増進させることにあると考えられます。米国を含め、各国が著作権の「制限規定」(limitations on exclusive rights)を設けている理由は、まさにそれが著作権制度の根幹にかかわってくるからなのです。そして、米国著作権法において、最も重要な「制限規定」が「フェア・ユース(公正利用)」に関する連邦著作権法107条の規定なのです。

上述したように、米国を含めて各国とも、著作(権)者を著作権という排他独占的権利で保護する一方で、著作物の社会による公正な自由利用を確保する方策(著作権の合理的制限)を採用することになるのですが、米国においては、いくつかある制限規定のうちで「フェア・ユースの法理」(the doctrine of “fair use”, the “fair use” doctrine)を明文化した107条の規定が最も重要であると考えられています。
「フェア・ユースの法理」とは、他人の著作物をその著作権者の許可を得ず無断で利用する場合であっても、その利用の目的、著作物の性質、利用される量、著作物の潜在的市場への影響といった各「要素」(factors)を勘案して、「公正な利用」(fair use)であると言える場合には、そのような利用行為は著作権の侵害とはならない、とする考え方です。これは、米国において長年の相当数の判例を通して確立してきた考え方であり、第三者の「表現の自由」(合衆国憲法修正第1条)に配慮した考え方でもあります。この法理を明文化したのが連邦著作権法107条であり、その規定振りは、非常に「概括的・包括的」で、わが国の著作権法とは幾分趣を異にしています。
(注)平成30年法改正により“日本版フェア・ユース規定”が導入されました(法30条の4)が、日本の諸事情が勘案された結果、米国型のいわゆる「非常に柔軟性の高い一般的・包括的なフェア・ユース規定」ではなく、「明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せ」を前提とした「柔軟性のある権利制限規定(フェア・ユース規定)」となりました。

“The 1961 Report of the Register of Copyrights on the General Revision of the U.S. Copyright Law”(「合衆国著作権法一般改正に関する著作権局長の1961年報告書」)には、次のように、それまでに裁判所がfair use”と認定したいくつかの具体的な行為(活動)が挙げられています。
〇例証又は論評を目的として、批評・評論中に他の著作物の抜粋部分を引用すること。
〇自説の例証又は明確化を目的として、自身の学術的又は技術的な著作物中に他の著作物の短い節(short passages)を引用すること。
〇パロディーにおける利用。
〇報道において、簡潔な引用で、演説や記事を要約すること。
〇損傷個所を取り換えるために、著作物の一部(a portion)を図書館が複製すること。
〇授業内容を解説するために、著作物のごく一部(a small part)を教師又は生徒が複製すること。
〇立法又は司法上の手続、又はこれらの報告書において、著作物を複製すること。
〇報道されているイベントシーンの中にある著作物が、ニュース映画又は放送において、偶発的に又は思いがけなく複製されること。

107条の内容

連邦著作権法107条は、「フェア・ユースによる著作権の制限」(Limitations on exclusive rights: Fair use)という「見出し」のもと、その柱書(第1文)において、次のように規定しています:「第106条及び第106Aの規定にかかわらず、例えば、批評[論評]、解説[論説]、報道、教育(教室における利用のための複数のコピー(の作成行為)を含む。)、学問、又は調査などを目的とする、著作権のある著作物のフェア・ユース[公正利用]は、コピー若しくはレコードへの複製又は第106条に明記するその他の手段による利用を含めて、著作権の侵害とはならない。」
[参考:原文]
Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright.

上述の規定中には、ある著作物の複製等の利用行為がfair”であると考えられるためのいくつかの「目的」(purposes)―「批評[論評]」(criticism)・「解説[論説]」(comment)・「報道」(news reporting)・「教育」(teaching)・「学問」(scholarship)・「調査」(research)―が「例」(such as)として掲げられています。これらの利用目的は、それまでの判例によって伝統的・一般的にフェア・ユースと認定されるケースが多かったものを例示的に列挙しているに過ぎないと解されます。
連邦著作権法107条は、その柱書(第2文)において、次のように続けています:「特定の場合に著作物の利用がフェア・ユースになるか否かを決定する際に考慮されるべき要素には、次のものを含むものとする。」
[参考:原文]
In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include—
つまり、ある特定の場合におけるuse”(利用)がfair”であるか否かを決定するに当たっては、上述した「利用目的」を含めて、次の4つのfactors”(要素)が考慮されることになります。
フェア・ユースを決定付ける4つのfactors”(要素)は、次のとおりです:
    当該利用の目的及び性質(その利用が商業的性質のものであるか否か、又はその利用が非営利の教育的目的のためのものか否かを含む。)
    被利用著作物(著作権のある著作物)の性質
    被利用著作物(著作権のある著作物)全体との関連における、その利用されている部分の量及び実質
    被利用著作物(著作権のある著作物)の潜在的市場又はその価値に対する当該利用の影響
[参考:原文]
(1) the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;
(2) the nature of the copyrighted work;
(3) the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and
(4) the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.
以上の4つのファクターは、それぞれが個別に検討され(場合によっては、別の新たなファクターが考慮されることもありえます)、それらの検討結果を総合的に判断して、ケースバイケースにフェア・ユースの認否がなされることになります。
なお、以上のすべての要素を考慮してフェア・ユースが認定される場合には、著作物が「未発行」(unpublished)であるという事実自体は、かかるフェア・ユースの認定を妨げる要因とはなりません(つまり、未発行著作物であってもフェア・ユースが認定される場合がある、ということです)。この点、107条の最終文に「フェア・ユースの認定が上記のすべての要素を考慮してなされる場合には、著作物が未発行であるという事実は、それ自体、当該フェア・ユースの認定を妨げない。」(原文:The fact that a work is unpublished shall not itself bar a finding of fair use if such finding is made upon consideration of all the above factors.)とする注意規定があります。

著作権者の許諾を得ることなく自由利用が可能になるフェア・ユースと著作権侵害行為とを明確に区別することは非常に難しく(例えば、著作権者の許諾なしに引用できる単語数や行数等が決まっているわけではない)、その境界線も未だ不明確な部分が多いといえます。他人の著作物を最も安全かつ確実に利用する方法は、当該著作物の著作権者から明示的な利用の許諾を受けることです。フェア・ユースによる許諾なしの自由利用を当てにすることは、ある意味では危険な行為といえるでしょう。
なお、アメリカ連邦著作権局(行政部局)は、ある行為がフェア・ユースに該当するか否か等に関する決定を行うことも、それについてのアドバイスをすることもできません。107条において4つのファクターが明示され、判断基準が一応示されていますが、最終的には、個別具体的ケースについて、ケースバイケースで司法(裁判所)によってフェア・ユースの認否が行われることになります。

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