Kaneda Copyright Agency
カネダ著作権事務所

著作権関連記事

『アメリカ著作権制度の全体像』

著作権保護の正当化の根拠

まずはじめに、アメリカ合衆国憲法の次の条項をみてみましょう:

[U.S. Constitution, Article I, Section 8]
The Congress shall have Power... To promote the Progress of Science and useful Arts, by securing for limited Times to Authors and Inventors the exclusive Right to their respective Writings and Discoveries
[アメリカ合衆国憲法第1編第8条第8]
合衆国連邦議会は、著作者及び発明者に、それぞれの著作及び発明に対する排他的権利を、限られた期間保障することによって、科学[学術]及び有用な技芸の発展を促進する権能を有する。

アメリカ合衆国著作権法(以下、「米国(連邦)著作権法」といいます。)制定の根拠は、上記のように合衆国憲法の条項に求められます。この条項に基づき、すなわち「有用な技芸の発展」という目的から、著作物に対する一定期間の排他的権利による保護が連邦制定法である米国著作権法によって保障されています。もっとも、この条項からもわかるように、連邦制定法によって保障されている著作権による保護は、無制限なものではありません。一定の限られた期間(for limited times)の保障にとまります。当該保護期間の終了後は、著作物を公衆が自由に享受できる道を残しておくことが意図されています。このように著作権を「有限」な存在とし、一定期間に限って著作物を保護しようという考え方(保護期間の経過後は、著作物はパブリックドメイン(public domain)として社会の共有財産となるという考え方)は、わが国を含めて、国際的にも共通したものです。

アメリカにおける著作権法の目的は、著作者の創作活動の成果物(表現)に対して公平な対価・報償(一定期間著作物を排他独占的に利用できる経済的権利の付与)を保障する一方、そのような(経済的)インセンティブを通して、創作活動が刺激されて、より多くの、より優れた表現が生み出されて、世の中に広められることによって、究極的には、公共(社会一般)の利益と福祉を増進させることにあるものと考えられます。
以下、これまでの重要判例の中で、著作権制度の目的や存在意義に言及した部分をいくつか抜粋します。
Harperケース(HARPER & ROW v. NATION ENTERPRISES):
(アメリカ合衆国憲法第1編第8項における)この制限された(範囲での排他的権利の)付与[許与]は、重要な公共的目的が達成されうるための1つの手段である。それは、著作者及び発明者に特別な報償(special reward)を与えることによって彼らの創作活動が動機づけられること、並びに、(著作者及び発明者による)その限られた期間での排他独占的な支配が満了した後の、一般公衆による彼らの才能の成果物(著作物・発明)へのアクセスを可能にすることを意図している。
This limited grant is a means by which an important public purpose may be achieved. It is intended to motivate the creative activity of authors and inventors by the provision of a special reward, and to allow the public access to the products of their genius after the limited period of exclusive control has expired.

Feistケース(FEIST PUBLICATIONS, INC. v. RURAL TEL. SERVICE CO.):
『著作権の第一の目的は、著作者の労働に報いることではなく、「学術及び有用な技芸を促進すること」である。この目的のために、著作権は、著作者にかれらのオリジナルな表現に対する権利を保証するが、他の者が、著作物によって伝えられるアイディアや情報をもとに自由に創作活動を進めることを奨励するものである。』
The primary objective of copyright is not to reward the labor of authors, but "to promote the Progress of Science and useful Arts." To this end, copyright assures authors the right to their original expression, but encourages others to build freely upon the ideas and information conveyed by a work.

Mazerケース(MAZER v. STEIN
『連邦議会に特許権及び著作権を付与する権限を承認している条項の背後にある経済的な思想は、次の確信に基づく;個人に利益を与えることで当該個人の(創作や発明への)意欲を奨励することが、「科学[学術]及び有用な技芸」において著作者及び発明者の才能を通して公共の福祉(public welfare)を増進させるのに最も良い方法である、と。そのような創作的活動に捧げられる献身的な時間は、そこで費やされる労力に見合うだけの報償に値するのである。』
The economic philosophy behind the clause empowering Congress to grant patents and copyrights is the conviction that encouragement of individual effort by personal gain is the best way to advance public welfare through the talents of authors and inventors in "Science and useful Arts." Sacrificial days devoted to such creative activities deserve rewards commensurate with the services rendered.

Eldredケース(ELDRED et al.v. ASHCROFT, ATTORNEY GENERAL):
『著作権条項と修正第1条は、近い時期に採択された。この時期的な近似性は、(憲法)立案者の見解として、著作権の制限された独占性は、表現の自由の原則と矛盾しないことを示している。事実、著作権の目的は、自由な表現を生み出しこれを公表[発行]することを促進することにある。』
The Copyright Clause and First Amendment were adopted close in time. This proximity indicates that, in the Framers' view, copyright's limited monopolies are compatible with free speech principles. Indeed, copyright's purpose is to promote the creation and publication of free expression.

米国著作権法の優先的適用(preemption
(注)ここでは、わかりやすくするために、preemption”を「優先的適用」と訳しましたが、これを「先占」「専占」などと訳す専門家もいます。

ところで、連邦制を採用する米国においては、著作権の保護について、連邦法レベルでの保護と各州法(制定法及びコモンロー)レベルでの保護という二元的構造が存在するという特色があります。かかる法システムを採用する場合、両者の適用関係をどうするのか、つまり、ある著作物を保護する場合に、連邦法を優先するのか各州法を優先するのか等について明確にしておく必要があります。この点、米国著作権法(連邦制定法)は、著作権の保護に関しては、原則として、連邦法が優先的に適用される旨を明確に定めています(301(a))。このような、連邦法と各州法との適用関係の処理は、合衆国憲法第6編第2(最高法規性)に由来するものです。

ここで、もう少しpreemptionという用語について、解説しておきます。
手元にあるOxford Advanced Learner’s Dictionaryで“pre-emption”を引いてみると、“the opportunity given to one person or group to buy goods, shares, etc.”(「ある人又はグループに与えられる、商品・株等を購入する機会」)とあります。もともとは、ラテン語の“praeemere”の名詞形に当たるpraeemption”が語源で、prae”とは”in advance”(「前もって(あらかじめ)」)を意味し、また、emere”buy”を意味します。従って、“pre-emption”(“preemption”も同じ)は、一般的には、「(商品や株券などの)先買権・優先買取権」という意味で使われます。
しかしながら、アメリカの法律でしばしば目にする“preemption”という用語は、連邦制を採用するアメリカ合衆国では、「連邦議会がある分野に関して法律(連邦法)を制定すると、当該連邦制定法は、各州法に優先することになり、当該連邦制定法が当該分野を先占(専占)することが明らかであれば、州政府は、もはや当該分野で当該連邦制定法と抵触する立法をなし得なくなるという原則」(the rule of law that if the federal government through Congress has enacted legislation on a subject matter it shall be controlling over state laws and/or preclude the state from enacting laws on the same subject if Congress has specifically stated it has "occupied the field.")という意味で使われる場合も多くあります。このような連邦制定法と各州法との法の適用関係の処理に関する原則は、前述しましたように合衆国憲法の要請するところです。

著作権による保護は、以前は、「未発行」段階の著作物は各州法(コモンロー)により保護し、著作物の「発行」後は、連邦制定法である米国著作権法により保護するという仕組みが存在していましたが、現行著作権法(1976年法)のもとでは、発行未発行の別を問わず、連邦著作権法によって一元的に保護が図られる仕組みになっています。これを宣言している規定が、米国著作権法301(a)です。
具体的にはこういうことです。197811日以後においては、「有形的表現媒体に固定された、著作者が作成した著作物であって、102条及び103条に規定する著作権の対象の範囲内にある著作物」における「106条に規定する著作権の一般的な排他的権利に相当するあらゆる権利(衡平法上の権利を含む)」に関しては、発行されているか否かにかかわらず、連邦制定法である「本編」(this title:米国著作権法のこと)によって「排他的に」(exclusively)に規律されることになります。すなわち、原則として、連邦法である米国著作権法の保護対象になっている著作物についての一般的な排他的権利を州法で規制することはできないということです。もっとも、連邦法である米国著作権法のいかなる規定も、例えば、米国著作権法102条又は103条の範疇に属さない対象物、有形的表現媒体に「固定されていない」著作物、一般的な排他的権利のいずれにも「相当しない」権利を侵害する活動などに対する州法における保護を無効とするものでありません(301(b)参照)。
[参考:米国著作権法301]
§ 301. 他の法律に対する優先的適用
(a) 197811日以後は、著作者が作成した著作物であって、有形的表現媒体に固定され、かつ、102条及び103条に規定された著作権の対象の範囲内にある著作物に対する、106条に規定された著作権の一般的な範囲内にある排他的権利に相当する普通法[一般法]上の又は衡平法上のすべての権利は、当該著作物が当該日の前に創作されたか後に創作されたかを問わず、また、当該著作物が発行されているか未発行であるかを問わず、本編によって排他的な規制を受ける。その後は、いかなる者も、コモンロー又は州の制定法に基づく上記著作物に対する上記の権利又はこれに相当する権利を受けることができない。
(b) 本編のいかなる規定も、次に掲げるものに関して、コモンロー又は州の制定法に基づく権利又は法的救済を無効とし、又は制限するものではない。
(1) 102条及び103条に規定された著作権の対象の範囲内に属さない対象物(著作者が作成した著作物で、有形的表現媒体に固定されていないものを含む。)、
(2) 197811日より前に開始された事業から生じる請求原因、
(3) 106条に規定された著作権の一般的な範囲内にある排他的権利に相当しない、普通法上の又は衡平法上の権利を侵害する活動、又は
(4) 102(a)(8)に基づき保護される建築の著作物に係わる、州及び地方のランドマーク、史跡保存、ゾーニング[区画政策]、又は建築に関する法規。

§ 301. Preemption with respect to other laws
(a) On and after January 1, 1978, all legal or equitable rights that are equivalent to any of the exclusive rights within the general scope of copyright as specified by section 106 in works of authorship that are fixed in a tangible medium of expression and come within the subject matter of copyright as specified by sections 102 and 103, whether created before or after that date and whether published or unpublished, are governed exclusively by this title. Thereafter, no person is entitled to any such right or equivalent right in any such work under the common law or statutes of any State.
(b) Nothing in this title annuls or limits any rights or remedies under the common law or statutes of any State with respect to —
(1) subject matter that does not come within the subject matter of copyright as specified by sections 102 and 103, including works of authorship not fixed in any tangible medium of expression; or
(2) any cause of action arising from undertakings commenced before January 1, 1978;
(3) activities violating legal or equitable rights that are not equivalent to any of the exclusive rights within the general scope of copyright as specified by section 106; or
(4) State and local landmarks, historic preservation, zoning, or building codes, relating to architectural works protected under section 102(a)(8).

[参考:米国における知的財産権の保護区分(代表例)]
連邦法による保護⇒著作権、特許、商標。
〇各州法による保護⇒「未固定」の著作物、商品・サービスの出所等の不正表示(不正競争法(unfair competition law)による保護)、トレード・シークレット(trade secret)、パブリシティ権(right of publicity)、未利用のアイディア(undeveloped idea)等。

「コモンロー上の著作権」(common law copyright)とは?

「コモンロー上の著作権」の意義については、論者によってニュアンスの相違があります。「自然権」(a natural right)の一種として、「著作物の発行を永久的にコントロールし得る権利」(a perpetual right to control the publication of one’s work)と捉える論者もいます。ここでは、主として、「未発行」の著作物に係る、著作者が当該著作物の最初の発行をコントロールしうる権利と限定的に解釈しておきます。このような解釈の下では、「コモンロー上の著作権」は、いわゆる「第一発行権」(the right of first publication)とほぼ同義になると解されます。
現行著作権法(1976年法)以前においては、各州におけるコモンロー上の著作権(第一発行権)の保護と、発行後の著作物に対する連邦制定法による保護という枠組みが存在していました。これは、1909年制定の連邦著作権法の下では、「発行」されているか否かが連邦制定法による保護の大きなメルクマールとされていたため、「未発行」の著作物に対する保護は、主として各州においてコモンローによって保護しようとしていたものと考えられます。
しかしながら、現行著作権法(1976年法)の下では、連邦制定法による保護は、「発行」ではなく、「固定」されているか否かがメルクマールとされたため、現在では、著作権による保護は、発行未発行を問わず、原則として連邦制定法である米国著作権法による一元的な規制を受けることになります。

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