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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

舞踊無言劇著作物▶社交ダンスの振付け

▶平成240228日東京地方裁判所[平成20()9300]
社交ダンスが,原則として,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであり,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップは,ごく短いものであり,かつ,社交ダンスで一般的に用いられるごくありふれたものであるから,これらに著作物性は認められない。また,基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることであり,基本ステップがごく短いものでありふれたものであるといえることに照らすと,基本ステップにアレンジを加えたとしても,アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは,基本ステップの範ちゅうに属するありふれたものとして著作物性は認められない。
社交ダンスの振り付けにおいて,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることがあるが,このような新しいステップや身体の動きは,既存のステップと組み合わされて社交ダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものにとどまるということができる。このような短い身体の動き自体に著作物性を認め,特定の者にその独占を認めることは,本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになりかねず,妥当でない。
以上によれば,社交ダンスの振り付けを構成する要素である個々のステップや身体の動き自体には,著作物性は認められないというべきである。
社交ダンスの振り付けとは,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことである。このような既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには,それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当である。なぜなら,社交ダンスは,そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり,競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると,振り付けについての独創性を緩和し,組合せに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると,わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し,特定の者の独占が許されることになる結果,振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである。このことは,既存のステップの組合せに加えて,アレンジを加えたステップや,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを組み合わせた場合であっても同様であるというべきである。
[(コメント)以上の判示の前提として、次の「事実認定」がされている点に留意(そのような社交ダンスの特殊性が判決に影響したものと思われる):『「社交ダンスには,様々なステップがある。社交ダンスの基本となるステップは,Imperial Society of Teachers of Dancing(「ISTD」)が発行する社交ダンスの教科書である「The Ballroom Technique」や,ISTDのラテン・アメリカン・ダンス委員会が監修する各ラテン種目の教科書などに掲載されている(これらの社交ダンスの教科書に掲載されているステップを「基本ステップ」という)。また,基本ステップ以外にも,メダルテスト,競技会,デモンストレーション等で広く一般に使用されるようになったステップも数多くあり,このようなステップの一部はISTDの元会長であるDが著作した「ポピュラーバリエーション」に掲載されており(ポピュラーバリエーションに掲載されているステップを「PVのステップ」という),これに掲載されていないステップも数多くある。社交ダンスは,原則として基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであるが,競技ダンスでは,基本ステップを構成する諸要素にアレンジを加えて踊ることは一般的に行われており,また,ある種目の基本ステップを,種目を超えて用いることも一般的に行われている。さらに,他の種類のダンスの動きを参考にするなどして,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることも行われている。社交ダンスの振り付けとは,このような既存のステップを選択して組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことをいう。』]

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