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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

地図図形著作物▶個別事例①(ゼンリン住宅地図)

▶令和4527日東京地方裁判所[令和1()26366]
原告各地図の著作物性について
(1) 一般に、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって、客観的に表現するものであるから、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例である。しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表れ得るものということができる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものである。
(略)
(4) 前記によれば、本件改訂[注:住宅地図をデジタルデータ化するための改訂作業のこと]により発行された原告各地図は、都市計画図等を基にしつつ、原告がそれまでに作成していた住宅地図における情報を記載し、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を調査して得た情報を書き加えるなどし、住宅地図として完成させたものであり、目的の地図を容易に検索することができる工夫がされ、イラストを用いることにより、施設がわかりやすく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表示等が記載されたり、建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載されたりするなど、長年にわたり、住宅地図を作成販売してきた原告において、住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示したものということができる。したがって、本件改訂により発行された原告各地図は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの(著作権法2条1項)と評価することができるから、地図の著作物(著作権法10条1項6号)であると認めるのが相当である。
また、前記のとおり、本件改訂より後に更に改訂された原告各地図は、いずれも本件改訂により発行された原告各地図の内容を備えるものであるから、同様に地図の著作物であると認めるのが相当である。
(略)
(5) これに対して、被告らは、地図に著作物性が認められる場合は一般的に狭く、住宅地図は他の地図と比較して著作物性が認められる場合が更に制限される、原告各地図は、江戸時代の古地図や既存の地図、都市計画図に依拠して作成されたものであり、創作性が発揮される余地は乏しい、原告各地図は機械的に作成され、正確・精密であるとされることからすると、創作性が発揮される部分は更に限定され、国土地理院は、2500分の1の縮尺の都市計画基本図について、著作物性が認められる可能性は低いとの見解を示している、過去に作成された住宅地図には家形枠が記載されたものがあり、家形枠を用いた表現自体ありふれている、原告は地図作成業務のうち少なくとも6割を海外の会社に対して発注しており、原告各地図には独自性がないとして、原告各地図には著作物性が認められないと主張する。
しかし、上記については、前記(1)のとおり、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものであるところ、前記(4)のとおり、原告各地図は、その作成方法、内容等に照らして、作成者の個性が発現したものであって、その思想又は感情を創作的に表現したものと評価できるから、地図の著作物であると認められる。
上記については、原告が古地図や都市計画図等を参照して原告各地図を作成したものであったとしても、前記のとおり、原告各地図は、本件改訂によって、都市計画図等をデータ化したものに、居住者名や建物名、地形情報、調査員が現地を訪れて調査した家形枠の形状等を書き加えるなどして作成されたものであり、その結果、前記の特徴を備えるに至ったものであって、このような原告各地図の作成方法、特徴等に照らせば、原告各地図は、都市計画図等に新たな創作的表現が付加されたものとして、著作物性を有していると認められる。
上記については、原告各地図が正確・精密であるとしても、前記(1)のとおり、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法等において創作性を発揮する余地はある。また、被告らの指摘する国土地理院の見解は、都市計画基本図について述べたものであり、住宅地図作成会社が作成する住宅地図一般について述べたものではないし、上記について説示したとおり、原告各地図は、都市計画図等を基図としてデータ化した上、これに種々の情報を書き加えるなどすることで、住宅地図として完成させたものであるから、国土地理院の上記見解は原告各地図に当てはまるものではない。さらに、前記のとおり、原告各地図は、地図の4辺に目盛りが振られ、当該地図の上、右上、右、右下、下、左下、左及び左上の各位置にある地図の番号が記載されており、目的とする地図を検索しやすいものとなっている上、信号機やバス停等がイラストを用いてわかりやすく表示されたり、建物等の居住者名や店舗名等を記載することにより住居表示についてもわかりやすくする工夫がされているなどの特徴を有するのに対し、証拠によれば、都市計画基本図にはこのような特徴が全くないことが認められ、原告各地図と都市計画基本図とでは、そもそも性質が異なることから、同列に論じることはできない。
上記については、住宅地図において家形枠を記載することがよくあるとしても、原告各地図における家形枠の具体的な表現がありふれていることを認めるに足りる証拠はないから、直ちに原告各地図の著作物性を否定することはできないというべきである。
上記については、原告が原告各地図の作成業務を海外の会社に発注していることのみをもって、原告各地図の独自性を否定し、ひいては、その著作物性を否定することはできないというべきである。
以上のとおり、被告らの上記各主張はいずれも採用することができない。

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