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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

地図図形著作物▶その他③

[顧客へのプレゼンテーション用の資料]
▶令和489日東京地方裁判所[令和3()9317]▶令和5221日知的財産高等裁判所[令和4()10088](控訴審も同旨)
ア 原告は、本件データ[注:本件データの内容は、AI技術を用いた自動会話プログラムである「AIチャットボット」につき、「機能一覧」、「非機能一覧」、「画面イメージ」等をまとめたものである]につき、その個別の表現自体については創作的表現がないことを認めるものの、表としての体系、配列に創作性があるものと主張する。
イ そこで検討すると、本件データによれば、本件データは、表形式で整理した上で色分けをしたり、「優先度」を表示したり、それぞれの内容を数行程度で説明したり、複数のパソコン画面のイメージを立体的に重ね合わせるデザインを採用した上で、2画面間の相違を示すことにより特に強調したい内容を示すとともに、表示に関する説明を黄色の目立つ吹き出し表示により示したり、パソコン上の操作画面を示して、その重要部分を赤点線で囲んで目立たせたり、ユーザ、インターフェース等の配置や各構成相互の連携やデータのやりとりの双方性を示す矢印を色付きで示したりするものであることが認められる。
上記認定事実の表としての体系、配列は、情報を分かりやすく整理してこれを伝えるために、一般的によく使用されるものであるにすぎず、そこに一定の工夫がされていたとしても、表現それ自体ではないアイデア又はありふれた表現にすぎないというべきであり、創作性を認めることはできない。
ウ したがって、本件データには、そもそも著作物性があるものと認めることはできず、被告ら作成データの作成は、【著作物の複製又は翻案】に該当するものとはいえない。

[ソフトウェアのテスト設計書のひな型]
▶令和4531日東京地方裁判所[令和1()12715]
[注:原告及び被告○○が行うテスト業務は、ゲームソフトの制作会社等から委託を受けて、ゲームソフト等のソフトウェアが仕様どおりに動作するかを確認し、プログラムの不具合の有無を検出することを内容とするものである。テスト業務の担当者は、テスト業務で確認すべき事項や確認結果を可視化して作業の抜け漏れを防止すること等を目的として、通常、それらを記録する「テスト設計書」と呼ばれる資料を作成する。原告の従業員らは、テスト設計書のひな型として、別紙記載の電子ファイルを作成した(「本件ファイル」)。]
本件各ファイルは「著作物」に該当するかについて
(1) 著作権法による保護の対象となる「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいう。
しかして、「創作的に表現したもの」に当たるというためには、その表現を行った者の個性が発揮されていればよいと考えられるが、本件においてその意義について検討すると、まず、前記のとおり、テスト業務において確認すべき事項は、テスト業務の性質上、テストの対象となるソフトウェアの仕様として明示的に記載されている事項か、当該ソフトウェアが当然有すべき性能に係る事項に限定されると考えられることが指摘できる。また、前提事実によれば、テスト設計書は、テスト業務の担当者が、テスト業務で確認すべき事項や確認結果を可視化して作業の抜け漏れを防止すること等を目的として通常作成する資料であるため、確認対象、確認方法及び確認結果を必須の構成要素とするものであり、かつ、テスト業務の担当者らや委託者等の様々な関係者がこれを参照等することが想定され、その記載内容に高度の簡潔さや明瞭さが求められるものであることも指摘できる。このようなテスト業務の性質やテスト設計書の機能に照らすと、テスト設計書は、誰が制作してもある程度同じような表現方法を採用せざるを得ないものであるといえ、その表現に制作者の個性が発揮されていると評価すべき余地は狭くなると考えられる。そのため、テスト設計書の創作性の有無については、このような事情をも踏まえ、特定の制作者に表現方法の過度の独占を認める結果とならないよう慎重に判断する必要があるというべきである。
そこで、上記のような事情を踏まえつつ、本件各ファイルに制作者の個性が発揮されているといえるかについて、原告が本件各ファイルの創作性を基礎付ける事情として指摘するものを中心に検討する。
(2) 原告は、本件ファイル1に関し、シートの選択及び配列、各シートのレイアウト及び配色並びに各シートに記載された文言について、原告独自の表現方法であって、原告の個性が表されている旨主張する。
しかしながら、次のとおり、原告の上記各主張について、上記のような事情を踏まえて検討すると、本件ファイル1に制作者の個性が発揮されているとまではいえないというべきである。
まず、上記について、原告は、テストに必要な項目を(省略)を行ったこと、(省略)ことなどを主張するが、これらの工夫はアイデアというべきものであり、著作権法が保護の対象とする表現には当たらない。
また、上記について、原告は、レイアウト及び配色を統一したことなどを主張するが、一定の目的の下に複数のシートを作成する場合に、見やすさ等を考慮して各シートのレイアウトや配色を統一することは、テスト設計書に限らず広く一般的に行われる工夫にすぎず、本件各ファイルの制作者の個性が発揮されたものと評価することはできない。
さらに、上記について、原告は、(省略)こと、(省略)こと、それらの名称や説明等の表現は多数ある他の記載方法から選択したものであることなどを主張するが、表の中の限られたスペースに名称や説明等を記載する場合に、見やすさ等を考慮して文章形式ではなく記号や改行等を用いた簡潔な表現とすることは、テスト設計書に限らず広く一般的に行われる工夫にすぎず、本件各ファイルの制作者の個性が発揮されたものと評価することはできない。
そして、この他の原告の主張を踏まえて検討しても、本件ファイル1に制作者の個性が発揮されたものと評価すべき表現の存在は認められない。
したがって、本件ファイル1が著作権法の保護の対象となる「著作物」に当たるということはできない。

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