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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物▶個別事例③(スローガン/キャッチフレーズ/求人広告)

[スローガン]
▶平成130530日東京地方裁判所[平成13()2176]
原告スローガン[(注)「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」]は,3句構成からなる575調(正確な字数は6字,7字,8字)調を用いて,リズミカルに表現されていること,「ボク安心」という語が冒頭に配置され,幼児の視点から見て安心できるとの印象,雰囲気が表現されていること,「ボク」や「ママ」という語が,対句的に用いられ,家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば,筆者の個性が十分に発揮されたものということができる。したがって,原告スローガンは,著作物性を肯定することができる。

[キャッチフレーズ]
平成27320日東京地方裁判所 [平成26()21237]平成271110日知的財産高等裁判所[平成27()10049]
原告キャッチフレーズ1は,「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/英語がどんどん好きになる」というものであり,17文字の第1文と12文字の第2文からなるものであるが,いずれもありふれた言葉の組合せであり,それぞれの文章を単独で見ても,2文の組合せとしてみても,平凡かつありふれた表現というほかなく,作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない。
原告キャッチフレーズ2は,「ある日突然,英語が口から飛び出した!」というもの,原告キャッチフレーズ3は,「ある日突然,英語が口から飛び出した」というものであるが,17文字(原告キャッチフレーズ3)あるいはそれに感嘆符を加えた18文字(原告キャッチフレーズ2)のごく短い文章であり,表現としても平凡かつありふれた表現というべきであって,作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない。
[以下、本件の控訴審も参照]
控訴人は,創作性の問題の本質は長さの点になく,創作者の何らかの個性が現れていれば足りるし,短い表現であっても,選択の幅が狭いとはいえない以上,控訴人キャッチフレーズ2[「ある日突然,英語が口から飛び出した!」]について,著作物性が肯定されるべきである,控訴人キャッチフレーズ2は,五七調の利用や人物を主語としない表現という意味で,需要者に強く印象を与えるものであり,従業員が試行錯誤して完成させた,他の英会話教材の宣伝文句にはない,独自のものである旨主張する。
しかしながら,許容される表現の長さによって,個性の表れと評価できる部分の分量は異なるし,選択できる表現の幅もまた異なることは自明である。特に,広告におけるキャッチフレーズのように,商品や業務等を的確に宣伝することが大前提となる上,紙面,画面の制約等から簡潔な表現が求められ,必然的に字数制限を伴う場合は,そのような大前提や制限がない場合と比較すると,一般的に,個性の表れと評価できる部分の分量は少なくなるし,その表現の幅は小さなものとならざるを得ない。さらに,その具体的な字数制限が,控訴人キャッチフレーズ2のように,20字前後であれば,その表現の幅はかなり小さなものとなる。そして,アイデアや事実を保護する必要性がないことからすると,他の表現の選択肢が残されているからといって,常に創作性が肯定されるべきではない。すなわち,キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては,個性の有無を問題にするとしても,他の表現の選択肢がそれほど多くなく,個性が表れる余地が小さい場合には,創作性が否定される場合があるというべきである。
本件において,控訴人商品は,リスニングを中心にすえた英会話教材中,集中して聞き入るという方法ではなく,聞き流す方法を採用した教材であり,控訴人キャッチフレーズ2は,控訴人商品を英会話教材として利用した場合に,自然に流暢に英語を話すことができるようになるという効果があることを謳ったものであるが,その使用方法や効果自体は,事実であるし,消費者に印象を与えるための五七調風の語調の利用や,商品を主語とした表現の採用自体は,アイデアにすぎない。また,劇的に学習効果が現れる印象を与えるための「ある日突然」という語句の組合せの利用や,ダイナミックな印象を与えるための「飛び出した」という語句の利用に関しても,上記アイデアを表現する上で一定の副詞や動詞を使用することは不可欠であるから,他の表現の選択肢はそれほど多くないといわざるを得ない。現に,同様のアイデアを表現する上で,控訴人自身が過去に採用したキャッチフレーズにおいて,「…英語が口から飛び出す!」,「ある日突然,…(英語が話せてびっくりした!)」,「ある日突然,…(自然と英語が口をついて出てくる!)」,「ある日突然,英語が口から飛び出して」,「…突然,英語が口から飛び出す」という控訴人キャッチフレーズ2と共通する部分が存在する。また,キャッチフレーズではないが,控訴人キャッチフレーズ2の公表後に発表された英会話の上達方法に関するウェブサイトにおいて,無意識に自然と流暢に英語を話せるようになるという劇的な効果を説明するために,「ある日突然に,…口から飛び出る」,「ある日突然,…英語のフレーズが口から飛び出してきます。」,「ある日突然「するっと英語が話せる」ようになった」といった語句が使用され,控訴人キャッチフレーズ2と同じ副詞や動詞が選択されているのであって,これらは,控訴人商品と同様の学習効果を表現する上で,他の表現の選択肢が限られていることをうかがわせるものである。このような意味において,控訴人キャッチフレーズ2における語句の選択は,ありふれたものということができる。
したがって,控訴人キャッチフレーズ2に著作物性が認められないとした原判決の判断に,誤りはないというべきである。

▶平成130928日東京地方裁判所[平成11()8085]
キャッチコピー「漢方のふるさと中国四千年の歴史が生んだ,あの迷奇がついに日本上陸」及び推奨文「友人からの紹介で朝晩使ってみたら,肌がいつもしっとりして気持ち良く保湿性の良さに驚きました。」については,いずれも極く短く,平凡かつありふれた表現からなる文章であって,これらの文章について,創作性を肯定することはできない。

▶平成31124日大阪地方裁判所[平成29()6322]▶令和元年725日大阪高等裁判所[平成31()500]
上記①[(注)「検査時間 受診代金[注:各文言の上に『×』の記号あり]」及び「検査なし スグ買える!」という宣伝文句(キャッチフレーズ)をさす】は,旧大阪駅前店において採用された眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができるという特徴を表現したものであり,眼科での受診(検査)が不要であると,検査時間や受診代金が不要となり,また検査が不要である結果,コンタクトレンズをすぐ買えることになると認められる。そして,上記①の宣伝文句は,以上のビジネスモデルによる顧客の利便性を消費者に分かりやすく表現しようとしたものと認められるが,不要になる事項を文字(単語)で抽出し,その文字(単語)の上に「×」を付すことはありふれた表現方法であるし,「検査なし スグ買える!」という表現は,眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズをすぐ買えるという旧大阪駅前店のビジネスモデルによる利便性を,文章を若干省略しつつそのまま記載したものにすぎず,そこに個性が現れているということはできない上に,強調したい部分に着色等したり,「!」を付したりするなどして強調することもありふれた表現方法にすぎない。以上より,上記①に創作性があるとは認められない。
[控訴審も同旨]

令和3326日東京地方裁判所[平成31()4521]▶令和31027日知的財産高等裁判所[令和3()10048]
原告キャッチコピーは,すごい会議の宣伝広告文言であるから,顧客の印象に残り,記憶されやすいよう,短く端的な表現が求められ,かつ,宣伝の効果がある用語を選択することが求められる。しかるところ,上記のように非常に限られた分量の表現の中で,キャッチコピーという広告媒体を用いて,上記のような用語を用いるなどして効果的にすごい会議の宣伝をしようとすれば,表現内容の点からしても選択の幅にはおのずから限りがある。
実際に,原告キャッチコピー(「会議が変わる。会社が変わる。」)は,句点を除き,わずか6文字からなる二つの文のみを組み合わせて表現されており,その長さ自体からして,他の表現を選択する余地は小さく,また,「会議」,「会社」及び「変わる」という,すごい会議を端的に宣伝する用語のみが用いられていることからも,表現の選択の幅が狭いものというべきである。
以上のように,原告キャッチコピーは,その分量の面と表現内容の面の両面から見て,表現の選択の幅が極めて小さいため,作成者の個性が表れる余地がごく限られているものというべきである。
なお,原告キャッチコピーは,第1文の「議」と第2文の「社」の部分を除き,同じ表現の文章を2回繰り返すという構成をとるものであり,全体としてリズミカルな語感を与えるものではあるが,このような構成を採用すること自体は,アイデアにすぎないというべきであり,直ちに表現の創作性を基礎づけるものではない。
(証拠等)によれば,平成15年6月に「会議が変われば,会社が変わる!」という文言を含む題名の書籍が刊行されたことが認められるところ,前記前提事実のとおり,すごい会議社の設立年月日が同年12月9日であること,原告キャッチコピーの作成者がすごい会議社であることに照らすと,原告キャッチコピーが作成された時点において,原告キャッチコピーと同様の表現が既に用いられていたといえる。また,その他にも,「会議が変われば,仕事が変わる」と題する記事,「習慣を変えれば会議が変わる。会議が変われば会社が変わる?」と題する記事,「会議が変われば会社が変わる!~会議の質向上の秘訣」と題する記事がインターネット上に掲載されており,これらは,すごい会議社の設立前に存在したとは認められないものの,原告キャッチコピーと同様の表現が用いられていることを示す事情といえる。
なお,原告会社は,上記の書籍及び記事について,原告キャッチコピーの翻案権を侵害するものであると主張するものの,それらが原告キャッチコピーに依拠したものであることを認めるに足りる証拠はないから,その主張を採用することはできない。
そうすると,原告キャッチコピーはありふれた表現であるというべきである。
以上を総合すれば,原告キャッチコピーは,その表現の選択の幅が極めて狭いため,作成者であるすごい会議社の個性が表れているとは認め難く,仮に,それが認められるとしても,ありふれた表現であることから,創作性を認めることはできない。
したがって,原告キャッチコピーは,「思想又は感情を創作的に表現」したものとはいえないから,「著作物」であるとは認められない。
[控訴審も同旨]

[求人広告]
▶令和348日大阪地方裁判所[平成30()5629]
著作物性について
ア 著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作法2条1項1号)であるところ,「創作的」といえるためには,何らかの個性が表れていれば足りるものの,表現の目的ないし性質上,その表現方法が一義的に決まり,他の表現方法を選択する余地がない場合や,選択の余地はあってもその幅が狭く,誰が行っても同じようなありふれた表現にならざるを得ない場合には,創作性は否定される。
このような観点から,以下,原告原稿1~5及び7の著作物性について検討する。
イ 原告原稿1について
原告原稿1は,建築・土木・設計等を業とする広告主による,分譲マンションの建築設計業務全般のマネージメントを仕事内容とする求人広告である。
このうち,キャッチコピーは,広告の冒頭に大きく掲載されると共に,「設計と同じくらいに「人生の図面」を引く。」とすることで,広告主の業種に対応すると同時に,求人対象にとっては就職が人生における重要な選択であることを踏まえた表現をし,読者の興味,関心を喚起することを意図したものといえる。
また,これに続けて,本文コピー①でキャッチコピーの表現と相通じる表現を行うことで,キャッチコピーから本文にスムーズにつなげると共に,キャッチコピーにより受けた印象を強めているといえる。
さらに,本文コピー②においては,「未来の住人たちから選ばれる」といった特徴的な表現を用いつつ,分譲マンションの建築及び設計のマネージャーという仕事が,マンション居住者の生活に対して影響を与え得ることによることなどを示すことで,仕事の内容ややりがいを伝える一方で,「とは言え」として逆説的に以後の文章とつなぐことにより,マネージャーの役割の重要性を強調している点で,構成における工夫が見られる。
このように,キャッチコピー及び本文コピーの部分のみを見ても,原告原稿1には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,本文コピーは,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
したがって,原告原稿1は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
これに対し,被告会社は,原告原稿1につき,ありふれた表現を組み合わせたものに過ぎず,創作性がないなどと主張する。しかし,個々の単語ないし表現には類似の例が見られるとしても,全体としての表現の目的等を踏まえたその選択及び組合せその他の表現方法の点で創作性を認める余地はあるのであって,被告会社指摘に係る事情をもって直ちに著作物性が否定されるものではない。この点に関する被告会社の主張は採用できない。
(略)
カ 原告原稿5について
原告原稿5は,建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告である。
原告原稿5のキャッチ及びカセット職種は,全体を通じて若者言葉による口語調が用いられている。このうち,キャッチの部分は,そのような表現を採用すると共に,「」,「!」「!!」といった記号を重ね,かつ,同部分が広告内の約4分の1に当たるスペースに,他の記載部分と比較して際立つよう大きな文字で記載されていることで,一見して目を引くものとなっている。
このように,原告原稿5は,物理的な広告掲載スペースの制約が厳しい中で,なお求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。
したがって,原告原稿5は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
(略)
ク 小括 以上のとおり,原告原稿1~5及び7については,いずれも著作物性が認められる。

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