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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物▶個別事例⑥(行政書士に対する苦情申告書/弁護士に対する懲戒請求書

[行政書士に対する苦情申告書]
▶平成250628日東京地方裁判所[平成24()13494]
原告文書は,原告が東京行政書士会会長宛てに提出した平成231017日付けの苦情申告書であり,A45ページからなる文書である。原告文書は,表題,日付等の記載の後に,苦情の趣旨及び苦情の理由を記載し,さらに「第3 最後に」として,「申告者は,…多くの行政書士の方々が本当に真摯に依頼者のために業務に取り組まれていることをよく存じあげております。そのような中で,本件の苦情対象行政書士のごとく,行政書士法違反の非違行為を行う行政書士がごく少数でも存在することは,行政書士全体の社会的信用を貶めるものであり,適正に業務をされておられる大多数の行政書士の方々にも多大な悪影響を及ぼすものであると思います。」などと記載し,東京行政書士会に調査,対応を求める旨と,状況の改善がない場合には対象行政書士の東京都知事に対する懲戒を申し立てる所存である旨などを記載したものである。
原告文書は,行政書士会に対する苦情申告書であり,その文書の性質上,当然に記載すべき項目(日付,申告者等の形式的記載事項や,申告すべき苦情の内容,事実関係の記載,上記事実関係の法的評価,非違行為に該当する考える理由等)を含むものであるということができる。しかし,苦情の内容,事実関係,その法的評価等に関する点については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,これらをどのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかについては,様々な可能性があるものというべきである。そうすると,原告文書は,上記のとおり表現について様々な可能性がある中で,記載の順序や内容,文章表現を工夫したものということができるのであって,このような点に,作成者の個性の表出がみられるものというべきであり,思想又は感情を創作的に表現したものに当たるということができる。
したがって,原告文書には著作物性が認められる。

[弁護士に対する懲戒請求書]
▶令和3414日東京地方裁判所[令和2()4481]▶令和31222日知的財産高等裁判所[令和3()10046]
本件懲戒請求書の著作物性について
(1) 本件懲戒請求書は,前記のとおり,原告が,第二東京弁護士会に対し,弁護士であるYにはAの出国及びブログ記事における発言について弁護士法56条の懲戒事由があるとして,同法58条1項に基づき懲戒の請求をするために提出した文書である。
本件懲戒請求書の構成,内容等をみると,同請求書は,懲戒請求書である旨の表示,請求の日付,請求の宛先,請求者の氏名,対象弁護士の氏名,懲戒請求の趣旨,懲戒請求の理由などが記載され,その中には懲戒請求書という文書の性質上,当然に記載すべき定型的な事項も含まれる。
しかし,懲戒請求の理由については,その内容が一義的かつ形式的に定まるものではなく,その構成においても様々な選択肢があり得るところ,本件懲戒請求書は,本件記事1及び2の一部の引用及びこれに対する評価,他の弁護士に対する懲戒請求の理由の引用,Yに対する懲戒理由の説明並びに結論から構成されるものであり,その構成や論旨の展開には作成者である原告の工夫が見られ,その個性が表出しているということができる。
また,懲戒請求の理由における記載内容についても,本件懲戒請求書には単に懲戒理由となる事実関係が記載されているにとどまらず,弁護人には被告人の管理監督義務があるという自らの解釈,弁護人の関与なしに被告人が逃亡し得るのかという自らの疑問,Yの発言が長期【の】拘留を助長するという自らの意見,綱紀委員会の調査を求める事項などが70行(1行35文字)にわたり記載されており,その表現内容・方法等には作成者である原告の個性が発揮されているということができる。
そうすると,本件懲戒請求書は,原告の思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作権法2条1項1号に規定する「著作物」に該当するというべきである。
(2) これに対し,被告らは,以下のとおり主張するが,いずれも理由がない。
ア 被告らは,懲戒請求は,公的な訴追行為に類する行為であるから,同号の「文芸,学術,美術,又は音楽の範囲」に属さず,知的,文化的な精神活動にも当たらないと主張する。
しかし,公的な訴追行為に類する行為のための文書が,類型的に著作物に当たらないと解すべき理由はない。もとより,公的又は準公的な文書は法令等に定められた所定の定型的な記載を含むが,弁護士に対する懲戒請求書に則していえば,「懲戒請求の理由」の構成や記載内容については,一義的かつ形式的に決まるものではなく,作成者が様々な創意工夫をする余地があり,表現方法・内容の選択肢の幅も広いというべきである。
本件懲戒請求書についても,その構成,表現内容等については様々な工夫等がみられ,原告の個性が発揮しているということができることは,前記判示のとおりである。
イ 被告らは,本件懲戒請求書が,三島由紀夫の手紙などとは異なり,クリエイターでもない原告が,事実を摘示し,懲戒事由該当性を論じた文書にすぎず,創作的な表現は含まれていないと主張する。
しかし,著作物の要件である「思想又は感情を創作的に表現したもの」とは,高度な創作性や独創性を要するものではなく,「思想又は感情」の外部的表現に著作者の個性が何らかの形で現われていれば足りると解すべきである。前記判示のとおり,本件懲戒請求書には,その構成,表現内容等において様々な工夫等がみられ,原告の個性が発揮しているということができるので,「思想又は感情を創作的に表現したもの」ということができる。
ウ 被告らは,著作権法の沿革からして,その主な保護対象は経済的な利益にあるところ,本件懲戒請求書には保護すべき経済的利益を有しないので,著作物に当たらないと主張するが,著作権法は,そもそも,経済的価値を有することを著作物の要件としていないのであり,著作物に該当する上で経済的利益の存在を求める被告らの見解は採用し得ない。
また,被告らは,仮に,本件懲戒請求書が著作物に当たるとすれば,類似の懲戒請求に支障が生じると主張するが,弁護士に対する懲戒請求は,対象とする弁護士や基礎となる事実関係が異なれば,懲戒請求の理由は全く異なるのであり,また,共通の事実関係に基づく同一の弁護士に対する懲戒請求書であっても,懲戒請求の理由の構成や表現内容の選択肢は幅広く,作成者が様々な創意工夫をすることが可能である。そうすると,本件懲戒請求書を著作物と認めたとしても,類似の懲戒請求に支障が生じるとは考え難く,そのことが懲戒制度の趣旨に反するということもできない。

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