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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物▶個別事例⑨(歴史小説/歴史教科書/科学論文)

平成28629日知的財産高等裁判所[平成27()10042]
歴史上の事実や歴史上の人物に関する事実は,単なる事実にすぎないから,著作権法の保護の対象とならず,また,歴史上の事実等についての見解や歴史観といったものも,それ自体は思想又はアイデアであるから,同様に著作権法の保護の対象とはならないというべきである。他方,歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が肯定されることがあり,事実の選択,配列や,歴史上の位置付け等が著作物の表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。
本件において,控訴人は,原告各小説の各ストーリーを構成する個々の出来事の選択とその配列の仕方に創作性があると主張し,各ストーリーを構成する出来事に5つのWが備わっていれば,それを複数選択し,配列したものには,創作性があると主張する。
しかし,原告各小説は歴史を題材とした小説であるから,5つのWを備えた出来事を複数組み合わせて配列しただけでは,歴史上の事実等の経過を示したものにすぎないこと,あるいは,これらの事実等についての見解や歴史観を示すものにすぎないことがあるから,常に著作権法の保護の対象となるとはいえない。控訴人主張に係る各ストーリーに創作性があり,事実の選択や配列が表現上の本質的特徴を基礎付けるというためには,5つのWを備えた出来事を複数組み合わせて配列することだけでは足りず,少なくとも,事実の選択や配列に創作性が発揮されているといえなければならない。
(略)
控訴人は,著作権法で保護する人物設定であるためには,登場人物に,具体的な「性格,思想,道徳,経済観念,経歴,境遇,容姿等」を与えればよいのであって,原告小説の6人の登場人物についての人物設定はいずれも,かかる要件を満たすから,著作権法で保護されるべきものである,と主張する。
しかし,原告小説の6人の登場人物は,いずれも歴史上の実在の人物であり,具体的な「性格」等を与えるだけでは,単なる歴史上の事実か,歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないから,著作権法の保護の対象となるとはいえない。他方,人物設定に関する記述であっても,人物設定をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が肯定されることがあり,歴史上の位置付け等が表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。

[歴史教科書]
▶平成27910日知的財産高等裁判所[平成27()10009]
歴史教科書は,簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものであって,一般の歴史書と同様に,その記述に創作性があるか否かを問題とすべきである。すなわち,他社の歴史教科書とのみ対比して創作性を判断すべきものではなく,一般の簡潔な歴史書と対比しても創作性があることを要するものと解される。
そして,簡潔な歴史書における歴史事項の選択の創作性は,主として,いかに記述すべき歴史的事項を限定するかにあるのであり,選択される歴史的事項は一定範囲の歴史的事実としての広がりをもって画されている。したがって,同等の分量の他書に一見すると同一の記述がなかったとしても,それが,他書が選択した歴史的事項の範囲内に含まれる事実として知られている場合や,当該歴史的事項に一般的な歴史的説明を補充,付加するにすぎないものである場合には,歴史書の著述として創意を要するようなものとはいえない。(中略)
以下,他社の歴史教科書に同様の表現があるか否かの点を中心に,控訴人各記述の創作性を検討するが,これは,他社の歴史教科書が同等の分量を有する歴史書として,もっとも適切な対比資料であり,他社の歴史教科書に同様の表現があることは,当該表現がありふれたものであることの客観的かつ明白な根拠だからである。

[科学論文]
▶平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]
自然科学上の知見を記載した論文に一切創作性がないというものではなく、例えば、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章で構成される段落について、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章として捉えた上で、個々の文における表現に加え、論述の構成や文章の配列をも合わせて見たときに作成者の個性が現れている場合には、その単位全体の表現として創作的なものということができるから、その限りで著作物性を認めることはあり得るところである。

▶平成170428日大阪高等裁判所[平成16()3684]
自然科学論文,ことに本件のように,ある物質の性質を実験により分析し明らかにすることを目的とした研究報告として,その実験方法,実験結果及び明らかにされた物質の性質等の自然科学上の知見を記述する論文は,同じ言語の著作物であっても,ある思想又は感情を多様な表現方法で表現することができる詩歌,小説等と異なり,その内容である自然科学上の知見等を読者に一義的かつ明確に伝達するために,論理的かつ簡潔な表現を用いる必要があり,抽象的であいまいな表現は可能な限り避けられなければならない。その結果,自然科学論文における表現は,おのずと定型化,画一化され,ある自然科学上の知見に関する表現の選択は,極めて限定されたものになる。
したがって,自然科学論文における自然科学上の知見に関する表現は,一定の実験結果からある自然科学上の知見を導き出す推論過程の構成等において,特に著作者の個性が表れていると評価できる場合などは格別,単に実験方法,実験結果,明らかにされた物質の性質等の自然科学上の知見を定型的又は一般的な表現方法で記述しただけでは,直ちに表現上の創作性があるということはできず,著作権法による保護を受けることができないと解するのが相当である。
これに対し,原告は,自然科学上の知見の表現においては,表現技法は,論理性,一義性,明確性等の要請があり,当該自然科学上の知見を一般的に認識し得るようにするための論理的かつ簡潔な表現技法も,著作権法上保護されるべきものであると主張する。
しかしながら,原告主張のような表現技法について著作権法による保護を認めると,結果的に,自然科学上の知見の独占を許すことになり,著作権法の趣旨に反することは明らかである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

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