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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物▶個別事例⑩(取扱説明書/マニュアル/火災保険改定説明書面/営業資料/事業計画書/経営セミナー用レジュメ/制作工程文章/商品説明文/動画のテロップ)

[取扱説明書]
平成30620日知的財産高等裁判所[平成29()10103]
控訴人説明書は,控訴人車両の装備及び機器等の操作方法等を解説した取扱説明書であり,説明する装備又は機器として,[中略]を選択し,これらにつき,各装備,機器ごとに,上記の順番で説明をしているが,同説明は,概ね,当該装備,機器の写真を掲載した上で,同写真と同一の頁に当該装備,機器の機能,操作方法及び使用上の注意事項等を記載するという方法で説明している。また,上記写真は,説明対象部分を特定するために,その部分を実線又は破線で囲み,矢印を付し,さらに,対象部分とその説明部分に同じ番号を付すなどしている。
著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,作成者の何らかの個性が表れている必要があり,表現方法がありふれている場合など,作成者の個性が何ら表れていない場合は,「創作的に表現したもの」ということはできないと解するのが相当であるところ,控訴人説明書は,前記のとおり,控訴人車両の装備,機器の機能や操作方法及び使用上の注意事項を説明したものであるが,いずれも,機能及び操作方法や注意事項を,事実に即して簡潔に説明しているものと認められ,その表現方法はありふれたものであり,装備,機器の機能や操作方法が同じであれば,その説明も似たものにならざるを得ないことをも考慮すると,作成者の何らかの個性が表れていると評価することはできない。
したがって,控訴人説明書に著作物性を認めることはできない。

[マニュアル]
平成301226日東京地方裁判所[平成30()6943]
本件マニュアルは,本件システムの機能や操作方法を説明することを目的とするものであり,総頁数は158頁である。
各頁は,本件システムの操作の際に表示される画面を取り込んだ画像がその大部分を占め,同画像に添えられている本件コメントは,1行ないし5行程度である。本件コメントは,本件マニュアルの作成目的に従い,本件システムの操作の際に表示される画面の内容を説明し,同画面に関連する本件システムの機能を説明し,又は同画面に関連する本件システムの操作について説明するものであり,例えば,本件システムのID及びパスワードの入力画面の画像が表示されている頁には,「ピースエントリーシステム起動後,ログイン画面が表示されるので,次の通り,個人個人に割り当てられたIDとPWを入力し「Login」ボタンを押す。」と記載されている。
(略)
本件マニュアルは,本件システムの機能や操作方法の説明を目的として作成されたものであり,その作成目的に従い,本件コメントは,各頁に表示された本件システムの画面の内容を説明し,同画面に関連する本件システムの機能を説明し,又は同画面に関連する本件システムの操作といった客観的事実を説明することを目的として作成されており,その性質により,機能や操作方法を分かりやすく,一般的に用いられるありふれた表現で示すことが求められることから,表現の選択の幅は狭いものである。そして,本件コメントでは,本件システムの機能等を説明するためにコンピュータに関する用語が選択されているものの,当該説明において他の表現を用いることは想定し難く,また,その他の表現も操作等を説明するものとして特徴的な言い回しが存するともいえない。
そうすると,本件コメントに原告の個性が表現されているとはいえないのであって,本件マニュアルに著作物性があるということはできない。

[火災保険改定説明書面]
▶平成231222日東京地方裁判所[平成22()36616]
本件説明書面は,「平成2211日付け火災保険改定のお知らせ」と題して,本件改定の内容を顧客向けに文章で説明する本文部分(1枚目)と,地域別に建物の構造級別区分ごとの保険料率の改定幅を数値で示した一覧表及び本件改定の前後それぞれにおける建物の構造級別区分の判定の仕方をフローチャート方式で示した図表などが記載された別添資料部分(2枚目)とからなるものである。
そして,本件説明書面のうち,上記本文部分においては,「主な改定の内容」が,「1.火災保険上の建物構造級別の判定方法の簡素化」,「2.火災保険料率の大幅な改定」,「3.保険法の改定による対応」の3点に整理されて,それぞれの内容が数行程度の簡略な文章で紹介されるとともに,特に内容的に重要な部分については,太文字で表記されたり,下線が付されるなど,一見して本件改定のポイントが把握しやすいような構成とされている。
また,上記別添資料部分においては,本件改定による建物の構造級別区分の判定方法の変更点について,一見して理解しやすいように,フローチャート方式の図表を用いた説明がされ,しかも,当該フローチャート図の中に,楕円で囲った白抜きの文字や太い矢印を適宜用いるなど,視覚的にも分かりやすくするための工夫が施されている。
以上で述べたような本件説明書面の構成やデザインは,本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で,本件説明書面の作成者が,本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から特定の選択を行い,その選択に従った表現を行ったものといえるのであり,これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができる。

[営業資料]
▶平成250912日 東京地方裁判所[平成24()36678]
原告各資料は,いずれも,ウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を効率的に顧客に伝えて購買意欲を喚起することを目的として,「ナビキャスト」の具体的な画面やその機能を説明するために相関図等の図や文章の内容を要領よく選択し,これを顧客に分かりやすいように配置したものであって,この点において表現上の創意工夫がされていると認められる。そうであるから,原告各資料は,全体として筆者の個性が発揮されたもので,創作的な表現を含むから,著作物に当たると認められる。

[事業計画書]
▶平成120824日大阪地方裁判所[平成11()3635]
原告企画書中の事業計画書は、「事業の目的・コンセプト」「事業の内容」「施設計画のコンセプト(施設構成、フロアー構成の考え方等)」「事業展開にあたっての工夫」という項目ごとに、34行ないし10数行の文章によって原告の事業計画の特徴を説明した文書のほか、「施設の概要」の数値データ及び「工程スケジュール」からなるものである。右のうち、文章で事業計画を説明した部分は、原告の事業計画のコンセプトや宣伝文句を記載したものであるが、その具体的な文章表現において、叙述の順序や言い回しなどに工夫が見られ、同じアイデアからなる事業計画を別の表現方法を用いて記述することも可能であると解され、作成者の個性が現われたものといえるから、著作物であると認められる。しかし、事業計画書のうち「施設の概要」及び「工程スケジュール」の部分は、単に数値データや工程スケジュールといった事実を記載したものにすぎず、その記載方法において特段の独自性も見られないから、著作物には該当しないものというべきである。

[経営セミナー用レジュメ]
▶平成130730日東京地方裁判所[平成12()2350]
原告著作物は,その一部は,自らが実施する,経営者を対象とした,顧客を獲得して売上げや営業成績を増進すること等を目的とするセミナーにおいて,理解を容易にするための補助資料として,作成・使用されたものであり,また,他の一部は,営業の効率化を実現する目的で原告が執筆した書籍の抜粋であり,合計130枚を超える資料である。
確かに,原告著作物の個々の紙面を個別的,独立的に見ると,①講演のプログラムを示したもの,講演のテーマを一覧したもの,②講演中あるいは後日,受講者が書き込んだりするために表形式とされているもの,③ごく短い文章からなるものなどを含み,その中の一部には,執筆者の個性が発揮されたものとはいえないものも僅かながら存在する。
しかし,原告著作物は,会社経営者や営業担当者のために,営業効率を増進する目的で,自己の営業体験,顧客の心理傾向に対する原告の洞察,最近の経営理論等を駆使して,作成されたものであり,しかも,全体として,統一的なテーマの下に,複雑な内容を,要領良く取捨選択し,配列し,かつ,その表現についても,訴求力の強い表現,刺激的な表現,わかりやすい表現を選択するなど,多くの点で表現上の創意工夫がされている。したがって,このような原告著作物は,全体として筆者の個性が発揮されたものであって,その創作性は肯定されると解すべきである(特に,本件は,原告著作物の一部分のみが複製された事案ではなく,原告著作物の全体が,おおむね,そのまま複製された事案であるので,創作性の有無は,原告著作物の全体により判断するのが相当である。)。

[制作工程文章]
▶平成30619日東京地方裁判所[平成28()32742]
制作工程文章は,別紙記載のとおり,「辻が花染」の各制作工程を説明したものである。その目的は,各制作工程を説明することにあるため,表現上一定の制約はあるものの,制作工程文章が,同様に「辻が花染」の制作工程について説明した故一竹作成の文章とも異なっていることに照らしても,各制作工程文章の具体的表現は,その作成者の経験を踏まえた独自のものとなっており,作成者の個性が表現されているといえるから,制作工程文章は全体として創作性があり,著作物と認められる。

[商品説明文]
▶令和3818日東京地方裁判所[令和2()26567]
原告が,本件商品の販売や宣伝に際し,原告説明文を使用したことは前記前提事実のとおりであるところ,以下のとおり,被告説明文に著作物性を認めることはできないから,原告が被告の著作権や著作者人格権を侵害したということはできない。
(1) 被告説明文の「ア」部分は,本件商品がドクターショール社の製品であることや,本件製品が従来製品よりも簡単かつ優しく治療できること,水虫菌の発生・発育を防止することなどを記載するものである。このような製品の出所,特性や効能については,その性質上,消費者が過大な期待を抱くことのないように,客観的な事実をできる限り正確かつ明確に説明することが求められており,思想又は感情を創作的に表現する幅は狭く,表現の選択肢は限られたものとなると考えられる。このため,上記「ア」部分の記載に創作性があるとは認められない。
(2) 被告説明文の「イ~エ」部分は,本件商品が適合する症状や,本件商品の使用方法,爪白癬(爪水虫)が生じる原因について記載したものである。これらについても,利用者が誤った場面や方法で本件商品を使用すること等を避けるために,前記ア同様,その性質上,客観的な事実をできる限り正確かつ明確に説明することが求められており,思想又は感情を創作的に表現する幅は狭く,表現の選択肢は限られたものとなると考えられる。このため,上記「イ~エ」部分の記載についても創作性があるとは認められない。
(3) 以上によれば,被告説明文には,全体として,著作物性は認められない。

[動画のテロップ]
▶令和396日大阪地方裁判所[令和3()2526]
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件動画は,動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー,BGM,本件テロップ及びこれを朗読したナレーションによって構成されるところ,スライドショー及びBGMのみではストーリー性が乏しく,本件動画の内容を正しく把握することは困難であると認められる。その意味で,本件テロップ及びこれを朗読したナレーションは,その余の構成部分に比して,本件動画の中で重要な役割を担うものといえる。
また,このような役割を担う本件テロップの内容は,男性2名が群れを離れた野生のライオンを保護し育てた後,野生動物の保護地区に戻したことや,後に男性らの1名がこの保護地区を訪れた際の当該ライオンとの再会の模様等の一連の出来事に関し,推察される各主体の心情等を交えて叙述したものである。表現方法についても,本件テロップは,動画視聴者の興味を引くことを意図してエピソード自体や表現の手法等を選択すると共に,構成や分量等を工夫して作成されたものといえる。
したがって,本件テロップは,その作成者である原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり,言語の著作物と認められる。

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