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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物▶その他の個別事例(修理規約/史跡ガイドブック/テスト問題の解説/公約文/アニメ映画の吹き替え用台詞原稿/転職情報)

[修理規約]
平成26730日東京地方裁判所[平成25()28434]
一般に,修理規約とは,修理受注者が,修理を受注するに際し,あらかじめ修理依頼者との間で取り決めておきたいと考える事項を「規約」,すなわち条文や箇条書きのような形式で文章化したものと考えられるところ,規約としての性質上,取り決める事項は,ある程度一般化,定型化されたものであって,これを表現しようとすれば,一般的な表現,定型的な表現になることが多いと解される。このため,その表現方法はおのずと限られたものとなるというべきであって,通常の規約であれば,ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。
しかしながら,規約であることから,当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく,その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には,当該規約全体について,これを創作的な表現と認め,著作物として保護すべき場合もあり得るものと解するのが相当というべきである。
これを本件についてみるに,原告規約文言は,疑義が生じないよう同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている点(例えば,腐食や損壊の場合に保証できないことがあることを重ねて規定した箇所がみられる原告規約文言,浸水の場合には有償修理となることを重ねて規定した箇所が見られる原告規約文言,修理に当たっては時計の誤差を日差±15秒以内を基準とするが,±15秒以内にならない場合もあり,その場合も責任を負わないことについて重ねて規定した箇所がみられる原告規約文言など)において,原告の個性が表れていると認められ,その限りで特徴的な表現がされているというべきであるから,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号),すなわち著作物と認めるのが相当というべきである。

[史跡ガイドブック]
平成130123日東京地方裁判所[平成11()13552]
客観的な事実を素材とする表現であっても、取り上げる素材の選択や、具体的な用語の選択、言い回しその他の文章表現に創作性が認められ、作成者の評価、批判等の思想、感情が表現されていれば著作物に該当するということができる。
(略)
原告著作物は、新選組に関する、一般に知られている史跡ばかりでなく、あまり知られていない史跡や従前のガイドブックでは紹介されていなかった史跡も含めて紹介し、それらの史跡を訪ねるためにはどのような交通手段を利用するのが便利かという情報を提供するガイドブックである。同書には、右史跡の選択、交通機関やその出発地点等の選択、またある史跡を紹介するに当たり、それに関わるどのような史実又は歴史人物を紹介するかという選択の点のほか、全体的な表現形式の統一性等にも工夫が見られ、創作性が認められる。

[テスト問題の解説]
令和元年515日東京地方裁判所[平成30()16791]
本件解説は,本件問題の各設問について,問題の出題意図,正解を導き出すための留意点等について説明するものであり,各設問について,一定程度の分量の記載がされているところ,その記載内容は,各設問の解説としての性質上,表現の独自性は一定程度制約されるものの,同一の設問に対して,受験者に理解しやすいように上記の諸点を説明するための表現方法や説明の流れ等は様々であり,本件解説についても,受験者に理解しやすいように表現や説明の流れが工夫されるなどしており,そこには作成者の個性等が発揮されているということができる。

[公約文]
平成29102日東京地方裁判所[平成29()21232]
本件文書は,総極真の代表選挙における原告の公約文であり,被告は,本件文書を構成する個々の表現は,公約としてありふれた表現であるとして,著作物性を争う旨主張する。
しかしながら,もとより,選挙公約には様々な内容のものがあり得るところ,本件文書には,総極真の代表選挙における原告の19個もの公約や信条に係る記載があり,全体として40以上の文章からなるまとまりのある文書であると認められるから,その内容や記載順序等において,原告の個性が表出されていると認められる。
したがって,本件文書は,原告の思想又は感情を創作的に表現したものであると認められ,言語の著作物(著作権法10条1項1号)として著作物性を有し,原告は,その作成者として,その著作権を有するものと認められる。

[アニメ映画の吹き替え用台詞原稿]
平成27324日東京地方裁判所[平成25()31738]
被告は本件台詞原稿等の著作物性を争うところ,言語の著作物として「創作的に表現した」(著作権法2条1項1号)というためには,表現上の高度な独創性は必要でなく,その表現に作成者の何らかの個性が表れていれば足りると解される。
これを本件についてみるに,①本件台詞原稿等は,本件アニメ映画に収録された英語音声を日本語に翻訳したものであること,②本件台詞原稿等には,本件アニメ映画に英語音声がない箇所に,日本語の台詞又は歌詞を付加した部分があること,③本件台詞原稿等は,本件アニメ映画に係るディズニーのオリジナルの日本語版の吹き替え音声及び字幕と多くの部分において表現上の相違があることが認められる。
上記事実関係によれば,本件台詞原稿等は,本件アニメ映画の英語音声の翻訳として複数考えられる日本語の表現から一つを選択し,かつ,本件アニメ映画の内容に沿うように新たな表現を付加したものということができる。したがって,本件台詞原稿等は,言語の著作物として表現上の創作性があり,著作物性を有すると認められる。

[転職情報]
▶平成151022日東京地方裁判所[平成15()3188]
原告が掲載した転職情報は,○○(企業名)の転職情報広告を作成するに当たり,同社の特徴として,受注業務の内容,エンジニアが設立したという由来などを,募集要項として,職種,仕事内容,仕事のやり甲斐,仕事の厳しさ,必要な資格,雇用形態などを,それぞれ摘示し,また,具体的な例をあげたり,文体を変えたり,「あくまでエンジニア第一主義」,「入社2年目のエンジニアより」などの特徴的な表題を示したりして,読者の興味を惹くような表現上の工夫が凝らされていることが認められる。
確かに,(対照表)だけを見ると,単に事実を説明,紹介するだけであり,文章も比較的短く,他の表現上の選択の幅は,比較的少ないということができる。
しかし,(対照表)における原告転職情報の各部分はいずれも読者の興味を惹くような疑問文を用いたり,文章末尾に余韻を残して文章を終了するなど表現方法にも創意工夫が凝らされているといえるので,著者の個性が発揮されたものとして,著作物性を肯定すべきである。

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